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Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編

第01章  六門世界
第26話  『First Intercept
 

「こちらの準備が出来た! はじめるぞ!!」
中空に展開していた画面からガームの声が聞こえた。ガーム達が陣取っている塔まではかなり距離があるのでメイルが中継をする形で画像と音声を使いリアルタイム通信できるようにしてある。私の周囲には『ヘクサグラム』のmanaインテーク監視モニタが6つ、それにプロパティを表示した計7つの中空ウィンドが展開してあった。ネコミミUNIXメイドでない私にはこれぐらいのウィンド数が限界だ。それとは別にひときわ大きな画面を中空ウィンド群よりやや上に展開してある。現在の画面は十字路にそびえる塔で迎撃準備をしているガーム老達の様子を映し出しだしている。音声・画像とも中継は順調のようだ。

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「まずはこれじゃ!」

 右手で懐から呪符を数枚抜き放つと一番上の符を宙に放った。その符は表面に六紡星を浮かび上がらせると星の中からつむじ風を解き放った。側にいるメイルが吹き飛ばされないように必死で塔の手すりにしがみついている。台風並みの暴風だ! 

 その余波は遠く離れた私まで届いた。見る見る間に上空は暴風が荒れ狂う状態となり、空港ならば離着陸不能の判断が出る状態だ。しかし相手は空から「降ってくる」弾頭、この暴風が影響を及ぼすのか? その私の疑問にはガームのすぐ側にいたセリアが答えてくれた。この暴風は如何なる力で空を逝くものでも大地に引きずりおとすと。落ち着いて考えてみると、厳密には『飛んで』いるわけではないメイルでさえ飛べない状態になっているからそういうものなのかもしれない。ここで現状を確認する。

「レイナ、弾頭の状態は?」
「予定より早く弾頭再突入シーケンスに入りましたわ、大気圏再突入を確認。あ・・・・・・ミサイルフェアリング分離、弾頭分裂を確認しました。弾頭数は8つ、軌道から推測して内2つが情報通り核弾頭です。暴風の影響をかなり受けていますので……地上すれすれを飛ぶ軌道になりそうですわ。到着まであとおよそ30分です」

「ティナ、mana粒子の加速状況は?」
「現在予定量の50%、速度は予定の75%、私が内臓している加速回路を併用して第1射可能まで15分、再加速・チャージには更に最低で10分掛かります」

「第3射は無いってことか・・・・・・」

程なく、ガーム老から儀式魔法の展開が始まった。レイナが予測計算した進路上に魔法障壁を展開、身動きが取れなくなったところでいよいよ本命の攻撃を開始するらしい。ガームが攻撃拠点に選んだ塔自体にも何かの仕掛けがあるのか塔の随所で僅かに光が明滅していた。手元のウィンドで確認すると『ヘクサグラム』とは別にこの都市の地下にあるmanaプールから塔へmana供給ラインがのびており、どうやらそれが稼動を始めたらしい。

「ゆくぞ! 隕石豪雨!!」
ガームは裂迫の気合と共に杖に込めた魔力を呪符へ叩き付ける。その魔力が発動キーと成り、呪符から天へと白い光の塊が飛んで行き、みるみる間にその光は高度を上げていった。それは天に吸い込まれる様に消え、その代わりに体を震わせるような轟音が徐々に周囲を満たした。始めは微かに、次第に大きくなるその音は天から響き渡る。思わずディスプレイから顔を上げると天からいくつもの火球が降って来た!!

「隕石のサイズは直径5m、地表衝突時にクレーターが出来ないぎりぎりのサイズです。」
ティナが観測データとライブモニタの画像をこちらに回してきた。隕石のサイズで直径数m程なら地球でも年間数個は降ってくるサイズだ。このサイズだと突入時の衝撃と大気圏の摩擦で複数に分裂する為、一つあたりの重量が数kg程度の破片に分裂する。たかだか数kgと侮ってはいけない。このサイズさえ日本の家屋なら2階の天井から床まで一瞬で突き破るほどの威力を持つ(実話である)。並みの生命体に当ったらならば一瞬であの世逝きだろう。もっとも、自然界において隕石が生命体に当る確立は宝くじで3億円を当てるより遥かに低いのだが・・・・・・

天からの隕石群は無数に分裂、遥か彼方に隕石の雨、文字通りの「豪雨」を降らせた。その大地を叩く衝撃は聖都サザンをも振るわせる。振動が続いた時間はおよそ1分、これだけ離れていて震度3並だったからその威力の程が知れる。

「隕石の直撃で2発墜落、1発がコースをそれ地面へ落下。軌道解析からすべてダミーと判断します」

ティナの報告をガーム老に回す。それを確認してからガーム老は新たなる呪符の発動にはいった。儀式呪文の発動には膨大な精神力が必要なのか既に顔面は蒼白、脂汗がその額にはびっしりと浮いていた。ガーム老に付いてきたクレインが魔力サポートをしているようだがこちらも既に疲労が激しいのが見て取れる。セリアとガーム老についていた三人の少女たちが心配そうに見守っている。

「ここからが正念場じゃて、灼獄焔召!!」

今度の呪符はサザン前の広範囲な土地を火焔で包む形でその威力を顕した。立ち木が瞬時に燃え上がる。枯れ木ではなく青々とした生木が炎上するところを見るとおそらく数千度・・・・・・ガソリンやアルミなどを混合して作ったゼリー状燃料による焼夷弾(俗に言うナパーム弾)もかくやという激しい爆発炎上だった。唯一違うのはその焔は大地から沸きあがったということか。

「弾頭の内、もっとも低空を飛行していた1つが爆発、更にもう1つが誘爆。共にダミーです」
「爆発? どういうことだ!」
「ダミー弾頭は通常火薬による榴弾のようです!!」
「ということは全弾撃墜しないと大惨事かっ!!!」

画面内のクレインは既にダウン、ガームは杖にすがりながらも迎撃を続けようとしていた。

「じょ・・・・・・状況はどうじゃ」
「現在、残存弾頭は3つ! うち2つが本命の核弾頭ですっ!! mana加速完了まで後300秒!」
「そうか・・・・・・」

最後の気力を振り絞ってガームは残った符から1枚を残しすべて捨て去った。その符にあらん限りの力を込めていく。

「これがわしに出来る最後の力じゃ! 後は頼むぞ! 唯封殺呪!!」

ガーム老の最後の呪は・・・・・・残された核弾頭の内1つに発動した。それまで得ていたエネルギーを瞬時に奪われ、それは力なく地面へと落ちていった。

「この老いぼれはここまでじゃ、後は頼む・・・・・・」

血泡を吐きながらガームは崩れ落ちた。セリアが慌てて駆け寄るのを画面で見て取る。最後の2つは我々が叩き落す!
 
 
 
 
 
 
 
 

(続く)