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EDF関西!! 激闘編  大阪駅前壊滅 〜崩壊! バベルのドミノ倒し!!〜


 轟、と突風がビルの間を吹き抜けた。
 地下街崩落の証し、もうもうと立ち昇り太陽の光さえ覆い尽くそうとしていた粉塵が一挙に吹き飛ばされ、ガラスが砕け散り、炎がアスファルトを溶かす。そして、ビルが一つ傾いた。
 通信機の向こうで瀬崎が騒いでいる。井上も何かを叫んでいるようだ。
「――なんや!?」
 小野は井上のゴリアスDDをくらって砕け散ったガラス窓の際に寄って、下を覗き込んだ。
 ビルの谷間を埋め尽くしていた薄茶色の雲海のような粉塵がキレイさっぱり吹き払われ、崩落した地下街の跡で【ソラス】の巨体がのっそり蠢いているのが見えた。
 小野の口元が緩む。
「フ、笑わせんな。今さら火ぃ吐いたところでどないもなるかい。おのれは籠の鳥じゃ。ぬはははははは」
 【ソラス】が尾を振る。
 頭を低く下げ、突進する。
 そのたびに穴の縁が崩れ落ち、瓦礫がその足元を埋めてゆく。
「ぬははははは、無駄だというのに、わからんか。デカイなりしてよーと、しょせんは畜生のあさましさよのー!!」
『小野……そっちから見えてんねんな。ちぃと気になることがあるんやが……』
 井上の少々呆けたような声に、小野は表情を曇らせた。
「なんや」
『いや、曽根崎警察署前から大阪駅前南交差点まで来たんやけどな……【ソラス】がだんだんせり上がってきてるように見えるのは、ワシの気のせいか? それとも、周りのビルが地盤沈下かなんか起こしてんのか?』
「はぁ? 何言うてんねん」
 小野はもう一度下を見た。
 【ソラス】が暴れている。そのたびに穴の縁から瓦礫が崩れ落ち、【ソラス】の足元を埋めてゆく。
 ひょお、と小野の周囲を風が吹き抜けた。
 【ソラス】の足元を埋めた瓦礫は、【ソラス】が動くたびにより後方へと雪崩れ落ち、結果【ソラス】は足を引き抜いて新たな瓦礫の山の上に登っている。その上で【ソラス】が暴れると瓦礫はその重さでしっかり踏み固められ……。
「あかんがな……司令、あきまへん! このままでは――」
『小野はん、エライこってす!』
 唐突に割り込んできた瀬崎に、小野は怒鳴り返した。
「わーっとるわい! 今の井上の通信、聞いてなかったんか! 【ソラス】の動きはそっちよりこっちの方がよぉ見えるんじゃ!」
『そんなことやおまへん! 小野はんの足元が、ヒルトンホテルの下が大火事でっせ!』
「はぁ?」
 【ソラス】から目を離し、そのまま足元へ目を転じる。ヒルトンホテルの低層階、様々な施設がある土台部分から赤い炎がちろちろと吹き出している。
 煙は【ソラス】の起こした衝撃波の影響か、西へ流れている。そのため小野が見下ろす東面からでは気づかなかったのだ。
 やべ、と呟いたそのとき、【ソラス】が新たな動きを見せた。
 大きく振られた【ソラス】の尻尾が、大阪駅前第四ビルの一階部分を抉り取るように叩き潰した。
 続け様に第四ビルの側面に体当たりをかます。
 いかに耐震対策の施されたビルであろうと、一階部分が抉られては衝撃吸収どころではない。
 第四ビルは前後左右にぐらぐらと揺れると、ゆっくりと西側へと倒れこんだ。
 隣に立つ梅田DTタワーがその重みをもろに受け、これまた西へ向かって倒れてゆく。
 第四ビルの重みを載せたDTタワーは、さらに隣の大阪丸ビルに寄りかかり、二基のビルの重みに耐えかねて、大阪丸ビルも微妙に北側へ傾きながらへし折れる。
 大阪丸ビルの西に建つのはヒルトンホテル大阪。
 遠目に見ている瀬崎には、まさにドミノ倒しとしか形容の仕様のない光景の中、ヒルトンホテルもまたへし折れ、崩壊して大阪駅舎の西側へのしかかるように倒れこんだ。
「お、小野はああああああああああああん!!!!!」

