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EFD関西!! 完結編   戦い済んで日が暮れて −大阪の明日はどっちだ!?−
              〜 ナニワ地球防衛愚連隊 〜



「バゼラートより通信。大阪城公園には降りず、直接戦場へ向かうと」
「な、なに!?」
 北川司令は慌てた。
「待て待て、まだ状況が落ち着いてないのに、そんなところへいきなり英雄を連れて行くというのか!!」
「その英雄の要望だそうです。【ソラス】には空への攻撃オプションがないため、さほど危険はないとのことです」
「しかし……」
「バゼラート、上空を通過します」
 低いローター音を響かせて上空をパスしたバゼラートが、夕陽へ向かう。
 司令室の二人は、天守閣の窓からその後姿を黙って見送った。
「……むぅ……小野隊の連中が、妙なことをしでかさねばよいが……」
「し、司令!」
「今度はなんだ!」
 オペレーターのうろたえ声に、眉間に皺を寄せて振り返る。
 オペレーターは正面パネルを見上げていた。
「【ソラス】の反応が……消失しました。たった今……我々の……我々の勝ちです!」
「な…………」
 北川司令は思わず、再び天守閣の窓を見やっていた。

****** ※ ******


「……見えてきました。あれが現場です。凄いことになってますね」
 完全に崩壊した大阪駅前ビル群の上を旋回するバゼラート。
 眼下は完全な廃墟と化していた。巨大な岩の塊と化したビルがてんでに倒れ、その間の道路部分であったとおぼしき谷間には、舞い上がった粉塵がもやのように漂っている。
「降りられそうなところはありませんねぇ。え? 直接飛び降りるんですか? わかりました、それじゃあハッチを――」
 ハッチを空けた瞬間、凄まじい金属音が響いた。
 床板をぶち抜いた何かが、天井を突き抜けていった。
「な、なんだ!? ――え? スナイパーライフルの狙撃? なんで!?」
 後部座席の隊員の看破にも、パイロットは納得できない。ここで暴れている敵は【ソラス】のはずで、【ソラス】がスナイパーライフルなどを使うはずがないからだ。
 そのとき、通信が入った。
『そこのヘリ、直ちに行ね。おのれらの仕事はもうなくなった。【ソラス】はオレらが倒したさかいな』
「だ、誰だ!」
 パイロットが叫ぶと同時に、後部座席の腕まくりをした隊員が、身を乗り出して下を見下ろす。
 ヘリのローターが生み出すダウンフォースによって、そこに漂っていた粉塵が吹き払われ、倒壊して積み重なったビルの最頂点が露わになった。
 そこに、3つの人影があった。
 ヘルメットを片手に、風に髪を吹き乱されている男。空いた手で、スナイパーライフルを構えている。
 その男の左側に、ヘルメットもかぶらずグレネードランチャーを支えに座り込んでいる隊員。
 右側にロケットランチャーを抱えて立っている隊員。その右手に、旗を掲げていた。EDF関西駐屯部隊の旗を。
「……今撃ったのは、君達か!? 何者だ! 階級と所属を――」
『オレらは、あー……えー……ナ、『ナニワ地球防衛愚連隊』! ふははははは、関西人はお前ら東京モンなんぞに負けへんのじゃ! 関西は関西人の手で守ってこそ意義があるんやっ!!』
「はぁ? ナニワ地球……なに?」
『遠路遥々ご苦労さんやったな、英雄はんとその他一名。せやけど、骨折り損のくたびれもうけや、悪かったのぉ。もっと駄賃が欲しかったら、いくらでもぶちこんだるで。さっさと帰りや』
 パイロットは混乱して、何を言っていいのかわからなくなっている。
 後部座席の男は、じっと三人を見つめていた。
 中央でスナイパーライフルを構えた男の片目が夕陽を弾いて輝いている。
『こらー!!!!!!!』
 突然、北川司令の怒声が双方の通信装置を震わせた。危うく井上がビルの壁面を滑り落ちかけ、バゼラートもバランスを崩しかける。
 ヘルメットを口元に寄せていた小野すら、その声に顔をしかめた。
『小野隊、何をしておるかー!! 遥々加勢に来ていただいた英雄に対し――』
 小野は即座に言い返した。
『その英雄様がおらんでも、オレらちゃんと【ソラス】に勝ったやんけ。要するにあいつとオレらは対等や。へいこらする必要あらへん。ほんでここは、オレらの庭や』
『な……』
 北川司令は絶句した。
『ワシもそう思うな』
『もーどーでもえーし、はよ帰りましょーなぁ。あああ、シャワーが浴びた〜い、ベッドで寝たい〜』
 瀬崎だけが情けない声をあげる。
『ホンマ、ご苦労さんやったけど、ここにオレらがおる限りあんたの出番はないで、英雄。東京の英雄は、東京っちゅう守るべき庭を守っとったらええねん。……さっさと行ね』
 バゼラート後部座席の男はふっと表情を緩め、パイロットに指示を出した。
「え? いいんですか? はあ、あなたがそうおっしゃるなら……。――こちらバゼラート、関西駐屯部隊司令部へ。同乗者の指示により引き返します」
 たちまちバゼラートは高度を上げ始めた。
 遠ざかる三人――バゼラートのハッチが閉じられる寸前、男は三人に対して敬礼をした。

