Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第24話 『神殿前の一悶着』
聖都サザン・・・・・・それは都市中心部にエルド教会郡を抱え、その周囲へ居住区を展開して規模を拡大していった門前町である。都市の人口は我々の世界で比較するならば時代にしてルネッサンス以前、欧州に於ける大規模な都市(パリ等)と同じくおよそ10万人(亜人間含む)、したがってそれに応じた都市の規模となっている。徳川幕府中期の江戸は人口100万といわれているが、当時の欧州ではまず実現不可能な都市の規模であった。その規模を左右する最大の要因は穀物収穫高である。
比較的乾燥に強いという利点を持つ小麦は一度耕作すると畑の養分を使い果たす為、連年耕作をすると収穫が激減してしまう。解決策としては土地を休ませる他無く、そのため敷地内をいくつかのブロックに分割し、小麦を栽培する場所をローテーションさせる必要がある。結果として土地の一部しか耕作に使えないことになる。一方米は、栽培に大量の水を必要とする問題点をクリアできれば、同一の土地で連年耕作が可能な上に、条件さえ整えば二毛作さえ可能だ。よって同じ耕作面積でも小麦耕作圏では米耕作圏と比較すると養える人口に大きな差が出てくる。この六門世界の中心地、聖都サザンもそういった小麦耕作圏にあった。(もっとも、我々の世界の小麦とよく似た植生の穀物が主食ということだが)
ほぼ円状の市街地を交通の要となる川が中央を少し外れて南北に貫いている。それと直行するように幅4mもの大通りがウォーレス方面から都市中心部、教会群のそばを通過、タージケント方面まで伸びてゆく。教会群を背にし、タージケント方面とウォーレス方面への分岐点とも言うべき広場はサザンを横切る川を利用した公共交通機関への乗り場に隣接していることもあり、交通の要所として大勢の人々で賑わっていたはずだ。剣を飲む芸を見せる者、ナイフを何本もジャグリングするもの。同時にいくつもの楽器をあやつり軽快な楽曲を奏でる者、お菓子や飲み物を売る出店など・・・・・・いつも見られる光景は、つい先ほどのトライデントミサイルの発射により打ち砕かれていた。それが意味するところはわからずとも、轟音と噴煙を立てて空高く駆け上っていくミサイル、教会騎士と聖職者とが慌てふためくように走り抜ける光景に人々はただならぬものを感じたのか、我々がやってきた時には広場や大通りはおろか小路にまで誰もいない閑散とした状態だった。
「皆さんに退避していただかなくてもよくなったのは幸いですわ〜」
「周囲に人がいると何か問題でも?」
「核弾頭迎撃に使用する超・大強度レーザーの波長はガンマ線を使用します〜 8GeVもの出力で発振した場合、レーザーが持つエネルギーの余波で通過領域とその周囲の大気分子は励起され、余剰のエネルギーが放射線として発振・放射されます〜 余剰エネルギー分を放出しきれば放射線放射は止みますし、発振される放射線は貫通力が非常に弱いので紙1枚程度でシャットアウトできます〜 ですから被曝はご主人様以外問題になりませんが・・・・・・そういう意味で理由はどうあれ射線軸近辺に人がいないのは助かります〜」
「私は被爆してもいいのか(汗)」
「私達の近くにいる時点で既に手遅れです〜」
・・・・・・そりゃまぁそうなんだけどね東西に貫く大通りの遥か先、高くそびえ立つ時計台の周囲に人影が見えた。逃げ出していない人がいたのかっ!?
「メイル! 前方の人々にすぐにここから逃げ出すように伝えてくれ!」
「りょ〜かい!!」放たれた矢のように飛び去るメイル、程なく、メイルからの連絡がウェアラブルPCに届いた
『マスター、ガームおじいさんたちだったよ。』
「そういえば戦略級儀式スペルとかで攻撃しかけるって言っていたっけ・・・・・・その場所で準備するのか確認してくれ」
『え〜とね、今いるところの時計台から仕掛けるって』私がいる広場からガーム老がいるところまでおよそ500m、そこは南北の街道が東西に伸びる街道と交わる聖都サザンの中でも1,2を争うにぎやかな界隈だった。騒ぎの為人気の無くなった十字路を見下ろすように時計台は聳え立っている。辛うじてガブリエルとわかる人影とセリアとクレイン、そして14〜5歳ぐらいの3人の少女達を引き連れ彼らは塔の中へと入っていった。
「さてと、此方も準備始めるか。メイル! そのままガーム達との通信回線を維持してくれ!」
『了解!』メイルの元気な返事を確認したのち、聖リコル大聖堂を振り仰ぐ。ゴシック風に似た大聖堂はどっしりとした重厚感を持つ欧州の教会にあるように、正面に扉があった。神の威圧感を現す重厚な3つの扉のうち、中央は神(どのような神かは知らないが)が使う門として封印され使用出来ないようになっていた。参拝客は左右の通用門を使うようになっており左右の通用門はしばらく進んだところで正面ホール、さらに式典など行う講堂へと続く。しかし「局長」から受け取った資料によると、聖リコル大聖堂の中央扉は地下mana粒子加速装置からの出力ポートの一つだという。その論拠の一つに中央扉から入ってすぐの空間が存在するはずの場所は内部からは隔離され、地下へと繋がる空間があった。飾りとしての(あるいは宗教的な意味としての)門ならば隔離空間など造らなくてもいいだろう。その地下への隔離空間は何かがそこに存在することを意味していた。
「さてと・・・・・・どうやってこの門を開ける? 鍵穴どころかドアノブさえ無いみたいだが」
「神や聖霊が通る通用門だというのなら此方も聖霊になればいいのではないでしょうか〜」
「【魔】ならともかく、どうやって【聖】になれって?」
「ガーム老からこういったものをお借りしてきました〜」
レイナは粉のようなものが詰まった小袋を取り出した。
「これは?」
「対象の属性に一時的に上書きする粉だそうです〜。」
なるほど、これで一時的に我々を【聖】属性にして扉を開こうという作戦か。ぱらぱらと頭にかけられる黄金の粉は金色からやわらかい光を放つ白色へと変化しながら落ちていった。袋の中身がすっかり空になるまで粉を浴び、いよいよ扉に向きおなった。「ティナはレーザー発振という大役があるし、レイナは制御演算担当。ましてメイルが扉を開くことは出来そうにないし通信も担当してもらっている。何か合っても一番被害が少ない私が開けるべきじゃないか?」
「ご主人様にそんな危険なことをさせるわけには行きません! ここはシステムの防護壁を常に担当している私が開けるべきです!」
「RAID5でダメージを追っても瞬時に回復できる私こそが最適だと自薦しますわ〜」おのおの言い合っているが何のことは無い、自分が最初に見たいだけのことだった。
「うわっと!」
喧喧諤諤言い争っている最中、ティナが一歩前へ出た為に、私は彼女をよけようとして扉にぶつかってしまい・・・・・・その瞬間、中央の扉が静かに光り始めた。低い鳴動音と共に扉は少しずつ開き始め、内部の様子が見えはじめた。
そこには地下へ繋がる深淵がぽっかりと口を開けており、そこからのびる様々の物体は我々を驚愕させる物達ばかりだった。