第5話 隠されし装備!! サンダーロボ最強形態!!
サンダー2の腹部から放たれたピンク色の光線がジグザグに空を裂く。
突進をかけてきていたため、その射線上に立ってしまった【ソラス】の上半身が消滅した。
そのまま光の奔流は蟻塚に突き刺さった――すぐに、あちこちの穴から光が漏れ出したかと思うと、根元から亀裂が入り始めた。その亀裂からも光が溢れ出していた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっっっ!!!!!!」
小野達の叫びをエネルギー源にしているかのように尽きることなく吹き出すビーム。あまりの反動に、片膝を立てて胸を張った体勢のサンダー2が、じりじりと後退して行く。
そしてついにサンダービームは蟻塚を突き抜けた。
「――今やっ!! どおおぉぉぉぉぉぉぉっせぇぇぇぇいいぃぃぃぃっっっっ!!!」
小野はサンダー2の姿勢をさらに仰向かせ、サンダービームの発射口を上空へと向けた。
まるでニンジンを割くように、蟻塚を根元から先端へ向かって真っ直ぐ断ち割ってゆく光の剣は、やがて上空を覆うマザーシップに直撃した。
センターハッチ周辺に浮遊していた円盤群を一瞬で壊滅させ、スペースリングを真っ二つに割り、八本の脚状砲塔――ジェノサイドキャノンをことごとく破壊した。
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司令部に――否、大阪城全体で歓声がわきあがった。
五月雨博士と通信中だった山岡司令も、思わず受話器を握ったまま拳を握り締めていた。
「やってくれた……連中、よくもここまで――」
『まだじゃ。マザーシップ本体はまだ墜ちてはおらん』
五月雨博士の低い声が、感動に浸りかけていた山岡を現実に引き戻した。
「確かにそうですが……」
『もはやサンダーロボに戦う力はない。造ったわしが言うのじゃから、間違いない。悪いようにはせん、わしの言うた通りにせい。さもなくば……』
山岡は目を閉じ、じっと考え込んだ。額に一筋、汗が伝い流れる。
「……わかり――」
山岡が答えようとしたその時、オペレーターが悲鳴をあげた。
「し、司令!! 津波が、津波が!!」
「津波? ……津波だと!?」
山岡の視線がメインモニターのグリッドマップに向けられる。
マザーシップを中心に、同心円状の何かが広がってゆく。
「スペースリング、ジェノサイドキャノンの落下により発生したものと思われます! ――と、直近の神戸空港島定点観測カメラからの映像解析出ました! 波頭は……5mを超えます!!」
「……5…………m……? こんな市街地の……直近で……!!」
山岡は呆然と画面を見つめた。
グリッドマップ上の神戸空港島を、同心円の弧が抜けてゆく。同時に、サイドモニターに映っていた神戸空港島の風景が突如下に向けられ、次いで砂嵐となった。
オペレーターが呆然と告げる。
「……神戸空港島、定点観測カメラは破壊されました。管制塔の上にあるはずなのに……」
「何ということだ!! くそ、こんなオチがつこうとは……!! 大阪湾沿岸と淡路島、いや、瀬戸内海全域に津波警報発令! 全市民、全隊員は大至急高台へ逃げるんだ!! バゼラート隊、命令変更! 円盤の襲撃に備えつつ、被害を確認せよ!」
『ふむ、予想外の展開ではあるが……これでわしの言う通りにするしかなくなったな、山岡司令?』
五月雨博士の含みのある言葉に、受話器をきっと睨みつけた山岡は、そのまま叩きつけるようにして台に置いた。
「関西壊滅の危機に、どうしてそんな物言いができる!! どいつもこいつも、キチガイばかりか!!」
顔を上げた山岡は、忙殺されているオペレーターを一瞥し、手元の通信機のスイッチを入れた。
「参謀局! オペレーターの手が足りん、そっちのを何人か使わせろ! 何? ……作戦立案など後だ! 命令は撤回する! 今は避難指示と戦場の確認が最優先だ! 大至急こっちにオペレーターを寄越せ!」
通信を切って一分もしないうちに、数人の女性隊員たちが駆け込んできた。それぞれにサブオペレーションデスクにつき、通信やモニターを立ち上げてゆく。
山岡はそのうちの一人を指名し、叫んだ。
「君は神戸の様子を確認しろ。神戸空港がダメなら、ポートピアでもいい、関西空港の望遠でもいい!! 最悪、バゼラートのガンカメラでも構わん!! とにかく、戦場の状況を確認するんだ!! 」
