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ウルトラマンメビウス外伝 RAYGA

 第1話 光の逃亡者 その5

 東京湾沿岸の工業地域。
 建ち並ぶオイルタンクにガスタンク、煙突の林。うねくり踊り、壁を這うパイプ。そしてそれを支える無骨な鉄骨。
 世界中から集められた石油を精製するための工場、精製された石油を元に様々な製品に加工する装置が、そこには建ち並んでいた。
 また、それら製品を運び出すための港にはクレーンなどの重機が林立し、コンテナが整然と積み上げられ、怪獣より巨大な船が停泊していた。
「お、おい……来たぞ! 見えたぞ!」
 港で働くツナギ姿の男が叫んだ。
 周囲で作業を続けていた男たちが、その声に反応して一斉に手を止め、沖合いを見やる。
 初夏の日差しにきらめく海面、彼方の水平線――そのラインが乱れていた。
 ヒトデを二枚、横つなぎにしたようなそのシルエットは、刻一刻港に近づいていた。
「とうとう来たか……」
 否が応でも緊張感が高まる。
「どうするんだ、オオクマさん」
 訊ねられたのは、ツナギを着ている労働者ばかりの中で、ただ一人だけスーツ姿の男。
 その男オオクマは、口を真一文字に引き結んで、沖で動く巨大な影を睨みつけていた。
 彼らが避難命令の出たこの地区で最後まで残って作業を続けていたのは、会社のためではない。怪獣頻発期を経て培われた、怪獣災害への対応策の一つである。
 怪獣が上陸すれば、破壊活動に伴って火災が起きる可能性がある。ここには可燃性の危険物が集まっている。中でも直接間接を問わず、重大な結果を引き起こしかねないものについては、放置しておくわけにはいかない。怪獣出現から到着までに時間の猶予が見込まれる場合、そうした危険物を、あらかじめ決められた安全な場所へ移動させなければならない、と決められていた。そのため、わずかな人員が残って作業を続けていた。
 それを指揮しているのが、オオクマだった。
 一応、近辺にはGUYSの一般隊員が配置され、退路を確保してくれている。
「残念だが、作業はここまでにしよう。あなた方の命のほうが大事だ。まあ、これだけ隠せただけでも、多少の被害拡大の抑制にはなる……と信じるさ。至急、地下倉庫の耐火耐震扉を閉じて、我々も退避――」
 そのとき、頭上を轟音が通り過ぎた。
 見上げれば、二機の飛行物体が沖の巨大な影に向かって一直線に飛んでゆく。
 炎のシンボルマークを抱き、人類の平和を守る流星を思わせるその機体は――
「ガンウィンガーとガンローダー……頼むぞ、CREW・GUYS」
 オオクマの呟きには、紛れもない安堵と希望の響きが混じっている。
 平時なら煩わしい空を裂く騒音が、今だけは正義の味方登場のテーマソングに聞こえていた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「ディレクションルーム、こちらガンウィンガー・ヤマシロ。予定空域に到着! ガンローダーとも合流しました!」
「こちらガンローダー・セザキ。ターゲットインサイト! レジストコード・油獣ペスター確認!」
 二人の座るコクピット正面のモニターに、シノザキ・ミオの姿が映った。
『――こちらディレクションルーム・シノザキです。お二人とも、申し訳ありませんがもう少しの間だけ、敵の足を止めておいてください』
「なに、ミッちゃん? なんか問題発生? ……そー言えば、まだ港湾施設に人影があったみたいだけど」
 ガンウィンガーのコクピットに座るヤマシロ・リョウコは、たった今通り過ぎた港をちらっと見やった。
 オリンピックで彼方の的を射抜くために鍛え上げたその視線は、ほんのわずかな異常を見逃さない。今は港湾部のコンクリート岸壁上にゴマのように散らばっていた人影が、彼女に違和感を覚えさせたのだった。
『真日本石油工業の社員が、港から運び出す予定だった危険物を地下の倉庫に収める作業をしていたそうです。たった今、現場責任者からもう引き上げる旨の連絡がありました。安全地域まで退避できれば、再び連絡が来ることになっています。ですからその間、決して港に被害を出さないように戦ってください』
「なーる。あたしたちが十分戦えるように、『射場』を整えてくれてるわけね。そりゃ頑張らなきゃあ』
 ヤマシロ・リョウコは嬉しげに口笛を吹いた。
『念のために注意しておきますが、なるべく射線も陸から海へと取ってください。退避が終了次第、すぐにお知らせします。全力戦闘はその後で。隊長ももうすぐGUYSアローで現場に到着しますので、以後はその指揮に従ってください』
「G.I.G! セッチー、あたしがヒット・アンド・アウェイで突っ込むから、援護よろしく!」
『G.I.G。気をつけて下さいよ』
 返事の代わりに軽く翼を振って、ガンウィンガーは大きくペスターの上空をパスしてゆく。
 ガンローダーもガンウィンガーとは違う方向へバンクを描き、洋上を進む怪獣の前へと回り込んでゆく。
 二機の轟音に何を感じたのか、甲高い声で怪獣が吼えた。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

