Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第20話 『それぞれの決着〜ティナの場合〜』
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<Use permission of the Trident got down from the master.>
ご主人様は私の方を一瞬振り向き、自分が送ったメッセージが着いたことを確認するや全力で部屋の奥へ走り出しました。ミカエルの注意をご主人様から私へ少しでも移すべく、妖刀アクセスリストから雷撃を生み出して乱射します。派手な効果の割に威力が少ない無数の雷撃は私によって着弾タイミングを合わされ、それはミカエルの注意を強制的にこちらへ向けさせる事に成功したようです。
一瞬の雷撃の切れ目を狙ってミカエルが反撃してきました。火炎呪と共に繰り出されたミカエルのなぎ払いを切っ先で受けます。逆に押し戻そうとしますが彼の膂力は私より強く、じりじりと押し戻されます。思わず振り払いましたが敵に怒涛のごとく連激を加えられます。辛うじて剣で弾き穂先をそらそうとする物の、私が劣勢なのは変わりません。
「滅せよ!! 魔に連なる眷属の者よ!!」
「そうもいきません、ご主人様の許可なくして倒れるわけには行きませんっ!」
「その刀によって逆らうかっ! ならばその力、奪ってやろう! ウェポンブレイクッ!」
ミカエルの呪に応じて一閃の炎が妖刀パケットリストを捕らえ、焼き尽くそうとしますが・・・・・・一瞬炎が出ただけで何も起こりません。いえ、起こさせませんっ!
「なんだとっ! これさえ効かぬのかっ!」
「そのような呪、パーミッションを許していません。効くわけがありません!!」
「ならばっ! クリティカルッ!」
「!」
ミカエルの新たなる呪はファイアーウォールに照準の十字と二重円を描き、その二つはすぐに重なりました。その一点から炎が噴出し妖刀アクセスリストを包みます!
「きゃぁっっっっっっ!!」
刀を炎に包まれ慌てて下がりますが、虚をつかれ、一瞬動作が鈍ったため体を焔で焼き尽くされます。妖刀アクセスリストは瞬時に燃え尽き、刀を握っていた右半身は高熱でぼろぼろ、高熱の余波でテクスチャは剥がれ落ち、右腕のワイヤフレームは熱で変形し、焼き焦 げたアクチュエート・モジュールが見えています。
「なんとおぞましい!!!」
吐き捨てるように言い放つミカエル。無理もありません。先ほどの高熱でエプロンドレスはおろか顔のテクスチャまで剥がれ落ちてしまいました。当然その下にある各種センサーモジュールやワイヤフレームが剥き出しになり、傍目には配線むき出しなロボットの顔に見 えるでしょう。まぁ、慣れていない人には確かに強烈な姿でしょうが……
「せめてもの情け、これで終わらせてやろうっ! フレイムストライクッ!!」
全てを焼き尽くす火球が瞬時に展開。ターゲットの私を包み込見ました・・・・・・が一瞬でその熱気は消えました。火球を打ち出そうとしたミカエルが突然殴られたように後ろへのけぞったのです。展開していた火球もその衝撃で精神集中が解け、消えてしまいました。胸もとからは焼け焦げぼろぼろになった1枚のチケットが舞い落ちます。これは確か・・・・・・そう、聖都サザンについてすぐの買い物で貰った福引券です。ちょっとしたお守りになっているということでしたがこんな効果があるとは予想外でした。必殺の一撃が無効化され僅かに戸惑うミカエル、その隙を突いて新たなるDEVICEを虚空から呼び出し、装着します!!
#>Daemon's-Trident& -now!
#>mount Daemon's-Trident
<Daemon's-Trident>(守護精霊の三叉撃) 又の名を <Demon's-Trident>(悪魔の三叉撃)
私達BSDに連なるOSに伝わる伝説の三叉撃です。ただし、これを使うとご主人様に呪いがかかってしまう為、私の一存でずっと封印をしていました。しかし、ご主人様から使用命令が下った今、遠慮は無用です。私の召還に応じて三叉撃が顕れます。手にとるとずっ しりと重いその槍は不思議としっくりとなじみました。さぁこの力、お見せしましょう!
