Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編第01章 六門世界
第07話 『聖都サザンの一角』
旅程の遥かかなたに巨大なものが見えてきた。一瞬小山かと見紛う、その建造物郡の中心にあるのはエルド教五本山の一角をなす「聖リコル大聖堂」だ。さらにその周囲には商業地や市街地、さらには下町へと続き、その隙間にはスラム街や風俗街まであった。こうなると聖都と冠されていても巨大な都市とそうかわりは無い。都市のバロメータである爛熟の程度はかなり進んだといったところか。サザンができてからすでに数百年が経過しているという。数度の大改修にもかかわらず都市の腐臭というのは消えないものらしい。もっとも、生活のにおいが変化していって腐臭となるのだから、そもそも生活のにおいが無い都市が異常なのだが。
われわれは中心に程近い一角へ案内された。都市再開発計画の間隙にできた薄暗い・・・・・・もっとはっきり表現するならスラム街といってもいいその領域は、物がすえた臭いと甘ったるい安物の香水の匂いと麻薬のものらしい妖しいにおいが一体となって漂う領域だった。道にはガラクタがうずたかく詰まれ、角には女があられもない姿をコートに包み、けだるげな表情で立っている。まだ日が高いうちから娼婦が居るという事実は、如何にこの一角が腐っているかを知らしめた。ガーム老はそんな界隈にある一軒の店に我々を招いた。外見からはまともに営業しているかわからない。その店の内部でも、かろうじてそこが営業中であるとわかる程度だった。乱雑に並べられたテーブルの上には未だに昨夜の残り物らしい皿が散乱しており、清潔とはどうがんばっても言い様の無い有様だった。そんなテーブルや適当に積み上げられた椅子の間をすいすいと縫ってガームはカウンターに行くと、そこで眠り込んでいた男の頭を杖で殴りつけた。
「こりゃ、お客人だぞ。おきんかい」
「んん〜 こんな真昼間から来るとは物好きなやつだ。営業は日が暮れてからだ。出直してきてくれ」
「ほほう。旧友に対してそんなこというのはこの口か」
「なにひゃるんだ! わふぁったふぁらやめふぇくれ(何するんだ! わかったからやめてくれ)」
「ボケぶりは相変わらずじゃのう」
「ガームこそ学部長なんぞに納まりやがって。仲間内じゃ『あのテリブル=ガームが学部長?そのうち学部ぶっ潰すんじゃないか』ってもっぱらの噂だったんだがなぁ」
「学部長と言っても地方分校の話じゃ。それに十年近く昔の話をされても忘れたわい。それこそお主らの方はどうじゃ?」
「結構長くなるしな、まぁその辺の椅子にでもすわってくれや」
男はカウンターでなにやらコップに注ぐとこちらへ寄越した
「ほら、しっかり覚えているぞ。おまえが酒はさっぱりだってことを」
そう、笑いながら出したのは・・・・・・何のことは無いりんごジュースだった。「ずいぶんいろいろあったさ・・・・・・あれからな。年少のメンバーはあれっきりパーティ組んで未だにどっかを旅しているって話しだし、スターダストのお嬢さんは今じゃエルド介護院きっての有望株って話だ。Rも未だに旅に出てそれっきりだし、結局、おまえが出る前にみんなちりじりになってそれっきりさ」
「おまえさんはどうなんだ?」
「俺だけかな?そう変わらないのは。いまだにこの界隈でこうやって酒場を切り盛りしているってくらいさ。おかげで『マッド=ヒル』の異名も昔の話だ。ところで今時ここに来るってことは、何かあったんだろう?」
「うむ、ちょいと急用でな、裏口への案内をたのめんか?」
「何を今更。裏口なら一番詳しかったのはお前の方じゃないか。そりゃ今でも俺はもぐっているからその辺については分かっているが、それでもお前のほうが上だぞ?」
「案内してほしいのはワシではない。こやつらじゃ」
そう、ガームが我々を指し示すと男はカウンターから身を乗り出しこちらを覗き込んだ
「なんだぁ? えらくひょろひょろとしたヤツだが・・・・・・こんなヤツを本当に案内するのか?」
「まともなヤツならそもそも裏口を使う必要も無かろう」
「ハナから何かあるって分けだな? まぁいいさ、詳しくは聞か無いことにしとくぜ」
「すまんのう」
「何を今更。お前にこうむった迷惑は100や200じゃ聞かないだろう」
「なにをいう! せいぜい50じゃ!」
「そういう問題じゃねぇ!」
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・・・・・・「いつものことですから2階に上がりましょう」
勝手知ったるなんとやらか、言い争いをはじめた二人を差し置いてセリアは我々を2階の一室に案内した
「今夜は夜中から動きますからそれまで寝ておいたほうてください」
そういって彼女は出て行った。室内は薄暗く、まぁ、ノミがいないだけマシという程度出しかない清潔度。ひょっとしてここは連れ込み宿か!?「ご主人様、深く考えてはだめです」
レイナとメイルはあまりのひどさに自失呆然、ティナがかろうじてまともに動けるくらいか。
「二人は私のほうで休ませておきますのでご主人様はともかく寝て置いてください。すぐ掃除しますからちょっとだけ待ってください」
そういうと、旅程の途中で手に入れたキキーモラの箒で室内をきれいにし始めた。その箒に込められた魔力で見る見るうちに室内は清められた。といっても元が元だけに幾分よくなったという程度だが。
ティナはどこに持っていたのが新しいシーツをベッドに敷きなおすと私を残し、室内へ静かに出て行った。扉の外に彼女の気配があるところを見るとそのまま警戒態勢に入っているのだろうか・・・・・・旅の疲れもあり、私はベッドにもぐりこむとそのまま泥のように眠ったのだった。