『アイハラ隊長、こちらディレクションルームのイクノ。応答願います』
 東京湾上空を現場に向かうGUYSアロー1号機内のアイハラ・リュウは、イクノ・ゴンゾウの呼びかけに通信機のスイッチを入れた。
「おう、こちらリュウ――じゃねえ、アイハラ。ゴンさん、どうした?」
『ガンブースター、フェニックスネストへ帰投しました。現在弾頭の換装作業中です。それで、ペスターの件ですが』
「なんかわかったのか?」
『おそらく、後頭部が攻め所と思われます』
「後頭部? なんで?」
『形状からの推測になりますが、左右胴体の接合部であるあの部分に強力な攻撃――スペシウム弾頭弾、いや、出来ればインビンシブル・フェニックスを叩き込み――』
「なるほど、胴体を真っ二つにしてやれば、ってことだな」
 メインモニターの向こうで、イクノ・ゴンゾウが頷く。
『それともう一つ。間違っても、左右の胴体を強力な攻撃でぶち抜いたりしないようにしてください』
「なんかあんのか?」
『ペスターの常食が石油なら、おそらくその体内貯蔵庫はあの胴体です。容積的にも形状的にも、頭部周辺の可能性は低いと思われます。もし間違ってぶち抜いたりすれば、中の油に引火したり、大量流出して海洋汚染の可能性が――』
「そうか。その心配があったか。ったく、めんどくせー怪獣だな。とにかく、背後から後頭部をガツンと一発、これでいいんだな?」
『そうです』
「わかりやすくていいじゃねーか。じゃあ、正面で奴の気を引く陽動役がいるな。ちょうどいい。アローに乗ってるし、オレがやる。ゴンさんはその件を三人に伝えて、特にタイチの出発を急がせろ」
『G.I.G』
 メインモニターからごついおっさんの顔が消える。
「毎回こうわかりやすい奴ばっかだと助かるんだがな」
 苦笑して、アイハラ・リュウはGUYSアロー1号のアフターバーナーを噴かした。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

