エディがAV(オーディオ・ビジュアル)やホームシアターに関して熱く語る


フルHDプロジェクターはどれを選ぶ!2006冬

(2006.11.28)


   アバックのシュートアウトに乗り込み、フルHDプロジェクターを
   一気視聴してきた。今回はその画質インプレッションも加味し、
   真のお買い得モデルはどれか、私なりに考えてみた。





    8機種一気視聴

 フルHDプロジェクターに関するお題目は以前の当コラムを参照いただくとして
 (「注目!フルHDプロジェクター2006秋」)
 とっとと各機種のインプレッション紹介に移るとする。
 アバック恒例のシュートアウトには9機種がラインナップされていた。
 話がしやすい順に触れていく。
 (一部、以前のコラムと同じ文面があるが、整理のためにあえて重複している)
 
MITSUBISHI
LVP-HC5000


(売価 350,000円程度)

プロジェクターの老舗・三菱が画質にこだわった意欲作

 液晶パネルはエプソンの最新D6/C2FINE。
 スペックは、コントラスト比は最大10,000:1(ダイナミックアイリス併用時)、
 ネイティブでのコントラスト比も公表しており2,000:1となっている。
 輝度は最大1,000ルーメン。ズームは1.6倍、レンズシフトは垂直±75%、
 水平±5%と、まずまずの設置性だ。
 ファンノイズも最低19dBと現時点で業界一の静かさ。
 I/P変換などの映像プロセッサーにはSilicon Optix製のものを
 使用しているということで、映像処理にこだわっている。
 
 デザインはレンズ周りがバランスがあまり良くなく、
 ちょっとロボット的な感もあって、今一歩洗練された感がないかな。

 鮮鋭感がよく出ている。フォーカス感はばっちりだし、画素毎の挙動がクリアだ。
 シーンによって色がやや黄色味がかっていた気がした。
 白側がよく伸びていて、元気のある映像という印象だった。
 アイリスの応答遅れ?と思われる輝度変化が見られた。
 アイリスがどのような動作モードになっているのかは分からないが、
 気になる点だ。


Panasonic
TH-AE1000


(売価 350,000円程度)

独自のスムーススクリーンで他の液晶モデルとは一味違った映像

 液晶パネルはエプソンの最新D6/C2FINE。
 松下伝統のスムーススクリーンも採用されているが、フルHDにまで
 画素が細密化されるとどこまで効果があるか??
 
 スペックは、コントラスト比は最大11,000:1(ダイナミックアイリス併用時)、
 輝度は最大1,100ルーメン。ズームも2倍、レンズシフトも水平±40%、
 垂直±100%あるから設置性はかなり良い。
 ファンノイズも最低22dBと一線級の静かさ。
 
 デザインは従来から一変、シンメトリーでブラックで角ばった筐体は
 こういう方向性としてはいいのではないか。
 ただしサイズとしては意外とずんぐりむっくり、体積がある。
 
 波形モニター機能は、ある1ラインの輝度変化を波形で表示する機能で、
 黒と白を、浮かせずつぶれさせずに映し出すように調整する際に重宝する。
 今までは映像を見て調整していたところ、波形を見ながら確実に設定
 できるようになる。
 
 スムースクリーンを採用して、良く言えば滑らかと言えなくもないのだろうが、
 私としてはどうも「なまっている」印象を受けてしまう。
 液晶間のグリッドを狭めて、DLPやLCOSのように滑らかさを出すという
 目的なのだが、DLPやLCOSの映像とはまた違う気がする。
 ハイビジョンソースだと細かい部分の鮮鋭感が少しスポイルされている
 ように見えた。ビデオ的な映像では物足りないか?
 逆に、フィルムの滑らかな質感が出ていると評価する人もいるのかもしれない。
 それから白側の伸びが足りない。シネマ用の光学フィルタを採用していて、
 ランプの偏ったスペクトルを補正するために光量を犠牲にしているのだが、
 ちょっと白側が物足りないなぁという印象。
 ただ、確かに色味については不満を感じることはなかった。


EPSON
EMP-TW1000

【12月発売予定】
(予想売価 300,000円程度)

液晶パネル供給メーカーの意地を見せられるか?

