Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第12話 『陰謀』
ばんっ!!!
外部から力任せに破られた扉とともに飛び込んで来た者があった「レジスト!」
業火に焼き尽くされる寸前だった我々を光の粒が覆う。瞬時に叩き付ける豪雨のようなそれが通り過ぎた後、焔は跡形もなくなっていた。カーペットにのこる焦げ跡と物がこげた喉につく臭いの他は一面を覆う煙だった。
「大丈夫ですかっ!」
クレインとメイルはぼろぼろになった我々の様子を確認した。
「髪の毛の中まですすだらけです〜」
一旦リブートをかけ、余計なごみをきれいに落とすティナとレイナ、だがそんな芸当のできない我々はせいぜい体を叩いてすすを落すしかなかった。差し出されたコップに入った水で喉の中にまで入ったゴミをどうにか落としてからそのコップを差し出したのが酒場のマスターだということに気がついた。
「全くひどい有様だな、せっかくの調度品が熱でぼろぼろじゃないか」
「私たちよりそっちを心配しますか」
「なに、ガーム老なんぞほおっておいても死んだりしないさ。」
「火事見舞いの挨拶がそれかっ!」乱闘が始まると同時にメイルは窓からクレインのところへ飛んでいき、急を知らせたらしい。おかげで死なずにすんだのだが・・・・・・同じ被るのなら砂でなく水のほうがよかった。そう愚痴るとクレインはあることを教えてくれた。
「フレイムストライクの焔は水では消えません。対象物を焼き尽くすまで燃え続けますからレジストで焔からあなた達を守ったほうが早いのです」
水では消せない業火・・・・・・そのまま部屋に火を放って証拠隠滅の目的も合ったのだろうか?
「ところで収穫はあったのか?」
「此れから検証です、何か見つかった?」
そう彼女達に尋ねると隣室から使い込まれた一冊の分厚い本を持ってきた。「この本が鍵を握っていると思います」
「ん〜と、これって聖書?」
「ええ、旧約聖書です」
「・・・・・・そんなものがどうして鍵になるのさ」
「だって、ここは我々の世界とは異なる異世界ですよ?」
「!」そう、我々が異邦人であるようにこの本も本来在ってはならない本なのだ。それがライヴァータの書庫から出てきた・・・・・・これが意味するところは?
「他にも天使に関する記述のかかれた資料を集めた形跡があります。ライヴァータが天使を召還しようとしていたのは間違いなさそうです」
「この世界にも天使はいるんだろ?」
「この世界独自の天使は存在します。でもちょっと面白いことが在りまして・・・・・・このページ見ていただけます?」レイナがそういって差し出した本、開かれたページの左上1/4を使って一枚の挿絵が描かれていた。蝿のイラストだ。ただ、バックからその大きさは人よりも大きいと知れる。また3対の足のうち中央の対の胴体に近い第1節には髑髏が描かれていた
「これは?」
「腐敗をつかさどる蝿の王、ベルゼバブですわ。私たちの世界にもいると「されています」」
「架空の存在というわけか」
「ですが、この本はこの世界に存在する聖と魔について論じられています」
「この世界にはベルゼバブが実在するというのか!?」
「でしたらミカエルたちもこの世界にいても不思議ではないでしょう」
「だが、彼らはこっちには存在していない・・・・・・」
「この世界の誰かがベルゼバブを私たちの世界から召還したのかもしれません。マスターのように。そして、そういう方法があることを知ったライヴァータが旧約聖書を手に入れ・・・・・・」
「ミカエルたちを召還したと」
「ミカエル達4大天使は上級天使、アークエンジェルに過ぎません。ケルビムやセラフィムと違ってアークエンジェルはこの世界にも存在していますから全く手がかりが無かった、というわけではないでしょう」
「つまり、あの側近達は冗談ではなく、本当に4大天使ってことか・・・・・・?」
「そうでもなさそうじゃ」
よこからガーム老が割り込んで話し出す
「もし、本当にアークエンジェルならば我々は抵抗もできずに一瞬のうちにあの場で滅ぼされておる。おそらく召還が不完全な状態かと儂はみておる」
「召還が不完全?」
「アークエンジェルクラスともなると本来は霊的な存在じゃ。故に、その霊的な存在を100%呼び寄せて初めて召還完了となる。だが、あやつらにはそれだけの力量が無かった。何か引っかかって召還が不完全なようすじゃったな。」
「それですが・・・・・・実験日誌によるとご主人様の後、彼らを呼び出した記録があります。ですがご主人様の支配が召還解除も操作もできない、いわばゾンビプロセスというかロックされた状態になったため、4大天使も不十分な召還しかできなかったと記載されていました」
「私が死ねば4大天使がライヴァータのコントロールに入って、しかも・・・・・・・」
「彼らが率いるとされる天使の軍団、ケルビムやセラフィムがこの世界に流れ込んでくる可能性も在ります。」振り返ってガーム老達に聞く。
「彼の居場所はわかりますか?」
「テレポート直後だ、追跡は十分可能だし、既にやっとるよ。この場所は・・・・・・サザン郊外、環状列石と三角塔の森の間、サザンを見渡せる大きな丘だな」どうやら酒場のマスターも術師らしい。手間もかかった風もなくそう答える。
「天使と悪魔がこの世界でハルマゲドンやろうが私には関係無いが・・・・・・だからといって私の命が代償にされるのは気に食わない。丘へ向かい計画を食い止める!!」
「たとえ、後世にエルドに背く者として反逆者、悪魔とされても?」
「知ったこっちゃないさ。それより自分の方が大事だ。それが悪魔と呼ばれる行為ならその名称も受け入れるよ」「BSDの精霊、ティナ=バークレイ、一命とその存在意義を賭けましてお供します!」
「Linuxの精霊、レイナ=トーバルズ、影たる存在と共にマスターをお守りします!」
「情報を司る小さき精霊メイル=デイモン、ご主人様をまもるから!」「たとえ悪魔と呼ばれても私を守ってくれるのか?」
「ご主人様、ひとつ勘違いされていますわ」
「???」
「私たちは元々『デーモン』ですよ?」確かに。
一同、顔を見合わせて笑ってしまった。覚悟の程は決まった。
たとえ異世界で朽ち果てようとも、
己の存在を守るため
たとえ「魔」とされても生き延びる
丘へ向かおう
決着を決めるために