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Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編

第01章  六門世界
第13話  『異世界からの悪夢』
 
 

エルド教の総本山、聖リコル大聖堂を騒がせた事件から数刻・・・・・・

エルドの聖地、サザンを見渡せるその丘にライヴァータは立っていた。その側には壮年の男と無貌の仮面の男、そして杖をもった長髪の若い女性が控えていた。いずれも背中に純白の翼を持っていることから人間ではないと知れる。しかし、天使と言うにはどこか異様な気配を漂わせていた。

「メギドの光槍、準備完了いたしました。」

控えていた壮年の男性はライヴァータにそう報告した。

「例を言うぞ。わし一人ではあれを動かす事など出来そうも無かったからな」

「このラファエルの力では在りませぬ。偉大なる****のお力によるものです」

「後はわし、一人で動かせるのだな?」

「然様、地下に設けました指令陣にて命を下すだけで槍は天へと上り、そこから打ち下ろされる光と熱は悉くの世界の不浄を尽く焼き払うことでしょう」

「そして私は世界を浄化した者として天に迎えられる・・・・・・か ふはははははははは! すばらしい! すばらしいぞ!! 世界の浄化は間近だ!!!」

「敵が迫っております。ライヴァータ様は先へ指令陣へ赴かれてください」

「お主らはどうするのだ?」

「先に潜ったミカエルが御身をお守りします。我々はここで発射までの時間を稼ぎましょう。指令を出しても光槍が飛び出すまで若干時間がかかります。さぁ、お急ぎを!」
 
 
 

 彼の背後には小さな掘っ立て小屋があった。以前は街道を通行する旅人を検閲する為に使われていた小屋だ。小屋の裏手に回るとライヴァータ達は周囲に人がいないことを確認した。無貌の男は地面に指を食い込ませると、偽装された地下階段への蓋を軽々と持ち上げた。現れた地下階段をライヴァータは降りていった。後には壮年の男と女性、そして無貌の男が残った。

「私とウリエルが打って出る。ガブリエルはここで出入り口を悟られないように結界を張れ。万が一、我々が敗れたらガブリエル、君が食い止めてくれ。」

「そんな帰って来ないような言い方はやめて下さい。絶対に戻ってきてください」

「心配か? 私が彼らに負けるとでも?」

「そのようなことは在りません」

「なに、先に戦ったとき程度の実力なら心配要るまい、安心して待て。そして旧世界が滅び我々の時代が来るのを待とうではないか」

「しかし、騙したことになりませんか?」

「騙す? あやつは己を見誤って滅ぼされただけのことだ。哀れむ程の理由もない。」

まだ不満げなガブリエルを残し、ラファエルは歩き出した。

「さぁ、行くぞ、ウリエル」

ラファエルは無貌の仮面をつけたウリエルに声を掛ける。ウリエルは一つ頷くとラファエルについて小屋を出ていった。
 
 

さんさんと太陽が照る昼下がり、その様子をじっと物陰から見ていた小さい影があった。ライヴァータが地下へ降り、ラファエルとウリエルが出ていったのを確認すると、その小さい影は経緯をメールにまとめるとサザンへと送ったがそれに天使達が気が付くことはなかった……

「ボスは地下に隠れるってのは伝統的慣習ですね」

クレインの部屋を作戦指令室にしてメイルからの報告を聞いたティナはそう感想を漏らした。RPGのボスよろしくライヴァータは文字通り地下に潜った。当座の相手は4天使達のうちラファエルとウリエル。決して楽な相手ではない。

「しかし、今更地下に何を隠しているんだ?」

「『メギドの光槍』という名称がちょっと気になりますね。しかし何かを隠しているにせよ、潜伏して計画を進めているにせよ、接近して何もないって事はないでしょう。既にラファエルとウリエルがこちらに向かっていますし……」

嘆息してティナがつぶやく。

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「レイナさんのご協力のおかげでライヴァータを逮捕できそうです」

