Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第29話 『The Holiday after War』降って沸いた聖都サザン観光だった。我々はおのぼりさんの様にセリアにガイドを頼み、名所と呼ばれるところを回ることになった。なんでもセリアやガーム老は数年前までサザンに住んでいたらしく、(元)現地の住民ならではの見所をコンパクト・ピンポイントに詳しく案内してくれた。観光ツアーよろしく小旗を持ったセリアに案内されるのは少々恥ずかしかったが・・・・・・。「聖都」と呼ばれるだけ有って聖地めぐりの巡礼者の姿もあり、そういった人たちに格安で食を提供する店もあった。商業地は活気に満ち溢れるバザーを見ることが出来た。柑橘系の果物や見たことも無い果物を山の様に積み上げ「ひとつどうだい?」と路行く人に声をかける店主もいれば一山いくらで古着を売る露天商もいる。肉屋は肉きり包丁で豪快に肉をさばき、その腕は見事なものだ。
前方にひときわ混雑した一角があった。なにかの料理屋のようだ。
「セリアさん、あれはなんですか?」
「え〜っと、『極』の店ですね。」
「『極』??」
「ええ、1年に1度、聖都エルドで料理コンテストが開かれるんです。そこでのチャンピオンは『極』という称号を得る事ができます。食べていきませんか?」
「高いんじゃないの??」
「称号と値段は関係有りませんわ」そういわれてテーブルに置いてあったお品書きをみる。辛うじて値段の見方ぐらいはわかるようになっていたがそこにかかれている値段はそう極端に高いものではなかった。せいぜい平均価格の1.2倍だろうか?
「は〜い、今日のオススメメニューはソードフィッシュの生き作りです〜!」
『極』の称号を持った料理人は驚いたことに15ぐらいの元気そうな少女だった。マグロの解体販売よろしく群集の前であっという間に魚を捌くその腕前は実に見事なものだった。
・・・・・・ティナ、よだれをたらすんじゃない。
いっそこのままこっちでのんびり暮らすのもいいかも? と思ったが、その思いはちょっとしたあることで雲散霧消した。周囲の人間にやたらじろじろと見られていることに気がついたのだ。最初は我々が物珍しいのかと思ったが、そうではないらしい。我々だけでなくセリアを相手にする時にさえちょっとよそよそしいというか、どうも妙な反応をしているようだった。
そのことに気が付いてから街並みを歩く人たちを見ていてハタときがついた。異種族がいるというわりに、この聖都には人間しかいないのだ。セリアでさえ異種族として扱われるらしい。ティナやレイナにしたところで同じようなものだった。
世界が変わっても人の本質---異様なものを排除するという---は変わらないということか。ここまで来て人間の嫌な側面を見せられるとは正直思わなかった。
やはり我々は異邦人だということなのだろうか
ぼぅっと考えながら歩いていると、急に横合いから私の腕が引っ張られた。思いがけず強い力がかかった私は抵抗する間もなく薄暗い路地へと連れ込まれた。暗さに目が慣れると一体誰が私を此処へ連れ込んだのかすぐに分かった。連れ込んだのはレイナ……いや赤いメイドキャップを外している“ミレイ”……だった。
「驚いたな。君が急に出てくるなんて」
「私も好きで出ているわけではない。しかしマスターに伝えたいことがあってな」
「レイナを通してじゃ駄目だったのか?」
「ああ、最初はその方法で伝えようと思っていたのだが、レイナもティナもマスターに伝えるのを嫌がったから直接伝えることにした。いいか?今夜にでも我々の活動ログを確認してくれ」
「ログか?」
「ここしばらくログチェックしていないだろう。」そういわれて異世界に来てから彼女達のメンテナンスをサボっていたことに気が付いた。厳密にはさぼっていたわけではないが、日常が非日常と化していたためつい失念していた。ハタと顔を上げたときには既にミレイはいなかった。
まるで誰も最初からそこのいなかったかのように。
「ご主人様〜」
小路の向こうでティナが手を振って私を呼んでいた。
「もうどこ行っているんですか。てっきり迷ったのかと思いましたよ?」
ちょっと目を離した隙に離れてしまったいたずらっ子へ注意するようにティナが話し掛ける。その横にはさっきのことが嘘だったかのようにレイナがそこにいた。私の視線に気が付くと僅かに頷いた。
そう、さっきのことは内緒ですよ?とでもいいたげに
夕刻、ガーム老が招いてくれた晩餐は豪勢ではないのものの、どこかほっとする心温まるものだった。しかしミレイの警告が頭から離れない。おいしい食事と楽しい会話が終わり、食後の酒でもと誘うガーム老の誘いを丁寧に断り、我々の世界の習慣でちょっと篭らなければならないと嘘をついて借りた宿屋の一室にこもった。まぁ、どの道ティナ達のメンテナンスは本来、一定期間ごとに行うものだし、あながち嘘とはいえないだろう。
他の人には無理を言って入らないようにお願いをしている。カーテンを閉め外からも見えないようにした。我々しかいないことを厳重に確認し、安全を確かめた上で彼女達のメンテナンスを開始。
UNIXメイドのメンテナンスは彼女達がマルチユーザーシステムなだけにその実行時には細心の注意が必要なのだ。
その様子は次回にする事にするが、その結果を一言でまとめるなら
「参ったなぁ」というところだった。
その詳細は次回にしたいと思う。