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Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編

第01章  六門世界
第28話  『Final Intercept』
 

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「電圧1GeVを超えました。更に電圧上昇中・・・・・・!」
ティナからの加圧報告が入る。
「電圧が8GeVに到達するまで後どれくらいだ?」
「1分プラスマイナス10秒です」
「レイナ、トライデントの弾頭突入予測シミュレートから照準演算値を算出してくれ! 連続斉射を行う!」
「了解しました〜 先ほどの広域攻撃呪の影響をパラメータとして計算中・・・・・・演算値だしま〜す!」
「トリガーをメインコンソールへ!」
「了解! ご主人様のマスターコンソールへ最終トリガーを設定します。」

$su
passphase?
********************************
#

一瞬、ティナが僅かに身動きする。スーパーユーザに切り替えたことによる僅かなラグのせいだ。

「我は?」
「最優先権限をもつマスターです」
「我が命は?」
「全てに最優先します」

一見馬鹿馬鹿しいやり取りだが、これを確認してから出ないと先の指示を出すのに支障がでる
su権限を使う際の一種の儀礼的なやり取りと思っていただきたい。

「これよりティナを再起動、起動時に稼動モードを排他モードへ変更。再起動後、GeVレーザーのトリガー設定を行う。」
「了解しました・・・・・・稼動モードを排他・シングルモードに切り替え、マスター以外のユーザを全て接続解除・・・・・・シェル、再起動完了、トリガーセット」
「入出力インタフェースを視聴覚及び音声出力・画面出力を除きカット。」
「入出力カット完了」
「“レイナ”との回線接続。照準パラメータを解析せよ」
「パラメータ解読中・・・・・・セット完了。斉射準備完了!」

「マグネティックバレル展開せよ」
「マグネティックバレル展開!」

ティナを基点として20mほどの空間が上空に向かって直線状に歪んで見える。空間が実際に歪んでいるわけではない。ティナが展開した超高出力磁界“マグネティックバレル”のために可視光までもがその軌跡を曲げられているのだ。

周囲の金属片は磁界に引き寄せられてティナのほうへ引き寄せられるが、直前で壁にぶつかったかの様に動きを止める。それはティナが展開したバリアフィールドよるものだ。8GeVと言われてもぴんとこない人の方が多いだろう。大雑把に言って発電会社が使う小型火力発電機一基分に相当する出力と思っていただきたい。ティナはそれだけの電力を磁力で電磁波に変換、発振することができる。正直なところ私も詳しくは理解していない。ただ、とてつないレベルでの出力だと言うことしか理解していないのだ。

「ご主人様! 対閃光防御お願いします!」
「メイル!聞こえるかっ!」
「感度良好!!」
「ガーム達に今すぐ物陰に隠れてしっかり目を塞ぐように言ってくれ! 残った弾頭を太陽の数万倍の光で焼き尽くす!!」
「りょうかい!!!」

こちらも急いで聖リコル大聖堂の中へ退避する。
さらに、かねてより準備してあったサングラスをかけ、壁の陰に隠れる

「回線を無線に切り替え、退避完了・・・・・・最終安全装置解除!」
「最終安全装置解除!! 発射トリガー何時でもOKです!!」
「レーザー発射! テンカウントダウン!」
「カウンタダウン入りますっ! 10……9……8……7……6……5……4……3……2……1……発射!!」
「発射!!」

8Gevもの電圧をかけられた電子はティナが内蔵する円周加速軌道を通過するとき、直進できなかったことにより余った進行エネルギーを電磁波として放出する。ティナの内臓偏向磁力回路によって整列され生み出された放射光は展開するマグネティックバレルで波長が互いに干渉した結果、マグネティックバレルを抜ける時には太陽の数万倍もの輝度を持った光が放出されることとなる。おまけにこの光は波長がそろえられた光・・・・・・すなわち非常に直進性の強いレーザーであるという特徴をもつ。膨大な出力のおかげで本来ならば大気圏内で受ける散乱・偏向の影響を殆ど受けず目標にそのエネルギーの大半を与えることができる・・・・・・ごく僅かに拡散するおかげでレーザーの軌跡を見ることができるのだが(レーザーの実態を肉眼で見ることは不可能である)その僅かな分でも周囲を焼き尽くす程の閃光を出すのだ。

