Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第10話 『内部調査』
「それで朝っぱらからこうして大勢で押しかけてきたわけですか」
青年は我々を前にしてため息をひとつつくと我々を室内へと招きいれた。ガーム老の教え子の一人、クレインと紹介されたその青年は、神殿内にかなり大きな部屋を割り振られていた。書斎と応接間と寝室と・・・・・・それぞれが結構な大きさな個室を持っているところを見ると、役付きの結構地位の高い神官なのだろう。ふわふわのソファに埋もれるように座り込むとセリアとレイナのふたりがお茶と簡単な朝食を人数分もって来てくれた。それで朝食を取りながらこれまでの経緯を簡単に説明する。「確かに特別審問部隊が動いたという報告はありました。ちょっとその辺の書類を再審査してみましょう。それまではこの部屋で休んでいてください。少なくとも特別審問機関や聖騎士団もこの部屋に私の許可なく侵入や調査はすることはできません。安心してゆっくり休んでください。昼頃に戻ります」
そういうとクレインは我々を残し、調べ物に出かけた。私はこれ幸いとソファに埋もれこみ、寝てしまっていた。ティナに起こされたのはおよそ3時間後、中途半端な寝方をしたものだから逆に倦怠感が増しているが眠気は多少解消された。
干し野菜を戻したスープを飲んでいるとクレインが書類の束を抱えて戻って来た。
「え〜と、これとこれが特別諮問部隊出動の申請書類とそれに関する費用申請、こっちが聖騎士団出動申請書類と同じく出動費用申請です」
そう言われたが未だに文字はさっぱりなので何のことだか分からない。ただ、少なくとも彼が本来なら公開されないはずの協会内部資料を堂々と持ち出してきたのは間違いなさそうだ。「よくもまぁこんなもの持ち出せたのぉ」
「持ち出したわけじゃないです。単に業務を自室に持ち帰ってしているだけですよ。7日も申請期日を過ぎた書類をもってぬけぬけと『追加申請よろしく〜』などと言ってき来た司教に苦情なり文句なりは言ってください!」少々切れ気味なクレインは手近なスープをボールで一気飲みするとそばにあった羊皮紙の裏に怒涛のごとく書き込みをはじめた。どうやら計算をしているようだ。結果が満足の行くものだったらしくテーブルの上に置いてあった印章で書類の最後に印を押すと一息ついた様子でこちらに向き直った。
「後は此れをしかるべき大司教に渡して最終確認印を押せば終わりですが、それまでこの書類はここの部屋にあります。私は昼食をとった後、隣の部屋で少々昼寝をしています。その間の来客は全て無視してください。」
そういうと無造作にその書類を机の上に置くと隣の部屋に入ってしまった。あとはご自由に見てくださいということらしい。ガーム老を中心として書類を囲む。それらの記述によると「異世界からの侵入者が世界の秩序を破壊する公算が高いため、調査と早急なる対応のため」と明記してあった。その発案、責任者は・・・・・・ライヴァータ大司祭
「あやつか」
「ご存知なのですか?」
「ワシを学院に縛り付けて身動きできなくさせたのもあやつじゃ。何かと学院や召喚術士を敵視する男じゃった。それどころか他の司祭をその地位から追い落とそうとすることしばしばじゃったが・・・・・・権謀術数の甲斐あって大司教まで上り詰めたようじゃの」
「そんな地位の高い人間が一体何を目論んで?」「さぁ、今度は世界征服でも狙っているんじゃろ」
「世界征服・・・・・・ですか?」
「聖職の地位を登りつめるのに飽き足らず俗世にまでその権力を伸ばそうとする坊主は今に始まったことではない。ライヴァータの悪い噂はワシのところにまで聞き及んでおったよ。奴なら特別審問部隊や聖騎士団を私物化しても不思議はあるまい。」
「実に分かりやすい悪玉ですね・・・・・・でも、だからといって私物化したその権力を振るって私を付けねらう理由が見えてきません。私に一体何があるというのですか?」
「お主というよりお主の存在そのものではないかの?」
「私の存在?」
「一番最初にライヴァータが使わした特別審問部隊は迷わずお主を狙っておった。あやつがお主の存在を狙って追ったのは間違いないじゃろう。ならばなぜ狙う「必要」があったのか?なにかおぬしに消えてもらわねばならぬ理由があったのじゃろう」
「たとえば?」
「計画におぬしがいると実行時に何らかの障害になるか、あるいはおぬしが陰謀を明かす鍵になるか・・・・・・じゃな」
「探りを入れないと分かりそうに無いですね」
「だか、容易なことではないぞ。あやつは簒奪した権力を守るために政敵からの刺客を警戒して常に護衛をそばにおいておったし、奴の部屋も厳重な警戒じゃった。増して今は当時以上の警戒じゃろう」いやはや、いきなり困難なことになった。
「力ずくでねじ伏せて『私を帰せ』って脅すわけには行きませんかね」
「交渉材料が無いじゃろう。」
「私自身ってのはどうでしょう?」
「ううむ、だめでもともと、押しかけてみるか?」
「サザンについて昨日の今日での襲来となると準備もできていないでしょう。我々を見失っている今がチャンスかもしれません」
「今から行くかの?」
「時間がたてばたつほどリスクが増えます。一気に急襲しましょう!」クレインに別れをいい、ライヴァータの部屋を教えてもらう。堂々と廊下を歩き彼の部屋を目指す。鬼が出るか蛇がでるか・・・・・・いよいよ首謀者との対面だ!