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地球防衛軍4SSシリーズ・エアレイダーストーリー


 ストーリー4.望月の君よ 後編

「さぁて、どうしたものかな」
 腕組みをして、遥か彼方に輝く光を見つめるエアレイダー42。
 少し退った位置で、ウィングダイバー73も物憂げな面持ちで同じ方向を見つめている。
 二人が見ている光は、アースイーターの端から差し込んでいる(であろう)光ではない。その光が、手前の物体に弾かれて輝いているものだ。
 その物体とは、ディロイ。
 EDF最大の巨体を誇る全長25mのE651戦車タイタンすら遙かに凌駕する巨体を大地に横たえ、三つの脚を半ばで折り曲げた恰好で待機している。
 まだ距離があるので察知されてはいないが、接近すれば即座に起動するだろう。
 そうなれば、あの脚の半ばに備えた高出力対地掃討レーザー砲台の雨と、正面に位置する巨大な一つ目にも見える部分から放たれる薄青いプラズマ光球の爆撃、錨じみた脚先の刺突攻撃により、ものの5分と保たずに二人は地上から消え失せる。
「……隊長、私が突っ込みます。援護を――」
「おいおい、待て待て」
 意を決した口調で前に進み出てくる娘の腕を、エアレイダー42はつかんで引き止める。
「沈着冷静でまともな思考が長所のエッジとも思えない台詞だね。えらく勇ましくなったものだ。……ここは迂回しよう」
「え……でも」
「今の僕らは戦うのが目的でここにいるわけじゃない。生きて本部に帰るのが最優先だ。帰り着けば、嫌でも次の作戦には出撃させられるさ。戦うのはその時でいい。幸い、誰かが襲われているわけじゃないし、ここは安全策をとる」
「……はい!」
 ここまで歩いてきた道を外れ、荒野に踏み出しながらエアレイダー42はふと呟く。
「……臆病だと思うかい?」
 ウィングダイバー73は激しく首を振った。
「正しい判断だと思います。……それと…………ありがとうございます……」
 うつむいた彼女の呟きを、敢えて聞かぬふりをして先へと進む。

 ――腕をつかんだ時、彼女は震えていた。
 EDF隊員だから恐怖を覚えない、そんなわけはないのだ。
 かつて、恐怖を乗り越えろと教えはしたが、恐怖を忘れろと教えた覚えはない。
 死ななくていいなら、誰も死なないにこしたことはない。
 彼女にだって、彼女に死んで欲しくないと願う人がいて、彼女自身だって死にたくはないだろうから。

