1 Fallen Eagle
レイヴンズ・アーク特設アリーナ内北入場門裏側。
早朝の空の色を思わせる、薄青い塗装のAC『ペイル・イーグル』が佇んでいた。
そのコクピットで出場のタイミングを待っていたアレックスの元に、ラルフからの通信が入った。
『一昨日の違和感の件ですが、あなたの言う通りでした』
アリーナ出場5分前である。
恐らく中継ではアナウンサーがこれまでの二人の経歴を紹介し終わり、そろそろ試合予想をゲストに聞いている、そんな時間帯だ。
集中を乱され、アレックスは舌打ちを漏らした。
「なんだよ、今更」
『それが……あの機体ではまともに戦えるはずがないんです』
「はぁ?」
『あれからシミュレートしてみたんですが、どういうジェネレータとラジエータの組み合わせでも、重量オーバーか冷却力不足なんです。あんな機体でブースターを噴かしたら、あっという間にオーバーヒートして、左肩のロケット以外使えなくなります。そうなったらもっさりのっそり動いてる的ですよ』
「まじかよ。チューンしてるんじゃないのか?」
『その可能性も考慮しました。でも、無理です。チューンを全部重量軽減に回しても規定重量には収まりませんし、全部熱対策に施したとしても、オーバーヒートするまでの時間がわずかに伸びるだけで……』
「どちらにしても、的――か」
『そんな機体で、言われているほどの戦果をあげられるとは思えません』
「それはそうだが、だったら――」
問いかけようとしたアレックスを制するように、ブザーが鳴り響く。
「――と、おしゃべりはここまでだ。どうやらショータイムのようだぜ」
門が開いてゆく。
アレックスは『ペイル・イーグル』をゆっくりと前進させた。
******
「コンピューター、モード移行。戦闘モードだ」
『了解。メインシステム、戦闘モード、起動します』
女の声がモードの移行を知らせ、それまで消えていた計器類が一斉に立ち上がった。
アレックスは正面の南入場門から入ってきている白い機体を確認し、通信回線をレイヴン専用周波数に合わせた。
「おい、ルーキー。お手柔らかに頼むぜ」
しばらく待ったが、返事はない。
「……ちっ、なんだなんだ。シカトかよ。偉いもんだな。『先輩、今日は胸を借ります』ぐらいの挨拶、言えないもんかね」
『うるさい』
感情の起伏が感じられない、不快な声。
「おー、話せるんじゃねえか」
『黙れ、クズ。道端の石ころに挨拶する奴はいない』
そして、通信は一方的にぶっつり切られた。
たちまちアレックスのこめかみに青筋が走った。左頬の逆十字が歪む。
「……い〜い返事だ」
正面メインモニターに【READY】の文字が映る。
その文字が【GO!】に変わった瞬間、『ペイル・イーグル』は大きく左へ跳んだ。
この距離で怖いのは肩のEグレネードキャノン・SKYLLAとロケットランチャー・CACUSだ。だが、左右に機体を振っていれば、そうそう当たるものではない。
「相手は鈍足。ここはセオリー通り、ミサイルで削ってから――」
距離を詰めつつ、使用武装を変更しようとしたその時――信じがたい光景が飛び込んできた。
こちらへ急速接近する『ミラージュシルエット』の白い機影。
「な――」
オーバードブーストと気づいて、慌ててマシンガン・PIXIE3のトリガーを引く。
弾幕をものともせず迫ってきた白い機体は、直前で上体を持ち上げ――Eグレネード・SKYLLAの砲口を『ペイル・イーグル』に向けていた。
メインモニターが薄緑の白に染まる。
凄まじい衝撃が機体をゆすり、アレックスは荒波の中に投げ込まれたように翻弄された。機体の衝撃緩衝でも緩衝し切れない衝撃が、攻撃力の高さを裏付けている。
跳ね飛ばされ、かろうじてオートでバランスを取る『ペイル・イーグル』。
この間、アレックスはトリガーを握り続けていたが、その銃口はすでに『ミラージュシルエット』を捉えてはいない。
「な、何が――」
立ち直る隙を与えず、再び今度は異質な――装甲を削り取るような――衝撃がコクピットを振るわせる。
鳴り響くオーバーヒートの警報にコンピューターの冷静な声が重なる。
『AP50%。機体ダメージが増大しています』
何が起きているのかわからなかったが、自分が圧倒的不利に立たされていることだけは理解できた。
(とりあえず間合いをっ!!)