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大阪湾に落ちたスペースリングとジェノサイドキャノン八本分の位置エネルギーと質量は、津波となって押し寄せ、周辺に甚大な被害を与えた。
神戸空港島は水没し、波に洗われ、瓦礫のほとんどが根こそぎ海へと引きずり込まれた。
サンダー1と【ソラス】の格闘に巻き込まれてもなお、かろうじて建っていた管制塔も津波の前になすすべなく倒壊し、飛行機の格納倉庫も跡形もなくなった。空港ターミナルビルも一階ロビー部分が上から押し潰されたようになっていた。
唐竹割に真っ二つにされた蟻塚も海へ引きずり込まれ、一つがポートアイランドとの間の海に根元部分を上にして突っ立っていた。もう一つの片割れはどこへ行ったものやら、見当たらない。海の底に横たわっているのだろう。
2匹の【ソラス】はまだ神戸空港島の上に立っていた。
サンダーロボの姿はない。
一階部分が圧壊し、傾いた空港ターミナルビルの屋上、歪んだ柵にすがるようにしてEDFレディの姿があった。
泥沼と化した神戸空港島、そしてポートピアの南側の様子が一望できる。
強い風が吹き抜け、ヘルメットからなびく髪を弄ぶ。
その顔色は蒼ざめ、唇はわなわなと震えていた。
「……なんてこと……せっかく…………彼らが……」
マザーシップは悠然と上空に佇み、センターハッチから新たな円盤群を吐き出している。まるでダメージがないのか。あのサンダービームの直撃を受けていながら。
そして、サンダーロボはどこへ行ったのか。海に引きずり込まれただけですんでいればいいが。
EDFレディは胸を満たす絶望に身動き一つできず、ただ呆然と立ち尽くしていた。
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「……いたたたたた……。あーびびった。とりあえず生きとるな」
上下逆様のコクピットで小野はぼやいた。メインモニターは真っ黒で、何も映っていない。
「ええと……どないなっとるんや、これ」
『どうでもええがな、とにかくまず姿勢戻せや』
不機嫌そうな井上の声。サイドモニターを見れば、首を変な風に曲げている。天井につっかえているような感じだ。おそらく井上もこっちが同じ姿勢でいるように見えているだろう。
「わかっとるわい。――と、こっちメインカメラ死んどるみたいなんやが、そっちはどうや?」
聞きながら、小野はとりあえずコクピットを水平に戻し始めた。モニターで外を確認できないから、水平計だけが頼りだ。
『わしのも死んどるみたいや。いよいよ白兵戦か』
『……あー、小野はん。ボクら海の底みたいです』
サイドモニターに瀬崎の姿は映っていない。声も直接ヘルメットから聞こえてくる。どうやらバゼラート【イーグル】は、ダメージを受けすぎたせいで完全に機能停止したらしい。
『何でそないなことがわかるんや? あ、そっちはモニター生きとるんか?』
『あ、いえ。こっちもモニターは真っ黒なんやけど……水漏れがひどおて』
「水漏れぇ?」
『さっきまではヘルメットのバイザーギリギリ、今は足のくるぶし辺りまで水浸しですわ。本格的にあきまへんね、この機体。どないします? ボク、もういっぺん小野さんのコクピット行って、それから分離しましょか?』
頷いて口を開きかけた小野は、しかし口を閉じて少し考え込んだ。
「……こっちに来んのはやめとけ、瀬崎」
『何でです?』
「気密性が一番高いはずのコクピットで水漏れしとるっちゅーことは、連絡通路ごときはもう水の中やろ。ハッチ開けた途端にコクピット水浸しになって、五分後にはドザエモンになれるぞ」
『……………………』
「とにかく、高度計を見ながら海の上に出るしか――あれ?」
不意にモニターが外の風景を映し出した。打ち寄せる褐色の波、跳ねる泥飛沫、泥まみれの波止場……。
「モニター生きとるやんけ。……ああ、海ん中泥だらけで見えへんかっただけか」
『そらよかった。ほな、とりあえず陸に上がって下さいな』
『――サンダーロボ!!』
「おぅわっ!」
耳をつんざく悲鳴じみた声は、EDFレディのものだった。
周囲を見回していると、空港ターミナルビルの屋上に焦点が合った。
