【一つ前に戻る】     【目次へ戻る】     【小説置き場へ戻る】     【ホーム】



ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第1話 光の逃亡者 その7


 GUYSジャパン・ディレクションルーム。
 メインパネルに今回の戦闘における被害状況が表示されている。
 スライドドアが開き、アイハラ・リュウが入室してきた時、セザキ・マサト、クモイ・タイチ、ヤマシロ・リョウコの三人は中央のテーブルデスクの前で、直立不動の姿勢のまま並んでいた。
 シノハラ・ミオとイクノ・ゴンゾウはオペレーターデスクに着いて黙々と作業を続けている。
「申し訳ありませんでした、隊長」
 気落ちしきった表情と口調で、ヤマシロ・リョウコが深々と頭を下げる。
 セザキ・マサトとクモイ・タイチも遅れて頭を下げる。
 それをちらりと見やったアイハラ・リュウは、手に持っていたブリーフボードをテーブル上に叩きつけた。
「何の謝罪だ、それは」
 口調は静かだが、漂う怒気はただ事ではない。
「その……あの…………全部です。あたしは、GUYSクルーにあるまじき失態を繰り返しました」
「それは謝って済むことなのか」
「い……いいえ……」
「で、そっちの二人は? なんで謝る?」
「ええと、ボクは――」
「連帯責任であります!」
 もぞもぞ口を開こうとしたセザキ・マサトに対し、クモイ・タイチは背筋をがっと伸ばして吼えるように言った。
 ヤマシロ・リョウコが驚いて顔を上げ、隣の二人を見やる。
「ガンフェニックストライカーは、三機合体。つまり、そこで起こした事故は、搭乗者三人の責任であると考えました! 申し訳ありません!」
 胡散臭げな目でクモイ・タイチを見やるアイハラ・リュウ。
「連帯責任ねぇ……マサト、お前はそれで納得してるのか?」
「いや、その…………つき合いで」
 へへへ、とバツ悪そうにごまかし笑いを浮かべる。
「ふざけんなっ!!」
 アイハラ・リュウの怒号がディレクションルームを揺るがした。
「連帯責任だと!? つき合いだと!? CREW・GUYSは中学生の修学旅行や部活動じゃねえんだぞ! 生きて帰って来たから言えるようなことを言うなっ! 市民の生活を侵略者や怪獣から守るってのは、そんな軽いもんじゃねえんだ! 言い訳も、謝罪も意味をなさねえ仕事なんだよ、GUYSってのは! 言い訳や謝罪なんぞしなくちゃいけない事態になる前に対処しなくちゃならねえんだ!」
 三人の表情が一様に硬張る。
「リョウコ! CREW・GUYSは、オリンピックのアーチェリー代表として戦うより気楽か!?」
 リョウコはうなだれたまま、びくりと身体を震わせた。
「タイチ! 団体行動苦手なのがそんなに引け目か。連帯責任と口にすりゃあ、オレがお望みの団体行動の規範に沿うとでも思ったのか。ああ!? マサト! 防衛軍で教わったのはお友達ごっこかよ!!」
 男二人もそれぞれに、ショックを受けた顔つきになる。
「てめえら、勘違いすんじゃねえぞ。オレたちCREW・GUYSはな、スタンドプレーも、チームプレーも、状況に応じて判断し、使いこなせる連中の集まりでなきゃならねえんだ。失敗したから、みんな揃って頭を下げりゃ終わりと思ってんなら、今すぐその制服脱ぎやがれ!!」
 アイハラ・リュウは正面メインパネルの前に進み、三人の方を見ながら表示されているマップデータを指し示した。
「顔を上げて見やがれ! これが、お前らの守るべきはずだったもんだ!」
 隊長の意を汲んで、イクノ・ゴンゾウの手が素早くコンソールを走る。
 被害状況が拡大され、そのうちの幾つかが実際の映像としてピックアップされてゆく。
 壊れたビル、崩れ落ちた工場、打ち上げられた船、そして海上で黒煙を上げて燃えている石油。
