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Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編

第01章  六門世界
第06話  『持ち込まれしモノ』
 
 

前回の最後で「襲撃の様子を描写する」といったのでそれを守ろうと思う
ただ、余り盛り上がらないのはご勘弁の程を……
 
 

ガーム老の屋敷を出てすでに10日。旅慣れない私の足にできた肉刺もふさがり、少しずつだが旅の要領という物が分かってきた。そんなある日の事。朝10時頃だろうか? 手の甲の辺りに振動を感じた。パーティから離れ先行偵察しているメイルが何かを発見したらしい、メールで連絡をするように指示して有った。ハンドヘルドPCの振動はメールが届いたことを知らせるサイン、周囲に我々以外に誰もいないことを確認してそっと中空にウィンドを展開、メッセージを確認する。

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From : mail_daemon@xxxxxxxx.xx.xx
to   : master@xxxxxxxx.xx.xx
Title:敵発見

マスターの現在位置から11:45方向、距離約2kmの地点、平坦な丘陵に武装僧侶らしき部隊あり
総数およそ15人、指揮官らしき男は騎乗していることから騎士と思われる。他の武装僧侶は軽装で武器は見あたらず。街道を封鎖して通行人を臨検中。既にかなりの人数が待たされており、不満が高まっている。

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「発見された……かな?」
「丘を回り込んで回避も難しそうです」
地図をのぞき込んでセリアが答えた。この辺りはかなり見晴らしが良く、回り込むのにも身を隠す遮蔽物がさっぱり無い。こそこそと移動しよう物ならそれこそ不審に思われるだろう。

何気ないそぶりで、しかし周囲を警戒しながら丘へ向かう。レイナが先頭に立ち、既にその両手には肉球グローブが装着されていた。ティナの左手には鞘に収めた妖刀パケットリストがあり、抜き打ちで直ちに斬りかかれる準備ができたいた。セリアは矢をすぐ構えられるよう肩から外し、ガーム老は杖を短く持ち直した。私は護身用に持たされた短剣を確認する。柄を握る手があっという間に汗ばむ。
 

距離にして200m程まで近づいた頃、向こう側がこっちへゆっくりとやってきた。

「聖都サザンで反乱を企む者がいるとの情報を得たので、聖エルドの御名に於いて臨検を行っている! 従わぬ者、不要な抵抗を行った者は反乱の意志有りとして誅する!!」

最初から、いちゃもんつけて拿捕しようと言う意図が見え見えだ。行列の最後尾に乱暴に並ばされる。相当待たされ、日が中天に差し掛かった頃にようやく順番が回ってきた。

「よし次!」

居丈高によばれレイナが前に進みでる

「ん〜!? お前、種族は何だ!!?」
「種族と言われてもちょっと答えようもないのですが〜」
「あやしいヤツめ、こっちへ来い!」

レイナの腕を強引に捕らえ、側の掘っ建て小屋へつれていこうとするが……彼女の肉球グローブは片方だけで30kgはある。そんな体勢で引っ張ろう物なら……やっぱりこけた(笑)周囲からくすくすと笑い声が上がる中、検察官はますますいきり立った。

「抵抗するかっ!」

周囲にいた僧兵たちが身構えると周りの人たちは巻き込まれては大変とちりぢりになる。残されたのは我々と素手の僧兵達、それに指揮官らしき騎士だった。もはや戦闘は避けられそうにない。

「これでもくらいなさいっ!」
「待ってくださいっ!!!」

ティナが先制とばかりに前髪を励起させ、怪電波を放出しようとする。そこへ強引にレイナが割り込んで停止させる。

「あれはウィル・オー・ウィスプ、ティナさんが怪電波を使った瞬間に爆発します!!」

レイナの制止に引き下がるティナ、見ればいつの間にか鬼火のような物がふよふよと浮いていた。ガーム老の館にきてすぐに、レイナは手当たり次第その辺の書物をスキャンしていた。どうやらこの世界のデータベースをいち早く作っていたらしく、こういった動植物の知識は既に相当な物になっていた。

