音韻規則
音節
クリンゴン語では、一音節の構造は以下の4種があります。
「 ' 」(アポストロフィ)はクリンゴン語のローマ字表記では
子音である点、「ch」、「gh」、「ng」、「tlh」はクリンゴン語では「一文字」である点に注意してください。
発音のカタカナ表記については
⇒発音について を参照して下さい。
子音+母音
例:"ro " (胴)
"ghu " (赤ん坊)
子音+母音+子音
例:"yuQ " (惑星)
"batlh " (名誉ある)
" 'IH " (美しい、格好いい)
子音+母音+w+’ 、子音+母音+y+’
例:" 'aw' " (刺す)
"qoy' " (懇願する)
子音+母音+r+gh
例:"Dargh " (お茶)
"qurgh " (豆)
二音節以上から成る単語も必ずこの規則に当てはまります。
例:"veqlargh "(veq-largh) (フェックラー)
"Ha'DIbaH "(Ha'-DI-baH) (動物、肉)
ただし、異星人の人名などについては例外的にこのパターンから外れた綴りを使うことがあります。 これは、ちょうど我々日本人が外来語を取り入れて使う際に、日本語には元々存在していない「トゥ」とか「ディ」などの音を使うのと似たようなものだと思います。
例:"jeymS tIy qIrq " [ジェィムシュ・ティィ・キるク] (ジェイムズ・T・カーク)
"janluq pIqarD " [ジャンルーク・ピカるド] (ジャンリュック・ピカード)
この例では、
mS 、
rq 、
rD がクリンゴン語本来語では存在しない綴り・発音になります。
音訳の手引き
固有名詞の例
ご自分の名前などを地球語からクリンゴン語に音訳するために、音訳の法則を見てみましょう。
まず、オクランド博士による、固有名詞のクリンゴン語/英語の対応例を見て下さい。
以下、
"クリンゴン語表記" [クリンゴン語発音] (英語表記、カタカナ訳)
のようになっています。
例:"be'etor " [ベッ・エトウる] (B'Etor、ベトール)
"cheng " [チェング] (Chang、チャン)
"ghawran " [ガゥらン] (Gowron、ガウロン)
"ghIrIlqa' " [ギりルカッ] (Grilka、グリルカ)
"HuS " [フーシュ] (Huss、ハス)
"mara " [マら] (Mara、マーラ)
"matlh " [マトゥル] (Maltz、モルツ)
"mogh " [モゥグ] (Mogh、モーグ)
"qeng " [ケング] (Kang、カング)
"qeylIS " [ケィリシュ] (Kahless、カーレス)
"qI'empeq " [キッ・エムペク] (K'mpec、クンペック)
"qolotlh " [コゥロトゥル] (Koloth、コロス)
"qoreQ " [コゥれク] (Korax、コラックス)
"quwargh " [クーワるグ] (Quark、クワーク)
"QaS " [クァシュ] (Kras、クラス)
"Qugh " [クーグ] (Kruge、クルーグ)
"tlha'a " [トゥラッ・ア] (Klaa、クラー)
"vIqSIS " [ヴィクシシュ] (Vixis、ヴィクシス)
"wo'rIv " [ウォッ・りヴ] (Worf、ウォーフ)
"Doy'yuS " [ドウイッ・ユーシュ] (Troyius、トロイアス)
"ghe'tor " [ゲッ・トウる] (Grethor、グレトール)
"Hur'Iq " [フーる・ッイク] (Hur'q、ハーク)
"Qo'noS " [クォッ・ノゥシュ] (Kronos、クロノス)
"rIymuS " [リィムシュ] (Remus、レムス(英語の発音は「リーマス」))
"tlhIngan " [トゥリンガン] (Klingon、クリンゴン)
"verengan " [ヴェれンガン] (Ferengi、フェレンギ)
"vulqan " [ヴールカン] (Vulcan、ヴァルカン)
" 'entepray' " [ッエンテプラィッ] (Enterprise、エンタープライズ)
"bIreQ " [ビれク] (bregit、ブレギット)
"qajunpaQ " [カジューンパク] (kajanpak't、カジャンパクト)
"tlhatlh " [トゥラトゥル] (gladst、グラドゥスト)
"tlhImqaH " [トゥリムカフ] (zilm'kach、ジレムカッハ)
"mayqel Do'rIn " [マィケル・ドッ・りン] (Michael Dorn、マイケル・ドーン)(ウォーフ役の俳優)
"mayqel 'anSa'ra " [マィケル・アンシャッ・ら] (Michael Ansara、マイケル・アンサラ)(カング役)
