Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第16話 『それぞれの決着〜ミレイの場合〜』
すでに拳銃のベレッタもサブマシンガンのイングラムも手元にない。先ほどラファエルによって遠くに弾き飛ばされてしまった。太ももの裂傷が痛むのをこらえて強引に立ち上がる。確認すると右太ももの肉はごっそりと持っていかれ、白いものが見えていた。大腿骨か? 最低限の稼動に必要な部分だけは生き残っていることを確認し、そのままにする。
痛覚をカットすれば楽なのは分かっているが、痛覚とは私達の場合、実体化シェルの損傷を報告するエラー信号だ。下手にカットすると、いざというときに致命的なミスをする可能性も有る。あえて痛みをそのままにする。懐の隠しポケットから小さなナイフを取り出す。第二次世界大戦中ドイツで作られた特殊部隊仕様のナイフだ。腰貯めに構えると弾かれるように飛び出し一気に距離を詰めて相手の腹を狙う。レイナほどではないが私でも多少は高速稼動できる。出かがりのモーションを見届けてからアクションを起こすことは十分可能だ。ラファエルは手にした長剣で打ち払おうとする。それを見とどけてナイフ柄元のスイッチを入れる。ナイフの刀身がばね仕掛けで打ち出される。ラファエルは慌てて剣を振るうコースを変え、至近距離から放たれた刀身を叩き落す……その隙をついて手元に残った柄をラファエル目掛けて投げつける! それほどの痛手を与えられた訳ではないが僅かな隙を造ることに成功。虚空から愛用の拳銃を取り出す。『 Five-seveN 』さぁ、こいつを防げるか?最初の1発を真上に向けて発射する。弾丸はライフリングにより回転を与えられながら爆発の圧力によって与えられた初速で弾丸は重力に逆らって空高く飛んでいった。
「ふはは! せっかく取り出した武器での攻撃も全くの無駄打ちのようだな! しかも私がその武器での攻撃を完全に防げるのを忘れたか!」
------演算完了。予測地点からの誤差19左、16前------
ラファエルの高笑いを無視し、再度撃つ。
再び風壁が弾丸の行方に立ちはだかる!
が、弾丸は何も無かったかのようにラファエルの体に食い込んだ。
一瞬何が起こったのか理解できなかったらしい。
遅れて襲ってきた激痛でようやく事態を把握したようだ「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!」
5.7mm弾丸はそのエネルギーによりラファエルの腹部装甲を易々と破壊、体内で急速に速度を減じ、その失った分の速度エネルギーは周囲の体細胞を組織ごと腹部の1/4を抉り取る結果に変化した。並みの人間ならショックと急激な出血で即死しているだろう。しかし如何なる生命力なのか、周囲に激しく血を流しながらもラファエルは生きていた。それどころか既に修復が始まっていた。傷口では激しく血が泡立ち小腸が血管をまとわりつかせながら再生していく。腹圧を元に戻すため再生する端からどんどん腹部に入って行く。
立ったまま腹部の修復を続けるラファエルに向けて再びFive-seveNを構える
------修正演算完了。予測地点から僅かに3前、7右へ------
「先ほどは油断したが2度は無い! その甘さが貴様の命取りよ!」
ラファエルは両手を振り挙げに今までに無い大きさの風の渦巻きを作り出した。その余波で周囲は台風直撃時のような暴風が吹き荒れる! 私は躊躇わずトリガーを引いた。私がトリガーを引くより一瞬早くその渦巻きは放たれた。両者の中央でぶつかる渦巻きと弾丸! 一瞬均衡、次の瞬間弾丸は渦巻きを吹き散らしラファエル目掛けて飛翔する。それをラファエルはすばやく打ち払った長剣で弾き飛ばす!!
「乱流防壁がなくとも十分防ぐことは可能! 最早終わりだ!! 私の勝ちだ!!!」
勝ち名乗りを上げるラファエル
------修正演算完了。誤差許容範囲内、3、2、1、0------
勝利を確信し、ラファエルが一歩踏み出した瞬間……
ラファエルの頭部は粉々に砕け散った。
続いて頭を失った胴体が遅れて地面に倒れ伏す
何が起こったのかラファエルは最後まで気が付くことは無かっただろう
仕掛けを言えば簡単な話だ
最初の真上に打ち上げた1発はラファエルの頭部へ当るようにコースを計算して撃ったのだ。途中、ナイフで仕掛けたのもそれを気取らせないためとラファエルを正確に着弾地点へおびき寄せるため。私が最後まで攻撃する振りを続けたのも頭上から落下してくる弾丸を気取らせないためだ。そして腹部への一撃で注意をそちらへ向けさせ、弾丸落下地点へラファエルをおびき寄せた。結果は先ほどのとおりだ。
ラファエルはこう言っていた
『あらかじめ来ると判っているのならその様な物、見なくとも止めるのは容易なことだ。』
逆にいうなら知覚できない弾丸は防げない可能性が高い。事実、ナイフの刀身は防げたが死角から飛んできた柄の部分は防げなかったではないか。もっとも、万が一に備えて弾丸にも仕掛けを施してあった。
「ブラウニー」という小さな妖精に弾丸を作ってもらった時、弾丸内部に対魔法文様を掘り込んでもらったのだ。ライフリングにより弾丸の周囲に傷がつくことにより初めて文様が完成するように仕掛けた。弾丸は目論見通りラファエルが自らの魔力で作り出した風を見事に打ち消し、彼の体を打ち砕いた。傷つくはずの無い自分の体が傷ついたことにより逆上。だが、弾丸によって傷ついた理由にまで頭が回らなかったようだ。
最後の瞬間でラファエルが頭上から落下してくる弾丸に気が付いたのかどうか定かではない。
しかし、どちらにしても結果は同じだっただろう。最も、それを何らかの方法で防いだとしても私の手の中にあったFive-seveNで打ち抜かれていた。
結局運命は同じだった。
物言わぬ躯となって倒れ伏すラファエル。その体に再生の兆候が無いことを確認し、止めに心臓をぶち抜いておく。胸と腹部に大穴があく。これで蘇ったらそれはゾンビという奴だろう。
さすがに疲れた・・・・・・
戦闘しながらの弾丸落下のシミュレーションの負担は想像を絶するものがあった。既に私自身、大腿部を始め、全身がぼろぼろになっている。ラファエルが倒れたことで自己再生機能も回復し、修復が始まっているが、いかんせん元々のダメージが大きい。まともに動けるようになるレベルまで修復が進むにはもう少し時間がかかるだろう。
マスターとレイナ、ティナには悪いが少しだけ休ませて貰おう 少しだけ・・・・・・