Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第31話 『顛末』
月は中天に差し掛かり空は星空を映し出し
星は静かに闇を映し
影は異形の者共を抱き静かに佇んでいた
ウェアラブルPCによれば深夜2時
頭からフードをかぶり、人目をはばかるようにして「局長」「ガーム老」「酒場のマスター」「クレイン」そして「私、ティナ、レイナ、メイル」というメンバーは人目をはばかるように建物の影から影へと移りながら、学院内のある廃屋へとちかづいた。廃屋内の「局長」が所有する特殊結界仕様召喚魔方陣、それのパラメータを書き換えて我々を送還しようという作戦だ。
私を元の世界に帰すべく私が引きずっていた空間のゆがみをガーム老は寸暇を惜しんで解析しつづけた。それはこの道中でほんの一息つく間にさえ行われ、その計算に使われた羊皮紙は積み重ねると電話帳ほどにもなった、その計算と証明の束を見るにつけ頭が下がる思いだ。
既に小屋内に設置された魔方陣は日中にパラメータの書き換えが完了していた。魔方陣の大きさは直径5mほど、今だ読めないながら、いい加減見慣れてきたこの世界の文字に混じって日本語やアルファベットそれにルーンやサンスクリットらしきものが見受けられた。地球の古代に使われていた術式と何か相関関係があるのだろうか?
邪魔にならないように部屋の片隅に置かれたいくつかのランプに明かりがともされた。この学院では照明用具として自ら発光する魔法生物や魔法具も既に実用化されていたが、今回は未知なる世界へのゲートを開くと言うことで魔力干渉を減らす為、極力他の魔法具や魔法生物は使用しない方針になったとのこと。そのためセリアや姦しい妖精3人組もガブリエルも同行していない。
「忘れ物は無いかの?」
「特に持ってきたものもありませんし・・・・・・局長さんのアドバイスどおり余計なものも身につけていません。この世界に来たときと同じ格好になっています」
「ふむ・・・・・・クレイン、そちらの準備はどうじゃ?」
「魔方陣展開完了。外部保護魔方陣も起動完了です。」
「こちらも二重反転シールド準備完了だ。いつでも起動できるぞ」
「準備も出来たようじゃし、そろそろはじめるかの。その円の中央に立て」我々はガーム老の指示に従う。時折、何か静電気のようなものが私の肌を走る。すでに移転の為のエネルギーが蓄えられつつあるようだ。私はガーム老に最後の挨拶をする
「長い間お世話になりました。セリアさんにも宜しく言ってください」
「なに、感謝するのは儂の方じゃ。もう会うこともないじゃろうが時には思い出してくれ。」
別れの言葉は尽きないが、何時までもこうしているわけには行かない。胸にいくつもの言葉を抱えつつ魔方陣の中央へ戻る
「それでは移転を始める」
厳かにガーム老が宣言する
ガーム・クレイン・酒場のマスター・局長の4人が魔法陣の四方に立ち、声を合わせて唱和を始める。徐々に魔方陣が輝き始め、それは光の渦となって天井まで届いた。その光の壁の向こうにはろうろうと響く声で詠唱を続ける彼らの姿があった。魔方陣の低く大きな稼動音、それは一種のモーターのような音だった。その音量はかなりのもので既に大声でしゃべらないと聞こえそうに無かった。
視界が完全に光に包まれる中
光と音が最高潮に達し
何者かが室内に飛び込んできた
“それ”は飛び込んできた勢いそのままに光り輝く魔法の筒となった魔法陣に飛び込んだ
“それ”が魔法陣に飛び込むのと移転が行われたのは同時だった。
ただそこには
熟練の召喚術師達が呆然とそこに残されているだけだった。
かくして、異世界からの来訪者達は魔法陣の光の中へと消えていった。後の調査で移転中の魔法陣に飛び込んだのはライヴァータが召喚した異世界に属する天使達の残存するエネルギーであったことが判明。おそらく元々いた世界とこの六門世界とが繋がった瞬間に召喚によって強制的にこの世界に引き留められていた彼らのエネルギーが元いた世界へと戻ろうとした物と思われる。この現象により魔法陣は本来とは異なるポイントに繋がってしまったがそのポイントがどこになるのかは今となっては我々には知り様も無いことである。以上がこの事件の顛末である。なお、聖都サザン地下に眠る超巨大粒子加速魔法陣『ヘクサグラム』はその存在自体を秘匿、一切の公式情報から抹消することで決定が下された。とはいえ、我々の技術力であの魔法陣を再起動させることは到底不可能であろうと推測される。最後に、ライヴァータが召喚した天使によって伝えられた技術の中に電子精霊を自立的に行動させる技術があり、それが一部の魔術師に流出、その技術を元に『トロン・ジャイアント』なるものが開発されたが、制御不能に陥り、暴走という結果に終わった。儂がその対策委員長をする事になったのだが……やはり彼らに相談するしかないかのぉ……
「あー、もしもし」
「おや、お久しぶりですね。元気そうでなによりです」
「以前話していた『トロン・ジャイアント』の件、引き受けてくれんかのぉ」
「はぁ〜、もうしょうがないですね、了解しました。そちらへ向かいますから召喚魔法陣の準備お願いします」「では、宜しく頼むぞ『管理人』」
「こちらこそ『ガーム老』」
〜完〜