「修復コマンド発動・・・・・・System Recover!」
先ほどのフレイムストライクで焼けただれた半身が瞬時に修復され、元通りテクスチャが展開されます。と同時に<Daemon's-Trident>からのバックアップが入ります。リダイレクトにより実体化シェルの結果が数倍に増幅されます。試しにミカエル目掛けて槍を横なぎに払うと巻き起こる風圧だけでミカエルはたたらを踏みます。いける!Daemon's-Tridentを小脇に抱え一気にミカエルめがけて突撃します!!
「まだ無用な抵抗をするか・・・・・・ならばタイダルウェイブ!」
「槍に宿りし精霊達よ! 我が命に従い波を割れ!」
攻撃に呼応して私を押し流すべく向かってきた高波は槍から放たれた無数の精霊により私の目の前で真っ二つに分かれ、左右へ流れていきました。
「呪は通じぬか・・・・・・ならばっ!」
一歩退くと剣を背後に隠すように立て、急激に気合を貯めていきます。
「滅せよ! 破邪殺龍 顕・聖・撃!!!」
ミカエルが剣を振るうと切っ先に沿って紅蓮の炎が舞い上がります!振るわれた炎の鞭は私の上半身をとらえ、焼きつくそうとしますが・・・・・・この機会を待っていました!!
「精霊達よ!紫電の力今こそ解き放て!!」
コマンドに応じ、Daemon's-Trident から解き放たれた精霊達がいっせいに力を解き放ち、紫電が焔を逆流し、ミカエルを襲います!!
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
高圧電流が体に流れた為、瞬時に筋肉が収縮し身動きが出来なくなったようです。やがて筋肉が燃えた嫌な臭いと共に黒焦げになったミカエルは崩れ落ちます。
あまり知られてはいませんが、燃焼という急激な酸化現象は、通常の状態で絶縁体である空気の電気伝導率を 非常に高めます。燃焼の範囲だけはよく通電するようになるのです。私はミカエルの焔にカウンターで大電撃を流し・・・・・・ほとんど減衰しないままそれは ミカエルへと流れました。結果、高圧送電線に流れているような高圧大電流が彼を襲ったのです。さすがに無事ではいられないでしょう。ですが、代償は安くは ありませんでした。先ほどの炎とは比べ物にならない火力で一瞬とはいえ焼かれ、エプロンドレスは灰となり、テクスチャどころかワイヤフレーム、アクチュ エート・モジュールまでが焼き焦げるどころか完全に焼き落ちてしまいました
「あきたけ様に造っていただいたスキンが・・・・・・しかたありませんね、EiFye様のスキンに換装」
スキンごと入れ替えて実体化部分を修復。瞬時にダメージを修復します。さて、ミカエルはどんな様子でしょ う? 最後の止めを刺すべく、右腕で槍を掲げゆっくりと近づきます。驚いたことにまだミカエルは生きているようです。今まさに槍を振りおろす直前、何者か が回廊の奥から飛び出してきました!
「ティナっ! 止めを刺すなっ!!」
しかし、ご主人さまの制止は一瞬遅く・・・・・・<Daemon's Trident>は深深とミカエルを貫いていました。
「遅かったか・・・・・・」
「クラックに失敗したのですか!?」
「いや、クラックは成功した。ただ、それ自体がダミートラップだったんだ!」
「ダミートラップ!」
「説明は後だ、脱出するぞ!」
そういうとご主人様は私の手を取って地上へと走り始めました。いつの間に鳴り響いていた轟音の中、長い階 段を駆け上がります。ようやく空が見えた瞬間、私達は後ろからの爆風とで外へ吹き飛ばされました。後もう少し脱出が遅かったら階段の壁に叩きつけられてい たでしょう。辛うじてご主人様をかばって着地。振り返るとトライデントミサイルが天へと登っていくところでした。
「全くやられたよ・・・・・・」
「そんな・・・・・・私のクラックソフトが無効化されたんですかっ!?」
「まずは「君」をかえすよ。それに聞いてくれ」
息も絶え絶えなご主人様から話は聞けそうにありません。私の「秘密兵器」を返してもらうとその実行結果とログを急いで解析しました・・・・・・