「なんや、おのれも生きとったか」
『おかげさまで』
相変わらずの冷たい声だが、かすかな微笑が混じっているような気がした。
「それより、あれを」
EDFレディが指差す空には、マザーシップが傲然と浮かんでいた。
『つくづく頑丈な奴やのぉ。さすが宇宙船』
『【ソラス】もまだ2匹いますやん』
二人が同時に溜め息をつく。
「ふん。まあ、円盤と【ソラス】に関しては、手がないわけやない。ただ……マザーシップを墜とす算段がつかんな」
珍しく根拠不明の強気に出ない小野に、EDFレディは驚いたようだった。
『そう。マザーシップはバリアで包まれている……このバリアは、既存の兵器では突き破れない。――東京の英雄は、どうやって倒すつもりなのかしら……』
EDFレディのぼやきめいた呟きに、小野は歯を軋らせた。
「東京モンが何を考えようと、やるんはオレらで、やることは一緒や!!」
喚きながら、機体を空港島へと上陸させる。【ソラス】がこちらに気づいて、振り返った。
「古来から盾持っとる敵を相手にする時の対策は決まっとる。盾を構える前に叩くか、盾の隙間(ないとこ)を狙うか、盾を下ろさせるか……盾ごと叩き潰すか、や」
サンダー2は這いずるようにして機体を引きずり上げた。足が立たないため、機体を横様にゴロゴロ転がして、足先まで引き上げる。
【ソラス】が一歩一歩泥の海を踏みしめながら近づいてくる。
背後のハッチを開けて、ずぶ濡れの瀬崎が小野のコクピットに入ってきた。その両腕にGランチャーUM−1AとAS−18Rを一丁ずつ抱えている。
『――で、どれを選択するのかしら?』
緊張の走る声で言いながら、EDFレディは【ソラス】に正対して浮遊型レーザー発振機を出す。
「決まっとる」
小野が浮かべた不敵な笑みを、シートの後ろの瀬崎も浮かべた。
「盾ごとぶっ潰す、ですよねぇ」
『つーか、それ以外に思いつかんのやろ、われ』
サイドモニターでゴリアスDDとSG4を脇に立てかけた井上も笑う。
小野の答えはSNR−227とHG−02Aだった。
「ほな、ま、とりあえずは怪獣退治に行こか。どでかい円盤は後で考えるっちゅーことで」
その時、通信が入った。
『待て、小野隊員』
「……五月雨博士? なんやいな、もうサンダーロボはおシャカや。指示仰ぐことはあらへんで。オレらこれから――」
『用無しになればその対応か。つくづくお主はわしに似とるのぅ』
通信機の向こうで苦笑する気配があった。
『これからサンダーロボの強化パーツを送る』
「はあ? 強化パーツ? いや、なにアホゆうてんねん、五月雨博士。もうサンダーロボはエネルギーもないし、バゼラート【イーグル】がイカレてしもて立つのもままならん状態なんやで?」
『そんなことはわかっておる。じゃが――』
「小野はん、【ソラス】が……」
後ろから瀬崎が囁く。小野は頷いた。
「すまん、瀬崎、井上。先始めとってくれるか。オレ、このおっさんの話を聞いとく」
『さよか。ほな行くで、瀬崎』
「了解。ほんじゃ、小野はん先行ってますわ」
井上の姿がサイドモニターから消え、瀬崎が背後のハッチから出て行く。
「――ほな、詳しいとこ聞かせてもらおか、五月雨博士。それ、もちろんあのマザーシップも墜とせんねやろな」
小野はメインモニターに映る【ソラス】、そしてその向こうに佇む巨大母船を睨みつけた。
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「この装備で怪獣とやりあわにゃならんとはなぁ」
井上がこの世の終わりをはかなむような溜め息をついた。
地響き立てて【ソラス】が迫っている。
瀬崎もどこまでも落ち込んでゆきそうな溜め息を漏らす。
「はぁあぁぁぁあぁ……ほんで、どないします、井上はん? 戦闘の方針」
「どないしますもこないしますも……とりあえずここでは逃げ場も隠れ場もないしなぁ」
二人は周囲を見回した。泥をかぶった神戸空港島。瓦礫は残らず海に押し流され、身を潜められるような場所はない。その上、まだ沖合いからくるぶしを浸すぐらいの波が、何度も打ち寄せてきている。
「……橋渡ってポートアイランドは……あきまへんな。渡ってる最中に、橋のこっちで火ぃ吐かれたら逃げ場ありまへんわ」
瀬崎は大きく溜め息をついた。
「ほな取りあえず、方針は二つやのぉ」
「そーでんな。一つ――」