 液晶パネルはエプソンの最新D6/C2FINE。
 HDMI 1.3を装備し、最大で各色12bitの入力が受けられる。
 この先どれほどのソースが対応するのか未知数だが、
 安心であることは間違いない。
 
 アイリス併用時の最大コントラスは12,000:1。
 輝度は最大1,200ルーメンとかなり明るくなる。
 ズームレンズは2.1倍、レンズシフトも上下方向96%、左右47%と
 どれも一級の水準で設置の自由度は高い。
 騒音レベルは最低でも26dBと、最近では高い方になっている。
 
 三菱、松下という御三家の中では最も中庸に位置する。
 三菱のようなシャッキリ感はないが、まずまずのクリアさ。
 色味は時折赤みが少し出てくるものの、健康的な感じという範囲内で
 おかしくはない。


SONY
VPL-VW50


(売価 550,000円程度)

SXRDパネルを搭載し兄機VW100の半値を実現したソニーの戦略モデル

 パネルはソニー独自の反射型液晶「SXRD」。
 スペックは、コントラスト比は最大15,000:1(ダイナミックアイリス併用時)、
 輝度は最大900ルーメン。電動ズームは1.8倍、電動レンズシフトは垂直のみ50%。
 ファンノイズは最低22dBと配慮されている。
 
 デザインはVW100の弟機という感じで、雰囲気は踏襲。
 シンメトリー&ラウンド形状&ホワイトパール。
 明るいリビングに合いそうだ。
 ただ、両脇のヒダがそうさせるのか、虫みたいに見える。
 
 液晶御三家と比べると、映像の質が変わる。
 画素構造を持たないフィルムに近づき、
 「1枚の画」のような感覚になってくる。
 他機と並べての投写ということで他機からの迷光のせいで
 黒が浮いてしまっていたので、明るいシーンだと分かりにくかったが、
 暗いシーンで迷光の影響がなくなると黒側の沈みが液晶よりも1枚上で
 あることが分かる。液晶の画が薄いベール越しに見ているような感覚だ。
 白側の伸びはもう一歩欲しい気がした。


Victor
DLA-HD1

【2007年1月発売予定】
(予想売価 650,000程度)

反射型液晶の先駆・D−ILA素子が織り成すネイティブコントラスト15000:1の世界

 ビクター独自の反射型液晶D−ILA素子と、新規デバイスを採用した
 光学系により、驚異のネイティブコントラスト15000:1を実現。
 輝度は700ルーメン。騒音は25dB。
 レンズシフトは上下80%、左右34%という広い範囲をカバー、
 ズームレンズも2倍と設置性は高い。さらに前面給排気タイプのおかげで
 壁寄せやラックの中に押し込めてもOKというのは意外と大きなポイント。
 
 左右対称であり、スクエアを基本にしながら角を丸めた形状、
 レンズも飛び出さずノイズレスな外観、白色の本体は洗練されている。
 リビングに置いても違和感はないだろう。
 だがマニアは迷光が少ないブラックが良かったと嘆いた。
 すると素早く、ブラックモデルも用意するという周到さ。
 
 ソニーよりも黒がさらに黒い。特にスターウォーズの宇宙での
 戦闘シーンが分かりやすい。漆黒の闇をバックに星が輝き、
 そこにレーザー砲が飛びかう。その光の鮮やかさが素晴らしい。
 他の映画の室内シーンでも、物陰は黒く、それでいて明かりの明るさは
 落ちないことが分かる。他機種と比べたときに、黒が同じだと思ったら
 他機種の方は明部が出ていない。逆に明部が同じなら他機種は黒浮きしている。
 本機のネイティブコントラストは本物だ。
 他スクリーンからの迷光がある環境でもコントラスト性能の高さが分かったが、
 単体での投写を見た方のお話では「さらに黒が締まり感動的だった」ということだ。
 