本能的な動きで大きく機体をジャンプさせると、そのまま闇雲にブースターを噴かす。
ターンブースターを利用して高速反転した時、ようやく白い機体が再びメインモニターに映った。
一瞬遅れて、機体の脇をEグレネード・SKYLLAの薄緑の白光が通り抜ける。
「――なんだと!?」
信じがたい光景。中量二脚の――その上重量オーバーで、熱量処理力オーバーの疑いもある――機体は、完全に空中にあった。にも関わらず、肩のキャノンを構えている。
(何だっ!? 何が起きてやがるっ!! アレは……何だっ!!)
驚きはしたが、アレックスはすぐに我に返って次の行動に移った。
ターゲットサイトを合わせ、トリガーを引きつつ『ミラージュシルエット』の脇へと回り込む。その着地点を予想し、サテライト機動を試みる。
しかし――ミラージュシルエットは降りてこなかった。空中をブースター全開で飛び回り、いかづちのようにEグレネード・SKYLLAの光弾を撃ち下ろしてくる。その間、マシンガンPIXIE3の弾幕を受けながら。
(あ……ありえねぇ! 一体、どんなジェネとラジを積んでやがるっ!?)
混乱と驚愕の中にありながら、アレックスは実に見事な機動を見せた。
だが、空中から見下ろせば、いかに巧妙なサテライト機動をしようとも、その動きはサイトの中に長時間収まることになる。結果、『ペイル・イーグル』はさらに数発の光弾を受け、あえなく沈んだ。
火を噴いて擱坐する『ペイル・イーグル』。
『……ペイル・イーグル……蒼い鷲か――ふん、そこで一生蒼ざめていろ』
それがしたたかに頭をぶつけたアレックスが、気を失う瞬間に聞いた最後の声だった。
******
ACハンガー脇パーソナルオフィス。
室内には重苦しい空気が漂っていた。
「重量、エネルギー、熱、反動の各管理に旋回や着地の性能――全部明らかにありえない挙動ですねぇ」
「あと、レーダーもだ。奴の装備にはレーダーがない」
ソファに寝転がり、左頬の逆十字を無意識に弄んでいるアレックスの額には包帯が巻かれ、右頬とランニングから覗く肩や腕にも白い膏薬がべたべたと貼られている。その黒い瞳に生気の輝きはなく、疲れ果てたようにどんより澱んでいる。事実、心身ともに疲れ果てていた。
ラルフは自分のデスクで、端末のモニターに映し出される今日の試合の録画映像を見ていた。
「これを見る限り、何度か奴の死角に潜り込んでますね。でも――」
「ああ。奴は最短距離で振り返ってくる。しかも、信じがたい旋回速度でな」
「あれだけ重量超過していて、レーダーもないのにねぇ」
「やってることがデタラメだっ!! あんなもん、ありえるかっ!! くそったれっ!!」
喚いて、ソファから身を起こしたアレックスは、手近にあったジャンパーをつかみ、壁に叩きつけた。
そのまま手で顔を覆い、がっくり肩を落とす。
「くっそぉ……何が起きてたのか、今でもわからねぇ。……レイヴンになって3年……この3年を全部否定された気分だぜ……」
「解説しましょうか?」
返事を待たず、ラルフは画面上で起きている事態を淡々と説明し始めた。
「試合開始直後、『ミラージュシルエット』はオーバードブーストで接近、
ゼロ距離からのSKYLLA直撃で『ペイル・イーグル』を足止め。
続け様にブレード・MOONLIGHTによる斬撃、光波同時当て。
――この時点でAPが50%を切りました。
その後、ミラージュシルエットは空中サテライト機動に入り、
SKYLLAによる空中からの爆撃を開始。
『ペイル・イーグル』による継続的な弾幕にもオーバーヒートすることなく、
また、右腕のレーザーライフル・HOLLOW、左肩の三連ロケット砲・CACUSを使うこともなく、
『ペイル・イーグル』を撃破。試合時間は55秒23」
「………………」
「まさに翻弄された、という表現が適切な試合でしたね」
「……………………」