 それに。

 生徒が教官より先に死に行くのを見るのは、切な過ぎるじゃないか。

 ―――――― * * * ――――――

「……なんの罠だ、これは」
 うんざりした口調で吐き捨てる。
 ディロイを大きく迂回したと思ったら、地面に走る大きな裂け目に行き当たった。
 裂け目の幅はウィングダイバーの飛行可能距離を大幅に超えているように見える。崖の高さは――暗いせいもあるが――真っ暗で底が見えない。
 ぱっくり口を空けた深淵を覗き込み、耳を澄ます。
 こういう裂け目は川が作るものだと思うが、ここからでは流水の音も聞こえない。ただ、吹き抜ける風の音だけ。
「ここは日本のはずだが……僕らはいつの間にかグランドキャニオンに来てたのか?」 
「私、海外旅行は初めてです」
 隣に並んで覗き込んでいたウィングダイバー73のとぼけた一言に、エアレイダー42は思わず渋い顔をした。
「……君、そんなキャラだったか?」
「あ、ごめんなさい。前から一度、ボケっていうの、してみたくて」
「あ、そ。……いやまあ、いいけどね。どうせ今は君と僕だけだし。緊張されるよりは」
「ありがとうございます! じゃあ、がんばってこれからもボケますね」
「君ががんばり屋さんなのはよ〜く知ってるが、それはがんばらなくていい。……それより、どう思う?」
「えっと、この崖のことですか? それとも、ディロイですか?」
「崖とディロイ、というか……あれもこれも含めて、この有様になにやら恣意的なものを感じるんだがな」
 言いながら、上流(と思しき)側から下流(と思しき)側を見渡す。
 裂け目の上流は待機しているディロイ近辺まで続いているようだし、下流は限りが見えない。
「……作戦領域近辺にこんな地形があるとは聞いてないし、というか、そもそもこんな地形、日本にはないはずだ。そして、ここより先に進みたくば我を倒してゆけ、と言わんばかりのディロイの配置……フォーリナーの思考と言うより、ゲームとかの強制戦闘イベントのように感じる。つまり、地球人的思考に基づく演出展開だ」
「……意味が、わかりません」
「僕もだ」
 彼女と自分の『<意味>という言葉の捉え方』が違っているのはわかっていたが、敢えて正さずに無視をする。
 腕組みをして、もう一度ディロイの巨体から裂け目に沿って、反対側まで見渡す。
「……これ、実は僕の見てる夢だとしたら、この裂け目に落ちたら目を覚ますとか、ないかな?」
「き、教官!? 正気を保ってください!」
 ウィングダイバー73は慌てふためいて、エアレイダー42の腕を両手でつかんで引き止める。
 それがまたあまりに真に迫っているので、思わず苦笑が漏れる。
「冗談だよ。――とはいえ、合理的な説明がつかないこの状況、さて。どうしたものか」
「……ディロイを……倒すしかないんじゃないでしょうか」
「?」
 見やれば、彼女はディロイを見据えていた。
「私、ゲームとかしたことないんでよくわかりませんけど……戦って突破するしかないのなら……」
「おいおい、簡単に言うな。たった二人、しかも一人はろくな装備も持ってない。勝ち目はないぞ」
「……あれは……使えませんか?」
「あれ?」
 彼女が指差す先に何かのシルエットがある。
 その形状は――戦車のように見える。
「……戦車か? しかし、戦場に乗り捨てられた戦車なんか……」
 ぶつくさ言いながらも、ウィングダイバー73とともにシルエットへ近づいてゆく。
 近づいてみれば、それは――
「……E551ギガンテスZAだって!?」
 思わず漏らした叫びに、ウィングダイバー73が飛び上がらんばかりに驚いた。
「え? え? えと。すみません……。私、ビークルは不得手で……何か問題が……?」
「問題どころか」
 装甲を撫で、足回りの損傷状況を見ながら説明を続ける。
「ギガンテスタイプの最終バージョンだ。走行速度、主砲の威力、装甲の厚さ……どれをとっても地上最強の戦車と呼ぶに相応しい。まぁ、装甲と威力こそイプシロンに譲るが、その走行速度と機動性の高さは――なんだこいつ……損傷がない!?」
 ぐるりと一周回ってきて出した、不服とも取れるその言葉にウィングダイバー73は小首を傾げる。
「……損傷がないなら、いいんじゃ……」
「おかしいだろう。損傷もしていない戦車、それもこいつ一台であれを倒しかねん力をもつ戦車が、こんなところに放置されてるなんて。……この辺で戦闘が行われた様子もないし、一体……」
「そ、それで、これは使えるんですか?」
「――そうだな。中を見てみよう」
 身軽に戦車によじ登り、砲塔上部のハッチから中に身を滑り込ませる。
 ウィングダイバー73も開いたハッチから顔を覗き込ませ、様子を見守る。
 エアレイダー42があちこちのスイッチを弄り回すと、すぐにパワーが立ち上がった。
「………………。やっぱりおかしい。残弾35。つまり、戦闘に使用されてない。燃料も満タン。こいつ、どこから来たんだ?」
「あ、あのあのでも、これがあれば、あれと――ディロイと戦えるってことですよね」
「……それは間違いないけど……」
 口許に拳を当て、釈然としない表情でモニターを睨み続ける。
「じゃあ、やっちゃいましょう。ここで悩んでいても仕方ないですよ、隊長。私たちは帰還するのが今の任務ですし」
「それは……そうだが……」
「ほら、私が囮として飛び込みますから、その間にこれの主砲で仕留めてしまって下さい」
「………………」
 それでも考え込むエアレイダー42に、ウィングダイバー73はきゅっと眉間にしわを寄せる。
「隊長……ひょっとして、帰りたくないんですか?」
「なに?」
 あまりに意表を突くその問いに、思わずハッチから覗き込むウィングダイバー73の顔を見上げていた。
「なにを言い出すんだ。そんなわけないだろう」
「じゃあどうして、さっきから戦おうとしないんです?」
「………………」
「いいじゃないですか。ここがゲームの世界だって。きっと、あれを倒して先を切り開けば、新しい何かがわかりますよ。逆に、ここでぐずぐずしていても、なにも変わらないしなにも起きないんじゃないですか?」
「……その中に――このゲームで先へ進む条件の中に、君の死亡、もしくは離脱があるとしてもか」
「え……」
「さっき、君と出会う前……僕はレンジャー92と一緒だった。ドラゴンとの乱戦の最中、彼は消え、君が現れた。もしかしたら、ここでは、この局面を乗り越えれば、今度は君が消えるのかもしれない。僕は、それを避けたい」
「…………それは……心配してくださるのは、ちょっと嬉しいですけど……」
 はにかみながら、首を振るウィングダイバー73。
「おかしいですよ。さっき、自分の目的のために私たちを利用したって言ってたくせに。だったら、私が消えても消えなくても、関係ないじゃないですか。それに、私が囮として一人であれに立ち向かえば、隊長は楽に勝てるんでしょ? 利用したらいいじゃないですか。どうして今になって――」
「そういう人の利用の仕方はしていないし、したくない」
「……え?」
「僕はね、少なくとも人の命を踏み台にしてなにかをしようとしたことはないんだ。……それは、あいつへの、妻への誓いだ。僕は、彼女が絶対に僕を許せなくなる罪だけは背負わない。彼女の誇りであるために。だから、君のことも諦めない」
「……隊長………………」
 呆然と見下ろしていたウィングダイバー73はしかし、表情を引き締めて言った。
「隊長、私を利用して下さい」
「嫌だ」
「私は、お役に立ちたいんです。利用して欲しいんです。きっと、私がここにいるのは、そのためだから」
「やめろ」
 いつになく強い口調に、ウィングダイバー73は気圧されて身を引き、胸の辺りに拳を抱く。
 エアレイダー42は、その表情にありありと怒りを宿していた。
「そういう運命論的な悲劇演出に付き合うつもりはない。そんなのはただの思考停止だ。僕がここにいるのはゲームをクリアするためじゃない。僕が生きるためだ。君を生かすためだ。君がなんと言おうと、考えることはやめないぞ」
「隊長……」
 悲しげに眉を寄せ、唇を噛み締める。
 ややあって、不意にふらりと立ち上がると、すぐにハッチが閉じられた。
「……エッジ!?」
「私は、ウィングダイバー73です」
「………………!」
「でも、昔の名前で呼んでいただけて、本当に嬉しかったです。――ディロイを倒せたら、またその名前で呼んで下さいね」
「エッジ! ちょっと待て!」
 外部を映し出すモニターの中で、彼女が手を振っている。
 そして、彼女は飛んだ。ディロイに向かって。二本のプラズマブースターの尾が、暗がりに瞬く。
 思わず舌打ちが漏れた。
「……強行するのかっ! くそ、だから女って! 君、その頑固なところはぜんぜん変わってないじゃないかっ! ――こうなったら、先に始末するしかない!」
 ギガンテスZAのエンジンに火を入れる。
 最終型だけあって、火付きがいい。まるで待っていたかのように、たちまち命のたぎりをその鋼鉄の全身に巡らせた最強戦車は、超信地旋回に砲塔の仰角修正を瞬時に済ませ、号砲を轟かせた。
 弱い放物線を描いて飛んだ榴弾はウィングダイバー73の頭上をかすめ去り、ディロイに命中。本体を叩き起こすと同時に、三本脚のうちの一つの高出力対地掃討レーザー砲台をその爆破範囲に巻き込んで破壊した。