書類を抱えて戻ってきたクレインはそう教えてくれた

「前々から、いろいろライヴァータに対しては、横領や職権乱用の疑いがあったのです。几帳面にも彼は横領した金の用途や自分の独断で動かしていた聖騎士団や異教徒審問部隊の稼動記録を克明につけていました。それを証拠にしてライヴァータに対して即日で逮捕拘禁令がでました。同時に一切の権限停止命令も出されました。さすがに動くのが遅い上層部も此れだけの資料を突きつけられてはどうしようもないですね」

「じゃ、マスターはもう命を狙われないんですの?」

「ええ、先にライヴァータによって出された第138654条異教徒審問状はその元となるライヴァータの申請自体が証拠不十分および検証不可として却下されたので無効となりました。これで貴方は自由の身です」

ティナ達と万歳三唱する。意味は判らなくとも喜んでいるのはガーム達にも判ったようだ。しかし、かえってライヴァータの動向が気になる。おそらく権力を私有乱用していたことについて、追及を免れないのはライヴァータ自身わかっているはずだ。地下に潜ったのは追求を免れるためなのか? その意見に反論したのはレイナだった。

「それでしたらわざわざ地下に潜らなくても他の都市や地方へ行けばいいのではないでしょうか〜」

「それもそうだなぁ、大司祭と言っても地方まで顔を知られている訳じゃないし、地方で再起なり隠れるなりを十分図れるはず・・・・・・今更サザンにこだわる理由がない。レイナも地下に何か隠しているって意見か?」

「はい、その場所で地表から下に向かってスキャンすれば何かあるかぐらいは解析できると思います〜。 そうでなくとも未だに4大天使の内2人が警戒しています。ここに何か隠しているぞって大声で叫んでいるようなものですわ」

「ラファエルとウリエルは?」

「現在、丘の周りを周回軌道中だそうです〜」

「ちょっとすまんが此れが何かわかるか?」

差し出された塩ビ製ファイルに閉じられた紙束、この世界に似つかわしくないそれを此方に差し出して、酒場のマスターは訪ねてきた。

「挿絵がついているが、さっぱり何のことだか判らなくてなぁ・・・・・・」

ひょいっと受け取り、レイナがざっと目を通す。彼女はふんふんと読み進めながら言った。

「あらあら、トライデントミサイルの資料ですわ〜」
「トライデントミサイル?」

「ご存知在りません? 潜水艦やイージス艦に搭載されている垂直発射型大型大陸弾道間ミサイル所謂ICBMですわ〜」

「何でそんなミサイルの資料があるのさ? 私の召還に巻き込まれた?」

「あ〜、そのミサイルってなんだ?」

話についていけなくなった酒場のマスターが横から聞いてくる

「簡単に言うと私たちの国家間戦争で使われる爆弾です。爆弾自体はソラステル地方で使われていると聞きましたが、目標に投げなきゃいけませんよね?、この爆弾の特徴は自分で目標まで飛んでいって爆発することです。」

「どれくらい飛ぶんだ?」

「元々大陸間で狙うくらいの射程は在りましたが・・・・・・周辺の国家を狙うなら十分でしょう」

「・・・・・・」

突然、酒場のマスターが押し黙る。その不気味な沈黙に思わず聞いてしまう

「どうしました?」

「記録によるとライヴァータはそのミサイルとやらを呼び寄せて丘に隠していたらしい」

「おそらく奴が動かそうとしているメギドの光槍とはこのことではないのか? 話を聞くとそう思えるのじゃが」

ガーム老の発言で恐ろしいことに気が付いた。もし、ライヴァータがトライデントをもっていたとして、メイルの報告でラファエルは何といっていた? 「準備完了」といっていなかったか!?
 