「ウィングレッド・ブラスター!!」
 ヤマシロ・リョウコの勇ましい声とともにトリガーが引かれ、主翼装備の熱線砲が赤い光弾を吐き出す。
「バリアブル・パルサー!」
 いつもの軟派な口調とは打って変わった気合のこもったセザキ・マサトの声とともに、主翼下に装備されている重粒子ビームが空を裂く。
 二つの射線は、体型的にも素早い動きが苦手なペスターの、左右の一番高い先端部分にそれぞれ命中し、火花を散らした。
 ペスターがあげる声は悲鳴か、雄叫びか。
 二機の機体はペスターの上空を飛び抜け、再び左右に分かれて正面へと戻る。
「セッチー、足は止まった?」
 ペスターは二機の動きを顔で追いながらも、前進を止めてはいない。
「まだですね」
「んじゃもう一回。今度は顔に行くから」
「G.I.G、援護します」
 再び正面へ回り込んだガンウィンガーは、そのまま速度を緩めずに突っ込んでゆく。
「ぃいっけぇぇぇぇぇぇっっっっ!!!!!」
 威嚇するように吼えるペスターの顔周辺に、ウィングレッド・ブラスターをばら撒く。
 顔に打撃を受けてたじろぐペスター。しかし、目に見えるダメージは与えられず、ガンウィンガーはさらに突っ込んでゆく。
「ちょ、そんなに突っ込んだら……退避が!?」
 セザキ・マサトの悲鳴に、ヤマシロ・リョウコは即答した。
「だ〜いじょうぶっ!!」
 衝突する寸前、わずかに機首をあげたガンウィンガーは、そのまま機体を90度傾けた。ペスターの頭上数m、左右胴体の隙間をすり抜けるコース。
 しかし、暴れるペスターの動きが隙間を閉じかける。
「危ないってば!!」
 ガンローダーのバリアブル・パルサーが両側胴体を直撃した。閉じかかった隙間がその衝撃で再度開き、ガンウィンガーはすんでのところで胴の間をすり抜ける。 
「いやっふー!! ほーらね?」
「……危ないなぁ……」
「セッチーを信じてたよぉ。にゃははー」
『バッカ野郎ぉっっっっ!!!!』
 コクピットを揺るがす大音量は、アイハラ・リュウのもの。二人は思わず首をすくめた。
 見れば、GUYSアロー1号の機体が接近してきている。
『調子こいてんじゃねーぞ、リョーコ!! 何だ今のは! 誰が曲芸飛行なんざしろっつった!! てめえ、ガンスピーダーから降ろすぞ!!』
「え、ええ!?」
『その機体はな! オレたちを生かして返すために、アライソのオヤジさんたち整備班の連中が、日夜怠らずに手入れをしてくれているんだ! てめえの腕を過信した馬鹿野郎に、そんな曲芸飛行をさせるためじゃねえ! 今度調子に乗ってバカな真似しやがったら、お前は一生事務方だ! 覚えとけ!』
「………………!!! じ、G.I.G……」
 元オリンピック選手のプライドも何も、ここでは通用しない。
 唇を噛み締めたヤマシロ・リョーコは、ぐっと表情を引き締めた。
「すみませんでした、隊長。以後、気をつけます」
『マサト! お前もだ!』
「は? ぼ、ボクもですか!?」
 とばっちりとしか思えない怒声に、セザキ・マサトはうろたえた。
『たりめーだ! ゴンさんから指示があったのを忘れたのか! 胴は狙うな!!』
「え、でもリョーコちゃんが……」
『返事はっ!!』
「じ、G.I.G!!」
『ったく……しゃきっとしやがれ! 気ぃ入れ直せ!! 』
 アロー1号を先頭に、三機揃ってペスターの上空を旋回する。
 顔面を撃たれて怒ったか、青白い放射火炎が三機の航跡を薙ぐ。
『ひゅう。来た来た来やがった、やっこさんも本気になってきたようだぜ!』
 さっきの怒声もどこへやら、嬉しげに無駄口を叩くアイハラ・リュウ。連続で放射される火炎を、編隊飛行ながら軽快に躱してゆく。
『よぉし、ヤマシロ! セザキ! 仕切り直しだ。お前ら、ミッションはわかってんな!?』
「はい! ガンブースターが到着次第バインドして、背後からメテオールで後頭部を撃つ! ですね」
 打って変わって、緊張感溢れる声で答えるのはヤマシロ・リョウコ。
『そうだ。そんときの陽動はオレがやる。それまでペスターを絶対港に近づけんな!』
「G.I.G!!」
「G.I.G!!」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