 ―――――― * * * ――――――

 戦いは想像していたとおり、多少てこずりはしたものの10分かからずに終わった。
 ギガンテスZAの主砲140mm榴弾砲の威力に助けられたこともあるが、なによりエッジ――ウィングダイバー73が前衛で囮役を引き受けてくれたことが大きい。
 彼女が接近戦の距離に入らぬうちの撃破を目指したが、流石にそれはならず、危うい橋を渡らせてしまった。
 そして。
「……消えませんでしたね、私」
 そう言って微笑みながら戻ってきた時には、エアレイダー42は心底ほっとした。
「君が無事でよかった……お帰り、エッジ」
 ハッチから身を乗り出して迎える。
 ウィングダイバー73はもう一度飛び上がり、ギガンテスZAの上に飛び乗った。ハッチの横に腰掛ける。
「隊長の腕が良かったからです。巧みに脚のレーザー砲台も全部壊してくれたし」
「あれは偶然だよ。こいつでそんな器用な真似ができるほど、僕はこれに乗りなれてない」
 ハッチの縁をぽんぽんと叩く。
「っていうか、ギガンテスに乗ったのは、実は今日が初めてだからね。……よくもまあ、ぶっつけ本番で勝てたものだ」
「そりゃ、隊長は前大戦を生き残った精鋭ですから。私は信じてましたよ」
「じゃあ、行く前の思わせぶりな発言はなんだったんだ……」
 女の演技力にしてやられた、という思いが愚痴になる。
 ウィングダイバー73は口を尖らせた。
「だって……あれくらいしないと、隊長ずっと考え込んだままで前へ進まないんですもん」
 エアレイダー42は渋い顔つきになった。
 それはそうだが、結局疑問は何一つ解けてはいない。ディロイを倒せば彼女が消えるかもしれない、という心配だけが杞憂に過ぎなかっただけだ。
「でもこれで、道は開けました。さあ、帰りましょう」
 明るく告げて先行きを指差す。
 そんな彼女に、エアレイダー42は折れるしかない。
「……そうだな。帰るか」
 ハッチの中へ戻り、各種モニター・メーターを確認。ギアを前進に入れる。
「出発するぞ。振り落とされるなよ」
「はい!」
 開いたままのハッチの外から彼女の元気な声が聞こえ――アクセルを少しずつ踏み込んで行く。
 
 ―――――― * * * ――――――

 戦車での道行きは快適とは言いがたいが、それでも徒歩よりは格段に早い。
 地平線の先にあるかに感じられていた日の光はぐんぐん近づき、その領域を大きく広げてゆく。
 差し込む光の量が増えるに従い、辺りの明るさも暗がりから薄暮へ、薄暮から夕暮れへと徐々に見通しが良くなってゆく。