 

今度はこっちが青ざめる番だった。

「レイナ・・・・・・トライデントミサイルの詳細な情報を出してくれないか」

予想だにしなかった大量破壊兵器の出現にどこまで対抗できるか? 少しでも手がかりを得るためにレイナにデータベースからトライデントミサイルの緒元を引き出させる。

「はい、さっきの資料と併せますと、隠されたトライデントはCTBC(包括的核分散禁止条約)発動後の多弾頭型で型番はD-5型、実践配備は1990年、ミサイルの最大射程は12,000km、破壊力が475キロトンの核弾頭を8搭載しているとされていますが条約規制の為、搭載弾頭数は減らされています。ちなみに広島に落とされた原爆は13キロトン、水爆や中性子爆弾ではないと仮定して推定威力は・・・・・・広島型ウラン濃縮原爆のざっと35倍、クレーターが出来てグラウンド・ゼロ、すなわち爆心地から周辺地域5kmは超高温により瞬時に100%壊滅、直後に発生する爆風で周囲は広範囲にわたって吹きとばされ深刻な放射性物質による汚染が広がります。残留放射能の影響は少なく見積もって10年。直撃した場合、少なくとも苦しむ暇もなく蒸発します。海岸沿いならその場に巨大な湾が一つ出来ますわ。もっとも、高波が発生して周囲や対岸の島々に大きな影響が出るでしょうが」

「過去の遺物が蘇ったか・・・・・・まさか・・・・・・この六門世界でトライデントを使うきかっ!!!!」

「そして核による破壊の後で自分だけがエルドの使いとして世界を支配する・・・・・・3流SFですわ」

「させてたまるかっ! ティナ、トライデントの発射中止コードはクラックできるな?」

「ネットワークが繋がっていないのでここからは無理です。せめて発射コンソールまで行けばクラックでき・・・・・・いえクラックして見せます!」

「その「トライデント」を止められるのか?」

「元々ティナはこういったことの事が専門です。彼女ができるというのなら可能です! 時間的な余裕もありません。ミサイル発射を阻止しましょう!!」

慌てて部屋から駆け出す私とティナ、レイナとメイルがそれに続く。

「外に私の馬車があります、使ってください!」

クレインが我々の背に向かって叫ぶ。はたして、彼の言う通り外には2頭立ての馬車が2台準備されていた。そのうちの手近な1台に3人飛び乗ったところでレイナが馬車を走らせ出す。
 
 

馬車の上でメイルからラファエルとウリエルがこちらへ向かっていることを教えてもらう。誰かが残って足止めするしかないだろう。

「私とレイナでウリエルとラファエルは食い止める。ティナは先に行ってミサイル発射を食い止めてくれ」

「そんな無茶ですっ! さっきの戦いでウリエルをレイナじゃ対抗し切れなかったじゃないですか! ご主人様が付いたとしても無理ですっ!」

「ご心配なく、手は考えてあります〜 『私』で十分です〜」

「レイナ・・・・・・君一人に任せて大丈夫なんだな?」

「ええ、十分見込みはあります〜対抗策は準備済みですわ〜」

そういうとレイナは右手で左腕にはめていた金属製のリングを外し、私に渡す

「そうか、この手があったか・・・・・・! だが、システム的に何かトラブルが起こっても、その被害はまともに全部自分に跳ね返るぞ?」

「覚悟の上です。今必要なのはシステムの信頼性ではなく全く異なる二つのシステムだと判断しました」

「レイナ、一つだけ命令させてくれ」

「何でしょうか?」

「絶対に「二人とも」帰ってきてくれ」

「承知しましたわ〜」

サザンの町並みは夕食の準備に向けて活気付いていた。時に周囲の人々を驚愕させながら馬車は疾走していた。大通りを馬車で疾走し、ようやくサザンを抜けたころ、、上空に点のようなものが現れ段々と大きくなってきた!

「見つかったか!」

「もうすぐ林に入ります。そうすれば上空から攻撃は困難になるはずですっ!」

ぐんぐん近づいてくる影、このままでは林に入る前に追いつかれそうだ!

「風操牙!」

彼が唱えた呪と共に、生まれたいくつもの風の小さな塊は機銃掃射のように周囲を穿った。

「風の属性を持つラファエルです!」

ラファエルに狙いをつけさせまいと馬車を右に左に走らせる。必死に風の礫を避ける馬車の前にいきなり地面から無貌の仮面の天使が現れ馬車の前に立ちはだかる!! 慌てて回避しようとするが間に合わない! 立ちふさがる無貌の仮面の男が馬車を地面へ強引に押さえつける。勢いで数十メートルひきずられた後、土煙を上げて馬車はその場に停止した。
 
 
 
 
 
 
 

(続く)