****** ※ ******


「【ソラス】の攻撃により、大阪駅前第四ビル倒壊。連鎖的にDTタワー、丸ビル、ヒルトンホテルも倒壊。大阪駅と、それから隣接する大阪中央郵便局にも一部被害が出ています。……被害甚大です」
 オペレーターの報告に、北川の表情が歪む。ガックリと肩が落ちる。
「一撃でビル四基だと……? やはり……あの怪物を捕らえることなど無理だったのだ。人類の手に余る敵なのだ」
「井上隊員よりコール」
 オープン回線に井上の声が流れる。
『――司令、あきまへんわ。今のでかなり瓦礫が【ソラス】の足元に雪崩れ込みましたさかい、そこを踏み固めて登ってくるのは時間の問題ですわ。あと1時間がええとこちがいますやろか。第三ビルでも同じことやられたら、もっと早うなりますで』
「小野はどうした? ヒルトンにいたんじゃなかったか?」
『あー……たぶんあきまへんやろ。ヒルトン、大阪駅の上に倒れこんで粉々になってますわ。まー、人を呪わば穴二つ、っちゅーことですな。ナンマンダブナンマンダブ……。ほな、そういうわけでワシが引き続き任務を――』
『なにいうてけつかる』
 小野の声が割り込んできた。
『へっへっへーだ。オレを亡き者にしようたって、そうはいかんど。オレはしぶといんじゃ。つーか、さすがデラックススイートは一味違うのぉ。アレだけの衝撃でも、まだ部屋が原型保っとるわ…………窓も扉も全部塞がれてもとるけどなー。誰か助けてー』
 通信機の向こうで、舌打ちが聞こえた。
『――司令、北川司令。聞こえてはりますか』
 瀬崎の声も入ってきた。
『小野はんの策が破られた場合、ボクらどないしたら……なんか指示を下さい』
 むぅ、と北川は唸った。最初から策などない。東京の英雄が来るまで、足止めをする……そのためには――
「奴を撃て」
 一切の感情を殺ぎ落とした、冷酷な声で北川は命令を下した。
「諸君が実践したとおり、奴は攻撃者に向かう性質があるようだ。奴を撃って、海へと誘い出せ。これ以上の都心部での戦闘継続は許可できない。繰り返す。諸君らは命を懸けて、奴を港湾部へ誘い出せ」
 井上、瀬崎からの応答が途切れた。
「諸君、任務の復唱を――」
『――司令、それより、ええ手があるんとちゃいますか?』
 やや息の荒い小野の声が割り込んできた。
「いい手、だと? ……なんのことだ?」
『またまたとぼけてー……オレ、知ってまっせ。司令のデスクの左脇。トラ縞模様に囲まれた、赤いスイッチ。いよいよあれを使う時やおまへんか』
 北川とオペレーターの目が、同時に小野の言ったボタンを見る。
『司令、何の話です?』
『なんか奥の手がありまんのん?』
 井上、瀬崎に続けて、オペレーターも訝しげに北川を見る。
「いや、待て小野、これは――」
『そのボタンは……EDF関西駐屯部隊最終兵器の起動ボタンや』
『な、なんやて!』
『最終兵器て……なんなんです!?』
『ふ、聞いて驚け……戦略級超巨大合体変形機動戦闘要塞――オーバー(O)テクノロジー(T)・ヒストリカル(H)・アントキラー(AK)・アンド(A)・ジャパニーズ(J)・アルティメイト(A)・ウェポン……略してOTHAKA・JAW……オーサカ・ジョー・ロボや!! 大阪城が合体、変形して巨大な敵に立ち向かうんや! リモダンのエンジン使うとるんやさけ、それぐら(以下正体不明の電波障害)』
『……………………合体変形機動要塞?』
『……………………オーサカ・ジョー?』
 瀬崎と井上のみならず、北川司令までもが呆気にとられていると、すかさずオペレーターが冷静に指摘した。
「小野隊員。アルティメイトの頭文字はUです。この場合、ジョーではなく、ジューになりますが」
『おおおっ!? よもやそんな落とし穴がっ!! ほな……むむむむむ……あ、アブソリュートでどないや!!』
「それなら大丈夫です」
「……君、論点はそこじゃないだろう」
 北川の低い声にオペレーターは、はっとして何かを取り戻した。
「失礼しました」
「小野隊員、妄想で現場を混乱させるのはやめたまえ。この司令部にそんな機能はない。あったらわざわざ君らを前線に送るまでもなく最初に――」
『それではアレですなっ! 戦略級超巨大究極最終壊撃破砕消滅灰燼砲!! アブソリュート(A)・キル(K)・インビンシブル(I)・ノヴァ(N)・デス(D)・オメガ(O)・ハイパー(H)キャノン……略して、AKINDOH……アキンドーキャノン!! 敵マザーシップもまっつぁお、地球の反対側に隠れとっても、地球ごとぶち抜いてマザーシップを撃墜できるっちゅう、事実上の地球の決戦兵器! その起動ボタンに違いおまへん!』
『……あきんどきゃのん、て』
『べたべたですね……つか、頭の悪い中学生並に英単語並べただけですやん』
「司令……」
「……地球を救うために地球をぶち抜いてどうする。違う、これは――」
『わかったー! 武器の起動スイッチでないとしたら、残る可能性はただ一つ! ひとたび押せば周囲半径五〇〇Kmに渡って全てを焦土と化す漢の浪漫! 自爆スイッチ『スピリット・オブ・ナニワ』!! どーです、司令!! わかりました、オレも漢や!! あんたの決断につきおうたる! どーんとでっかい花火を上げとくなはれ!! さあ! さあ!! さあ!!!』
「……オペレーター。小野の通信を切れ」
「了解」
 あっさりぶっつり小野の回線は切られ、司令室に静寂が戻った。