 しかし。

 それは同時に、アースイーターの『制覆』最前線に近づくということでもある。
 今は一枚の鉄板である天井も、砲台つきやコア、ハッチを備え始めるということであり、また際限のない敵の大軍団が待ち構えているということでもある。
 そして、レーダーが回復し始め――その縁が赤く塗り潰されたようになっている。
「……隊長……」
 通信回線から入るウィングダイバー73の声も緊張気味。
 エアレイダー42はギガンテスの進行を止めると、ハッチから身を乗り出して自らの目で行く手を見やった。そして、彼女の緊張のわけを理解した。
「これはまた…………盛大なお出迎えだな」
 車内モニターからではわからなかったが、地平を埋めるかのような数の巨大生物が待機している。見えているのは黒色甲殻巨大生物のようだが、ひょっとするとその先には赤色甲殻巨大生物や蜘蛛型巨大生物、蜂型飛行巨大生物、ドラゴンもいるかもしれない。
 ギガンテスZAの主砲140mm榴弾砲の残弾は25発。爆破範囲がある程度広いとはいえ、あの数を殲滅するのは困難。弾が尽きたら、後は手持ちのスカイトラップワイヤー16Wだけが武器だ。……まず5分すら生存できまい。
「……出番ですね。私が囮を――」
「待て待て。気が早いよ、エッジ」
 腰を浮かしかけるウィングダイバーの腕をつかんで、座らせる。
「でも……」
「ディロイの時とはまた状況が違う。あれを殲滅するのはストーム1でもない限り、無理だ」
 そう。あの男なら、独りででもなんとかしてしまうだろう。
 だが、ここにいるのはその真似もできなかった男と、それが教えた生徒だけ。楽観的に状況を見るには、少々力量不足なカードだ。
「だから、私が」
「無駄だよ。わかってるだろう? 君が飛び込んだところで引きつけられる敵の数は限られる。どっちにしろ、ここにも押し寄せる」
「それは……そう、ですけど……」
「策を弄するなら、勝てる方法を考えないと。特攻は美学かも知れないが、現実的じゃない」
 そう言いながら、通信機を立ち上げる。レーダーが回復したのなら、あるいは……。
「僕はストーム1ではないけれど、それなりに頭はいいつもりだ。そうして人のつながり、絆を利用してきた。だから、教官を辞めて現場に戻らされたわけだが……もういいだろう。そろそろ、僕を戦場に戻した連中に、今度はそのつけを払ってもらおう。功績は十分稼いできたはずだ」
「………………?」
 怪訝そうに小首を傾げているウィングダイバー73。
 エアレイダー42は通信回線を開いて、告げた。
「――こちら、エアレイダー42。誰か、聞いてる者はいないか」

 ―――――― * * * ――――――

 すぐに通信が帰ってきた。
『……ちら…………基地、オペ……ター……です』
 まだ距離が遠いのか、アースイーターの内側なのでぎりぎりなのか、通信が頻繁に途切れる。
 とはいえ、相手がどこの誰かは今関係ない。通信がつながる状態であることに、エアレイダーは笑みを浮かべていた。
『こ…回線は作戦…通信回線で…。現在……行中の作戦は…いは……す。本回……の平…使用は禁止さ……います。懲罰…受けますよ』
「こちらエアレイダー42。悪いが、まだ撤退命令を聞いていないんでミッション中だ。急いでEDF空軍幕僚のイナダに連絡を取ってほしい。暗号コードを伝えてくれれば、後は向こうでやってくれる。頼む。暗号コードは――」

 ―――――― * * * ――――――

 EDF極東本部日本支部空軍参謀本部・要塞空母デスピナ指揮所。
 桐川航空基地の生き残りを含め、超巨大空母デスピナ内に収容された各地航空戦力を指揮するための部署である。
 現在では実質、EDF極東本部日本支部と連携しつつ活動できる唯一の空軍戦力指揮所でもある。
 イナダは、そのナンバー3の地位にあった。
 要請に応じて空軍が放ったテンペストS1Aミサイルが引き起こした、痛ましい結果に終わった先日の作戦についての報告書を読み終え、深いため息とともにコーヒーを口につけた時、秘書が入室してきた。
 黒髪をひっつめにした三十代のその女秘書は、少し強張った面持ちでイナダの着いているデスクの前までやってきた。
「……なにかね?」
「緊急通信です。貴官を指名して、作戦時通信回線で呼びかけがあったと」
「今進行しているミッションはないはずだろう。次は……洋上から接近しているアルゴ率いる艦隊の迎撃じゃなかったか?」
「作戦指令本部からのミッションは、それだけのはずです。ですが……その通信は暗号コードも告げたらしく」
「暗号コード? ……覚えがないな。通信の主は誰だ?」
「エアレイダー42です」
 イナダは危うくコーヒーを吹きかけた。たった今読んでいた報告書の中でMIA(作戦行動中行方不明者)の一人として名前が挙がっていた。それだけではない。個人的にも深い付き合いのある相手だ。
「あいつは死んだはずだ。まさか、空軍最高の威力を持つテンペストS1Aの爆撃から逃れたっていうのか?」
「わたくしに言われましても」
「……なりすましだろう。何者か知らんが、間が悪いというか、間抜けというか。それで、要求はなんだ?」
「通信連絡が欲しいと」
「……それだけか」
「はい、それだけです」
「………………」
 気持ちを落ち着けるために、再びコーヒーを口につける。
 要求内容からある程度相手を絞れると思ったのだが。なぜ連絡だけなのか。いや、そもそもなぜ自分を指名してきた。通信で言葉を交わせば、すぐに偽者とばれるだろうに。
「ふむ……そういえば、暗号コードがあると言ってたな。私は出した覚えがないんだが……どんな内容だ?」
「はあ、それが……」
 女秘書は少し眉根を寄せて言い澱む。
「……『エロボーガンズ・決戦暴走皇帝最後の昇天』だそうです」
 その瞬間、イナダは口の中のコーヒーも、カップの中にあったコーヒーも全て、吹き出していた。

