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Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編

第01章  六門世界
第25話  『<ヘクサグラム>起動』
 
 

「これは・・・・・・」
「まぁ・・・・・・」
「・・・・・・」

聖リコル大聖堂の正面入り口に隠されていたシステム、それを目にした我々は三者三様、感嘆の声をあげた。其処に隠されていたmana粒子加速装置の出力ポートは、差し渡し2m在ろうかという巨大な結晶状チューブが開口しているものだったからだ。その周囲には制御回路と思われる、透明で髪の毛ほどの太さでありながら強固な硬度をもった繊維が幾重にも絡み付き、少しはなれたコンソールらしき石壇にその繊維が束ねられて繋がっていた。ピアノ線並の強度を持つ光ファイバーを連想してもらえば早いだろうか。石壇の位置は結晶状チューブ開口部から少しはなれていた。その位置はおそらく加速されたmana粒子の影響を受けないようにするためだろう。

「では、私が制御を行いますわ〜」

レイナがそう宣言すると石壇にしつらえられた椅子に腰をおろす。席の周囲にはボロボロになった資料の残骸やメモが残されていた。ざっとそれらをかき集めると、レイナは周囲にウィンドボールを展開し猛烈なスピードで記述を取り込み、解析し、検証を始めた。一つの書面を取り込み、次の書面を取り込みながら解析、更に別物を取り込みながら解析をおこない、一つ目を検証するといったようにマルチタスクの本領を発揮しながら次々と処理を始めた。そればかりではない、検証が終わったデータからmana粒子の加速シミュレートを行い必要な最適パラメータをも算出しているのだ。

「じゃあ、回線接続をしていくか・・・・・・」

教会のホールに入り込み、椅子を2つ拝借してティナと私がそれに座る。ティナは開口部からのびるクリスタルケーブルのうち、石壇に未接続だった分を自分の首輪と両腕のブレスレットに接続、システムの接続シークエンスに入る。

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msg:
粒子加速デバイスを確認
ドライバを選択……
:汎用超高出力粒子加速システム接続ドライバを選択
:発見された粒子加速デバイスを「manaシンクロトロン」と呼称

manaシンクロトロンを接続中・・・・・・シンクロトロンとティナ=インタフェース間を排他モードで接続
:排気開始
:真空度・・・・・・・・・・99.99999999%到達、引き続き真空度を維持
:体内内臓型円形粒子加速回路ウォームアップ開始

ティナとレイナの間は私が持ってきていた高速大容量通信用光ケーブルで接続されている。私の前には作業経過状況が刻一刻と映し出される進捗ウィンドが表示されていた。ハンドヘルドPCを起動、回線に接続して空間ポインティングデバイスと仮想キーボードでシステムの起動を手伝う。

暫定でmanaシンクロトロンとの接続が完了した。続いてmanaシンクロトロンの加速回路の起動に入った・・・・・・が、これがとんでもない代物だった。

「ティナさん! 第3粒子加速回路用制御プログラム、キャッシュオーバーフローですわ〜!」
「ストリームの転送量が大きすぎ!? まだ予定の半分も流していないのに!」
「転送データに処理が追いついていませ〜ん! 呼び出し元の制御統括プログラムからの引数パラメータを変更して転送速度を落としてみます〜」
「他の制御プログラムのキャッシュは!?」
「いずれも現状で容量の7〜8割も消費しています〜。ちょっと処理が滞るだけでキャッシュオーバーフローが起きます〜!!」
「ストリームの転送量を動的に変化させられるように設定できるか!?」
「今からですか!?」
「一度に全部送ろうとするから問題が起こるんだ。キャッシュの残量を確認しながら転送量を調整しながら送れば大丈夫じゃないのか!?」
「まぁ、そうですが・・・・・・でしたら処理の加速装置の状態から必要な加速パターンをシステムに計算させて返すのではなく、状態を取得して此方で計算して返せるようにモジュールの方も改造してみます〜。そうすれば向こうの処理スピードが上がってオーバーフローも抑えられるはずです〜」

とまぁ、開発とデバッグを一度にやっているような泥縄状態になってしまった。デスマーチ?起動に失敗したら文字通り死ぬだけだ。

ティナとレイナの努力のかいあって、どうにかアイドリングレベルでのmana加速回路を安定稼動に持ち込めたのはそれから1.5時間後のことだった。システムを作り上げる時間としては驚異的な速度だろう。しかしまだまだ完成にはほど遠い。これから出力レベルを上げて励起状態にまでもっていかなければならないのだ。

「外部トライアングルタワー接続開始」
「外部トライアングルタワー接続開始……1番2番4番応答有りません」
「未接続トライアングルタワーには引き続き呼び出しを続行、3・5・6番、manaインテークゲート開放」
「manaインテークゲート開放命令送ります……3番タワーゲートが予定の半分程度しか開口しません」
「状況をモニター出来ないか?」
「流石にモニターカメラはないと思いますわ〜」