「お灸を据えられたのはこちらだし。まさか『現実は甘くない』ってことを自らの身をもって実証するとは……先輩の鑑ですね、あなた」
「…………………………」
「彼はこれで25位にランクアップ、あなたは22位にランクダウンです。ランク逆転ももはや時間の問題ですね」
「………………………………」
「ねぇ……ちょっとは反応してくださいよ。鞭打ち甲斐がないじゃないですか」
「……俺は、どこで踏み間違えたんだ……?」
傷口に塩と辛子の混ぜ物をなすりつけるような皮肉にも全く反応せず、呟くのみ。
あまりの覇気のなさに、ラルフはやれやれとばかりに肩をそびやかした。
「私の見る限り、あなたにミスらしいミスはありません。初撃こそ不意打ちを食らいましたけどね。惜しむらくは、機体の防御力の低さと、所持武器の威力の低さでしょうか。どちらかでも改善できれば――」
「そうはいうがな」
アレックスは顔を起こした。そのまま疲れ切った様子でソファにどっかりもたれかかる。
「重量機体が相手なら軽量のスピードでかき回すのが俺の戦闘スタイルだし、そうなればあまり火力の高い武器は乗せられん。短時間で確実なダメージと熱量を与えつつ、継戦能力も確保できる。おまけにサイトもでかい。バランスから言えば、あれを超える火器はないと言っていい」
「じゃあ、両腕にマシンガンなんてどうです? 同時に使えば単純に考えても火力は倍になりますし、2丁合わせても重量火器以下の重さです」
「ダブルトリガーって奴か」
アレックスは渋い表情で考え込んだ。
「イクシードオービットも加えて、トリプルトリガーってのもありますよ。総称してマルチトリガーって呼んでますが」
「あんまり好きじゃないんだよなぁ。弾薬費がかさむし、両手でトリガー引くもんだから両腕に余分な力が入る。正確な機動力が命の軽二では……ま、アリーナでは金はかからんし、次回は試してみるか」
「じゃあ、再戦希望を出しておきますか?」
ラルフの指が走り、彼の画面に要望書の書式が表示される。
しかし、アレックスは即座に首を横に振った。
「冗談。当分、あんな化け物とやる気にはならん」
「そうですか」
要望書が消えた。
「それより、奴のことを調べてくれ。あの、今のACを根本から否定してる機体の秘密を知りたい」
「……………………」
「……ラルフ?」
アレックスの呼びかけに、珍しく考え込んでいたラルフはすぐ我に返り、ごまかすように微笑んだ。
「あ、いえ……それを知って、どうするんです?」
「決まってる」
にんまり笑ったアレックスは、身を乗り出し、拳を握り締めた。
「俺もその恩恵にあずかる。その上で奴と再戦し、カタをつけてやる。今回の負けが腕の差か、機体の差か、まずはそれをはっきりさせねえとな。……絶対、機体の差だろうがな」
「……………………」
「おい?」
再び考え込んだラルフに、アレックスはいよいよ不審を露わにした。
「なんか怪しいな、お前。何かを知ってるんじゃ――」
「ええ」
ラルフは拍子抜けするほどあっさりと肯定した。
「いや、知ってるというか……前から話はあったんですよ。ACの中に二脚なのに構え無しでキャノンを撃ったり、空中に浮かんだまま旋回し続けるようなのがいるって」
「な……」
たちまち、アレックスの顔が引き攣った。
腹の内から飛び出しそうな何かを抑えつけるように拳を握り締め、歯を食いしばったまま、たっぷり20秒こらえて――大きく息を吐き出した。
「……そーゆー話はよぉ、奴と戦う前に聞きたかったんだがな」
「いや、だって私も見たの初めてですし。第一、そんないいかげんな情報を伝えるわけにはいきませんよ。……どうせ信じちゃくれないだろうし」
ラルフはすねたように口を尖らせた。
「で、どういうことなんだ?」
アレックスはまたソファにどっかりもたれ込み、鷹揚に聞いた。
「知ってる範囲でいい。教えろよ」