 ―――――― * * * ――――――

『42ぅぅぅぅぅぅっっっ! 貴様と言う奴はっ!!』
 10分ほどしてつながった通信は、いきなり怒鳴り声から始まった。
 今回の通信は向こうの出力が強いのか、方角の関係か、クリアに聞こえる。
『あ、あ、あ、あれのことは誰にも内緒だと……!』
「いやしかし、これぐらい言わないと君は腰を上げてくれないだろう」
 快活に笑うエアレイダー42の傍らで、ウィングダイバー73は小首を傾げている。
『あれは知る人ぞ知る作品だぞ! ……誰か知ってたら、私は空軍内で居場所を失いかねない!』
「じゃあ、そもそもそんなものの探索を僕に頼むなよ」
『前回の戦争直後のことじゃないか! 八年も前の血気盛んな私が、そんな分別つくと思うか!』
「いばれることか」
『貴様だってノリノリで探してきてくれただろう! あの時は欲しくて欲しくてしょうがなかったんだよ! ……っていうか、あれは今でも実家の押入れの奥にきちんと隠してるんだぞ!』
「いいのか。通信回線でそんなこと叫んで」
 その一言で少し素面を取り戻したのか、数秒の間が開いた。
『……人払いをして、秘密回線で話している。よほどのことがない限り、他に傍受されている恐れはない』
「そうか」
『しかし……まあ、無事でよかった。てっきりテンペストにやられたと思ってたんだがな』
「まあ、その話は帰ってから報告するよ。それより、頼みがある」
『……なんだ』
「作戦領域から帰還してきたのはいいんだが、眼前にアースイーターの防衛線と巨大生物の群れが帯状に並んでいて、動きが取れない。シールドベアラーもいないようだし、こう……アースイーターの縁の内側をかすめる感じで爆撃してくれないか」
『お安い御用だ。っていうか、それなら作戦指令本部に掛け合って、貴様を救い出す一大ミッションを――』
「よしてくれ。僕一人を救出するために、多くの隊員を危険にさらしたくない。目の前の巨大生物どもさえ蹴散らせれば、後はビークルで走破してほぼ無傷で突破できる。少しでも敵を減らしたいなら、僕の後を追いかけて来るのを待ち構えて始末してくれればいいが、救出のためにアースイーターの防衛線にまで入り込むことはない。……来るべきブレイン撃破の時のためにも、戦力の消耗は避けるべきだ」
『そうだな。わかった。そういうことなら、なんとかしよう。その近辺の陸戦部隊基地にも連絡をして、巨大生物掃討作戦を立案させる。空軍挙げての全力爆撃が終了したら、一息に防衛線を駆け抜けろ』
「助かる」
『なぁに。EDFは戦友を見捨てない。……文字通りでも別の意味でも、な』
「まったくだ」
 男同士にしか分かり合えぬ笑みが、通信回線を交差した。

 ―――――― * * * ――――――

 それは、陸戦部隊の介在しないミッション。
 空軍がこれまで抱えてきた鬱憤を晴らすかのような、徹底的な爆撃。
 重爆撃機カロン、攻撃機ミッドナイト、攻撃機ホエール、攻撃機アルテミスによる爆撃に次ぐ爆撃。
 及び、空軍とデスピナの所有する各種ミサイルによる無差別爆撃。
 それは圧巻の一言だった。
 空軍の機体の速度であれば、砲台起動前のアースイーター防衛線の下を潜り抜け、爆弾や機関砲をばら撒いて即座に撤収ができる。
 ミサイルも精密誘導できないだけで、狙ったポイント付近には確実に着弾できる。
 そして、今はそれだけで十分だった。
 シールドベアラーが配置されていなかったため、それはまさに蹂躙だった。
 黒色甲殻巨大生物のばら撒く強酸性体液も、蜘蛛型巨大生物が放射する強酸性粘液糸も航空機に届くことはなく(そもそも放ちさえさせなかったが)、陸戦歩兵部隊の弾幕をものともしない体力の赤色甲殻巨大生物も、ひとたび飛び立てば地表を針の山にする蜂型飛行巨大生物も、航空戦力を玩弄して壊滅させたドラゴンさえも、その奇襲と徹底的な爆撃・掃射にはひとたまりもなく吹き飛び、肉片も残さず消し炭と化した。