二人はお互いに背を向けて、走り出した。ブーツの下で泥水がばしゃばしゃはねる。
AS−18Rを腰だめに構えた瀬崎は、乱射しつつ西へと向かう。
「――お互い一匹づつ引き寄せて、島のあっちとこっちで戦う!」
「ほんでもって――」
東へ走る井上は、肩づけにしたゴリアスDDを後方の【ソラス】に向けて発射した。
狙い通り【ソラス】の横っ面で爆発が起きた。
そんな爆発など痛痒にも感じていない様子で、【ソラス】は井上をじろりと睨んだ。進行方向が変わり、東へと導かれる。
「とりあえず中途半端な距離では焼かれる! 足元へ潜り込むんや!!」
「ラジャー!!」
そのまま、井上、瀬崎は真っ直ぐ【ソラス】に突っ込んでいった。
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空港ターミナルビルの屋上から二人の様子を見ていたEDFレディは絶句した。
「なんて無謀な……今すぐ援護を――」
『待て、EDFレディ』
止めたのは山岡司令だった。
『そちらの状況がよくわからない。報告を』
EDFレディは唇を噛んだ。井上と瀬崎の状況が心配だが、山岡司令の命令も無視は出来ない。
「現在、上空にマザーシップと円盤多数。円盤はまだ接近してくる様子はありません。神戸空港島には【ソラス】が二頭。現在井上、瀬崎両隊員が生身で戦闘を挑んでいます」
『その状況でもまだ戦うことを諦めないのか、連中は。……そうか』
ふと山岡の声に、何か考えているかのような澱みが生じた。
「……山岡司令?」
『いや、なんでもない。それでは君に司令を伝える。実は――……』
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『小野隊員、お主サンダーロボの装備に足りないものがあることに気づいたか?』
小野は顔をしかめた。
「……遠〜中距離戦なら、サンダー3になればギガンテスの120mm砲、バゼラートの30mmバルカン、エアバイクの豆鉄砲も撃てるから火力不足っちゅうこともないやろし。空、陸、海それぞれにも対応して戦える……何が足らん? 敢えて言えば、エネルギーの予備ぐらいちゃうか」
『馬鹿者! わからんのか、サンダーロボに何が足りんのか! お主それでも漢か!! キン<ピー>が付いておるのかっ!!』
「んなこと言われたかて……。ん〜〜……せやなぁ、こいつであと対応してないっちゅーたら地中ぐらい……――地中!? あ、
ドリルかっ!!」
『そうじゃ。漢の武器、ドリルじゃ! 何はなくてもまずこれを積まねばロボとは言えぬ装備、ドリルじゃ!! ロボの魂宿りし場所、それがドリルじゃっ!!! ……実はな、当初はドリルはサンダー2の基本装備になる予定じゃった。ところが、ちと問題が起きてな。結局、装備できぬままお主らに配属されてしもうたと言うわけなのじゃ』
「ほんで、そのドリルがどないしたんや。今装備したかて、こいつはもう――」
レーダーが何かを捉え、警告音を発した。モニターを見れば、東から何かが接近している。白の光点と言うことは、味方か。
「……なんや? なんか近づいて……」
『それが装備できなんだドリルじゃ。それをはめて戦え、サンダーロボ!!』
「いや、はめてて……せやから、もうこいつは立ち上がることも」
『立つ必要はない! 右腕を空に向けて突き出せ! その装備はサンダー2の右腕に導かれておる!』
「ドリルねえ……ドリルでどないしてマザーシップを…………――はぁ!?」
渋々サンダー2の右腕を空へ突き上げた小野は、メインモニターの画像に目を疑った。
底部から炎を吹いて一直線に飛んで来るそれは――
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山岡司令と連絡をとっていたEDFレディの表情が、急に強張った。
思わず言葉が途切れる。
『……どうした? 何か状況の変化が?』
「司令……私は、疲れているのでしょうか」
EDFレディの目は、東から轟音を立てて飛んで来る物体に釘付けになっていた。
あまりと言えばあまりにシュールな光景。これに比べれば、サンダーロボも、【ソラス】も、頭上に鎮座するマザーシップでさえまだ現実味がある。
わなわなと震える唇が、何度か言葉を紡ぎだすことをためらった。それほど、状況を説明する言葉が恥ずかしかった。自分で言おうとして、自分の正気を疑いたくなった。
