Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第21話 『ライヴァータ 最後の抵抗』
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鉄扉を閉め、さらに奥へと階段を駆け下りる。程なくたどり付いた広大な部屋、そこは暗い中にいくつもの見慣れたコンソールの光が浮かび上がっていた。周囲に並ぶ光の一つに近づく。CRTディスプレイに表示された情報は既にミサイルは発射ダウンシーケンスに突入していることを示していた。慌ててティナから貰った包みを破る。丁寧にリボンまでかけられたその箱の中には・・・・・・なんとミニサイズのクラック用ティナがいた。
「ご主人様、早速とめてきますね」
そういうや否やティナは数字が減っていく画面へと飛び込んだ。3600を切ったばかりのカウントダウンはやがてカウントスピードを減じて停止、やがて疲れた様子のミニティナが画面から帰ってきた。
「もうたいへんでした。ハウンドプログラムはいるしマクロファージプログラムは巡回しているし、そこら中アラームプログラムとトラップでいっぱいでした。でもでもコアプログラムを強制停止させてきたから二度とつかえません。もう安心です!」
「元々アメリカ軍のプログラムってそんなに厳重だった?」
「それなんです。セキュリティシステム構築者が全部ミカエルだったんです! あのセキュリティレベルは大国軍事サーバに匹敵します。いつから天使はあそこまで高度なシステム構築もするようになったのか? もし、事を構えていなければ、いろいろ話とか技術交換をしたいぐらいです」
「案外自分の力を分けて、そういったエージェントを作ったのかも」
「十分ありえます。それぞれが異なった判断基準を持っていましたから・・・・・・アレだけの数をまともに造っていては時間が足りないでしょう」
「ちょっと待った、ひょっとしてクラック成功がミカエルにばれているんじゃないか?」
「大丈夫です。監視プログラムには偽情報掴ませています。システム停止はばれていません」
「しかし、あっさり止まったなぁ・・・・・・」
「あっさりってご主人様がここまでこれたから止められたんじゃないですか」
「そうかもしれないけどちょっと拍子抜けだし」そこまで言った時、ぱっと室内に明かりがともった。見慣れた蛍光灯の明かりの下コンソール群の向こうにはライヴァータが立っていた。そこでようやく気がついたのだが、この部屋は何かの整備庫らしい。天井までが非常に高く、先ほどの回廊と同じように非常に太い石柱が並んでおり、その石柱には何本ものケーブルが繋がっていた。階段が曲がりくねっていたから分からなかったが、どうやらこの部屋は回廊の真下に相当するらしい。
「既にミサイル発射プログラムは停止した。ミカエルには分からないようにしてあるし、仲間が足止め中だ。どこへ目掛けて撃つつもりか知らないけれどもう不可能だ」
「貴様か・・・・・・私の野望を尽く妨害してきたのは。異世界からの天使の軍勢召還は間違って召還した貴様の所為で上位4体を呼び出したところで出来なくなり、召還した天使達も歪められた状態でやってきた。この世界を浄化しようとメギドの光槍を準備すれば、それさえもくい止められる。せめて・・・・・・貴様だけは抹殺してくれるっ! ゆけっ!わが下僕よ!!」ライヴァータの声に応じて何もない空間が揺らめく。それは巨大な象牙色の石像となりこちらに向かってきた!
「やれ! 障害物をたたきつぶせ!!」
剣を構え此方に向かってくる立像、その動きは鈍重そうな見かけと異なり、軽快で敏捷だ。一旦つかまれば最後だろう
「え〜いっ!」
ミニティナが電撃を発射、しかし、電撃は立像の構える盾で散らされ、何事も無かったかのようにこちらに向かってくる。立像のすぐ後ろにいたライヴァータが杖を構えて呪を放つ。いきなり足元を掬われた。ころびつつも慌てて逃げ惑う私の懐からブレスレットが出てきた・・・・・・レイナから預かったシステム統合ロックキーだ。そうだ!
私はそれを手にとるとフリスビーの要領で立像目掛けて投げ放った。甲高い金属音を立ててリングは立像に当った。
「System Lock !」
私のコマンドに応じてリングが立像を捕らえる。瞬時に展開したリングは立像とライヴァータを捕縛する金属拘束具となり身動きを封じた!
「さてと、形勢逆転かな?」
「くっ! このような手があるとは!!」
「さて、いいかげん私を狙うのはやめてもらえませんか? 貴方がこの世界を征服するのは貴方の勝手ですが私を巻き込ないでください。貴方さえ協力してもらえたら私は帰還できるですから。そうすれば貴方は天使の召還ができるでしょう? その後に貴方がこの世界で何をしようと貴方の自由です。」
「ふん、この期に及んで私を陥れようとするかっ! ならば私に付き合ってあの世まで行ってもらうぞ!」そう言ったかと思うと彼の目の前に筒状のものが出てきた。その端には細い綱のようなものが有り火がついている・・・・・・爆薬かっ!?
次の瞬間、私の“左腕”は無意識の内に動いていた。瞬時に腰からデリンジャーを抜き放つとクイックドロウで連続2射、1発は導火線を打ち抜き、もう一発は立像の眉間を打ち抜いていた。ガームが作り出したミスリル製対魔法弾頭はその威力を正確に発動した。着弾と同時に展開した魔力無効化領域の為に立像はその存在を支える力を失い消滅。装着していた鎧や盾が周囲に散らばった。石像が構えていた長大な剣も同様に落下し・・・・・・その下にライヴァータがいた。動く間もなく、ライヴァータはその剣で頭を砕かれた。即死だろう。
呆然とする私を正気つかせたのはミニティナの叫び声だった
「ご主人様! トライデント発射コマンドが入りましたっ!! 即事発射です!!! すぐに逃げてください!!!!」
「逃げるって・・・・・・どうして?」
「この回廊の柱はトライデントミサイルのカモフラージュなんです!! ここに居たらロケットエンジンの噴射焔でやき殺されます!!」
「今から阻止は出来ないかっ!?」
「制御用ケーブルが外されました!! 外部からの入力は物理的に不可能です!!」それだけ聞くとミニティナとリングを引っつかむ。走りながら左手のウェアラブルPCからショートカットボタンで通信ウィンドを開いて音声入力モードでメイルを呼び出した。
「メイル! 聞こえるかっ!!」
「マスター、どうしたの??」
「ガーム達にすぐに丘から逃げろって伝えてくれ!!」
「りょうかいっ!」ただならぬ私の口調に状況を察したのかメイルはあれこれ聞かずに動いてくれた。
曲がりくねった階段を抜け鉄扉を開け放つと、まさにティナがミカエルに止めを刺すところだった。そうだ、ミカエルならばまだ止められるかも!?
「ティナっ! 止めを刺すなっ!!」
制止は間に合わず、トライデントはミカエルに深深と突き刺さった。いや、ミカエル自身が刺さるようにわざと動いたように見えた。ミカエルがこちらを振り返りにやりと笑ったのは気のせいだったか? 確かめる時間が惜しい。ティナを引っつかんでそのまま上へと脱出する。既に周囲は轟音で見たされていた。私とティナが外に脱出するのとトライデントが発射されたのはほとんど同時だった。階段を駆け上がったのと事態の急変とトライデントの発射が頭の中でぐるぐると周り・・・・・・しばらくは声も出ないほど混乱してミニティナをティナに返すのがやっとだった。