「守れませんでしたごめんなさい、じゃねーんだよ! 何があっても守れなきゃ、オレたちがここにいる意味はねーんだ! ……リョーコ!! マサト!! タイチ!!」
 三人は一斉にしゃきっと背筋を伸ばした。
 アイハラ・リュウはテーブルに歩み寄り、前めりになった身体を支えるようにテーブルに手をついた。
「オレはCREW・GUYSの隊長だ。隊員の不始末の責任は、全部オレにある。だから、オレは今回のこの結果について、お前たちを責めはしねえ。これからもだ。けどな、これだけは言っとくぞ。CREW・GUYSの仕事を舐めんな。そんでもって、二度とそんな浮かれた理由でオレに謝るんじゃねえ。人の命を救う現場ってのは、謝罪なんか意味のねえ場所だってこと、よぉく胸に刻んどけ!」
「G.I.G!!」
 三人は一緒に踵を鳴らし、背筋を伸ばして、敬礼を切った。
 ふん、と鼻を鳴らしたアイハラ・リュウは途端に、企み顔に笑みを浮かべた。
「そんじゃま、とりあえず――お前ら全員、格納庫行って整備班を手伝って来い」
 セザキ・マサトとヤマシロ・リョウコの顔が一気に青ざめた。
「え……ちょっと……隊長、それは……!」
「アライソ整備長が……!」
「おう、そのアライソのおやっさんが収まらねえって、言ってんだよ。あの人に取っちゃあ、自分の手をかけた機体は子供みたいなもんだからな。ちょうどいい機会じゃねえか。みっちりしぼられて、もういっぺんガンフェニックストライカーのことを叩き込み直されて来い」
「……G.I.G」
 がっくり肩を落とすセザキ・マサト、ヤマシロ・リョーコに対し、クモイ・タイチはさっさと敬礼して応答するとそのままディレクションルームから出て行った。慌てて二人もその後を追い、姿を消した。
「まったく、仕事に対する自覚のない連中は、どこの業界でも困ったものですね」
 やれやれ、と言いたげなため息が漏らしたのは、シノハラ・ミオだった。人差し指でメガネのブリッジをついっと押し上げる。三角のメガネレンズが、きらりと照明を弾いた。
「ミオ」
「隊長、差し出がましいようですが、もう一度人選をやり直した方がよろしいのでは? あれは……地球防衛のプロ集団として、いかがなものかと」
「いや、そうじゃなくてよ。お前も行けよ」
 入り口を指差すアイハラ・リュウに、シノハラ・ミオはきょとんとした。
「はい?」
「オレは全員、と言ったんだ。お前もだよ」
「え? いやでも、わたくしは……オペレーターですし」
「おいおい。仕事に対する自覚がないのか?」
 アイハラ・リュウはへらっと笑った。
「オペレーター席に着いているからって、現場に出ねえわけじゃねえ。それこそCREW・GUYSを甘く見すぎなんじゃねーのか、ミオ。フォワードのあの三人が何らかの事情で活動できなくなった場合、わたくしはオペレーターですから乗れません――地球防衛は出来ませんって、言い訳すんのか? それで許されると思ってんのか? それがミオの仕事に対する自覚か?」
「……………………!」
「ミオ、お前のオペレーターとしての仕事は完璧だ。そいつはオレも認める。けどな、それだけじゃあここに、CREW・GUYSにいる意味はねえぜ。オレたちは仲間だろ? 仲間ってのは、苦しいことも辛いことも、共に乗り越えてこそじゃねーのか?」
「……そういう浪花節的な思考や要求は、好きではありません。それに、あの三人と同列に扱われるのは、我慢がなりません。出来ればやめていただきたいです」
 言いながらヘッドセットを外し、立ち上がる。
「ですが、命令であるなら従います。――隊長こそお忘れなきよう。わたくしはあくまで、ミサキ総監代行の意志を汲んでここへ来たのです。そんなわたくしに身体的負荷の影響が直接結果に結びつくような仕事の内容を求められても、要求に応え得る結果を提供できるとは保証いたしかねます」