いきなりmanaインテークゲートでトラブル。レイナが周辺地図を展開し、3番ポートの所在を確認する。

「この3番ゲートがあるあたりは森になっていますから木の根っこが絡み付いて動かなくなっているのかもしれません」
「現状での予想流入量は?」
「現状では予想の41%です」
「低すぎるな……」
「manaの導入時間をぎりぎりまで続ければ15%の出力低下に抑えられます〜」
「よし、それで行こう。取り込んだ分から加速開始、出始めの出力を低く抑えて回路が焼きつかないように注意してくれ。」
「了解しました。現状の最大取込量の60%で取込開始、ゲートをmanaプールへ接続・・・・・・mana流入を確認、放熱バイパス展開します。」

 どこからとも無く低くうなるサイレンが響き渡る。低い鳴動音と共に地面から金属製の筒塔が競り上がって来た。その高さおよそ10m。かすかにうなる回転音からすると頂上近くに空冷用のファンを搭載しているらしい。どうやら放熱バイパスへ流れた余剰の熱を冷やす空気の取込口らしい。
 同時に側を流れる川の流量が見る見るうちに減りだした。レイナの放熱データをこちらへ寄せて確認すると川から水を取り込んでデバイスを一旦水冷したあと、その熱を奪った水を冷やすのに強制空冷を行っているらしい。放熱塔の周囲は陽炎が立ち始めた。ティナ達は熱暴走しないだろうか? どうやら機構自体にその辺りも考えたあったらしく制御コンソール付近は以前と同じ気温のままだった。

「放熱バイパス開放、第2,第3バイパス稼動不良、予備回路へ切り替えます」

「mana精製回路起動! ウォームアップ開始!」
「mana精製回路起動、ウォームアップ開始します」
「3・・・・・・2・・・・・・1・・・・・・出力10%へ到達、さらに上昇中」
「mana精製回路出力15%に到達、アイドリングモードで待機します」

「補器加速回路1〜6番回路スタート、シンクロスタンバイ!」
「補器加速回路起動・・・・・・出力3%、誤差0.00002で出力統一!シンクロスタンバイOKです!」

「mana粒子加速回路起動!」
「mana粒子加速回路1・3・5番起動、続いて2・4・6番起動・・・・・・4番加速回路、出力不安定、接続を解除、パワーダウンとクーリングの後、再稼動かけます!」

「4番再起動・・・・・・出力許容範囲内で安定・・・・・・いずれも出力の5%誤差0.00003で揃いました!」

ティナからの返事を待ちmanaシンクトロトロンの出力を上げていく。

「よし、メイン、補器、波長同調・・・・・・加速開始、光速の10%まで出力を徐々にあげろ!」
「了解、出力微上昇・・・・・・10.1、10.2、10,3・・・・・・各加速回路シンクロを維持したまま出力増加中です」
「manaプールからの回路更に開け、流入量を安定させろ」
「manaプールからの回路更に開きます。・・・・・・コンタクト、mana粒子、内部円形加速回路へ流入量増加・・・・・・流入量秒間100k mana/s を維持します」
「粒子加速を確認・・・・・・2番4番6番流入量ややオーバーです、ライン僅かに絞ります」
「漏れはどの程度発生している?」
「2番3番5番で発生しています。もっとも酷いのは5番で10%ほど漏れています」
「トータルでの現在のmana減少量は?」
「取込出来なかった分、精製回路の不良、シートパスで漏れ出た分あわせて理想精製量の48.6%です」

予想より遥かに少ない精製量だった。正直なところ、レーザー発射にこぎつけられるかはかなり不安だ。後は、最終加速装置であるティナ次第といったところだ。

「ティナ、準備の方は良いか?」
「スタンバイ完了、何時でもOKです」

ティナの返事を待って出力ポートを徐々に開き、精製されたmanaをティナとの接続回路へ流す。このmanaを使ってエネルギーに変換。15A相当の電流を規定8GeVへ加圧していくのだ。15Aといえば普通の家庭のAC電源へ流れる電流量だが、そこにかかる電圧は100Vどころの騒ぎではない。8Gevという途方もない電圧だ。8GeVとは「電子1つ当りに8GeV」という途方も無い電圧だ。そこから生まれる電力は火力発電所1基に相当する。この膨大な電力をもってトライデントの弾頭を迎撃するレーザーのエネルギーとするのだ。こちらの世界に来た当初、召還魔方陣がトランスレータや生命維持装置の役割も果たすとはいえ、そこまで膨大なエネルギー向こうから取り出すのは不可能と判明した為、使用はあきらめていた。もっともこうやって、エネルギーが確保できたとはいえ、ここから発射可能状態まではまだまだ時間がかかる。間に合うのか・・・・・・!!?
 
 
 
 
 
 
 

(続く)