論理哲学論考 1-7
      
4 思考〔der Gedanke〕は有意味な〔sinnvolle〕文だ。
〔4.00 という番号をもつ文は存在しない。〕
4.001 文の総体が言語だ。
4.002 人間は、それぞれの単語が何をどう指す〔bedeutet〕のかについての漠然とした知識も無しに、諸々の言葉を組み立てる能力をもっており、それであらゆる意味〔Sinn〕が表現され得る。――ひとは、また、個々の音声がどうやって発されるのかを理解すること無く喋る。
日常言語は、人間という有機体の一部であり、それに劣らず複雑だ。
ひとつの言語論理〔die Sprachlogik〕を日常言語から直接取り出すことは人間には叶わない。
言語は思考を扮装させる。しかも、ひとが当のドレスの外形に拠っては覆われている思考の形を推論し得ないほどに。それは、そのドレスの外形が中身の形を認識させるためとは全く違う目的に随って形成されているからだ。
日常言語の理解のための暗黙の協定全体は度外れに複雑だ。
4.003 諸々の哲学的なものごとについて書かれて来た教義や問いの大部分は、誤りではなく、ナンセンス〔unsinnig〕だ。我々は、だから、その種の問いにそもそも答えることなどできず、ただそれらのナンセンス性を確かめることができるだけだ。哲学者たちの問いと教義の大部分は、我々が自分たちの言語論理を理解していないことに基く。
(それらは、善は美と多少なりとも一致するか、といった類の問いだ。)
そして、最も深遠な諸問題が実は何の問題でもない、というのは驚くべきことではない。 〔4.0031