 通信回線を、勝利の快哉を叫ぶ空軍の雄叫びが埋め尽くした。

 ―――――― * * * ――――――

『――エアレイダー42。空爆は終わった。敵が立て直す前に駆け抜けろ!』
 イナダの通信を受けて、ギガンテスZAのエンジンが吼える。
「助かった、ありがとう!」
 アースイーターはハッチを開いて飛行ビークルと戦闘マシンを投下し始めていた。
 起動した各種の砲台が、誰もいない地面を穿っている。
「エッジ! 運転が荒っぽくなる! ハッチの中に入って身体を固定しておけ!」
「ラ、ラジャー!」
 一人乗りの戦車に、二人目の搭乗員。まして、装備をまとったウィングダイバー。
 全身を中に入れられるわけもなく、そのなまめかしい脚だけがエアレイダー42の両側ににゅっと降りてきた。
「舌噛むなよ!」
 そう叫んで、全速前進を始める。
 
 ―――――― * * * ――――――

 巨大生物達が遮っていた地域は、あっという間に通過した。
 爆撃で開いたクレーターや、消し炭になったものがいくらか邪魔はしたものの、唸りをあげて大地を噛むキャタピラが全てを走破した。
 そして、アースイーターの防衛線地帯。
 爆撃機や攻撃機の通過で起動状態になり、戦闘マシンの投下も始まってはいたが、ギガンテスZAの全速力は何者の追随をも許さない。
 ギガンテスZAを狙う砲台の攻撃は、ことごとく走り去った後の地面を抉るだけに過ぎず、戦闘マシンディロイの巨大な歩幅を以てしても追いつくことはできない。唯一飛行ビークルだけが数機、上空に飛来し、張り付いたものの、元よりその攻撃だけではギガンテスZAの装甲を貫くことも足を止めることもできない。
 アースイーターの防衛線も楽々横断突破し、砲台の射程距離もぶっちぎり――太陽と空の下へ帰還した。

 怒れるフォーリナーの戦力を引き連れ、ギガンテスZAは疾走し続ける。

 ―――――― * * * ――――――

「……英雄のお帰りだ!」
 戦場を突っ走るギガンテスZAの立てる土煙が、砲兵隊の測距班員の覗く双眼鏡に映った。
「熱烈なファンが殺到してる! お引取り願え! ――距離4000、方角よし! 風向きよし! カノン砲、榴弾砲、ファイアー!」
 測距班員の遥か後方、鎮座している各種砲座が次々と砲撃を放つ。
 放たれた砲弾はややあって、ギガンテスZAの後方に次々と着弾した。
 生き残って追いかけてきていた巨大生物が壊滅し、ディロイが1機擱坐する。

 ―――――― * * * ――――――

「我々が狙うのは、航空戦力のみだ。ディロイと巨大生物は無視しろ」
 エアレイダーの指示に、ずらりと居並ぶネグリング自走ロケット砲XEM10台が、一斉に背部のロケットランチャーの仰角を持ち上げる。一度に10の目標を同時にロックオンし、誘導ミサイルを射出できる移動砲台。そこに搭載されたミサイルの数、五十。
「ロックオンでき次第、射出! 全部落とせぇ!」
 エアレイダーの右手が振り下ろされるが早いか、一斉に100発のミサイルが放たれた。

 蜂型飛行巨大生物、ドラゴン、飛行ビークルのいずれにせよ、左右から飛来した無数のミサイルを躱し切ることは、できなかった。本来それを狙ったわけではないミサイルにさえ当たって落ちてゆく。
 そして、地面に落ちたところへ再度砲兵隊の砲撃。
 フォーリナーの航空戦力は、それ以上ギガンテスZAの後を追うことはできず、壊滅した。

 ―――――― * * * ――――――

 一番足の遅いディロイが戦場に辿り着いた時、既に砲兵隊は撤退していた。
 ネグリング自走ロケット砲XEM部隊も、後退を完了。
 五機からなるディロイ部隊を待っていたのは、EDF陸戦航空部隊と機甲部隊。EF24バゼラートとBM−03ベガルタで作られた陸空二段の陣。
 バゼラート・バルチャーのレーザー砲やバゼラート・パワードのミサイル、ベガルタの各種兵装の一斉射撃を浴びたディロイ五機は、わずか10分後には文字通り溶けるように全機が擱坐していた。

