第69話:「Oh my ジュリエット」

<update/2005/02/27>

 

 「バレンタインデーの奇跡」ってなタイトルにしようと思ったけど、ならなかったさ。

 

 

 

2月14日は、バレンタインデー。

そう、毎年1度必ずやってきて、男のステイタスがはかられる、

年に一度、男どもが疑心暗鬼に互いに牽制し合う日だ。

 

なんて事いっても、そんなこたぁ昔の話。

今じゃ別にどぉ〜って事なく無関心なのだが、

仕事上の人間関係の潤滑油として取引関係先の女性から

貰ったりなんかすりゃぁ、そりゃぁ悪い気はしないわな。

 

で、

営業職である俺には、取引関係先が大きく分けて

単純に二通りのカテゴリーに分かれる。

 

 

お金を戴く「クライアント様(お客様企業)」と

クライアント様から請け負った仕事を成立させるために

弊社からお金を払って協力を依頼する「業者さん」

 

この二通りの力関係はというと、

 

クライアント>弊社>業者さん

 

となる。

 

この力関係を基にバレンタインデーを迎えると、

今後の営業活動や人間関係を円滑にするために、

バレンタインデーという世の中の流れに便乗して、

潤滑油となるチョコレートを、

 

弊社の女性からクライアントに差し上げることはあっても、

クライアントの女性から弊社に渡すことは、まず無い。

 

また、

業者さんの女性から弊社の営業に渡される事はあっても、

弊社の女性から業者さんに差し上げることは、そうそう無い。

 

 

 

 

 

でだ、

 

 

去る、2月10日(木)

俺が営業担当するメイン・クライアント先へと、

アポイントの時間に遅れまいと訪問した。

 

通常、アポイント無しで訪問する事は有り得ないのだが、

殆ど毎日のように訪問している俺は、

昨年の5月くらいに受付譲として窓口に座っている女性には、

社名や、自分の名前を言わなくても、

「こんにちは、○○さんお願いします。」と言えば、

 

彼女は「お待ちしておりました」と笑顔で言い、内線にて

「○○社の健地蔵様がお見えになりました。」

取り次いでくれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハッきり言って、25〜6才と思われるその受付嬢、

「可愛い」

 

 

 

 

 

当然、上場企業のクライアント担当者は、

「何時に何処そこの誰が来るので」と言う事を受付に伝えており、

俺が来る事は受付嬢は解っているのだが、

 

その俺が訪問した2月10日(木)の翌日は、

祝日。

 

金・土・日と3連休になり、連休明けの月曜が、

14日(月)のバレンタインデー。

 

俺は月曜日に、その時点でクライアントとのアポイントは無かった。

 

 

 

 

2月10日に訪れたその日、俺を取り次ぎながら受付嬢が、こう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのぁ〜、ちょっと早いんですけど、

他の方(クライアントから見た業者)とか、

社内の人とかにも誰にも渡してないので内緒にして下さいね」

 

 

 

と言って、ちっちゃな手提げに入れられた「ブツ」を渡された。

 

 

そう、

バレンタインのチョコレート。

 

 まぁ、俺もまさかクライアントの受付嬢から貰うとは

思ってもいなかったので、ビックリしたのだが、

 

 別に気にする事もなく、

「いやぁ〜、気を使っていただいてありがとうございます。

来月は(ホワイトデー)、私もいっぱい持ってきますから。」

とか言いながら“ブツ”を受け取りバックにしまった。

 

 

無事にクライアント担当者とも打ち合わせが終わり、

クライアント先を出て、

 

気ぃ〜使ってもらって戴いたチョコレートでも、

飛び上がるくらいに嬉しい俺。

 

ニヤニヤしながら

会社へと帰るために最寄り駅へと

足早に向かっていた時にある事に気付いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

はあぁ!?

 

ちょっと、待てやゃぁ!

(俺の心の叫びね)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

危うく、わたくし、聞き流すところでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

確か、彼女、こう言ったよな。

 

「あのぁ〜、ちょっと早いんですけど、

他の方(クライアントから見た業者)とか、

社内の人とかにも誰にも渡してないので内緒にして下さいね」

 

ってよ。

 

 

落ち着けぇ〜、俺。

 

 

この何気無い台詞の中に隠された意味を、

文節ごとに検証してみる必要があるぜ。

 

そう、彼女の、あの短い台詞は、

俺への何かのメッセージ?