 挑戦的な眼差しでアイハラ・リュウを睨むシノハラ・ミオ。
 アイハラ・リュウは全く動じずにその目を見返す。
「それは、隊長であるオレが考えるこった。……けどな、ミオ。それも言い訳に聞こえるぜ。お前の許せる地球防衛のプロってのは、出来ないことを出来ないままで放置するような奴でいいのかよ?」
 きゅっと唇を噛んだシノハラ・ミオは、もう何も言わなかった。
 瞳に屈辱と憤怒の炎を宿したまま、足音も高くディレクションルームを出て行った。
 その後姿を見送ったアイハラ・リュウの瞳が、イクノ・ゴンゾウを見やる。
 流石に年かさだけあって、イクノ・ゴンゾウは何も言わずに頷いて立ち上がった。
「……ゴンさん。悪ぃけど、あいつらのこと頼むぜ」
「G.I.G。――隊長自ら憎まれ役とは、大変ですな」
 アイハラ・リュウは苦笑した。
「ああ。前隊長やセリザワさんのようにはいかねえよ。なかなかな。やっぱ、あの人たちはすげえんだなって、思い知らされる。……けど、オレはこのチームも必ず世界一、いや……宇宙一にしてみせる。絶対な」
「及ばずながらお手伝いいたします。そのために、わたしはここにいるのですから」
「ああ。すまねえ。とりあえず格納庫の方、よろしく頼むわ。……アライソさんの頭の血管が切れちまう前にな」
 笑うアイハラ・リュウに肩を叩かれたイクノ・ゴンゾウは、敬礼を返してディレクションルームから消えた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――
 
 総監執務室。
 デスク上のパーソナルモニター表示されているのは、レイガの戦い。
「サコミズ総監、これが」
 サコミズの隣で画面を覗き込んでいたミサキ・ユキが険しい顔つきで質す。
 サコミズは少し困惑げな顔つきで頷いた。
「おそらく、ね。地球到着の翌日に現われてくれるとは思わなかったけど」
 画面上、タッコングにインビンシブル・フェニックスとスペシウム弾頭が炸裂し、大爆発が起きている。
 サコミズはチェアから立ち上がると、壁際の棚に置かれたコーヒーメーカーへと歩み寄った。
「逃亡者……なんですよね。光の国からの」
「彼の話ではそうだったけど……。君はどう思う?」
 ミサキ・ユキは困惑げに眉を寄せる。
「どう……と言われましても。そうですね……あまり戦い慣れしてないように見受けられました。このレジストコード・レイガがミライ君を倒したなんて、ちょっと信じられません」
「ああ、そこ?」
 苦笑しながら、二つのカップにエスプレッソを注ぐサコミズ。
「それについてはなんとも言えないけど。そうじゃなくて、彼も以前の光の国の戦士達と同じように、結果として僕らを守るために戦ってくれたように見えたよね。彼の人間体を探し出して、ミライの時と同じようにCREW・GUYSに参加してもらうべきかな? ――どうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
 サコミズが差し出したカップを受け取ったミサキ・ユキは、そのままデスクの正面に回ってゲストチェアに腰を下ろした。
「サコミズ総監がそう思われるなら。ただ……ミライ君の時と違って、今回はすぐにバレると思われます。特にアイハラ隊長には」
「そうだね。それだけじゃない。多分、すぐマスコミにも嗅ぎつけられる。ウルトラマンが現われて、直後の新入隊員。怪しすぎるよね」
 サコミズの苦笑に、ミサキも合わせて微笑む。二人は一口、カップに口をつけた。
「それでなくとも、過去の経緯があるからね。そろそろ今日のワイドショー辺りでは、CREW・GUYSの誰が新しいウルトラマンなのか騒いでいるんじゃないかな? ――あ、そうそう。そっちの方のサポート、トリヤマさんだけではちょっと心配だから、ミサキさん、お願い」
