Yen-Xingのあばら屋 BSD物語長編外伝小説05 異世界放浪編
第01章
第02話:『繋がり』
次に目が覚めたのは、窓から射し込んできた光が顔に当たってからだった。「おはようございます。おめざめになられました?」
実に見事なタイミングで、二十歳ぐらいの女性が入ってきた。 白いブラウスに藍染めに近い青のスカート。清楚な感じがする。日本ではあまり見かけなくなったタイプだ。ブラウスやスカート等の服飾はこちらでも同じらしい。材質は……多分木綿。流石に合成繊維ではなさそう、エプロンドレスやホワイトプリムも付けていない所を見ると「メイドさん」ではなさそうだ。
このお嬢さん、日本でその辺を闊歩する同年代の女性と比較すると遙かに美人だ。つぶらで大きなブルーアイと透き通るような肩まであるブロンドがチャームポイント。必要以上にないバストも好感が持て、質素な格好がそれを引き立てている。
ガーム老の娘? 彼には失礼だが似ていない。では助手か? 何ともうらやましい。
(後にこの感想がティナにばれ、キツイ電撃を食らった)「セリアと申します。貴方のお世話を教授からするように申しつかっています」
そう名乗り、手にした朝食らしき物が載ったお盆をテーブルに置くと、こちらに近づき私のおでこに手を当てた。どうやら熱の簡単な計り方はこちらでも変わりないようだ。
「熱は下がったようですね。安心いたしました。朝食をお持ちしましたので召し上がってください。お口に合えばよろしいんですが」
お盆には薄切りのバケットが数枚、コップに注がれた牛乳らしき物、それに果物が載っていた。実際、本当にバケットと牛乳だったけど。果物の方はオレンジ? 相違点は……見つからなかった。思ったより自分の世界に近いことに驚きつつ、朝食を食べていて、ふと気が付いた。
給仕をしてくれている、その女性の耳が縦に長くとがっているのだ。「エルフ耳」または「バルカン人の耳」と称されている耳である。ひょっとしてこの女性は人間ではないのか? 親切にしてくれているから悪い(と言うか害をなす)人? ではなさそうだがちょっと腰が引ける。
「教授が貴方に用があるとのことです。後ほど、お迎えにあがります」
朝食が終わると食器をまとめ、そう言付けると彼女は静かに出ていった。流石にメイドさんの格好まではしていなかった物の、「教授」とまで呼ばれたり、こうやって人を使っていたりする所を見るとあの老人は相当地位が高い人物らしい。
太陽? が元の世界と同じと仮定して、だいたい10時になったころだろうか? さっきの女性がやってきて私を別室に案内した。そこは本棚がずらりと並ぶ部屋で、奥まったところ大きな木製の文机があった。本やスクロールがいくつも机に山積みされており、それらに埋もれるようにガーム老人は座っていた。なにやら熱中しているようで女性に声をかけられるまでこちらに気が付かなかった
「おお、だいぶ回復したようじゃの。いくつか気になった事が有っての、お主には悪いが少々つきあってもらうぞ」
ガーム老はさらに奥まった一室に私を案内した。窓が無く、床に幾何学模様と数字と見慣れない文字と……そう、私がここへ来たきっかけとなった、あの逆魔法陣によく似た文様がそこに記されていた。
「お主を元の世界に帰そうにも情報が足りなさすぎるのでな、ちょいと色々調べさせてもらうぞ。その円の中央に座ってもらえるかの。」
示された先にある椅子に腰掛ける。ガーム老はいくつかの印を組むと、こちらに手をかざして神経を集中し、念じ始めた。あっという間に額に汗がしみ出す。唸りながら何やらつぶやいている言葉を側のいる女性が必死で書き留めている。時間にしてほんの5分ほどだろうか? 糸が切れたようにガーム老は倒れ込み、あわてて彼女に抱きかかえあげられた。
「流石にこの年になると堪えるのぉ」
しばらく横のソファに寝ころんでいたガーム老は先ほど羊皮紙に書き留められた内容を確認しつつ唸った。
「ふむ、お主の場合『召喚』で失敗したためその後の『支配』には至っていないようじゃの」
「『支配』と言いますと?」
「召喚術は大きく二つの過程に分けられる。対象を呼び寄せる『召喚』と対象を真の名でもって支配する『支配』じゃ。この数日倒れ込んでいるお主に何か命じられるような事がなかったから、もしやと思って調べてみたのじゃが、お主は最初の『召喚』で予想外の要素が介在した為に、召喚主がお主を見失ってしまっておる」
「では、召喚主も私がこちらへ来ていることは感知できていないと?」
「いや、こちらへ何かが来ていることは感知できておるようじゃ。召喚時に形成された『繋がり』が切れてはおらぬからの。それが非常に絡まっている故に制御ができていないと言う訳じゃ。そうじゃのう……この状態で再制御するには少なくとも目標に直接手をふれるくらい接近せねばむりじゃろう」
どうやら現状では私をここへ呼んだ召喚主も私を返せないらしい
「糸をほぐすように順次たどっていけませんか?」
「ちょっとここからでは無理じゃの。ちょっとたどっては調べ直しの繰り返しをするしかあるまいて。」
横にいたエルフの助手に何か指示を出すと彼女は白墨でもって魔法陣の修正を始めた。ガーム老はああでもないこうでもないと時々訂正を入れつつソファの上から指示を出していた。指示通り書き換えられたらしい。作業が終わるとガーム老はこちらに向き直って言った。
「さっきの調査の結果じゃが、お主には普通の人同士の交わり以上に深く結びついておる者がおるらしいの。いや。これは別に悪気が有って言っておる訳ではない。お主の『繋がり』を調べておる間に『見えた』のじゃ。これほどまでの『繋がり』なら現状に少し手を加えて、その者をここへ呼べるやもしれぬ。只、その者が元の世界に帰れるとしたらお主が帰るその時だけじゃ。それでもお主はここへ、その者を呼ぶか?この意味が分かり、覚悟ができるのなら明日、ここへ来るが良い」
そう言ってガーム老は私を元の部屋へ送り出した。
その晩、寝台の上に座り込んで考えを巡らした。
「繋がっている」というのは間違いなくティナ達のことだろう
ティナ達をここへ呼ぶことができるのか?
果たして此処へ呼んでどういった事になるのか??
もしかしたら二度と帰れない、それでも呼ぶのか???頭の中で色々考えを巡らし、ふと気が付くと既に白々と夜が明けていた