 怪獣と懸命に戦うGUYSクルーの活躍は、生放送でシロウたちの見ているテレビにも届いていた。
「なーんか、妙に機動性の悪い機体が混じってんな」
 テレビを見ながら、シロウがふと漏らす。
「ありゃー……アロー号じゃな」
 イリエ老人が呟くと、ワクイも相槌を打った。
「ああ、確かに。ひゃー、なっつかしいなー」
「懐かしい?」
 シロウが思わず聞き返すと、イリエ老人は満面に笑みを浮かべた。
「ワシらが若かりし頃――今からもう40年ほど前になるか。まだ働き盛りの頃にの、MATという防衛チームがおってのう。そうじゃ、ラインの入ったウルトラマンが来た頃じゃの」
「そうそう、セブンの次に来てくれた新しいウルトラマン。略して新マンって言ってましたっけ。あのライン以外、ほとんど初代とおんなじだったもんな、外見も光線技も」
 ワクイも満面の笑みを浮かべて頷いている。
(……ウルトラ兄弟の4番目、ジャック……だったか、のことか?)
 聞きかじりの記憶と照合している間に、話は進む。
「そのMATという防衛チームの戦闘機があのアロー号じゃった」
「あれは一号だな。他にも翼の丸い二号とか、両翼がプロペラみたいになったマットジャイロとかあったんだぞ」
 あったんだぞ、と得意げに言われても、シロウにはふ〜ん、と返すしかない。
「んで、何でそんな骨董品が今頃あんなとこ飛んでるんだ」
「………………ふむ……」
「……………………あ、ほれ、合体するぞ!」
 ワクイの言葉どおり、画面の中では新たな機体の到着とともに、アロー号以外の三機が合体を始めていた。
 その間にアロー号が攻撃を受け持ち、怪獣の気を逸らせる。機体は旧いとの話だが、素人目にもパイロットの腕前がうかがえるほど、その挙動に無駄がない。惜しむらくは攻撃力の低さだろうか。立派な牽制ではあるが、決定的にダメージは与えられない。
 そうこうしているうちに、三連合体は終わった。今や巨大攻撃機にその姿を変えたガンフェニックストライカーは、ペスターの吐く蒼白い炎を躱しながら悠然と空を泳ぎ、猛然と攻撃を開始した。
 テレビを見ている者に思わず感嘆の声をあげさせるほど圧倒的な火力は、見事にペスターを怯ませ、後退らせる――だけでなく、そのままペスターを後方へのけぞり倒してしまう。
「……やっぱり、最新の機体の方が強いのう……」
 なぜか妙な寂しさを目一杯含んだ呟きは、イリエ老人のもの。
 その時だった。怪獣をひっくり返した勢いのまま、その上空を通り抜けようとしたガンフェニックストライカーが、突然火だるまになった。怪獣の吐いた青い炎ではない。油を燃した紅蓮の炎に機体が包まれたのだ。
 さらに視界が奪われたのか、機体が斜めに傾く。
「慌てるな、下は水だ! 突っ込んで消しちまえ!」
 ワクイが思わず叫んだ声が聞こえたわけでもなかろうが、その指示通りにガンフェニックストライカーはそのまま海面へ突っ込んだ。
 結構な水飛沫が上がり、アナウンサーがうろたえている。オオクマ家の和室でも、ワクイが目をぱちくりさせていた。
「……本当に突っ込むとは……」
「けど、うごかねーみたいだぜ? 大したことねーな、ガイズとやらも」
 皮肉たっぷりの笑みを頬に張りつかせ、シロウが嘲笑う。
 確かに、水面に浮かぶガンフェニックストライカーのエンジン噴射口からは炎が消えていた。
「ばかやろう、そんなわけあるか。これで終わりなはずはないっ! CREW・GUYSはこんなことでへこたれはせん!」
「さーて、どうだかな」
 へらへら笑っていると、ちゃぶ台の上に置いていたコードレスホンが鳴った。
 シノブが慌てて出る。
「はい、オオクマです。……ああ、カナちゃん!? うん、うん……見てる。まだ、そっちにも連絡ないの? そう……心配よね」
 誰? という顔でタキザワを見やるシロウ。親しげな口ぶりからして、会社とやらから知らせとかではないらしい。
「カナちゃんは確か、イチローちゃんの嫁さんだ。不安なんで、電話してきたんだろう」
「どいつもこいつも人間は……」
 鼻で笑っている間にも、怪獣は再び身を起こしていた。しかし、その周囲が火に包まれている。
 たちまちシロウは顔をしかめた。
「なんだ? 海が燃えてるぜ?」
「今、このおっさんが説明してる」
 スタジオでアナウンサーが説明を求めたコメンテイターは、怪獣が油を吐いたのだろうと解説した。その油があの巨大攻撃機のエンジンから噴き出す炎に引火し、炎に包んだ。そこまでは怪獣の思惑通りだったが、自分自身も吐き出した油に囲まれた挙句、飛び火で炎に包まれたのだ。
「………………ばっかでー」
「ほんと、ばかだな」
 珍しくシロウとワクイの意見が一致した。