****** ※ ******


『むぅ、自爆装置でもないとすると……そうや、バリアか!! パリーンと割れるバリアの発生装置! その名も――』
「小野はん、もうその話はよろし。それより、司令から正式に【ソラス】を西へ誘導するよう指示が下りましたで? 小野はんどないします?」
 瀬崎はエアバイクのエンジンをかけたまま、ドミノ倒し状態のビル群を見やった。瓦礫の向こうで【ソラス】の背中が揺れている。
『どないするもこないするもあるかいな。捕獲ができひんのやったら、いてまうしかないやろが。もうすぐ外へ出るさかい、迎えに来てくれや。オレのエアバイク潰れてもうたわ』
『おいおい、小野。お前、ビルの倒壊で頭でも打ったんか? あんなモン、いてまえるわけないやろが』
 井上は通信しながら瀬崎を見つけて、埃まみれで火花の飛び散るエアバイクを横付けした。
『あほう!! 東京モンに出来て、オレらにできへんわけあるかっ!! ……オレはやるど。たとえ東京モンの乗ってるバゼラート撃ち墜としてでも、東京モンに勝つ!!』
「……また、なんか主旨がずれてきとるなぁ……」
 瀬崎は諦め半分の溜め息をついた。

****** ※ ******


 バゼラートの後部座席で、くしゃみが響いた。
「大丈夫ですか? ヒーター効いてません? 困ったなぁ。もうすぐ、伊勢湾を通過します。もうあと一時間もしないうちに大阪へ着きますから、もう少し我慢してくださいね」

