Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第27話 『Second Intercept』
「あら? 弾頭の他に何か飛んできています。何かしら? 数は8つ……他、ちょっとはっきりしないのがもう一つ有りますわ。」
「拡大望遠画像をこちらとガーム老達に出してくれ」
「了解です。画像だしますわ〜」中空ウィンドに写し出されたもの。それは鎧甲で完全武装した純白の天使8体と既におぼろな姿になったミカエルだった!
「なっ……! まだ生きていたのかっ!」
私の声が聞こえたのか? ミカエルから私の脳内に直接響くようなメッセージがあった。「愚か者め! 我々4大天使があの程度のことで滅びると思うたか!! 我が最後の力で呼び寄せた直属部隊! こやつらの剣にかかって死ぬのを誇りに思うがい!!!」
そのメッセージで力を使い果たしたのか、ミカエルの亡霊は消滅した。しかし残り8体の天使が襲いかかって来た!
「ミカエルの置きみやげか……セリアさん、あの天使達の正体分かりますか?」
「アレは……間違い有りません。アークエンジェルですっ!!」
『アークエンジェル』……それはこの世界で実在が確認されている『聖』に連なる眷属の内、最高レベルの実力を誇る存在らしい。幸いにも、天使の飛行スピードは乱流に揉まれているのかむちゃくちゃ早いというわけではない。しかし概算でもレーザー発射可能になる前に到達する。誰が迎撃できる? ガーム老は……無理だ。既に精根尽き果てている。クレインも気絶してしまっている。セリアでもアークエンジェルとなるとかなりキツイらしい。「1体ならともかく」ということだ。ティナとレイナはトライデント迎撃で手一杯。私には天使共を迎え撃つ手段がない。もはや是までか!?
「らしくないな。この程度であきらめるマスターではあるまい」
忽然と背後に現れた何者かに声をかけられる。
「ミレイ!!?」
「こんな事も有ろうかと予め待機しておいた。大体予備機の準備もせずに、この様なプロジェクトに突入するなど無謀の極みだぞ。あいつらの迎撃は私に任せてもらおう」
「だが……拳銃やマシンガンで打ち抜ける距離じゃない!」
セリアによると彼らは互いに身を守る障壁を展開しているという。もし殺るなら超遠距離である現状のまま一撃必殺しかない。ミレイが愛用している拳銃の Five-seveN や 軍用ライフル P-90が如何に高性能とはいえ、射程距離外では手の打ちようもないかと思われた。
「たかだか1000mか。なら打ってつけの銃がある」
そういって「よいしょ」とばかりに彼女が亜空間から引っぱり出してきた物は、一瞬飾りのついた物干し竿かと思ってしまった。凶悪な面構えのマズルブレーキとそれに続く長い銃身、そしてバイポッドとスコープがついたメインフレーム。最後にトリガーとイジェクター。俗に言う「狙撃銃」というものだがその全長はなんと1.5m、此処まででかかったか!?
「そう驚くな。こいつの名は『BARRETT M99 Custom "Millennium"』だ。流石にそのままでは使いにくいのでストックを詰めてハンドガード等つけたがな……障害物越しに対象を狙撃するために開発された代物だ。使用する12.7mm50口径の弾丸は国際条約で『人間』に向かって使用するのは禁止されているが、『エンジェル』相手なら別に問題ないだろう?」
どことなく人の(いや猫か?)悪い笑みを浮かべながらいつの間にか右手の中に顕わした弾丸を装填する。その弾丸の長さは手のひらから余裕ではみ出す程だ。
「それとだがな、以前に手に入れたミスリル銀の塊があっただろ?」
「ああ、全部5.7mm弾頭用に使ったんだっけ?」
「実は今から使う弾丸もミスリルジャケットだ。もっとも威力の程がどう成るかわからんがな」重い金属音と共にコッキングを行い、ひょいと両腕で抱え上げ、立ったまま構える。そんないい加減な体勢で衝撃に耐えられるのか!?
「私を誰だと思っている。そこで見ていろ」
照準を慎重に付けると、息を吐き、そして静かにトリガーを引く。至近距離にいた私には強烈な”ドンッ!”という衝撃が伝わってきた。マズルブレーキから強烈なガスが吹き出る。ミレイは僅かによろめいただけで次弾の装填にかかった。アークエンジェルはどうなった!?
慌ててウィンドを確認すると……ウィンド内のアークエンジェル一体が上半身を粉砕され落ちて行くところだった。接近する弾丸に気が付き障壁を展開したのは流石としか言いようがないが、まるで効いていない。後に確認したところ、BARRETT M99など対物ライフルと呼ばれる物は本来戦車など厳重な装甲を施した兵器をその装甲の上から撃破するために開発された物らしい。いくら障壁を展開したところで紙も同然だったらしい。
「きぃん」というイジェクトされた薬莢が地面に落ちる金属音でミレイの方を振り向いた。既に次弾を装填し終わったミレイは再びM99を抱え上げると狙撃体制に入った。
発射、排出、装填、照準、また発射
近づいてくるアークエンジェルを端から順番にミレイが打ち落としていく。彼女があまりにあっさり打ち落としていく物だからまるで縁日での出店のような印象さえ受けてしまった。
が、彼女に異変が起きたのは直ぐ直後だった。
ガキッ! ガキッ!
レバーを操作し、薬莢を排出しようとするが全く動かない!!
「ちぃっ! 張り付いたか!!」
連続射撃が過ぎたのか爆圧で薬莢が内部に張り付いてしまったらしい。
「アークエンジェルはどうなった!」
「後2体、まっすぐこちらに向かっている!」
「ふっ、まずは脅威となる私から狙ってきたか!!」その場にM99を投げ捨てるとスカート下からFive-seveNを取り出し、安全装置を解除。もうアークエンジェルまでそう距離はない。
「!」
彼女が振り向きざまに放った5.7mm弾丸はその弾頭に刻まれたディスペルフィールドによりアークエンジェルが展開した障壁を無効化、一体をその場に沈めた。もう一体は!?
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ステルスとなる外套を来ていたのか突如として現れたアークエンジェルがミレイの背後から襲いかかる。さっきのは死兵かっ! 覚悟を決めたその一瞬、襲いかかった最後のアークエンジェルは剣を振りかざしたまま空中で動きを止めた。
ずる
ずるずる
ずるずるずる中央線から縦に三つに……そう、まるで三枚におろしたかのように……アークエンジェルは分かれた。こんな芸当が出来るのは……
「あぶないところでしたわ〜」
本当にそう思っているのか怪しいくらいのほほんとした声で、その芸当をやってのけた本人はこちらの無事を確認した。にくきうグローブに僅かについた返り血をぺろりとなめる。見かけは可愛いのだが……とうてい現場を見た直後でなければ信じがたい光景だろう。
「そちらの計算は終わったのか?」
「ええ、もう最終照準演算完了して、ティナさんにお渡ししました〜 あとはマスターがトリガーを引くだけですわ〜」「ミレイ、レイナ。ありがとう」
「礼を言われるようなことはしていない。やるべき事をやったまでだ」
「ご主人様、最後の大仕事が残っています。さぁ、がんばりましょう〜」ティナから発射照準最終シーケンスのダイアログが来ていた。
さぁ、最終迎撃だ!