 

 

 

 

 

 

彼女はこう言ったよな。あぁ〜確かに言った。

 

 

「あのぉ〜、ちょっと早いんですけど」

だよな、だよな。

2月10日だし、ちょっと早いよな。

でも、まだ14日の日はアポ取って無いから、

俺が来社するかどうかわからないもんな。

今日は数日前にアポとってたから、

俺が来るのわかってたものな。

 

 

 

「他の方(クライアントから見た業者)とか、」

っつー事は、御社の取引先として日々訪れる営業の奴等には、

誰にもあげないのね。

 

 

 

「社内の人とかにも誰にも渡してないので」

っつー事は、社内の社員にも“義理チョコ”あげてないのね。

 

 

 

「内緒にして下さいね」

っつー事はさぁ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今から、

素敵に勘違いしていいですかぁ、

俺。

 

 

 

 

 

 

貴女にとって、俺は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「特別な存在」

って事ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

来たよ、来た、

とうとう、来た。

 

 

 

 

 

これは、

 

第65話 :「陽の当る場所へ 〜PROMISED LAND〜」

の店で、起こった出来事なんかじゃねぇ。

 

 

ましてや、

 

第66話 :「ナース・コールは届かない」

みたいな、勝手な妄想なんかでもねぇ。

 

 

今回ばかしは、なんっつたって、

物的証拠、“ブツ”

手に入れてるんだぜ。

 

同じ轍は二度と踏まないさ。

 あぁ〜踏まねぇ〜っさ。

 

 

 

 

そ、そお言えばよぉ、

昨年の新社屋に引っ越して間もない頃、

クライアント担当者と打ち合わせする為に、

新しい、個室の応接室に案内してくれた時、

 

クライアント担当者が来るまでの間、

個室のドア閉めて、

 

「健地蔵さん、この部屋、

結構、いい感じになるんですよ。」

 

とか言いながら、

昼間なのに、部屋の蛍光灯全部消して、

小さいスポットライトだけにして、

「結構、いい感じですよね」って

Bar気分になる間接照明を自慢した事があったよね。

 

 

二人きりの空間で。

 

 

 

 

あれって、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方とこんな感じの場所で、

しっぽり飲みたいの。」

 

 

 

 

って事だったの?

 

 

 

 おいおい、

俺って、知らず知らすのまま、

「大人の魅力」ってーのを、

出しちゃってたの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君の、

俺への気持ちは、よぉ〜く解った。

 

 

でも、焦っちゃいけねぇ〜ぞ、俺。

 

 

クライアント>弊社

という関係の中で、

これからも、クライアントには仕事で行くわけだから、

だから、ここは大人の対応をしなきゃな。

 

 

 

 

 

 

クライアント様に籍を置く女性から、

告白されたに等しいこの状況の中で、

 

いい加減な気持ちで、それを受け止めちゃぁ〜いかん。

 

だから俺も、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真剣に、

将来を、

見据えた形で、

貴女の、

お気持ちを、

真摯に、

受け止める、

つもりさ。

 

 

 

 

 

 

なんつったって、

クライアント>弊社

だから、素敵に勘違いして突飛な行動に出て、

それが、完璧に“勘違い”だった時にゃぁ、

 

 イテェ事になる。

 

 

 

 

 

 

今、ここに、

あってはならない、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライアント様と、業者の、

禁断の恋の始まり。

 

 

 

 

 

 バルコニーで愛を囁き合う訳じゃネェ。

 

 

受付での一瞬の時間に、

この、はやる気持ちを抑えつつ、

今度、クライアントを訪問した時に、

俺の気持ちを伝えなきゃいけねぇ。

 

 

さながら、

俺とお前は、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロミオとジュリエット。

 

 

 

 

そんなかんなで、

翌日か落ち着かない3連休を過ごし、

週が明けた、月曜日、

 

そう、バレンタインデー当日となった。

 

 

 

 

 

その日も、当日、

そのクライアント先に行く仕事が出来たので

行く事になったのだが、

 

内心、バクバクものの

「平静を装ってる、俺」

という仮面を被って、

いざ、訪れたものの、受付に彼女がいなかった。

 

 

受付嬢は一人しかいないため、

まぁ、ほぼ同時に他のお客さんを、

応接室へと対応したり、お茶でも出してる事は、

まま有る事だったので、気にもせず、

自分で内線使って担当者様へと連絡を取り、

打ち合わせを終了してきた。

 

 

翌日。

 

やはりまた、クライアントに訪問したのだが、

前日と同じく、受付嬢がいない。

 

前日と同じように担当者様と内線で連絡を取り、

打ち合わせをする事となったのだが、

 

 

2月14日・15日と、

「ジュリエット」がいない事が気になったため、

担当者様に、さりげなく聞いてみた。

 

 

 

 

「最近、受付の方、いらっしゃらないですよね。」

 

 

 

クライアント担当者様が言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうなんですよ、

連休と、バレンタイン挟んで、

有給とって、

彼氏と1週間くらい、

海外旅行に行っちゃってて、

困っちゃうんですよね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 Oh,my ジュリエット!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまえもか。

 

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