しかし、山岡司令に急かされ、ついにEDFレディはその言葉を口に出してしまった。
「通天閣が……通天閣が飛んで来ます」
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通天閣。
高さ100m。大阪を代表する高層建築物であるだけでなく、独特の形状で府民の心をがっちりキャッチして放さない、まさに大阪の象徴。
東京タワーと違い、その下でも変わらぬ大阪の生活が営まれている泥臭さが、まさに大阪という町とそこに住む人の精神性を体現している。
それが。
ロケットのように……否、ロケットとして空を飛んでいた。
四方へ広がる足の先から火を吹き、真っ直ぐ神戸空港島へ向かってくるその姿に、瀬崎、井上のみならず【ソラス】すらも動きを止めていた。
「な…………な…………な…………
なんちゅうことしてけつかるんじゃこのクソじじぃ!!!!」
小野は通信機が割れんばかりの声で叫んだ。
「おのれよりによって、大阪府民1000億万人の魂のシンボルをなんちゅう――」
『落ち着け、小野隊員。魂のシンボルなればこそ、魂の装備ドリルに相応しいとは思わぬか。……もっとも、大きすぎて結局ギガンテス【ジャガー】には装備できなんだのじゃが』
「なにをこの……バチ当たりがっ!! ビリケンさんになんちゅうことを……この一戦が終わったら、お前はぶっ殺す!!」
『神戸タワーをぶっ壊したお主が言うな。あの中にももう一つ装備が入っておったのに……と、そろそろ合体じゃぞ』
気づけば、通天閣は足を下に向け、サンダー2の横に立っていた。ロビー兼エレベーターホールにサンダー2の右腕ががっちりはまり――どういう仕掛けなのか、激しい歯車とクランクの駆動音を立てて固定された。
「……じじい、これが装備か」
怒りを押し殺した声で、小野は訊ねた。メインモニターの右半分は通天閣に覆い隠されている。見上げれば、通天閣の展望台がせり出しているのが見え、先端が見えない。
「なんで装備の方がサンダー2の三倍以上デカいねん!?」
『ぬははははははは、それはもちろん、漢の武器だからじゃ! デカければデカイほどよいのじゃ!!』
「こんなもん振り回せるかっ!! サンダーロボにはもうエネルギーがないと何度言えば――あれ?」
エネルギーメーターを見直す。ほとんど空だったのが、半分以上回復している。
『ふっふっふ、通天閣ドリルは自前のサンダー線融合炉を搭載しておる。さらにサンダー1に積んでおる重力制御装置のプロトタイプも積んでおるゆえ、ヘリ程度の機動なら悠々できる。速度が欲しい場合には、そこへやって来たようにロケットを噴射することで第一宇宙速度まで――』
「そらぁロケットや。もうドリルとちゃうわい」
『些細な事じゃ』
「いや、あのな、おっさん……」
『小野隊員。今お主に必要なのは戦う力ではないのか? 大阪駅前を壊滅させたお主が、今さら鉄塔の一つや二つで女の腐ったののようにグチグチ言うでないわっ!! お主がこの戦いを勝ち抜き、大阪府知事になればこんな鉄塔の百本や二百本、建て直せるじゃろうが! その気になれば、日本国大統領となって日本を支配し、東京タワーを通天閣に立て直すことさえ――』
ぴきーん、と小野の両目が妖しい光を放った。
「……それええな。その話、乗ったで!!」
パワーリストアレバーをMAXに突き入れる。通天閣ドリルから流れ込んだエネルギーが機体各所の回路を駆け巡り、サンダー2は両目を光らせて立ち上がった。
もちろんバゼラート【イーグル】が機能停止した今、足で立ち上がることはできない。足の部分が少し浮き上がった通天閣と一緒に、サンダー2も浮き上がっている状態だった。
『小野隊員、サンダービームは撃つな。ドリルの制御と、マザーシップのバリア貫通には多大なエネルギーを消費するからの』
「おおっ、わかった!!」
叫ぶなり、垂直に突っ立った通天閣は水平になった。その先端が狙うは――瀬崎を追う【ソラス】。
通天閣の先端、そして展望台がそれぞれ回り始めた。やがてそれは空気を引き裂くほどの高速回転になり、周囲に旋風を巻き起こす。
「サンダアァァァァ・通天閣・ドリルッッッ!!!」
スロットルレバーを突き込むと同時に、サンダー2……通天閣は【ソラス】に突進した。