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

『リョーコ! マサト! タイチ! 大丈夫かっ!! 返事しろっ!』
「いててて……リョーちゃんは一応無事であります、たいちょー」
 つんのめった拍子にシートベルトが体中に食い込んだ痛みに呻きながら、ヤマシロ・リョウコは返答した。
『こちらセザキ。ボクも身体は無事です』
『こちらクモイ。無事です』
 残る二人の声を聞いて、ほっとする。少なくとも、このミスでも二人が無事だったのは不幸中の幸いというべきだろう。
『ききき君たちっ、いったいなにを――』
『なにしてやがる! このバカどもっ!!』
 うわずりまくったトリヤマ補佐官の喚きは、それを上回るアイハラ・リュウ隊長の怒声にかき消された。
 その大音量に、ヤマシロ・リョウコは思わず首をすくめた。
「すすすすみません! 火に包まれたから、水に飛び込めばと思って……」
『はああ!?』
 慌ててがちゃがちゃとスロットルレバーや操縦桿を動かしてみるが、何の反応も返ってこない。ガンフェニックストライカーは完全に機関停止していた。
(ええっ!? ヤバっ、動かない!?)
『オレたちの翼が、あの程度の火でどうにかなるわけねーだろ! ――ゴンさん、機体の状況は!?』
 ヤマシロ・リョーコのコクピットのメインモニターに、ディレクションルームにいるイクノ・ゴンゾウの姿が映し出された。
『海中突入時の衝撃により、ガンフェニックストライカーは緊急機関停止状態。……あの速度と角度で突っ込まれては、機体も保ちませんし、衝撃吸収も十全には働きません。中の搭乗員が無事なのも、水中で分解しなかったのも奇跡ですよ。アイデアは悪くないんですが。……再起動には、時間がかかりそうです』
『隊長、それよりペスターの状況は』
 この状況にあってひどく冷静なその声は、クモイ・タイチのものだった。
『今、自分で作った火に囲まれてじたばたしてやがる。だが、すぐに消えちまうな』
『G.I.G。とりあえず、ガンスピーダーは動くようです。イジェクトして、陸上から迎撃します』
『ああ、そうだな。マサト、タイチに続け。リョウコはゴンさんの指示に従って、ガンフェニックストライカーの再起動だ』
「じ、G.I.G」
 ガンスピーダーがガンフェニックストライカーの後方からイジェクトされる衝撃に、コクピットが揺れる。
 ヤマシロ・リョウコは完全に落ち込みきった様子でうなだれ、その揺れに頭をぐらぐらさせていた。
「……とほほー……あたし、これじゃあ完全にダメっ娘だよ〜。クビかなぁ、こりゃあ」

