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UPDATE 2006.02.12

 【第10話】 時は穏やかに。

あの日出会ってから2ヶ月、

今では二人はお互いに普通に連絡を取り合いデートを重ねてはいたが、

まだ彼氏と別れていない陽子は、自分から啓太郎を誘う事にはわだかまりがあるのか

陽子から電話があっても、誘うのはいつも啓太郎のほうからだった。

 

普段は夜、お互いの自宅に電話をしたり、

またある時は、平日の昼間にお互いの会社に電話をして呼び出してもらい、

周りに気づかれないように連絡を取り合い、逢う約束を繰り返していたのだが

そんな仕事帰りのある日、

飲みにいった店で陽子が他愛も無く言い出した。

 

「ねぇねぇ敬ちゃん、この間の土曜日に銀座で待ち合わせたじゃん、

あの時さぁ、啓ちゃんとの待ち合わせの時間がまだあったから、

買い物とかしてたの。

そしたらさぁ道で、新聞に載せるから写真撮らせてってとか言われて

貴社みたいな人に写真撮られてインタビューとかされちゃったー」

 

「はぁ?何それ?どこの新聞だよ。」

 

広告代理店に勤める啓太郎にとっては、

素人が「TVに出してあげる」とか「雑誌に載る」とか言われて舞い上がり

騙されたんじゃないかと思い心配になった。

 

「えっ?やばいかなぁ。でも女の人だったからさぁ。名刺もらったよ。」

 

陽子から差し出された、その時にもらったと言う名刺をみると、

“日刊ゲンダイ ライター”とある。

 

「ゲンダイかよ?」

 

そう、それは関東地区・関西地区で発行されている夕刊タブロイド紙。

 

大きく分けて夕刊タブロイド紙には「夕刊フジ」と「日刊ゲンダイ」があるが、

後者の新聞社らしい。

 

「で、どんな話したんだ?」

 

「えっと、街で見かけた女性を写真で紹介するコーナーがあって

そこに載せるんだって。」

 

「あっ、それ知ってるわ。“失礼します”ってコーナーじゃねぇの?」

 

「そうそう、そんな事言ってた。」

「でね、後で撮った写真をパネルにして送ってくれるって。」

 

「あぁ?お前、自宅の住所教えたの?」

 

「うん。」

 

「お前、馬鹿かぁ」

 

「えっ、なんで?だって名刺だってくれたし・・・」

 

「名刺なんていくらでも、その辺の名刺屋で勝手に作れんだからよ、

今後、自宅にパネルが送られてきて、“パネル代”とか言ってやたら高い請求されたら

どうすんだ!」

 

「・・・・・・・」

 

「で、いつ掲載になるって言ってたの。」

 

「来週の木曜とか言ってた。」

 

「わかった。とりあえずその名刺、俺が預かっとくわ。」

 

啓太郎としては、こんな事で彼女が妙な事に騙されてしまっているかも知れない事が

不安でしょうがなく、もしもの時は、自分の出来る限りで彼女を守ってあげるべく

時が過ぎるのを待った。

 

そして次週の木曜日の午前11時30分。

 

啓太郎は、駅の売店では既に売り出されているであろう“日刊ゲンダイ”を求めて

売店へと走った。

 

表紙を開いた3ページ目の左側にその「失礼します」というコラムがある。

 

他の記事には目もくれず、そのコラムに目をやった啓太郎の目に飛び込んできたのは、

その日、そのコラムに載っていたのは、

紛れも無い「陽子」だったのだ。

 

すぐさま陽子の勤務先へと電話をし、

電話に出た陽子に啓太郎は言った。

 

「マジで載ってるよ。」

 

ある意味、陽子が騙されていなかった事に安堵しつつ、

時は穏やかに流れていった。

 

「かりそめのSwing」

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