Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第30話 『Log check』
酒場のマスターから割り当てられた部屋は以前に借りた部屋と同じ部屋だった。しかし丁寧に掃除がしてあり、居心地は何倍も良かった。マスターからの、心遣いだろう。
机の上に置いてあったピッチャーからコップに水を注ぎ、一気に飲み干す。そうして気合を入れ、振り返ると、ティナ達はソファに座っていた。それぞれ『妖刀パケットリスト』や『にくきうグローブ』など愛用の武器を手入れして思い思いにすごしていた。
「レイナ、カーテンを閉めてくれ。ティナは周囲に余人はいないか確認」
「どうしたんですか? ご主人様」
私の唐突な指示に疑問を抱きつつ、妖刀パケットリストを中空へ戻し、立ち上がって周囲を探るティナ。一房だけはねた前髪がピンと立ったかと思うと根元から1/3程で折れ曲がり周囲を探るかの様にふよふよ動き始めた。昆虫が触覚を震わせて周囲を探るようなその様は電磁波を利用して周囲に不審人物がいないか探っているのだ。ティナのことだから赤外線を使って熱源探知までやっているのかも知れない。
「確かに周囲には私達以外誰もいませんが??」
ティナの返事を待って、
ぼそっと
独り言のように
私は“ある”言葉をつぶやいた
「ティナ/レイナ、$su passphrase**************** #シングルユーザモードに切り替え、外部入力モードで待機、再起動」
コマンドを一息で言い切る。彼女達は私の言葉により、張り付いたかの様に2人ともその動きを止めた。私の突然のsu発動にコマンドを入れていないメイルが仰天して動きを止めていた。
「ちょ・・・・・・ちょっと、急に何するのさ。ますたー」
「おっと、こっちも同時にするか。メイル、su権限において稼動停止、再起動メンテナンスモードにて待機」
「わ〜 マスターおーぼー!!」
メイルの抗議はそのまま宙に浮く形で、彼女はゆっくりとテーブルに降り立った。その表情はティナ達と同じくうつろ。自己の判断ではなく外部からの命令に依存して稼動するモードへと切り替わった。
「さてと、ティナから始めるか。こちらの世界に来てからのエラーログを時系列でソート、テキスト形式でファイルに時間と内容を書き出して、書き出し完了後ファイルオープン。なお、ログを参照する際は閲覧モードのみ許可。改竄は是を許さないからね」
「了解シマシタ。ますたー」
普段よりやや硬質で作り物めいた返事を返すティナ。その表情も同様に普段の生き生きとしたそれではなく人形・・・・・・さもなければフィギュアの様に生気の無いそれだった。
同じコマンドをレイナとメイルに渡して待つこと数分、軽快な電子音とともにそれぞれのエラーログレポートが私の目の前に現れた。
「完了シマシタ、ますたー」
目の前で中空に展開されたウィンドにざっと目を通す。それぞれ左端にはスクロールバーが表示された。そのバーの幅から推測するに10000行近くありそうだ。とりあえずエラーの種類で統計を作成し、概要を確認する。実体化プログラムが不正な呼び出され方をして発生しているエラーが1日あたりざっと50、空間上に仮想展開したプログラムを開放しきれず、やむなく強制開放しているものが10〜20少々、魔方陣を通して実体化(エミュレート)している為に意図したとおりに実体化・展開できず、簡略化するなどしてごまかした細かいエラーなど細かいエラーは500を超えた。よくぞまぁメモリリークで落ちたりコアを吐いたりしなかったものだ。
多少のパラメータ設定をこの世界用に修正し、とりあえずの範囲でパッチを作成し、問題の場所にあてる。バンドエイド状のそのプログラムは彼女達の肩や腰に張り付くと表層スキンと同化し見分けがつかなくなった。バンドエイドよりサロンシップという言い方もあるが、この言い方は彼女達が少々ふけたように聞こえるので私の身の安全を考え差し控えることにする。
デバッグウィンドを展開し、仮想エミュレートモードで、実体化領域を確保。強制ブレークポイントを設定した上で該当するエラー個所を確保した領域内で実体化させ、状態をチェックしながら動かす、エラーをの返り値を修正して稼動が幾分ましになったところでコントロールを彼女達に返す。本来はエラーが無くなるまできちんと設定したいのだが、私はBSD公爵家の作法の詳細までは知らないし、大魔法使いリーナス率いるギルドクラスの技術を持っているわけでもない。いくらそれらが公開されているとはいえ、私の腕では根本から修正など到底出来ない。暫定処置になるのはやむを得なかった。プログラムを位置から書き直す?どこぞのMS乗りじゃ有るまいし現場でそんなことやれると思っているのはプログラムを知らない人間だ。
「すまない・・・・・・ここまで酷いことになっているとは気が付かなかった」
「イエ、私達ノ判断デス。ますたーノ所為デハアリマセン」
ティナ達を通常モードで起動し直し、様子を見る。概ね良好のようだ。パッチを当てた事による不整合はティナ達自身に修正してもらう。しばらくデバッグウィンドで様子をうかがい彼女達の稼動をチェックする。辛うじて安定しはいるものの余裕はない状態だ。私はガーム老に自分の世界へ帰還する意思を伝えた。
「パッチはあてたものの、暫定的な処置だ。是は・・・・・・長居は出来ないな」
「では?」
「あぁ、僕達の世界へ帰ろう。本格的な処置をしないと君達が崩壊しかねない」
「ご主人様がそう判断されるのなら」
身の振り方は決まった。
しかし、
第六感とも言うのだろうか
「嫌な予感」というのが付きまとって離れなかった。