「すでにお前達の能力は知れ渡っている! これで終わりだな!!」

勝ち誇って騎士が我々を嘲笑する。それに向かってセリアが魔法の火炎矢「ブレイズ」を、さらに雷撃矢「トルクメン」を放つが……それに呼応するかのように敵陣からイヌミミの妖精が飛び出してきた。魔法矢は彼女が持つ箒であっという間に全て叩き落とされた。

ティナが僧兵に斬りかかる。が、僧兵は素早い動きで彼女の斬撃をかわし、的確に素手でティナに一撃を与えては間合いの外に移動する。モンクというやつらしい。その素早い動きにティナはおされっぱなしで防戦一方だ。そもそも、日本刀などの刀は完全に懐に入られると剣を振るうだけの余地が無くなり、相手に斬りかかれなくなる。戦法からしてやりにくい相手だ。レイナが撃ちかかった騎士も馬上槍で応戦。素手での攻撃であるレイナに対し、圧倒的に槍の方が素手の間合いより広いため、攻撃可能な圏内にまで近寄らせてもらえない。おまけにドーピングでもしているのか、レイナと同等にやり合っている。ガーム老は火玉をとばすが騎士の左手が光ったと思うと火玉は雲散霧消してしまった。どうやら魔法に対してまで、何らかの予防策をしてきているらしい。用意周到なことだ。

戦闘が膠着状態に陥ったかと思ったそのときだった。

「レプラコーン!」

騎士の一声に答え一陣の風と共に新たな妖精が現れた。 紫色の小さな妖精がくいくいっと手を動かすと……
 
 

なぜか私の目前に騎士がいた。
 
 
 

いや、私がいつの間にか最前線に出ているのだ!

事態を把握する前に、騎士は鐙から抜いた鉄靴で私の鳩尾を激しく蹴り飛ばした。背中まで突き抜けようかと言う衝撃に悶絶する私を素早く抱え、馬上に抱え上げると騎士は馬頭を巡らし、モンク達に指示を出した。

「此処は任せる! 私が脱出するまで足止めしろ!!」
「はっ!!」

予め打ち合わせてあったのか、私を抱え脱出しようとする騎士を追撃させまいとモンク達は陣形を変える。

「そうはさせませんわっ!」

横合いから殴りかかるレイナ、騎士は腕の一振りでレイナを壁まではじきとばす。頭を打ったらしくそのままレイナは崩れ落ち、側に吹き飛ばされた赤い帽子がおちる。ティナも逃がすまいと激しく斬りかかるが、モンク達に、また騎士の持つ盾に阻まれ有効打とはならない。上空に待避していたメイルまでもが体内に貯蔵していた電撃を一気に解き放つが、それはモンク達の左手に宿った光にかき消された。

騎士が馬頭を巡らし、一気に駆け出そうとしたその時、乾いた豆鉄砲のような音が体の側でバットをフルスイングしたような衝撃と共に私の側を駆け抜けていった。その音で馬が棒立ちになる!騎士と共に私は地面に投げ出された。馬の下敷きにならなかったのは幸いだった。地面に倒れ伏して横向けになった私の視界の中で拳銃を片手で構え、こちらを向くネコミミメイドがいた。
 
 

「マスターをどこへ連れて行くつもりだ? 私の目の前で良い度胸だな」
 
 
 
 
 
 
 
 
 

ゆらりと立ち上がったレイナ……いや、ブートディスクである帽子を被っていない事からすると、既にミレイに切り替わっているのか……その右手には拳銃、ファブリック・ナショナル社製 Five−seveNが握られていた。
 
 
 

って、この世界にそんなのありかっ!!
 
