Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第08話 『科学と魔導の融合』
ふと、目がさめた。枕物に置いたハンドヘルドPCの画面に写る時間は23:00、あれから8時間ぐらい寝ていた計算になる。扉の外にはティナがいる気配がした。そしてベッドから離れたところにあるテーブルのところにはレイナ……いやブートディスクである赤いメイドキャップをつけていないからミレイか……が机に向かって弾丸の点検をしていた。手元を照らすランプの明かりを元に、卓上にいくつもの弾丸を立て並べ、一つ一つを丁寧に確認していた。白く鈍く光る弾頭、『ミスリル銀』を使用した特殊弾頭だ。
サザンについて真っ先に我々がしたこと、それはマジックアイテムのマーケットに行って様々な物を補充することだった。その補充した物の中に「ミレイさんから頼まれた物です」と一塊(といっても結構大きい)のミスリル銀があった。聞くところによると手のひらにすっぽり収まりそうなこのサイズで馬舎(中身込み)付の家が一軒買えるほどの金額だったらしい。それをブラウニーの手で小さく分け、5.7x28mmジャケット弾と同じサイズ・形状に加工、ブラウニー達の手で弾丸内部に微細な魔導文様を精巧に彫り込んでいく。特殊ミスリル弾頭の完成だ。
このFive-seveN用の特殊弾頭を考えついたのはガーム老だった。ミレイの「狼男用にシルバーバレットがほしいな」という冗談を本気にし、数日をかけて特殊ミスリル弾頭を考案したらしい。いやはや、学の有るというのは恐ろしいものだ。銃器が火薬の爆発により瞬間的に発生する気体の圧力によって弾丸を超高速で射出し、その弾丸による破壊力は弾丸の重量と速度、そして形状に依存することを瞬く間に理解し、強化案を打ち出してきた。「ワシにもどの程度となるかわわからん。だが、現在の弾頭よりは重くなり貫通力は増すじゃろう。今後は重装甲の敵を相手にすることが十分考えられるでの、こういった方法を考えてみたのじゃ。このミスリル弾頭は目標の内部でミスリル銀本来の柔らかさを取り戻すように魔力で設定しておる。その速度と重量により内部で弾頭は変化、目標内部に致命的なダメージを与えるじゃろう。ミスリルだけに魔力を込めれば魔力弾頭としても使用できない事も無いがいきなり実戦じゃ。あくまで『そういう使い方もできる』程度に心得るべきじゃな」とは考案者の談だ。
弾速が650m/s(グロッグでおよそ350m/sコルトパイソン357マグナムやデザートイーグルでさえ450m/s)と他の拳銃弾より遙かに高速で打ち出され(と言っても比較対照のないこの世界で比較するのも何だが)如何なるものにも影響されないこの弾頭は非常に貴重な物で正に我々の切り札となろうものだった。だが、彼女がこちらに持ち込めたアサルトライフルP−90と拳銃Five-seveN用の弾数はおよそ百数十発(これらの銃は弾が共用できる)。さらにミスリルが高額なのと加工に膨大な手間暇がかかるため完成した特殊ミスリル弾頭は30発も無い。他の小火器用も弾も併せて多少は持って来ているが、容易に使って良い数はない。だいたい、P−90をフルオートで撃てばほんの数秒で撃ち尽くすだろう。
実はこの世界にも質は悪いながら火薬は存在してる。マスケット銃(火縄銃)も存在はしているのだが火薬に絶対必要な酸化剤の材料である硝酸の精製法が確立されていない為、十分な供給ができず、未だに武器の表舞台には踊り出ていなかった。下水道が発達しており、どこでも水洗式のトイレになっていたのだが、それがこのような形で火器の発達を阻害するとはまったく意外だった。(日本では火薬に必要な硝酸を厠の土から作っていた。尿に含まれるアンモニアがバクテリアの作用で硝酸に変化するのだ)ともかく未だに武器は長剣や竿状武器であり……、火器は一般に知られていない「特殊」な武器の地位に甘んじていた。故に防御にも火器を考慮されたものは多くない。
私が起き出したのをを見るや、ミレイは一丁の銃を懐から取り出すと私に差し出した。二連装のデリンジャー、リボルバーが出る前は主流だったシンプルな構造の銃だ。
「マスターの護身用に渡しておく。これの弾頭もミスリル弾頭だ。だが、おそらく銃身が持たないだろう。衝撃にそう耐えられるとは思えないからな。たった2発だがマスターが使うのには十分だろう」
「銃身が衝撃に耐えられない? そんなにすさまじいのか?」
「それもあるがマスターの腕が衝撃にそう持つとは考えられなかったのでな。リボルバーは採用しなかった。後、デリンジャーにしたのは信頼性の問題だ。構造は単純だが、その分故障確率も少ないだろう。使わざるを得ない時が来ないことを祈るぞ」そういうと彼女はそばにあった帽子を被り直し、椅子に腰掛け、居眠りでもするかのように目を閉じた・・・・・・再び彼女が目を開けた時には、何時もの「レイナ」に戻っていた。
「おはようございます〜 マスター」
「おはよう、調子は?」
「システムチェック中・・・・・・エラーログにウィルス他、危険な記録は残されていませんわ〜 引き続きRAID5システムの再調整に入ります〜」彼女の起動が完了するとティナと見張り番を交代してもらった。
「ガーム老は?」
「セリアといっしょに別室で休まれていますわ。程なく出発するとのことです」下に3人を連れておりる。酒場には数人の男たちが不景気なツラで酒をまずそうに飲んでいた。が、変わったことに男たちは談笑するわけではなく、それぞれが勝手に飲んでいるという風だった。
「降りてきたか、準備はできているぞ」
酒場の主人は特に変わった格好をしているわけではなかった。
我々を1階カウンターから調理室へいれ、さらにそこから事務室らしき部屋へ案内し・・・・・・そこから地下室へと案内された。そこにはジャガイモやその他もろもろの野菜や酒樽が並べられその奥には扉が一つ隠されていた。ガーム老の屋敷と同じ隠し方だ。
「なんじゃおぬし、隠し方がちっとも変わっておらんのう」
「そう見えるのは外見だけだ。対人認識方法は常に改良しているぞ」
「ふむ、アンダーグラウンドに対する心得は昔のままじゃの」・・・・・・なんだかネット上でのUG系の話を聞いているようだ
隠し扉の奥は梯子になっており、そこを降りていった。百段までは数えたが途中で数えるのを止めてしまった。無限に続くかと思ったそれが終わったとき、我々は巨大な地下室にいることに気が付いた。セリアがランタンに火をともす。
そこには広大な地下空洞が広がっていた。