 ■12/5追記
 単体投写の映像を見る機会を得た。
 黒の「黒さ」に驚愕。見たことのない黒。これは確かに感動ものだ。
 「パイレーツオブカリビアン」の洞窟内のシーンが今まで見たことのないリアリティ。
 スターウォーズの冒頭、宇宙をバックに字幕が縦に流れていくシーンの
 宇宙の黒さと、そこに浮かぶ星のまたたきが素晴らしい。
 普段見ている「LP−Z4」の映像に慣れているから、
 そのクオリティの差にただただ「すげー」を連発するしかなかった。


SHARP
XV-Z21000


(売価 900,000程度)

DLP方式のシアターPJを長らく手掛けてきたシャープの自信作

 アイリス併用時の最大コントラストは12,000:1。
 最大輝度は1,000ルーメン。騒音は静音モードでも31dBと大きい。
 ズームが1.35倍、レンズシフトは垂直のみ50%。
 
 白側もよく伸びて、いい意味でビデオ的な映像。
 ハイビジョンでのコンサート映像などで真価を発揮しそうだ。
 暗部のテクスチャも黒に埋もれることなく見えていて、
 それでいて黒は締まっている。ガンマカーブの設定がうまいのか。
 カラーブレーキング(色割れ)が見えた。


BenQ
W10000


(定価 628,000円)

フルHD・DLPの切り込み隊長、実力はいかほど?

 BenQは日本では馴染みが薄いが、業務用では世界で高いシェアを持つ
 映像系メーカーである。DLP・フルHDでは最安モデルを送り出した。
 アイリス併用時の最大コントラストは10,000:1。
 最大輝度は1,100ルーメン。騒音は23dB。
 電動ズームが1.15倍、電動レンズシフトは垂直のみ(可動幅は不明)。
 
 白側はシャープほどは出ない。色味が適当?な感じで、色数が少ない。
 暗部の色付きが悪く、暗いだけになりがち。
 展示状態がプリセットのままなのかメーカーの人が調整したのかは分からない。
 カラーブレーキングが見えた。


MARANTZ
VP-11S1


(売価 1,500,000円程度)

オーディオのマランツが見せる最高の映像とは?

 カラーフィルタとアイリスの最適化によりネイティブコントラスト6,500:1を実現。
 ズームレンズは1.45倍、上方向165%、下方向85%のレンズシフトも搭載。
 DLA-HD1と同じく前面の給排気構造は使いやすい。
 輝度は700ルーメン。騒音レベルは不明。

 暗い。700ルーメンというのは本当か?白側が伸びていない。
 黒側はよく沈んでいるが、光量がもともとないので当たり前か。
 映画館でも白はもっと伸びているはずだ。白側がもっと欲しい。
 ビデオ撮りのコンサート映像なんかではコントラスト感が出ないのでは?
 本機のネイティブコントラストを活かすには、完全な遮光空間が必要だろう。
 カラーブレーキングはやはり知覚できた。



    買うならどれにするのか?

 液晶パネルを使った30万円台の3機種は、どれも価格相応の高画質を
 備えていると思う。黒浮きも、何と比較するかによるが、
 少なくとも従来の液晶プロジェクターと比べるならば改善されている。
 個人的にはフィルム映像だけでなくビデオ映像も重視したい。
 高いコントラストで、シャープネスの効いた画像が好きだ。
 そうなると、松下のローパスがかかったような画は好みではない。
 そういう意味では三菱の高コントラスト&シャープネスの効いた
 画像は魅力的だった。19dbという随一の静粛性も惹かれる。
 ただ、オートアイリスの不安定さが気掛かりだが・・・
 エプソンもバランスの良さそうな映像と、HDMI 1.3対応の先進性が光る。
 騒音レベルはもう一段下げて24dBくらいにしてくれるといいんだが。