【ソラス】が吐く炎をあっさりと蹴散らし、命中したドリルは【ソラス】の巨体を一瞬にして真っ二つに引き裂いた。
『……小野はん!!』
安堵の感情丸わかりの声を無視し、反転する。今度は井上が相手をしている【ソラス】。
「サンダアァァァ・通天閣・ストォォォォムッッッ!!!」
さらにドリルの回転が上がり、周囲の空気がその回転に引きずり込まれてゆく。やがてその空気の流れは竜巻となって【ソラス】に襲い掛かり、その巨体を巻き上げ、八つ裂きにした。巨大な肉片が海に落ちる。
『あ、あほんだら、ワシも巻き込む気かぃ!!』
井上があげた非難の声も心地よい。
小野は笑っていた。
「く、くく……くくくくく……これなら勝てる。これなら、あのクソいまいましい母船も墜とせる!! 五月雨博士、前言撤回や! 母船墜とすのに、これほど格好の武器はあらへん!! あのクソいまいましい侵略者どもをイわすのが通天閣のドリル、こんな楽しい話があるかいや!! 行くで!!」
『小野、狙うはセンターハッチじゃ! 円盤の発着口になっておるあの場所なら、タイミングによっては全エネルギーを――』
「なにちまちましたことゆうとんじゃ! 漢は黙って真っ向勝負や!! あのマザーシップの膜ごとき、この漢の“いちもつ”でぶち抜いたらぁ!!!」
スロットル、ペダル、レバーあらゆる力を正面に集め、通天閣ドリルを装備したサンダー2は……否、サンダー2をくっつけた通天閣はマザーシップへ向かって上昇を開始した。
―――――――― * * ※ * * ――――――――
マザーシップへ接近する異物に、ついに待機していた多数の円盤が動き出した。その数、ざっと30機。
そのうち半分がドリルの餌食と消えたが、残りは背後に回ってサンダー2に狙いを定めた。
「――やらせないっ!!」
澱んだ空気を吹き払う、一陣の涼風が吹いた。
EDFレディが腰だめに放つ稲妻レーザーと、浮遊型レーザー発信機から放たれる紅のレーザーが円盤を弾き飛ばしてゆく。
そして高度が下がったところへ、今度は井上のゴリアスDDと瀬崎のAS−18Rの連射が襲い掛かる。
「おらおらおらおら、人間様を舐めんなこらぁ!!」
「当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ!!」
交錯するレーザー光と、円盤のバルカン、地上からの射撃――次々と火を吹いて墜ちる円盤群を背に、通天閣は突き進み、やがて虚空で止まった。
「ここかっ!! ――サンダアアアアァァァァァ通天閣ファイナルダイナミックドリルクラアァァァァッッッッシュ!!!」
さらに回転が上がり、ピンク色のエネルギー光が先端から溢れ出す。
衝突する凄まじいエネルギーが放電現象となって、その先端から放たれた。
「うおおおおおおおおおおおっっっっっ!!!!!!」
叫びながら一切のレバー、ペダル、スロットルを緩めない。
メインモニターはまばゆいスパークに満たされ、何も見えなかったが、小野の両目はひたすら正面を凝視していた。
―――――――― * * ※ * * ――――――――
十秒……二十秒……一分……五分……。
両者の衝突は永遠に続くかと思われるほどの間、一歩も相譲らずに続いた。
瀬崎も、EDFレディも、そして彼女の報告によって状況を監視している司令部も、じっと息を潜めるようにして待った。
そのときを。
人類の勝利と敗北を分けるであろうその瞬間を。
―――――――― * * ※ * * ――――――――
コクピットのあちこちで、小さな爆発が起きていた。
機体制御コンピューターは負荷のかかりすぎを警告している。
だが、小野は力を緩めなかった。
「……こっちはな、大阪生まれの大阪育ちや!! ことガンの飛ばし合いで、ヨソもんに負けるわけにはいかんのじゃあっっっ!!」
ぎり。
聞こえないはずの音が、小野には聞こえた。
通天閣の軋みか、コクピットの軋みか、それとも……マザーシップのバリアの軋みか。
小野はにんまりと唇を歪めて笑った。
メインモニターには何も見えない。だが、通天閣の先端がほんの数ミクロン、バリアにめり込んだ手応えを感じた。
拮抗が破れる瞬間を、小野は確実に感じ取っていた。
「全パワー先端に集中!! 生命維持装置も切れっ!!」
叫ぶと同時にコクピットの照明が落ち――マザーシップのバリアが砕けた。
――
第6話へ続く