****** ※ ******


 瓦礫の山が内側から弾け飛び、もうもうと粉塵が舞い上がる。
 大きく口を開いた破砕孔から、小野が駆け出してきた。
「おう、待たせたな」
 まるで待ち合わせに遅れたみたいな気安さで、へらへら笑う。ヒルトン倒壊の衝撃を物語るように、小野の眼鏡にはひびが入っている。
 瀬崎とエアバイクを並べて待っていた井上は、口をへの字に曲げて言った。
「ほんで、どないすんねんな。あんまし時間もないで?」
 東京から来る英雄はもうあと1時間かそこらで到着するだろう。何より、陽が傾き始めている。
 西日に照らされた戦場で、【ソラス】が仁王立ちになっている。
「それについては、プランを練ってきた。心配すな」
 自身ありげに親指を立てて見せる小野に、井上はげんなりした。
「穴掘りながら考えとったんかい。器用なやっちゃなー」
「まあな。オレぐらい天才になるとな」
 眼鏡が光る。
「で、どんなプランですねん」
「二人は囮になってくれ」
 たちまち、二人は泥水でも口に含んだような顔になった。
「またでっかいな。ほんで、小野はんは安全なところで罠を張るんでっしゃろ?」
「それやったらワシは乗らへんで」
 口々に異議を申し立てる二人を前に、小野は人差し指を左右に振る。
「ちっちっち、オレかてそこまであこぎやない。まあ聞け。この作戦、一番危険なとこへ行くのはオレや。お前らはあのデカブツの気い引いて、あの穴から出えへんようにしてくれたらそれでええ」
「はぁ? どういうことなんやいな。まだお前あいつをとっ捕まえるつもり――」
「今から説明するがな。せっかちやのお。よぉ聞けや……」
 小野は二人の肩を抱いて、頭を突き寄せると、作戦を披露し始めた。

****** ※ ******


「……そうか、了解した」
 北川司令は電話型通信装置の受話器を下ろした。
「英雄は今、名古屋上空を通過した。あと1時間、1時間辛抱すれば――」
 誰にともなく呟き、組んだ両手を祈るように頭上に捧げる。
 そのとき、オペレーターが告げた。
「司令、小野隊に新たな動きが。【ソラス】を包囲するようです」
 たちまち北川の顔から血の気が引いた。
「あ、あの馬鹿ども……命令無視かっ!! 大阪駅前を完全壊滅させんと気が済まんのかっ! オペレーター! 奴らを呼び出せ! 命令無視は軍法会議ものだぞ! すぐ命令に従うよう――」
「向こうからの無線封鎖で、連絡がつきません。覚悟の上のことと思われます」
「ぬがぁぁぁぁぁっ!! どうして奴らはこう……なんであんな協調性皆無の問題児どもがEDFにいるのだぁぁぁぁっっっ!」
 北川は傍らの城内放送スイッチを入れ、叫んだ。
「衛生兵! 胃薬か精神安定剤を司令部まで! 至急だ!!」

****** ※ ******


 小野は第三ビルの前で瀬崎のエアバイクの後ろから降りた。
「ほな頼むわな、瀬崎。第二ビルに移ったら、すぐ連絡するし」
「了解です。気ぃつけて下さい」
 小野は軽く手を挙げて、第三ビルの中へと入っていった。
 その後姿を見送った瀬崎は、通信回線を開いた。
『小野はん、スタンバイ。井上はん……ミッション・ビリケン・ハンマー、開始です!』
「おおし、ほな派手に始めるでぇ!」
 瀬崎の声とともに、西側――ヒルトンと大阪駅前第一ビルの間の交差点から井上はゴリアスDDをぶっ放した。
 その脳裏に小野のミッション説明が繰り返される。
『……あいつは、落とし穴の落ち際、ビルにもたれよった。その上、さっきは第四ビルに体当たりをかました……要するにや、あいつの巨体で砕けるのはあいつより軽いものっちゅうことや』

****** ※ ******


 小野を下ろした瀬崎は、バイクを飛ばし、大阪駅前交差点に戻ってきた。
 小野からあずかったスナイパーライフルSNR-227を構える。
 小野は言っていた。
『砕けへんもんをあいつの上に落としたら、あいつはどないなるやろな?』
 どうしてあの男はこう次々と悪魔のような計画を思いつけるのだろうか。
「根っから悪魔なんやろなー……こわ」
 呟いた瀬崎は、井上の待機している西側へ向かおうとする【ソラス】の横っ面へSNR-227の弾丸を叩きつけた。

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 隣で怪獣がさんざん暴れたおしたせいか、それとも小野の地下街爆破の影響か、大阪駅前第三ビルの低層階部分は相当危険な状態になっていた。いつ倒壊してもおかしくはない。
 小野は状況を確かめつつ、柱にHG−02Aをセットしていった。そこにお手製の簡易リモコン装置をくっつけておく。
「へっへー、装備が旧式で貧弱なもんしか支給されないもんでね。こういう工作だけは得意なんや」
 ひとりごちて、次々とセットした小野は、一通りつけ終わると足早に隣の第二ビルへと向かった。