「物量の差があれど、供給が追いつかなければこのざまだ!」
「EDF万歳!」
「この調子でアルゴ率いる艦隊も返り討ちだ!」
「いやっふー!!」
 
 通信回線に勝利の雄叫びが満ちる。

 しかし。

『――敵です! これは……巨大ドラゴンが接近中!』

 それは、どこの所属オペレーターの叫びか。
 その悲鳴じみた内容は、勝利の余韻に冷や水を浴びせるに十分だった。

『一体ではありません! 二体です!』

 ―――――― * * * ――――――

 その通信は、エアレイダー42の耳にも届いていた。
「……僕のために来てくれたんだ。放ってはおけないな。おい、エッジ。君はここで……」
 ハッチを振り仰ぐ――既にウィングダイバー73の姿はない。
 嫌な予感がして、ギガンテスZAを急停止させ、ハッチから身を乗り出す。
「エッジ!?」
 しかし、周囲を見渡しても、振り向いても彼女の姿は見えない。
「落ちた? いや、それとも……」
 取って返すべきか否かを悩んでいるうちに、頭上をよぎる影。
 体長50mを遙かに超える巨体。重力を無視した生命体が、そこで羽ばたいていた。
 皮膜翼と前足が一体化した通常のドラゴンとは違い、それらが完全分離している。
 伝説の中に息づく、神とも悪魔とも呼ばれるドラゴンという空想の存在を完全に具現化した存在。
「……グレーターワイルドドラゴン……」
 それは、大きく口を開くと何者にも躱しようのない炎の洪水を吐き出した。

 ―――――― * * * ――――――

 空中に吐き散らかす炎に捉えられ、バゼラートが次々と火を噴いて墜落してゆく。
 地上を舐める火炎の津波が、ベガルタと彼らが守ろうとしたギガンテスを焼き尽くす。
「あの巨体でなんて速さだ! 旋回が間に合わない!」
「こちらレンジャー71(セブンワン)! ベガルタ全機に通達! とりあえず、一体に絞れ! 撃ちまくれ!」
「なんて奴だ! 炎一噴きで耐久力が半分に減った! 次が来たら擱坐するぞ!」
「撃て! 撃って奴らの動きを止めろ!」
 エアレイダー42もギガンテスZAを回頭させ、140mm榴弾砲をぶっ放す。
 しかし、戦場の上空をダンスでもするかのように舞い踊る二体の巨獣に中々狙いは絞れない。

 再び炎が空と陸に満ちる。

 ―――――― * * * ――――――

 バゼラート部隊は壊滅した。
 ベガルタ部隊も半数が擱坐。搭乗していたレンジャー部隊はそれでも闘志を失うことなく、手持ちの装備を空に向けて乱射する。
 そして、ギガンテスも……。

「耐久力二桁……くそっ! ここまで来て!」
 もはや残弾を気にする展開ではない。ひたすら撃ちまくる。
 一発でも当たれば、怯むはずだ。そうなれば、残っているベガルタが何とか……
 その一発が、命中した。
 空中で器用に直立し、直撃を食らった顔をしかめる巨大ドラゴン。

 その刹那。

 雷鳴が轟いた。

 どれほどの威力があったのか、ドラゴンを撃った一条の雷撃には。
 その巨体が大地に落ちる。
「……な、なんだ!?」

 ―――――― * * * ――――――

 戦場より離れること遥か3000m。
 とある廃墟に一つぽつんと残る高層ビルの屋上に、人影があった。
 ウィングダイバー71(セブンワン)。
 けたたましい警報音を立てて、いつ果てるともなく緊急チャージを続けるプラズマエネルギージェネレーター。
「……エッジ、仇は討ったよ」
 そう呟くウィングダイバー71の腕に握られた兵器の名は『グングニル』。かつて、神話にて投げれば勝つと言われた神の槍。
 空しさを含んだ風が、彼女を吹き抜けてゆく……。

 一人浸る彼女の背後で周囲の警戒をしているウィングダイバー68(シックスエイト)は、苦笑していた。
「ウィングダイバー73がやられちゃった本来の相手は、ストームチームが排除してくれたんだけどなぁ」

 ―――――― * * * ――――――

 大地に横たわる巨竜の首が動いた。
 ギガンテス、ベガルタの面々は、既にもう一体に気を取られていて気づかない。
 最強の雷撃兵器グングニルの神の如き一撃を受けてなお、死を迎えぬ巨竜の顎が開く。口の奥から炎の奔流が――
「――やぁらせるかああああああっっっっ!!!!」
 戦場を切り裂く気合一閃。
 直前で跳ね上がるように口を閉じた巨竜の顎下に、フェンサー15(ワンファイブ)が突入してきた。
 そのまま密着状態で、右腕に装着したブラスト・ツインスピアM4が咆哮する。
 三発で竜の目が光を失い、五発で顎が裂け、七発目を叩き込んだ時には下あごが消し飛んだ。
「隊長! もう一体が!」
 リロード中に通信してきたのは、少し離れた場所から援護射撃を行っているフェンサー32(スリーツー)。
 フェンサー15が振り返ると、もう一体のドラゴンが炎を吐いていた。
 ベガルタ、ギガンテスが炎に沈む。
 通信回線にベガルタ擱坐の報告が満ちる。
「……わたしのっ!」
 サイドスラスターを発動。
 フェンサー15はギガンテスを包む炎の壁へと突進を開始する。
「愛する人に、何をするんだああぁぁぁぁぁっ!!!」