****** ※ ******


 夕空に誇り高くEDF関西駐屯部隊の隊旗が翻る。
「やったのお、小野……」
 井上が根尽きたようにガックリ膝をついた。しかし、隊旗だけは肩にもたせかけて倒さない。
「ねー、もう帰りましょうやぁ。おなかも減ったし、もーくたくたですわ」
 瀬崎ももう頭を上げる気力も残っていない様子でぐったりうつむいたまま、声を絞り出している。
 小野は無言でバゼラートの去った空を見つめていた。東の空は夕闇に沈み、もうバゼラートの姿は見えない。
 小野の眼鏡は片方のレンズが失われ、フレームもひん曲がっていた。小野自身も頭のどこかに怪我を負っているらしく、顔の半分が血に濡れている。
「ふふ……」
「なんや? なんぞ言うたか、小野?」
「ふふふふふふふ」
「小野はん?」
 怪しい気配を感じた二人が小野を見やる。その途端、小野の笑いが爆発した。
「ふはははははははははははははははは、やった、やったど! 東京モンの侵略を、オレが防いだんや!! 見たかい、関西人の底力!! ぬははははははははは、これはもう次期大阪府知事はオレで決まりっちゅーことやな!! そうなったら関西は独立して関西連合国家を樹立し――」
『バカモノおおおお!!!!!』
 北川司令の怒声が爆発した。
 一人ヘルメットをかぶっていた井上がのけぞり倒れ、悶絶した。危うく落ちそうになるのを瀬崎が身を乗り出して必死に止める。
「あ、あぶなっ!! ……危ないでんがな!! なに怒っとりまんのん!?」
『なにが関西人の誇りだ、この礼儀もわきまえん馬鹿どもめっ!! バゼラートは東京へ直帰してしまったぞ! どうするんだ!!』
 三人は困惑げに顔を見合わせた。
 小野が瀬崎のヘルメットを口元に寄せる。
「【ソラス】は倒したやおまへんか。あいつら追い返して何がいけまへんのや? なんも困らんでしょうに」
『……貴様ら、私が最初に言ったことを覚えてないようだな。言ったはずだぞ、東京から“新兵器ともども”やってくる、とな』
「あ…………」
 井上の頬傷が引き攣る。
『どうするつもりだ!』
「どうするて……」
 瀬崎が不安そうに二人の顔を見比べる。
「……取られたモンは取り返す」
 小野がにんまり笑った。井上、瀬崎の背筋を冷たい汗が滑り落ちる。
『何?』
「……大阪城公園にうちのバゼラートがありましたな。向こうは輸送型のバゼラート、こっちは攻撃型。今から追っかけたら充分追いついて、撃墜できま! 東京モンの陰険な嫌がらせに屈してたまるかいや! 関西人舐めたらどういう目に遭うか、思い知らせたる! 行くど、井上、瀬崎!!」
 二人が露骨に嫌な表情を浮かべる――そのとき、通信機の向こうで騒ぎが起きた。
 何が起きたのか、妙にばたついている。
「あん? 北川司令? どないしました? 聞こえてはるんやったら、こっちへバゼラートを回して――」
『それは出来ません、小野隊員』
 オペレーターの事務的な声が届いた。
『北川司令がお倒れになりました。指揮の引継ぎが終わるまで、お待ちください』
「は? へ?」
『なお、戦闘状況は終了していますので、そちらからこちらへ戻ってくるのは自由です。ただし、通信だけは切らないように』
 一方的に通告すると、オペレーターは通信を切った。
 大阪の町を、肌寒い夕風が吹き抜けていった。

****** ※ ******


 ナニワ地球防衛愚連隊。
 戦後、その名を公式に残している資料はない。
 ただ、大阪市民の間では伝説として語り継がれている。東の英雄に対する西の英雄として。
 彼らがどこへ行ったのかはわからない。死んだのか、生きているのかさえ。
 全ては伝説の東京決戦の際、EDF極東本部臨時司令部の壊滅とともに歴史の中へ消え去ってしまった。
 関西人は、戦後口さがなく言った。
『東京モンが、全ての活躍を独り占めしとおてわざと失くしよったんや』と。
 その中で、一つの風聞が流れた。
 東京決戦を制した人類の救世主、彼が残したという一言だ。
 それを以下に記しておこう。

――関西には恐るべき奴らがいる。
彼らを敵に回してはいけない。
彼らの真に恐るべきはその戦闘能力ではない。まるで侵略者の尖兵・巨大な蟻型生物を思わせる飽くなき戦闘意欲と、敵と認めた者への容赦なき攻撃本能である。
彼らがいる限り、西日本の侵略者部隊は東日本へ侵攻することは出来ないだろう――


 この言葉は、今も大阪の人々の独立心と誇りを満足させている……
――(BGM:ヘッド○イト・テールラ○ト)




ED(ええで)F(ファイトや)関西!! 完



 余談。
 上記とは別に、人類の救世主が残したという言葉がある。
 『あんなバカは見たことがない。二度と大阪には行きたくない。怖い』

 余談2。
 北川司令は一月後、中部駐屯部隊へ配置転換となった。

 余談3。
 戦後、結局大阪遷都は実現はしなかった。
 歴代知事の中に小野という名もない。

 余談4。
オペレーター:結局、その赤いボタンはなんだったのですか?
司令:(周囲を見回して)……誰もおらんな。君だけなら言ってもよかろう。アレは……。
オペレーター:アレは?
司令:脱出装置の起動ボタンだ。危なくなったらこの天守閣ごと、すぽーんと……
オペレーター:大阪府知事に許可を?
司令:だから、ナイショだといってるだろう。
オペレーター:……………………。


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