****** ※ ******


「――井上、瀬崎両名の攻撃により【ソラス】は今のところあの場所に足止めされています。小野が第三ビルから第二ビルへと移動しました」
「何を考えているのか知らんが、願わくばこのまま……」
 北川司令はぶつぶつと呟きながら、手を揉んでじっと正面パネルを睨む。
 そのとき、オペレーターが別の通信を傍受した。
「――司令、東京発のバゼラートから通信です。現在奈良上空、あと30分で着くそうです。着陸場所の指示を求めています」
 その途端、ぱっと北川司令の表情が輝いた。
「来たかっ!! よし、ここだ! 大阪城公園には今、誰もおらん! 大阪城公園に着陸させろ! そして全部隊に通達! 東京から英雄が来てくれた! もう大丈夫だっ! 関西駐屯部隊全戦力を挙げて英雄のバックアップを準備するんだ!」
「了解」
 オペレーターの指が華麗にコンソールの上を踊った。

****** ※ ******


「小野ー、もうすぐ時間切れみたいやどー」
 ゴリアスDDを撃ちながら、井上は通信機に呼びかけた。
「今、司令から連絡が来た。あと30分で大阪城に英雄到着やと」
『なにぃぃぃぃぃ!! ふざけんな、東京モンに関西人の心の砦を土足で踏ます気かい! わかった、あと30分やな! ここを20分で片付けて、残りの10分でバゼラートを墜とす!』
「はぁ?」
『くっくっく、関西に来たことを後悔させたる……』
「……まあ、それはええわ。んで、そっちの状況はどないやねん」
『おう、第二の方にもうちっとかかりそうや。けど、第三の方は終わっとる。こっから見ると【ソラス】の腹しか見えんのやが、どないなっとる?』
「今、第二と倒れたDTタワーの間でもがいとるな。そろそろ火ぃ吐く頃合いちゃうか。吐かれたら折角の仕掛けがまずいんちゃうのか?」
『ほうか、そやな。ほな、そろそろやったろか……行くでえ』
「了ー解」
 井上はゴリアスを肩から下ろすと、後方に停めてあったエアバイクに跨った。

****** ※ ******


 突然、轟音とともに大阪駅前第三ビル低層階部分から粉塵が吹き出した。
 【ソラス】が異常を感じて振り返る――第三ビルの北西角が重みに耐えかねたように、押し潰れた。
 同時にその上に乗っている高層階部分が、そのまま北西側に倒れ落ちてゆく。
 のしかかる巨大建築に、鈍重な【ソラス】はなすすべなくその下へ飲み込まれ――凄まじい量の噴煙が大阪駅前を吹きぬけてゆく。

****** ※ ******


「あれ、なんでしょう?」
 バゼラートのコクピットは眩しいばかりの西日に照らされていた。
 逆光のため、黒い影絵のように広がって見える大阪市街地の一角に、キノコ雲のようなものが膨らんでいた。
「……まさか、関西駐屯部隊……禁断兵器を使ったんじゃ!? 関西駐屯部隊司令部! 関西駐屯部隊司令部! 確認する! よもや小型核兵器など禁断兵器の使用はないだろうな! 人類の救世主を、放射能の汚染地帯に降ろすつもりじゃないだろうな!! 答えてくれ!!」
 必死に叫ぶパイロットの後方座席で、男はぎゅっと拳を握り締めた。

****** ※ ******


 先に倒壊した第四ビルとDTタワーの残骸に引っかかる形で止まった第三ビル。
 その下から、【ソラス】の咆哮が漏れて来た。
 その様子を、第二ビルの中から見下ろしていた小野は舌打ちをした。
「一発では仕留めきれなんだか……。まあええ、そのための――」
 轟、と第三ビルの下から炎が噴き出した。炎は落とし穴に落ちた瓦礫を吹き飛ばし、第二ビルの一階部分を突き抜けて、周囲の道路のアスファルトを蒸発させる。
「!!」
 仕掛けておいた爆弾が、一斉に起爆した。一階部分が押し潰される形で崩れ落ちる。
「くそったれ、最期まで抵抗しよんな!!」
 小野は浮遊感を味わいながら、二階以上に仕掛けたHG−02Aのリモコンを起動させた。
 第二ビルの低層階北側の窓が内側から吹き飛び、建物自体が北側へ倒れてゆく。折り重なったビルの上へ。
「これでも、耐えられるかぁ!!!!」
 小野の叫びとともに、第二ビルもまた【ソラス】の上に倒壊した。