「G.I.G」
 了解して、少しコーヒーを飲む。
 その口から、ため息が漏れた。
「でも……やっぱり、直接会って人となりを確認できないのは、不安ですね。彼は本当にウルトラマンなんでしょうか」
 やや上方の虚空を見上げ、ぼんやりと呟くミサキ・ユキ。
「違うと思う」
 パーソナルモニターの再生画像を見ながらカップに口をつけているサコミズを、ミサキ・ユキは怪訝そうに見やった。
「少なくとも今の彼はウルトラマンじゃない。どうしてこの場に出てきたかはわからないけど。おそらく彼は今、これからウルトラマンになるか、ただの宇宙犯罪者になるか、その分かれ道に立っているんだと思う。だから、彼――ゾフィーも見守ることにしたんだろうね」
 パーソナルモニターが、一瞬明るい輝きを放つ。レイガ登場の場面だった。
「出来れば、僕としてはこの彼がウルトラマンになれるよう、手を差し伸べてあげたいところなんだけどね」
「でしたら、GUYSジャパンの情報部を使って探りをいれましょうか? セザキ隊員の通信記録によると、地球では少年の姿を借りているようですし……」
「うん。……あ、いや。やっぱり止めておく」
 何かを思い出したように首を振ったサコミズに、ミサキ・ユキは小首を傾げる。
「ゾフィーが言っていたんだ。ウルトラ兄弟の一人を派遣するって。その彼に迷惑がかかるといけない。今のところはとりあえず、光の国のことは光の国に任せよう」
「黙って、友の為すことを見守る。それもまた友情、ということですね」
「そういうこと」
 サコミズは心底嬉しそうに微笑んで、カップを掲げる。
 その表情を見て、ミサキ・ユキも嬉しそうに微笑み返した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 GUYSジャパン記者会見場。
 壇上に立ったトリヤマ補佐官が、記者からの質問攻めにあっていた。
「え〜、なんといいますか。その〜、あの巨人に関しては、え〜、まだGUYS総本部でもウルトラマンとは、認定はしておりませんわけでして、あ〜、なんといいますか、巷で噂になっているような、CREW・GUYSの中にあのウルトラマンがおるなどということは、あ〜その〜、確認されておりません」
「確認されてないってことは、いるかもしれないってことですよねー」
「今回の戦闘で破壊された工場への賠償、その責任逃れで隠してるんじゃないですかぁ?」
「なにしろ、GUYSジャパンには前科があるわけですしねぇ」
 その途端、トリヤマは目を剥いた。
「ぜ、ぜぜ前科とはなんだね、君ぃ! 私だって、最後まで知らなかったんだ! そんな言い方は――」
「ということは、前回の件はあらかじめ知っていたサコミズ総監の責任、という認識でいいんですねー?」
「だーかーらー、責任とかそういう話ではなく――」
 記者団の一斉口撃にたじたじのトリヤマ補佐官を見かね、マル補佐官秘書が司会のマイクを脇から奪った。
「ええと、申し訳ありません、記者の皆さん。ウルトラマンの話は補佐官が仰ったとおり、GUYS総本部でも認定していない事項ですので、これ以上申し上げられることはありません。それ以外の質問をお願いします」
 一瞬、輝くように希望に溢れたトリヤマの顔が、マル補佐官秘書を見た。
(ナイスだ、マル!!)
(頑張ってください、補佐官!)
 二人だけに通じるアイコンタクト。マル補佐官秘書は親指を立てて応えた。
「では、トリヤマ補佐官。ガンフェニックストライカーの海中墜落の件について――」
(今度はそっちか!!)
 たちまちトリヤマ補佐官の表情が凍りついた。


【次へ】
    【目次へ戻る】    【ホーム】