Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第17話 『それぞれの決着〜レイナの場合〜』
ボキィ!!
骨が砕かれた鈍い音、それが右腕下腕部から伝わります。ウリエルの攻撃をずっと腕でガードしていましたが、どうやら耐え切れ無くなってしまったようです。音から察するに骨が度重なる衝撃に耐えきれず、折れてしまったようです。骨といってもカルシウムで出来た脊椎動物の体を支える骨格では無く、<ボーンシェル>と呼ばれる実体化シェルが稼動に際して基準となる点及びフレームの総称です。プログラム上で稼動制御を行う際の基準に過ぎませんが、フレーム異常を伝えるシグナルとしての痛覚は、稼動不良がおこり、至急修復が必要な状態であることを実体化統制シェルへ伝えます。
故障個所に修復プログラムを走らせながら打開策を練ります。ウリエルにここまで一方的に押されたのは完全に計算違いでした。さらに悪いことに、右足は瞬間的に固着した石腕でくるぶしまで固められ、移動が全く出来ない状態です。2・3発殴ってみましたがかなり強固な物質らしく、ひびさえ入りませんでした。本腰を入れれば砕けるかもしれませんがその間ウリエルの一方的な攻撃をノーガードで食らってしまうことになります。いくらなんでも足を自由にするにしてはあまりに高い代償です。
そこで私は待ったく別の選択をとることにしました
「はっ!!」
ブシューーーーーーーーーーーーーッ!!
思い切って右足首へ超高速打撃を振り下ろします。生み出された空気の流れは瞬時に対象を切断する刃となって目標へ突き進みます。
「にゃんと神拳 真空刃」
普段は敵に向かって打ち出すその刃を今度は私の足首に向かって打ち出しました。生み出された刃は固着された足首の少し上のあたりを通過、地面に繋がれていた部分が切り離されたことで私の体は自由になりました。しかし、足首を切断したのですから自由に動けるわけではありません。襲ってくる激痛とショックはあらかじめ想定してありますが、さすがに無視しうるものではありません。
わたくしの体は支えるものが無くなり切断時の衝撃そのままに左へ倒れこんでいきます。
------recover start------
推定修復完了時刻1200秒後さすがに遅すぎます。戦闘中に1200秒も悠長にウリエルが待ってくれるとは思えません。現に私の脱出方法にウリエルも一瞬驚いた様ですがすぐに気を取り直して此方へ向かってきました。
それにしても、なぜウリエルはあれだけの攻撃を食らっても堪えていないのでしょうか?
並みの鉄筋コンクリートの建造物でさえ破壊しうるダメージを与えているはずです。
ウリエルは容赦なく地面に伏せたままの私を殴りつけます。立てない以上、地面を転げまわるしかありません。できるだけウリエルの攻撃を食らわないように必死で回避、あるいはガードしながらデータベースを検索し、何とかたちあがろうとします。
「過去、無限に等しい再生能力を持つものは居ないか?」
ウリエルへの打撃のシーンを微速度撮影して再生します。確かに一瞬はダメージを与えていますがすぐに再生しています。
検索結果がありました
「大地に接触している限り無限の再生能力がある存在が神話上に有り」
そういえばウリエルは飛び蹴りなどの空中からの攻撃は一度も繰り出していません。それどころか蹴りでの攻撃さえ出していません。全て腕からの殴打でした。ひょっとして・・・・・・?
すばやく現状のわたくしで実行可能なプランを作成します。その中から最も成功確立の高いものを選び出し、プランを再修正。即時実行に移ります。
わたくしがバランスを崩し前のめりに地面へ倒れたのを好機とみたウリエルは私の背に乗りかかると首を締めて来ました。確実に止めを刺すため首の骨をへし折るつもりのようです。わたくしは・・・・・・しばらく抵抗していましたが、やがて現状では振りほどくことが不可能なことを悟りました。抵抗を止めるとウリエルはそのまま力をこめ私の頚椎を折りました。
ごきりといういやな音ともに骨が折れた感覚がしました。
ウリエルはそのまま力を暫く込め続け、私が呼吸しなくなった事を確認して、わたくしの背中から降りようとしました。わたくしの目に再び力が宿ったのはその時です。
「何時までわたくしの上に乗っているおつもりですか?」
すばやく体を半回転させ僅かに空いた空間に左腕をねじ込み、ウリエルの水月を下からかちあげます。わずかいに浮いたウリエルの下に右膝をねじ込み彼の腹を蹴り上げます。かろうじて無事な左足一本に二人分の体重全てがかかり、関節が悲鳴をあげます。その甲斐あって、ウリエルの体は完全に宙に浮きました。すばやく体制を立て直し右掌底で彼の腹を下から打ち上げます。吹き飛ばされ急激に遠ざかっていく獣のごときウリエルは顔に『ありえない!』という表情を浮かべていました。しかし、それに答えて差し上げる義務はございません。
「にゃんと神拳 終奥義、瞬獄滅殺斬!!」
浮いたウリエルへ真空刃を最大速度で次々と繰り出します。一瞬の間に無数に切断されていくウリエル。その姿が血煙の中へ霧状にまで破砕され消えていくのに1秒もかからなかったでしょう。その最後の表情には驚愕と困惑が貼り付けられたままでした。
普通は頚椎を折られたら、まず生きてはいないでしょう。ましてや頚椎を折る手ごたえまで感じているのですから折れたのは確実です。ウリエルの失敗は・・・・・・私達が生命体というより精霊に近い存在であり、この体も『必要に応じて作り出しているに過ぎない』ということに気が付かなかった。ということでしょう。実態はプログラムなのですから擬似的な頚椎を折られたとことでデバイスのエラー信号が出るだけのことです。。呼吸も止まり、体温が下がっていく様子を死んだものと思ったのでしょうが、実際は処理を止めたことによる副次的なものです。抵抗を止めたのも息苦しくなったからではなく、全処理能力を右足の再生に回した為です。どうにか最後の最後で間に合いました。あの短時間で再生できたのは右足だけですが・・・・・・
それにしてもダメージの蓄積量が多すぎます。いっそ1回再起動したほうがいいのではないかと思うほどです。頚椎が折れているので頭も満足に動かす事が出来ませんし、全身に負った打撲の回復は遅々として進みません。ウリエルとの対決で少々エネルギーを使いすぎてしまったようです。ティナさんには申し訳ないのですが一時的に全外部処理を停止して再生に全力を向けさせていただきます。
マスター、ティナさん、メイルさん、そしてミレイさん
申し訳ありませんが少々休ませていただきます・・・・・・