押し間違いが無い様、大きく造られたボタンを奥まで押し込む。やや硬めに設定してあった感触は何かのスイッチを入れたようなカチッという手ごたえとともに、軽くなった。閉めてあった扉の隙間からフラッシュをいくつも焚いたような閃光が室内にまで入ってくる。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

閃光は一瞬。音も無く、その発振は終了した。慌てて外に飛び出そうとしてドアノブをつかんで思わず後ずさる。非常に高温になっていたのだ。「では、私が〜」といってレイナが開けてくれた。周囲は清められたようにきれいになっていた。まるでクリスタルのテクスチャを貼り付けたように周囲がきらめく中、ティナは僅かに俯いてそこに佇んでいた。その姿は光り輝く雪原に降り立った天使を思わせた。もっとも、今回の相手がほかならぬ“天使”というあたりが実に皮肉だが

「ティナ!」
「レーザー発振の余波でレーダー探査は出来ませんが出力と爆発音から推定して迎撃に成功。確立は99.999999%です」
「0%でない根拠は?」
「別世界に転送されたという可能性が無いわけでは在りませんが・・・・・それこそ計上するのも馬鹿らしいでしょう」

「このクリスタルみたいなのは……?」
「周囲の小石が超高熱で一度溶けてガラス状に再結晶化したものです。」
「とてつもない威力だな・・・・・・」
 
 

「い・・・・・・いかん!」
あわてふためいたガーム老の通信が腕のウェアラブルPCから漏れ聞こえた
「メイル、ガーム老と直接通信回路を開いてくれ・・・・・・どうしたんですか!」
「ヤツめ、弾頭を一つ隠していたらしい! まだ一発残っとる!!」

「ティナ! 再迎撃可能かっ!」
「内臓加圧回路がアイドリングレベルまで落ち込んでいます。レーザー発振に出力が全く足りません。無理ですっ!!」
〔変わった方法で話し合っていますね・・・・・・威力は弱くても先程の光を作り出せるのですか?〕
「・・・・・・だれだっ!?」
〔私はガブリエルです。もう一度先ほどの光を作り出せるのなら手が無いわけでは在りません。私がその光をあつめましょう〕

遥か遠くの塔で人影が腕をあげ虚空を指し示す。その先に巨大なレンズが浮かび上がる・・・・・・
「そうか、この手があったか!!ティナ、即時励起用意!」
「励起準備!」

なにもレーザーの形で最初から放たなくても良いのだ。通常のレーザーは発振される光が最初からレーザーだがやりようによっては通常の光からレーザーを作り出すことも不可能なわけではない……そう、ガブリエルが提案してきた方法はティナが光の発振、ガブリエルがそれをレーザーにするという方法だった!

「励起準備完了!」

慌ててさっきの大聖堂に駆け込む。発射コンソールを大聖堂の中に置きっぱなしだったのだ

「発射!」
「発射!!」

弱弱しいペンライト程度の光が放たれ、上空のレンズ中央に当る。その向こう側から更に細く絞り込まれた強烈な光が一直線に伸びる! ミラーを使って放射光を更に凝縮し、その威力を数万倍に増加させる・・・・・・本来は分子レベルで整列させた鏡が必要だがガブリエルは水を操り魔法的に理想的な鏡を作り出した。

そして、その最後の望みは不可視の弾頭を打ち砕いた。

遥か彼方から小さな爆発音が聞こえた。

それはミカエルの計略がついえたことを知らせる爆発音だった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(続く)