Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第09話 『Under Ground World』
「都市地下にこのサイズの大空洞が有るなんて・・・・・・」
あまりの光景に、私はしばし絶句した。天井までは十数m、あまりの高さにセリアの持つランタンでもわずかに照らされる程度しか光が届かない。一面に広がる壁には彫刻らしきものがびっしりと掘り込まれ一定の間隔でそそり立つ天井を支える柱にも同様の文様が掘り込んであった。それはこの空間を作った者たちが高度な石材加工技術を持っていたことを示していた。が、以外にも床は土だった。どこか妙な匂いがする。嗅ぎ慣れない臭いだ。「ここは何ですか?」
圧倒的な雰囲気に飲まれつつ、そっと小声で酒場のマスターに訪ねる
「地下墓地だよ。遥か昔に使われた物だがな」
その答えにメイルが思わずしゃくりあげるような悲鳴をあげる。なるほど、だから床が土なのか。古代ローマにも地下墓地があったとは聞くがこの規模ほどではなかったはずだ。もっとも、腐臭がほとんどせず、見渡す限り土饅頭がへっこんだ跡も無いところを見ると使われなくなり既に相当な年月が経っているらしい。あまりに巨大で、一種荘厳な雰囲気さえ持つその空間を、先頭にたった酒場のマスターと最後尾のセリアが持つランタンの僅かな光の中、進み始めた。
どこへ向かうのかガーム老に尋ねた。
「エルド教の大本殿の下に、ほぼ同じ規模からなる闇の眷族が築いた領域が有る。その領域へ潜り、おぬしとエルドの接点を探ろうと思う。あの領域なら手に入らぬ情報は無いはずじゃて」
つまり、闇の領域で真相を探すというわけか。
広大な地下墓地もやがて終わりを迎え、更に続く狭い石造りや素彫り通路を通り・・・・・・途中何度かの休憩を挟みながら幾程進んだころか、縦横数十mに及ぶ巨大な竪穴が我々の目前に広がった。そしてそこには天井から床へ行くほど細くなる逆向けの巨大な塔が立っていた。
酒場のマスターからそれぞれに身をすっぽり包むフードを渡され、身に付けるよう指示された。それをかぶると外見では誰が誰なのか全く分からなくなってしまった。なるほど、「名無し」というわけだ。奇妙な程にネットでのUnderGroundとこういう点では一致している。竪穴の壁面から塔へは無数に石橋やつり橋がかけられていた。無言で酒場のマスターはつり橋のひとつへ近づく。袂に立つ見張り番らしき男に袖の下を渡すと身振りで番人は通れと指図した。
塔内部はマーケットになっていた。ただ、普通のマーケットと大きく異なるのは売り手が声を掛けるわけでもなく、看板が出ているわけでもない。店頭に商品さえ並べられていなく、ただ間口の小さい扉の横に男がそれぞれ立っているだけだ。そこへ買い手が店頭の売り手に小言で話し掛けると売り手は店内に入って物を持って来るかあるいは客が店内に案内され、しばらくして荷物を受け取って戻ってくる。それは手から手へそっと渡される小さくパッケージされたものもあったし、3mはあろうかという長い包みだったりもした。酒場のマスターに説明されるまでマーケットとは思えなかった市場を通り抜け、我々は小路の奥にある一軒の店へ案内された。そこには他の店と同様に店頭に全身を覆ったフードを身につけた男がたたずんでいた。
「この男がエルドの追跡を受けている。原因を調べてほしい。」
「報酬は?」
「この通りだ」酒場のマスターのハンドサインに男はうなずくと、我々を手招きした。一同後について入る。内部も雑多な・・・・・・「ハッカー」のねぐらを思わせる光景だった。男は奥から紙をとじた束を取り出すと書架にかけ無造作にあるページを開いた。しわくちゃになったものを広げたらしいその紙をガーム老と酒場のマスターは二人で覗き込む。
「ほほぅ・・・・・・」
「ふむ」ふたりして驚きの声があがる。二人して一度処分されたような後が見えるその書物を返す眇めつ内容を確認する。
「入手時刻は?」
「・・・・・・」かすかに聞こえるその声は入手時刻が今日夕刻だと告げた。
「これ以上はさすがに無理か」
「そうだな、現状ではほぼ最善のデータだろう。」
「どこへ?」
「あいつのところに厄介になるか・・・・・・ここからなら近いからな」二人は売り手に一礼すると我々を引き連れ店を出た。
「どこかへ行くのですか?」
「ああ、ちょいと総本山に潜り込むぞ」まるでちょっと先の店へ行くような気軽さでガーム老はとんでもないことをいいきった。
「潜り込むって・・・・・・私はそのエルドから追跡を受けているんですよ!?」
「なに、ここの塔の「床」はほかならぬエルドの総本殿につながっているのさ。」光と闇が遥か昔に一体だったというのは話の上のことだけではなかったらしい。酒場のマスターは再び先頭に立つと我々を再び案内し始めた。塔の内壁に沿って伸びる螺旋状の緩やかなのぼり道を時折休憩をはさみつつ上ること1時間。ハンドヘルドPCの時刻はすでに5時前を指していた。体の芯が棒を入れたようにだるい。頭も朦朧としてきたころ、目前に扉が現れた。
「俺が案内できるのはここまでだ」
酒場のマスターはそういうと道を譲った。ガーム老が先に進み出て腰から鍵束を取り出す。迷う風も無く鍵をひとつ取り出すとガチャガチャと音をさせあっさりと錠が空く音がした。酒場のマスターと私とで力をいれて扉を押し開けるとどこかの地下通路らしいところへとつながっていた。
「ゆくぞ」
今までに無く緊張した様子でガーム老は我々を先導する。
歩を進める我々の後ろで重く扉が閉まる音がした。