****** ※ ******


「第三ビルに続き、第二ビルも倒壊。……まるで、ビルの積み木細工です。復旧が大変そうですね」
「……さっきのバゼラートパイロットはどうしてる?」
 苛つきを隠しもせず、北川司令は正面パネルを睨みつけている。
「一応状況の説明はしましたが……まだ半信半疑のようです」
「……小野……どこまでも私の邪魔をしてくれる……!!」
 ギリギリと歯噛みする司令をじっと見ていたオペレーターは、少し考えて口を開いた。
「――司令。それでも、小野隊は【ソラス】の足止めには成功しています。これは一応、彼らの正当な戦果と考えてよいのではありませんか」
「それはそうだが……それで、【ソラス】は仕留められたのか」
 オペレーターがコンソールパネルを見やる。
「いえ、まだ生命反応があります。生きています。あの、ビル二段重ねの下で……」

****** ※ ******


『瀬崎ぃ! 小野はどないなったんや!』
 舞い上がる粉塵を掻き分けて、井上のエアバイクが瀬崎の前に姿を現わした。
 瀬崎もエアバイクのエンジンを入れたまま、通信機を操作して無線封鎖を解く。
 この距離でも通信機を使わなければ、会話は出来ない。
『まだ来てません!』
『なんでや! 計画では、お前と合流するはずやろが!』
『倒壊に巻き込まれたんかも……なんせ、第二ビルの最初の爆発が小野はんの予定外でしたから』
 瀬崎の声も少し強張っている。
 井上は粉塵の向こうにうっすら影だけ浮かび上がっている大阪駅前第二ビルの残骸を見上げた。
『ちぃぃ…………ヒルトンの時とちごうて、まともに前のめりに倒れとるさかいな。こら、いくらあいつでも……』
『……レーダーからも反応が消えてますし……――井上はん!?』
 瀬崎が手で井上を制した。エアバイクのエンジンを切る。
 井上も真似てエンジンを切った。
『なんや、どないしたんや、瀬ざ……あん? ……なんや。この音は……』
 どこからともなく、爆音が聞こえてくる。
『ヘリ……やないですね、これは……爆発音?』
『爆発音て……あ!!』
 二人は顔を見合わせた。
『小野はんの武器!! HG−02A!!』
『ひょっとして、あいつまだ――』
『そうですよ! 【ソラス】の反応はまだ消えてまへん! ひょっとして、倒れたビルの中から――』
『どこまでしぶといねんな、あいつ!! レーダーにも映っとらんくせして!』
 二人は嬉しげに倒壊現場の方へ目を向けた。だが、分厚い粉塵に覆われたその先は見通すことが出来ない。
『どないする、瀬崎!』
『どないするて、助けるんちゃいますのん!?』
『見捨てた方が人類のためかもしれんで?』
 にんまり笑いながらも、井上はゴリアスDDを肩に担ぎ上げる。
『ボクもそう思いますけど、見捨てたら化けて出てきそうですわ、あの人。そんなんイヤですし』
 GランチャーUM−1Aを担ぐ。
『ほな、行くしかないわな』
『そーですな』
 顔を見合わせて頷く。
 二人はエアバイクを降りた。
『せやけど井上はん』
『あん?』
 粉塵の中へと踏み込んでゆく。
 すぐに隣にいるはずのお互いの姿のシルエットすら判別できなくなってゆく。
『倒壊に気いつけんと……小野はんを生き埋めはまだええですけど、小野はんに生き埋めにされたらシャレになりまへんで』
『【ソラス】に焼き殺されんのもかなんな』
 かかかか、と豪快に笑う。
『とはいえ、もう一吹きぐらいしてくれた方がこの埃吹っ飛ぶかもしらんなぁ』


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