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Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編

第01章  六門世界
第19話  『回廊を守りし者』
 
 

「メイル、君はここに残るんだ!」
「え〜っ! 僕もいっしょに行くよ!!」
「だめだ、ガーム達と連絡を取れるようにメイルはここに残るんだ!!!」
「でもぉ・・・・・・」

「一緒に行ってメイルまで何か合ったら連絡が出来なくなります。連絡の重要性は貴女がよく分かっているはずでしょ?」
「分かった・・・・・・でも、絶対に帰ってきてね!」
ティナの説得にようやく納得したのかメイルはガームのところへと戻った。

「ガブリエルはまかせぃ、先へゆけっ!」

ガーム老の声に押されるようにして私とティナは、地下へと降りる階段へと向かった。かろうじてすれ違うことができるほどの幅しかない急な階段を、それぞれが持った小さなランタンを便りに急いで駆け下りる。程なく足元に明かりが見えてきた。光の中へ飛び込もうとする私は左腕をティナに強く引かれ急停止させられる。どういうことかと振り返るとティナは少し待ってくださいと小声で話し掛けてきた。自然と私も小声になる

「どうして止めたんだ?」
「ミカエルが飛び道具を構えて待ち構えていたらどうするつもりなんです? 飛び出したとたんに蜂の巣ですし、待ち受けるほうとしては狙いを定めて待っていればだけですから防衛側に非常に有利です。守るほうがたやすいということを忘れたのですか?」

そういうと虚空から妖刀パケットリストを顕すと左手に持ち替え、私の前に出た。
「ミカエルは私が足止めをします。ご主人さまはトライデントの制御・発射システムのクラックをお願いします。」
そういうと、どこからか小さな包みを取り出した。薄茶色の紙と赤いリボンでラッピングされたそれは一見すると誕生日プレゼントな外見だった。

「クラック用の秘密兵器です。発射制御コンソールの前で開けてください」
「ミカエルの足止めって・・・・・・ミカエルを2人で倒すって選択肢は無いのか?」
「残念ですがご主人様では一瞬で肉隗にされるか消し炭にされます。それ以上に時間がありません。少なくともご主人様が先行してミサイルを止めにかかったほうが成功確立が高いと読みます。さすがに発射されたら止めようがありません」

ティナ自身ならミカエルに抗しえるという言い分を聞いていて、一つ気がついたことが合った。「ミカエルを倒せる」とは言っていない。つまり、彼女もミカエルを倒せる保証は無いということだ。

「ティナ、生きて帰ってきてくれ」

管理人たる私にはそれだけ言うのがやっとだった。

階段の終着地点は同じく石造りの回廊に繋がっていた。いくつもの松明で明々と照らされた石柱の列はおよそ50m。そして先の出口らしきところに翼を持った人影が合った。彼が右手に携えている焔をまとわせている長剣に見覚えがある。炎の照り返しを受けるその顔は四大天使の長にして英知を司るミカエルに間違いない。

「来たな・・・・・・この回廊をそのままお前達の墓所としてやろう」
「お断りします。私達が滅びるのはマスターから捨てられた時です。少なくとも貴方のような歪められて召還された天使に引けを取るようなことはありません」
「ならばそのまま滅びるがよい・・・・・・ファイアジャベリン!」
「ファイアーウォール!」

ミカエルが放った白熱の火槍がティナの高速展開したシールドにぶつかる。一瞬炎が吹き荒れるもののファイアーウォールはびくともしなかった。

「わが呪を防いだと言うのかっ!?」
「先ほどライヴァータの屋敷で見せていただきました。同じ攻撃は二度も通じません!」
「ならば・・・・・・ライトニングボルト!」

今度は回廊を縦に貫いて幾本もの雷が走るが、それさえも同じようにティナが食い止めた。次々とミカエルは呪を繰り出してくる。瞬時に地割れが走り、炎が吹き荒れ、稲妻が荒れ狂い、吹雪で凍て付き、高波が押し寄せる。しかし、それらの尽くの攻撃が我々に届くことは無かった。ファイアーウォールはそれらの多段攻撃をしのぎきったのだ。

「この程度の攻撃、DoS攻撃に比べればまだまだ!たいした事ありません」
「ひょっとして此方が有利?」
「いえ、肉弾戦になればミカエルの方が圧倒的に・・・・・・って来ました!」

ミカエルが超低空飛行で勢いをつけ、剣戟を繰り出してきた。慌てて左右へ分かれると左、つまりティナの方を執拗に狙っていた。急角度でターンするとそのままティナと切り結び始めた。忘れ去られたような私の左腕で何かが震えた。ハンドヘルドPCを操作しメッセージウィンドを展開するとティナからのメールが届いていた。

<Title:none From:Tina Text:ご主人様、そのまま右端を走って奥へ向かってください。私もすぐに追いつきます>

私は即座にメールを送った。

<Title:none From:Master Text:chmod Daemon's-Trident 700>

振り向くと一瞬ティナと目が合った。彼女は頷くとミカエルの注意を引くべく電撃の嵐を派手にぶつけ始めた。ティナとミカエルの間で再び始められた呪術戦の中を回廊石柱の影、部屋の一番右端を全力で駆け出した。回廊の出口にある金属の扉を試しに引っ張ってみると思った以上に滑らかに動いた。私は自分の体がとおる分だけ僅かに引き開け、中に滑り込んだ。周囲に巻き上がる爆音で開閉音はかき消された。ティナとミカエルが呪をぶつけ合う僅かにくぐもった爆音を後に、私は石の通路を奥へと走り出した。
 
 

(続く)