"jan qalI'qoS " [ジャン・カリッコゥシュ] (John Colicos、ジョン・コリコス)(コール役)
"barbara' ma'rIch " [バるバらッ・マッりチ] (Barbara March、バーバラ・マーチ)(ルーサ役)
"ghuwI'nItlh wa'lIS " [グーウィッニトゥル・ワッリシュ] (Gwynyth Walsh、グウィニス・ウォルシュ)(ベトール役)
"rabe'rIt 'o'raylIy " [らベッりと・ッオッらィリィ] (Robert O'Reilly、ロバート・オライリー)(ガウロン役)
"raqSan bIQ-DawSon " [らクシャン・ビク・ダゥショゥン] (Roxann Biggs-Dawson、ラクサン・ビッグズ・ドースン)(ベラナ役)
"jo'rIj " [ジョッりジ] (George、ジョージ)
"'antonI' " [ッアントニッ] (Anthony、アントニー/アンソニー)
"tlhI'yopatra' " [トゥリッヨパトらッ] (Cleopatra、クレオパトラ)
これらから、以下の法則が判ります。
▼まず、英語の「綴り」とは関係なく、だいたいは「発音」に従って訳されるということ。(一部例外もありますが)
▼母音は英語の綴りで o でも「ア」の音に聞こえれば a となります。
▼英語のアッシュ音(ash や apple の a の音)は e になります。 英名 チャペル(Chapel)は音訳すると chepal [チェパル] となります。
英語の TANK (A はアッシュ音です)は、日本では綴りに引きずられて「タンク」と言いますが、韓国語では英語のアッシュ音を「エ」で代用するため「テンク」と言います。 この点はクリンゴン語と全く一緒です。 またこの例のように、英語の実際の発音と日本のカタカナ読みにズレがあることも少なくないので、英語の人名などを音訳する時には必ず発音をチェックしましょう。
▼上述の音韻規則から外れた単独の子音には、原則として母音 I を補います。(Grilka → ghIrIlqa') これはちょうど、日本語で TREK の T や K に O や U を補って TOREKKU と読むのと同じです。 Tだけの発音が日本語に存在しないからそうするわけで、クリンゴン語も同じですね。
ただし、音節の末尾に単独の子音がくる場合はその音そのものが省略されます。(Enterprise → 'entepray' )
中国語ではチョコレートを「巧克力」(チャオクーリー)と言います。 漢字一文字ごとにクリンゴン語によく似た音韻規則があるため、t だけの発音を表すことが出来ないからでしょう。
▼クリンゴン語には F の音が無く、全て v で代用されます。 従って、フィラデルフィア(Philadelphia)は vIlaDelvIya [ヴィラデルヴィヤ] となります。
▼「ウォーフ → ウォッ・りヴ」の例のように、「オー」や「アー」という長音はありません。 これは -'rI か -r'I で表します。
▼s(サ・スィ・ス・セ・ソ)や z(ザ・ズィ・ズ・ゼ・ゾ)の音も無いので、これらは基本的に S で代用します。 ただし zi の音はイングリッシュ・スピーカーでも jI で代用しています。
▼英語の th は基本的には tlh で代用します。(綴りは似てるようですが、全く違う発音です) ただし Grethor → ghe'tor のように t を使う場合もあるようです。
▼英語の kl は tlh で代用します。(Klingon → tlhIngan)
▼英語の kr は Q で代用します。(Kras → QaS 、Kronos → Qo'noS)
Q はそれ以外でも、多くの「クリンゴン語にない英語発音」に対応します。 上掲の例だけでも gs 、 x 、git 、kt が Q で代用されています。
▼gladst → tlhatlh はもう何がなんだか・・・(笑)。 gladst はDS9で登場した食べ物ですが、脚本家やスタッフはクリンゴン語の知識を持たないため、適当にアルファベットを並べて gladst という名前を作ったのでしょう。 後にオクランド博士が、それのクリンゴン語綴りを tlhatlh と決めたわけですが、gl も dst もクリンゴン語では発音できないので、苦し紛れにこのような綴りになったのかもしれません。
STの世界においては、この単語は、まず先にクリンゴン語 tlhatlh があって、それを聞いた連邦の人間が gladst と訳したことになるわけですが、考えてみると原音とかけ離れた音訳は日本のカタカナ語には少なくないので(Living → RIBINGU 、 Thrill → SURIRU など)、その仲間だと思えば良いのかもしれません。
▼あとは上掲の一覧をよく見て、「クリンゴン語的な語感」を感じ取ってください。