「ん〜〜……」
ラルフはまだ躊躇するような素振りを見せた。
「いやぁ、知ってるか否かで答えると、『知らない』なんですけど……3つほど可能性があるんじゃないかなーと……」
「その、びみょ〜な言い回しは何だ」
苦々しく呟くアレックスに、ラルフは淡々と続けた。
「それだけ不確定な情報なんですよ。一つ目は、あの機体のパーツが最新機種である可能性。外見こそ同じですが、中身は現存パーツを遥かに凌駕する性能の――次世代パーツとでもいいましょうか。ミラージュが開発したそれを、あのアザル=ゼールがテストを兼ねて使用している、という可能性です」
「確かに、有り得ない話じゃないが……専属レイヴンはアークに登録できないんじゃないのか?」
「そんなの建前ですよ。今の登録レイヴンだって、誰が隠れ専属だかわかったもんじゃないんですから。例えば、レイヴンランク1位のジノーヴィ。彼がクレストの隠れ専属だって話は結構聞きますよ」
「へぇー……」
「で、2つ目ですが……『レイヤード時代』の遺物を積んでる可能性」
「『レイヤード時代』? つーと……おいおい、もう30年も前の話じゃないか。その頃の遺物って……」
「【OP−INTENSIFY】というAC用オプションパーツです。当時のキサラギが開発したもので、いかなるACでもその性能を飛躍的に強化することが出来たとか」
「……オプションパーツを積むだけで? そりゃ凄い」
「ところが、公式には全て回収・廃棄された幻のパーツでもあるんです」
「なんか問題でもあったのか」
「私が調べた限りでは――」
話しながら、ラルフは自分のバッグを開き、中を漁り始めた。
「どうも『サイレントライン』事件の時期に頻発した、無人機誤動作との技術的な関わりが疑われたためのようです。あれも色々謎の多い事件だったようですけど……――ほら、これ」
ラルフは一枚のパームウェアを投げてよこした。掌に収まるその薄い情報端末のスイッチを入れると、保存された情報がミニパネルに映し出される。
「あちこちのアーカイブを覗いてようやく見つけたんですけどね、当時のキサラギ幹部の私的記録にその辺りの記述があります。あと、情報が不自然なほど少ない。誰かが抹消しようとしているとしか思えません」
それを斜め読みしたアレックスは、すぐに興味なさげにラルフへ投げ返した。
「つまり、その幻のパーツをアザル=ゼールが、どこからか見つけてきたってことか」
「あるいは、ミラージュが新しく開発したか」
「ミラージュが? キサラギじゃなく?」
「確かにキサラギの可能性もありますが……『レイヤード解放』から『サイレントライン』の前後にかけて、一時期キサラギがミラージュの傘下に入っていたことがあるんです。ミラージュは【管理者】にアクセスしたり、旧世代の技術にアクセスしたりとそっち方面にはかなり強いですし、興味を惹かれるようですからね。キサラギからミラージュへ機密の漏洩・強奪があった可能性は否定できませんし、またそれをやる企業ですよ。あそこは」
「なるほどなぁ……で、最後は?」
「ええっとぉ……」
一声うなってまた考え込んでしまったラルフに、アレックスは苦笑した。
「ここまで来て、何を悩むことがある」
「…………『プラス』という計画があるそうなんです」
すこぶる自信なさげに、ラルフは切り出した。
「私の聞いた話では、人間の能力を強化・増大させ、ACの操縦・性能を革新的に変える技術の開発を目的としているという話なんですが……それ以上のことは何も。どこの企業が中心なのかも、計画がどこまで進んでいるかも――実は、そんな計画が本当に存在するのかさえ、不明なんです」
「なんだそりゃ。あやふやもいいとこじゃねーか」
「だから言うべきか迷ったんですよ。……ただ、『ACの操縦・性能を革新的に変える』というフレーズが、今回の件と妙に符合しているように思ったもので」
