トップに戻る
一話戻る
 
Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編

第01章  六門世界
第03話  『再開』
 
 

「おはようございます」

扉を開けてセリアが挨拶をしてきた。
その片手には朝食が乗せられた盆が器用に支えられ、その量は昨日のざっと倍量。

「昨夜はずっと考え込まれていましたね。夕食をお出ししたのに全く気が付かれ無かったようですので…… お腹が減っていらっしゃるだろうと思いまして多めにお持ちしました」

そういえば空腹で目が回りそうだ。私はその朝食にかぶりついた。あっという間に全部平らげるどころかお代わりまでしてしまった。朝食からお代わりをしたのは久しぶりだ。食後のお茶をいただき、於いてあった桶に入った水で顔を洗ってから身支度をする。

セリアに案内されて再び召喚陣の部屋へ案内してもらう。ガーム老はそこのソファをに座り込んでお茶をすすっていた。私が決意を伝えるとガーム老は立ち上がりこう答えた。

「そうか、呼び寄せるのじゃな。では準備をするので召喚陣のそこでまっていてくれるかの」

そう言って召喚陣にほど近い場所を指し示した。

目を閉じ呼吸をしばらく整えた後、ガーム老は朗々と響く低い声で呪文の詠唱を始めた。長々と続くその詠唱、無茶を覚悟の上で表現するのならばアクセントの多い英語で読経と言うのが近いか?

詠唱が進むにつれ魔法陣は光を発し始め素人ながら力に満ちあふれ始めたのが感じられる。
時間にしておよそ10分、詠唱はピークに達し、ガーム老は呪文をこう締めくくった。

「アブラ・ラ プエルタ デル  ヴィエント !
異なる因果世界にて かの者と契約を結びし者よ!!
汝が真なる名を唱える者の呼び声に耳塞ぐこと能わず!!!
我此処に汝の世界と繋がりを開き 汝を呼びよせんとす
疾く来たりて汝を求める者の前に姿を現せ!!!!」
 
 
 

ばりばりばりばりっ!!!!
轟音と共に空間が裂けた。
その裂け目は縦に広がり、高さは2mほど、幅は人が楽に通れそうなくらいになった。
その向こうには暗く混沌とした形容しがたい物が広がっていた。

「今じゃ! おぬしが求める者を呼び寄せよ!!」

「ティナ! レイナ! メイル! 僕の声が聞こえたらここへ来てくれ!!!」

ガーム老の叫びに応え、私は彼女たちの名前を叫んだ。

私の叫びと同時にゲートからはあふれんばかりに光が流れ込み直視できないほどになる。
目はくらんだが私はそちらの方を見続けた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

私に寄りかかった2つとちょっとの柔らかい感触
頬にはちくちくとしたヒゲの感触
おでこには柔らかなネコミミの感触
 
 

「「「ごしゅじんさま!」」」
 
 

あぁ、間違いない、彼女たちだ。
ようやく見えてきた視界の中で、彼女たちはぼろぼろと大粒の涙を流して私に抱きついていた。

「もう2度と会えないかと思っておりました。もう決して離れません!」

私が元の世界に戻らないと彼女たちが戻れないことに対し、彼女たちはそう答えた。
不思議なものだ。今まで一人で不安だったのが、彼女たちと合流することでなんとでもなるだろうと言う気持ちになってくる。
 
 

「熱いところ申し訳ないんじゃがそろそろ宜しいかの? ご両人。」
 
 

声をかけられようやく我に返る。そういえばガーム老がいたんだっけ。 赤面してティナ達と離れる。
おそらく傍目からみたら「バカっぷる」そのものだっただろう。

「それにしても朴念仁かと思いきや、こんなにかわいい彼女がいるとはお主もどうして隅におけんの ほっほっほ」

そう私をからかうとティナたちの周りをぐるぐると回り、観察を始めた。

「ふむ、人間ではない……むしろスピリットと言うべきか。それもサンダー・エレメンタルに似ておる。変種と言っても過言ではないが……はて? このミミは何じゃ? ふむ、しっぽもついておるのぉ 何とも既に絶え果てたバステトにも似ておるの。それにずいぶんと影響力が少ないようじゃの……愛玩用かの? 」

見ず知らずの人間には流石にいきなり電撃と言うわけにも行かず、しかし、いきなりじろじろと観察されて困惑しているようだ。彼女たちの困惑を見て、私はガーム老に答えた。

「筋力的な力は確かに弱いですが、その分超精密・超高速作業に特化されています。サンダーエレメンタルと言うのがどう言う存在なのか分かりませんが、雷の精霊の変異種という表現は多少近いかもしれません」

「サンダーエレメンタルか、ふむ。精霊の召喚維持には存在力を支える力が必要なのじゃ、お主の世界との繋がりがある限り召喚維持は魔法陣がやってくれる。そう心配せずとも良いぞ。お主が何の準備もなく我々と話が出きるのもその為じゃ」

ガーム老はティナに触ろうとして弾かれたようにあわてて手を離す。どうやらちょっと帯電していたようだ。痺れた手をさすりつつ私の懸案を見透かしたようにそう私に語りかける

「ティナとレイナです。向こうでは私の身の回りの世話と仕事の手伝い、それと身辺警護をしてもらっていました」

「ほう、それほど物騒なのかね?」

「物騒というか仕事上で色々ありまして、彼女たちは一見か弱そうですが外見で判断すると後悔する事になります」

「それは面白そうじゃの。 で、こっちのちっこいのは?」

ガーム老の発言にブーイングするメイルをなだめてから彼女の紹介をする

「屋敷のメッセンジャー担当のメイルです。彼女たちは色々ややこしい部分もあるんですが……とりあえずは見ての通りのメイドさんだと思っていただければいいです」

なんですかそれは(^^; というティナのつっこみを余所に今後の方針を決めるため隣の図書室へ場所を移すことになった。
 

(続く)