第６６話：「ナース・コールは届かない」
<update/2004/07/31>
悪かったな、届かなくて。
会社で若手を中心にフットサルチームが数ヶ月前に発足したんですわ。
先日、初めて練習に参加してきたんですがね、
その初参加練習での、紅白試合でいきなり、
コケて、後頭部を強打しちまったんですわ。
もう「ツゥ〜〜〜ン」とくる位に。
暫く休んだら治って、その日はヘロヘロになりながらも
練習自体はなんとか無事に終了。
で、翌日。
痛い。
妙〜に、頭が痛い。
頭痛に加えて重いんですわ、頭が。
後頭部打ってるから、脳内出血とかしちゃってねぇだろうなぁ
とかビビリながら、出勤の電車の中で新聞を読んでると、
「中島らも氏が酔って階段から落ちて頭を打って死亡」
なる記事が・・・。
やべぇ。
このタイミングでそんな記事読むなんて、
何かの暗示なんじゃねぇかと、気が小さくビビリな俺としては、
もうすでに気分は、脳内出血状態。
その日、いやぁ〜な気分で出社する事となったのだが、
「頭打ったんだから、暫くは痛くて当然だよな。」と
自分を落ち着かせようとしても、もう不安は取り除ける訳がない。
不安の限界が来た夕方、やはりここは病院に行った方が良いってな事で、
行きましたよ。慈恵医大付属病院。
もう既に外来の受付時間は終わっていたのだが、
理由を話したら、「救急部」なる２４時間体制の部署で診てくれるという。
診察書類に必要事項、緊急連絡先電話番号などを記入し準備完了。
そんなところ、初めて入ったのだが、
いわゆる、救急車で運ばれてきた人や、
急患の人が一時的に収容される場所みたいで、
診察器具とかが充実している。
その一角にカーテンで仕切られた簡易ベットが４つ位あり、
その１つが俺にあてがわれた。
案内してくれた看護婦さんが、その後ずっと俺のアテンドをしてくれたのだが、
この看護婦さん、２５〜２６歳くらいかな？
とぉ〜っても親切にしてくれて、非常に感じも良く可愛らしかった。
で、先生との問診の後、
いよいよ
「頭部ＣＴスキャン」と「頭部レントゲン」を撮る事となった。
まぁ、どぉって事無く終了して１０分くらい待てば結果が出るとの事。
さすが救急部。やる事が早いね。
暫し待った。
「健地蔵さぁ〜ん」
来た。いよいよ診査結果が。
「頭部ＣＴスキャン」と「頭部レントゲン」のね。
おらぁ〜、生まれて初めて見たよ、
自分の
「頭骸骨のレントゲン」
と
「脳ミソのスライス」
記念に貰えないかと、喉まで出掛かったが、
さすがに止めたよ。
で、診査結果はと言うと、
異常は特に見られないとの事だが、
１週間位は、深酒したり激しい運動は控えるようにとの事。
一応、ひと安心と言うことで帰る準備をして、
書類を用意するので外で待つように言われ待っていると
暫くしてあの担当看護婦さんが書類を持ってきて
今後の注意と再診についての説明と、後はこの書類を会計に出して
今日の診察は終了と説明をしてくれた。
で、最後に「何か不安な事や解らない事はありますか？」
と聞いてきたので、
「いや、大丈夫です。まぁ、無理せず、
歳相応のスポーツしろって事ですねよね。」
と答えると、
診察の合間、世間話で交流を深めていたその看護婦さんが
最高の笑顔でこう言った。
「えっ？でもフットサルですよね？」
「素敵じゃないですかぁ〜」
へっ？
今、何て言いました？
「素敵じゃないですかぁ〜」って今言いました？あなた。
確かに言いましたよね、
「ス・テ・キ！」って。
（悪いが俺にはこう聞こえちまったんだから、しょうがねぇ。）
が、
あぁ〜そうさ、
おぉ〜そうさ、
そんなこたぁ〜わかってるよ。
フットサルをしている「俺が」、
素敵なんじゃなくて、
「フットサルが」素敵。
と言う意味で言ったことなんてね。
