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UPDATE 2006.02.05

 【第 9話】 恋人として

「何から乗る?」

 

陽子が自分の好きな色の洋服を着てきた事で、すっかり気分を良くした啓太郎だが、

実は遊園地などどうでもよかったのである。

 

もちろん、彼氏がいる陽子と遊園地で楽しい時間を共有する事は大切な事であり

いろんな乗り物に乗ったり、はしゃいでいたりしていたのだが、26歳の啓太郎にとっては、

先日、男と女の関係になった以上、頭の中は“やる事”でイッパイ一杯なのである。

 

幸いにして、この後楽園遊園地は啓太郎のアパートまで僅かな距離にあり、

(当然自分のアパートまで持っていき易いように、この場所をデートに選んだわけだが)

絶叫マシンやお化け屋敷などでスキンシップをはかりながらも、

頭の中では、アパートまでのタイムスケジュールとシュミレーションを

何度も繰り返していたのである。

 

フリーチケットで散々遊んだ夕方、

そんなにお金に余裕があるわけでもないため、遊園地内で少々の腹ごしらえをした後、

啓太郎は、ごく自然に言った。

 

「そろそろアパート帰ろうよ。」

 

「うん。」

 

どんな乗り物が面白かったかと他愛も無い会話を交わしながら、

初夏のやわらかな夕日を背に、

電車を乗り継ぎ手を繋いでアパートへと歩く啓太郎と陽子。

 

啓太郎は心の中で呟いた。

「今夜も、もらった。」

 

午後10時。

陽子に腕枕をしていた啓太郎は、

「お前の恋人として、接してくつもりだからさ。俺は時間がかかってもいいし。

惚れちまったんだから、しょうがねぇんだよな。

初めて陽子と出会った時に、お前に彼氏がいたのも俺にとっちゃ、しょうがねぇ事じゃん。

だから時間がかかってもしょうがねぇと思ってんだよ。

俺が、こんな風に強引に行かなきゃ、陽子は普通に彼氏と付き合ってた訳だしさ。

少しずつ行くさ。」

 

今日の目的を達成し、少し余裕を持ちながら言った啓太郎の言葉に

彼氏がいる陽子はどう答えて良いのか判らず、はぐらかすかのように、

「がぁおーーー」と、悪戯っぽく腕枕をしている啓太郎の親指を噛んだ。

 

この行為をいじらしく思った啓太郎は、

彼氏がいる陽子に、もっとのめり込んでしまったのである。

 

「かりそめのSwing」

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