 ―――――― * * * ――――――

「――手のかかる夫婦だな!」
 手にしたスナイパーライフルの最高峰、ライサンダーZが咆哮する。
 先ほどは火を噴きかけていた落ちた巨竜の顎を撃ち抜き、今は空中から炎を吐き下ろす顎を撃つ。
「こいつの銘は顎撃ちに改名するか!」
 そう愚痴りながらボルトアクションで弾倉の薬莢を送り込み、再び今度は翼を撃ち抜く。
 弾倉が空になった。
 弾倉交換を行いながら、男は戦場の夫婦に語りかける。
「……『救い』専門の俺にここまでやらせたんだ、生き残らんと承知せんぞ! レンジャー42!」

 ―――――― * * * ――――――

 炎の噴射を何者かに遮られたドラゴンは、空中で一旦方向を変えて急降下すると、地面も、瓦礫も、ガラクタと化したベガルタやバゼラートの残骸も、その巨体で跳ね飛ばしながら着地した。
 巨大な尻尾を一閃して周囲のEDF隊員を跳ね飛ばし、再び炎を吐く態勢を取る。
 ギガンテスZAの残骸から這い出してきたエアレイダー42には、もはや防ぐ術も逃げる脚もない。
「……く。せっかく戻って来たのに……あいつに会えぬまま、これで終わるってのか」
 巨大な絶望が真赤な口を開き――その視界が閉ざされた。
「なんだ!?」
「――おかえりなさい! あ……あなた!!」
 電話越しに聞き慣れた、しかしちょっと照れ臭そうなその声――にかぶさって、巨大な鉄板を殴ったかのような音が轟く。
 そして、エアレイダー42は理解する。フェンサー15が、眼前でシールドを展開してドラゴンの火炎放射を防御してくれているのだと。
「あなたは……あたしがまぁもぉぉるぅぅぅっっっ!!! おおおおおおああああああああっっっっ!!!!!」
 防御時に発生する反発力が、フェンサー15とその腰にしがみつくエアレイダー42ごと後方に押し下げてゆく。

 ―――――― * * * ――――――

「フェンサー部隊、撃て!」
 フェンサー32の命令に応じ、ずらりと35mmバトルキャノン砲を並べた一団が、一斉に射撃を開始する。
 140mm榴弾砲に匹敵する威力の撤甲弾が、その巨体を次々と抉り穿つ。
「空にいなきゃただのでかい的だ! 適当に撃っても当たるぞ! 撃て、撃てぇ!!」
 ついで、レンジャー部隊も姿を現す。
「スナイパー、ロケラン! とにかくぶち込め!! 前回の戦闘で散ったレンジャー92以下、EDF戦士達の弔い合戦だ! みんなの無念、ここで晴らすぞ!」
 遠距離攻撃部隊がフェンサーに並んで集中砲火を浴びせる。
 ドラゴンの咆哮は既に悲鳴。
 飛び上がる隙すら与えられず、炎を吐くこともできない。

 やがて。

 全身に風穴を空けられた巨獣は、二度と覚めることの無い眠りへと力無く落ちていった。

 ―――――― * * * ――――――

 ブラスト・ツインスピアM4をドラゴンの胸元に突き刺した態勢で、フェンサー15は動きを止めていた。
 スカイトラップワイヤー16Wの全弾をこの近距離から叩き込んだ姿勢で、エアレイダー42も動きを止めていた。
 二人とも肩を大きく弾ませ、荒い息の下、声も出ない。
 二人の耳には、通信回線を流れる勝利の凱歌が聞こえていた。


「……よかったすね、会えて」
 フェンサー15の耳元をくすぐった気がした声は、誰のものか。

「……帰りつきましたよ、帰るべき場所へ」
 エアレイダー42の胸にこだましたのは、誰の思いか。


「ただいま」
 エアレイダー42のいつもと変わらない挨拶に、フェンサー15はスーツの中でうっすら笑みを浮かべる。
「おかえり。……今日は、あたしが君のヒーローだね」
「それを言うなら、ヒロインだろ。君は女なんだから」
「ヒロインは守られるのがお仕事。だから、今日のヒロインは君。ヒーローはあたし」
「……そうか。君がそう言うのなら、それでいいよ」
「うん」
 嬉しそうに頷き、振り返るフェンサー15。
 差し出した手を握り、エアレイダー42が立ち上がった。


 ドラゴンの巨体越しに見える空には、沈みゆく太陽と――白い満月。


 あの時二人で見たのと同じ、満月。


地球防衛軍4SSシリーズ・エアレイダーストーリー 「ストーリー4.望月の君よ」 おわり


 ―――――― * * * ――――――

 一方その頃。
 エアレイダー42が強引に突破した影響を受け、一部の巨大生物が侵攻を開始していた。
 これに対応したレンジャー7のチームだったが、牽制しつつの撤退中に負傷者が発生。
 EDF作戦指令本部に救援を求める。
 
 作戦指令本部はストームチームに出動を命じる。


 ⇒To Be Continued to Mission81(OFF)/86(ON)「廃都の脅威」


ストーリー5へ続く


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