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――

『アイハラ隊長、提案があります』
 ペスター上空を旋回するGUYSアロー1号機に連絡をつけてきたのは、シノハラ・ミオだった。
「なんだミオ」
『隊長の乗っているGUYSアロー1号にも、隊長用ということで特別にメテオールのスペシウム弾頭弾が積まれているはずです』
「ああ。それがどうした?」
『それでペスターを倒します』
『コラコラコラコラ、シノハラくん、なぁにを言っとるのかね!?』
 通信画面に映るシノハラ・ミオの横に割り込んできたのは、トリヤマ補佐官だった。
『そんなことしたら、怪獣内部の石油に引火して大爆発が起きるではないか!』
『それが狙いです』
 シノハラ・ミオはいたって冷静に――顔を寄せて抗議するトリヤマ補佐官に如実な嫌悪感を表わしてはいるが、口調はいたって冷静に――自信を持って言い切った。
『しかし、あの怪獣の大きさで内部の石油が引火したら、その爆発は大変な規模になるんじゃないでしょうか。補佐官はそこをご心配なのですよね?』
 的確なマル秘書官のフォローに、トリヤマ補佐官もご満悦で大きく頷く。
『そうそう、そのとーり。あんな沿岸で大爆発された日には、その損害は――』
『ご心配なく。スペシウム弾頭弾着弾の瞬間、上陸したクモイ隊員とセザキ隊員のトライガーショットから、メテオールのキャプチャー・キューブを放ち、ペスターごと閉じ込めてもらいます。それで、爆発の被害は極小に抑えられます』
『いや、しかしだな』
『この作戦の唯一の問題があるとすれば、上陸した二人のトライガーショットの射程距離が短いことです。その距離まで怪獣を呼び込むためには、もう少し港まで引き寄せないといけません』
『怪獣をこれ以上港に近づけるというのか!? ダメダメダメダメ、そんなものダメに決まっとろーが!』
『しかし、ガンフェニックストライカーの再起動に時間がかかる以上、速やかな怪獣殲滅にはこの作戦しかないと考えます。それに、今しがた地上部隊より民間人の安全圏への撤収完了の報告もありました。ある程度までなら港への接近を許しても大丈夫と思われます。それとも……時間をかけてでもガンフェニックストライカーの再起動を待ち、当初の作戦を実行しますか?』
『ぐむぅ……海上からでは出来んのかね?』
『怪獣の接近で波の立つ海上から、正確に狙いをつけてタイミングよく撃てるとは思えません』
「……よっしゃ、ミオの作戦で行くぜ」
 アイハラ・リュウの決断に、画面の向こうでトリヤマが慌てふためく。
『アアア、アイハラ隊長!?』
「トリヤマさん、いずれにせよアイツの足止めをGUYSアロー1号だけでするのは荷が重いんだ。それに、その作戦遂行の間に、ガンフェニックストライカーの再起動が終わるかもしれない。やってみる価値はあるぜ」
『んむ〜………………わかった。アイハラ隊長、諸君を信じよう。その代わり、ペスター殲滅は必至だぞ!』
「G.I.G! ――マサト、タイチ! 聞こえたな!」
 メインモニターからトリヤマ補佐官のバストアップが消え、代わりにガンスピーダーで港に向かっている二人のバストアップが映る。
『G.I.G! 任せてください。汚名返上しますよ!』
『G.I.G。GUYSの意地、見せてみせる』

 ―――――― ※ ―――― ※ ――――――
 
 GUYSジャパン・ディレクションルームではトリヤマ補佐官がまだぼやいていた。
「シノハラくん、本当に他の方策はなかったのかね」
「例えば、過去の防衛隊の対応を参考にしてみるとか」
 横から口を挟んだマル秘書官を、トリヤマ補佐官はそれだとばかりに指差した。
 しかし、その刹那シノハラ・ミオのメガネが光を弾いた。
「そうですわね。……確かに、ドキュメントSSSPによれば、当時の防衛チーム・科学特捜隊が、ペスターを外洋におびき出す作戦を遂行したことが記されています」
「それだ!」
 二人は顔を見合わせた。
「なぁんでそれを提案せんのかね!? 外洋に出してしまえば、後はGUYSオーシャンの管轄じゃないか!」
「よろしいのですか? 海に石油を流し、それをエサに外洋へ誘導する作戦ですが……今の時代にそれをすれば……」
 トリヤマ補佐官、マル秘書官はともに激しく首を横に振り、最後に両手で×を作った。
「馬鹿なことを言うんじゃないっ! そんな環境に悪い作戦、できるわけなかろうっ!!」
「ですから提案しませんでした」
「う……むぅ……本当に大丈夫かのう…………こんな時に、ウルトラマンがおってくれれば……」
「補佐官っ! それは……!」
 慌てて自分の唇に人差し指を押し当てるマル秘書官。トリヤマ補佐官はしまった、という顔をして首を激しく左右に振った。
「ババババカモン! 地球は地球人の手で守ってこそ意味があるんだぞ! そんなこと言ってはいかんではないか!」 
 そこにアイハラ・リュウがいればトリヤマ補佐官自身が口にしたことを、彼が叫んだことだろう。
 あいにく、シノハラ・ミオはそんなことにこだわる人間ではなかった。
 というより、そもそもトリヤマ補佐官とマル秘書官との掛け合いなど、初めから気に止めてもいなかったのだが。


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