 LCOSを使ったソニーとビクターの2モデルは、液晶よりも1ランク上の映像。
 2機種を比べると、やはりビクターの方が上回る。
 暗部は真っ黒まで沈み、その中でも明部のパワーは衰えない。
 この画質を60万円台で実現してしまったら、100万円以上の機種は立つ瀬がない。
 15000:1というネイティブコントラストは、実使用上の限界性能なのではないだろうか。
 黒の沈みと、コントラスト、これはプロジェクターを選ぶ上で最も重視される
 ポイントであるから、画質面から言えば本機が文句なしの優勝と言っていいだろう。
 しかもHD1はレンズシフトもズームレンズも最高水準、
 本体色がホワイト/ブラックから選べたり、新リモコンを付属したりと
 痒いところに手が届く感じで、ちょっと弱点が見当たらない。
 専門誌もこぞってHD1を第1位だの金賞だのに挙げているが、
 当サイトとしてもHD1を推さざるを得ない。

 DLP陣営にとっては、非常に厳しい状況である。
 DLPを選ぶ意味は、黒が沈む、それによる高いコントラスト感だったはず。
 しかし、DLP以上のネイティブコントラストを持つマシン(DLA-HD1)が、
 DLP以下の値段で出てきて、カラーブレーキングの心配もないのだから、
 厳しいと言わざるを得ない。実際、会場でもDLP機の周囲だけ人がいなかった。
 
 液晶御三家は30万円半ば、LCOSは55〜65万円と価格差は結構ある。
 予算と画質とを天秤にかけて選ぶことになろう。
 かく言う私は周囲から「DLA-HD1に逝っとけ!」と言われているが、
 いや〜それはさすがに辛いっす。買える人が羨ましいです。



    余 談

 プロジェクターのシュートアウトというのは昔からあるイベントで、
 同じソースを横並びで比較するという形式、画質を直接比較できるということで、
 ユーザーが商品を比較しやすく納得ずくで商品を選べる、
 価値あるイベントという位置づけだった。
 
 しかし最近は、プロジェクターの性能が向上し、高いコントラストを持ち
 黒の再現能力が上がってくるにつれて、横並び視聴するが故の“迷光”が
 問題になってきた。迷光のせいで、製品本来が持つ黒の再現能力が十分に
 発揮されないのだ。今回も、明るいシーンでは迷光のせいで黒が浮き、
 LCOSと液晶モデルが大差ないように見えていた。
 暗いシーンで迷光の影響が少ない時を見ないと正しい評価ができない。
 
 本来ユーザーが正しい評価をするための横並び視聴が、
 製品の性能向上によって逆に正しい評価にならなくなった。
 シュートアウトというのも、見直す時期なのかもしれない。
 
 それから、今回は「フルHDプロジェクター」の特集であった。
 従来の720Pモデルの2倍の画素数で精細な映像を描き出すことが
 最大の特徴になるのだが、お客さんはそこにはあまり注目しておらず、
 高画質映像の最も基本となる「コントラスト感」を重視している。
 画素数がフルHDとなり、精細度では最高地点に到達してしまった。
 そうなると逆に映像の最も基本に立ち返るというのも面白い。
 
 デジカメや液晶テレビで「画素数」が必要以上に重視されている状況には
 私は疑問を感じているが、液晶テレビも全部がフルHDになってくるだろうし、
 デジカメも、最近では1000万画素を超えてきたから、そろそろ画素数競争も
 終わりだろう。手ブレや高感度も軒並み搭載されてきた。
 その次は輝度レンジの拡大によるコントラスト感の改善やら色再現の拡大など、
 画質の基本に立ち返った改善が始まるのではないかと思っている。