「それはそうだが……」
「いずれにせよ、今話した3つの可能性は全て、あくまで裏づけのない与太話です。真実はこれから調べてゆくことになると思いますが……たどりつけるかどうか、保証の限りではありませんよ」
「保証なんか当てにするかよ。俺はレイヴンだぜ」
低い、ドスの利いた声にラルフは愁眉を開いた。アレックスの黒い瞳に生気の輝きが宿っていた。その目つきもレイヴン本来の鋭さを取り戻しつつある。
アレックスは右拳を左の手の平に打ちつけた。
「奴はありえないやり方で、俺を軽くあしらいやがった。それが現実だ。ありえない話が現実になってる以上、そこに何かがある。あるのなら引きずり出すのがレイヴン稼業だ」
虚空を睨んでいた黒の瞳がじろり、とラルフを見据えた。
「とにかく、何でもいいから情報を集めてくれ。あの力、手に入るものなら俺も手にしたい。例えそれが、企業に尻尾を振ることになったとしても、だ」
「はあ…………わかりました。出来る範囲で調べてみます」
ラルフの返答は気乗りの無さを全身で表現していたが、もとよりアレックスはそんなことに気づくような男ではない。
「じゃあ、その間に俺は――そうだな、依頼でも片付けてくるか。例の依頼はどうなってる?」
ラルフは手早くメールブラウザを立ち上げた。
「んーと。……まだ誰も受けてないみたいですね。他に新しい依頼も来てないようです」
「そうか。じゃあ、ちょっくらルスカに行ってくるか」
「……そうですね。任務の一つでもこなせば、今回の歴史的な惨敗の傷も少しは癒えるでしょう」
その途端、立ち上がって背筋を伸ばしていたアレックスがへなへなと崩れ落ちた。
「ひ、人が立ち直ろうって時に……」
「大丈夫です。人と麦は踏みつけられるほど強く育つものです!!」
意味不明のサムズアップに、アレックスの表情が歪む。
「……だったら、今度お前も踏んづけてやるからな、ACで」
「私は虚弱なので遠慮しておきます。――ええと、機体の手配はどうします?」
「好きなのを言え。それで踏んでやる」
「じゃ、フロート脚で」
「……この野郎」
「冗談はともかく、任務で使う機体を決めてください。兵装も」
不意に真面目な口調に戻り、真面目な顔つきでアレックスを見る。
アレックスは舌打ちをして、渋々それ以上絡むことを諦めた。とにかく舌先三寸ではラルフに勝てない。
「へいへい……何が出てくるかわからんし、ミラージュの横槍も警戒しないとな。……中二のバランス型で、汎用型装備がいいだろう。Aかな」
「了解。では機体は『ペイル・ホース』、装備はA装備で。ええと……
EX:ANOKU(旋回ブースター)
右腕:SHADE2(レーザーライフル)
左腕:ELF2(長身ブレード)
右肩:CRWB73MV(垂直ミサイル)
左肩:SIREN4(高品位レーダー)
の組み合わせになります。……対ミサイル戦に弱いように思いますけど、インサイドにECMかデコイでも積みます?」
「避ける、隠れる、撃ち落とす」
「……そうですか」
能天気としか言いようのないその返答に、さすがのラルフも助言する気を失った。
「ついでにハンガーには軽量マシンガン・SYLPHを積んでおいてくれ。両側だ――載るか?」
「――大丈夫ですね、ぎりぎり載ります。でも、ジェネとかラジとかイーグルとシェアするパーツが多いので、修理から帰ってきてからになりますよ。正確には5日後――どちらへ?」
ラルフが報告しながらパネルを軽やかに叩いている間に、アレックスは先ほど投げたジャンパーを拾い上げていた。
「後は任せた。酒飲んで今日の厄を落としてくる――あー、胸クソ悪ぃ」
「そうですか。……節度は守ってくださいよ。アザル=ゼールと出くわしても、喧嘩なんてしないように」
「大丈夫。俺は奴の顔を知らん」
気休めにもならない理由を残し、アレックスは手をひらひらさせてオフィスを出て行った。