でもなぁ、ここは、
例の「俺のPROMISED LAND」なんかじゃねぇ。
ここは、病院。
とっても親切で可愛らしい白衣の天使によぉ、
「素敵」
なんて、言われてみなぁ。
もう、
「ぽっ」
わたくし、危うく貴女に恋しそうでした。
つぅうか、「フットサルやってます。」
って、何気に使えるじゃねぇ〜か。
とか思いながら、会計を終了し病院を後にして
その日、１日が終わった。
翌朝、午前８時。
俺の携帯電話が鳴った。
見たこともない着信番号だったので出るのに躊躇したのだが、
なかなか止まないので、とりあえず出てみた。
相手：「もしもし〜、健地蔵さんでしょうか？」
俺：「は、はい、そうですが・・・」
相手：「こちらは、慈恵医大付属病院ですが、
今、救急部と換わりますのでお待ちください。」
はぁ？
おいおい、
なんで病院から、
携帯に、
しかも、
朝イチで、
電話が掛かってくるんだ？
昨日の今日で。
しかも、救急部に換わるってよぉ、
なぁおい。
どういう事なんだ？
間違いねぇ。
いや、限りなく間違いねぇよ。
昨日の夕方に救急部で診察を受けたが
異常は無かった。
が、
翌朝の朝イチ番に病院から携帯に電話があった。
つ、つ、つぅ〜ことはだ、
昨日の診察では見逃されていた、
重大かつ緊急に対応しなければならない
非常に深刻な所見が発見されたため、
至急、
病院に再診に来るようにって事？
だよな、だよなぁ〜、
だってそれ以外に朝イチで携帯に電話してくる
理由が無いよな。
終わった。
終わったよ、俺の人生。
緊急入院かぁ？
緊急手術かぁ？
マーヴェラスな憂鬱も終了かぁ？
ってな想いが頭の中を駆け巡っていると
救急部に電話がつながった。
「おはようございます。看護婦の○○です。
具合はいかがですか？」
昨日の担当看護婦さんだったので、
俺の不安に拍車がかかり、すかさず聞いた。
「な、何か、問題でもあったんですか！！！」
「いえいえ、ごめんなさい、心配させちゃいまして、
そんな事ないですから。大丈夫ですよー。」
えっ？違うの？
じゃぁ、なんでこんな朝イチで携帯に電話してきてんだぁ？
忘れ物もしてないさ。
保険証だって出したさ。
お会計だってしてきたさ。
じゃぁ他に、
携帯にまで朝イチで電話してくる
理由なんてあるのかぁ？
あっ！
あれっ。
あららららぁ〜。
おっとぉ〜。
もしかして、
もしかしてさぁ〜、
昨日、あなた俺に、
「素敵ですね」って言ったよね。
あれって、
「フットサル」が素敵と言う意味じゃなくて、
あれれれれぇ〜、
あれって、もしかして、
フットサルをしている
「俺」が素敵。
って意味で言ったの？
で、
忘れないうちに、翌朝一番で携帯に電話くれたの？
おっとぉ、
随分、積極的なんちゃぁ〜うんの、自分。
なぁ。
俺はまだ、君への、
ナースコールのボタンさえ押してないんだぜ。
おいおいおい、
女性から「その告白の言葉」を言わしちゃうのかぁ、俺。
男として恥ずかしくねぇのか、俺。
でも年齢も離れすぎてるし、どうなのよ、俺。
会社の連中に、どう報告するんだ、俺。
気がつけば、結構恋愛に不器用になってねぇかぁ、俺。
なんて、
完璧に方向を間違って、
膨らませるだけ膨らませまくってる、
俺の妄想を遮るかのように彼女が言った。
「健地蔵さん、昨日、
頭部ＣＴスキャンと頭部レントゲン
撮りましたよね。」
「私どもの手違いで、
ＣＴスキャンの代金しか
請求してなかったんです。」
「レントゲンの代金￥３，６７５−、
申し訳ございませんが、
近々に、お支払いに来て
頂けませんでしょうか。」
「はぇ？」
ナース・コールは届かない。
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