 

「アルミと鋼鉄でできたこの2gの軽量高速弾は50mでレベル3Aの防弾チョッキを貫通する。……まぁ、お前達に説明しても詮無いことだが……貴様もその威力を味わってみるがいい」

表情を変えることなくトリガーを引く。再び発せられた乾いた音と共に、騎士は右肩を押さえうずくまった。レベル3Aの防弾チョッキと言えば44マグナムの弾の直撃に耐えられる防弾チョッキに与えられるランクだ。ましてこの至近距離では、例えプレートアーマーでも紙同然だろう。事態の急変に付いていけないモンク達に向かってミレイはそのまま銃口を向け、トリガーを引く。僅か数十秒の出来事。その場にいたエルド教の者達は死亡こそしていないが、戦闘不能な重傷を負っていた……

拳銃の弾はその重量と速度によって破壊力を得る。世間一般で強力な拳銃として知られる44マグナムやコルトパイソン357マグナムなどは弾の速度を落とす反面、弾丸重量を重くすることで破壊力を増加させてきた。ミレイの持つFive−seveNは全く逆の方向、つまり小口径高速弾頭を使用する銃として開発された。軽量で反動がすくない分扱いやすい……が、あまりに強力なため市場には出回らず、厳重に管理されているはずだ。どうやってミレイががこれを手に入れたのか? 深く追求しない方が良さそうだ(汗)

「戦闘能力のない者にまで傷つけるつもりはない。降伏するなら手を後ろで組みその場でうつぶせになれ」

既に戦闘を続けるつもりが無いのか、精霊二人? 指示通りにふせた。これじゃテロに対する処置だなと苦笑しながら周囲を見回すと、鬼火はすでにいなかった、そのままどこかへと飛んでいってしまったようだ。
 

重傷を負った騎士とモンクの手当をし(弾丸は彼らの体を貫通していた)抵抗できないように拘束してみんなで彼らを小屋に放り込んだ後の事だった。

一息ついてほっとした様子のティナにミレイはつかつかと近寄った
 
 

ぱん!
 
 

ミレイの手は唐突にティナの頬を打ち抜いていた。

「なっ……!!」

ぶたれた頬を押さえ茫然自失とするティナ、ミレイはそんな彼女を見据えて言った

「お前がマスターを守らないで誰が守るんだ? 覚悟を決めろ。さもなくば消滅するぞ」
「なぜ今更貴女に言われなくてはならないのですかっ!!」
「私は常時マスターの側に存在できない。マスターの側に常にいてその御身を守れるのはお前だけだ。全力を出し切れていないのに、さもマスターを守ってきたような言い方は止めてもらおう。悔しいのならその行動で示せ」

反論しようとするティナを無視し、ガーム老とミレイはなにやら二言三言話すと私の所へ戻ってきた。

「マスター、危険にさらして済まなかった。まだレイナの方が役に立つはずだ……後は頼む」
「ちょっとまてっ……、あ……」

こちらが止める間もなく、彼女は目をつぶり、赤い帽子を頭に被った。
そうして再び彼女が目を開けたとき……彼女はいつもの「レイナ」に戻っていた。

「あら〜 すっかり片づいてしまいましたわ〜」

きょときょとと周囲の様子を確認すると伏せたままの精霊達にレイナは声を掛けた

「もういいですわ〜」

先ほどまで脅していた人物が突然人が変わったように(有る意味、変わっているだが)なり、対応が穏やかになったので驚いているようだ。レイナは精霊をこれ以上おびえさせないように落ち着いた様子(いつも通りののんびりした様子とも言う)で彼ら? とはなしている

「レイナ? もういくぞ」

あわてて身支度を整えるレイナにイヌミミ精霊が持っていた箒を手渡した。後からレイナに聞いた話、精霊達はあの騎士によって召喚され、強制的に支配されていたらしい。それを解き放って、命を助けてくれたお礼とのことだった。
 

……私自身召喚されていたら、強制的に支配されていた可能性も有ったと言うことか
そのぞっとする予想に身を震わせつつ、私は既に出発し始めたパーティに遅れないよう歩を進めたのだった。
 
 
 

(続く)