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冥途 of the DEAD

・第十一話 : Deinonychus
 
 

たったったったっ
私達三名……私とミレイ、そして護衛対象である「P-canのなおなお」は大量発生し襲いかかってきたゾンビVHを撃退し、出口へ向かって屋敷内を走っていました。窓から脱出しようとしたのですがファイアーウォールが展開されていて短時間では突破不可能そうです。一度は撃退したゾンビVHが何時復帰してくるか分かった物ではありません。余り時間もないので私達が進入したゲートまで走ることにしました

[たいしたものだ]

最後尾を走るミレイからメッセージが私に飛んできます
 

[なにがです?]
[いや、なおなおと言ったか……これだけ走って我々についてくるとは平生からトレーニング欠かしていないのだろうな]
[歌唱力には肺活量も必須だそうです]
[それに引き替え、ティナ、若干息上がっていないか?]
[……いま軽量化します]

何時までもレイナに言われるのはいやなので即席ですが軽量化処理をします。全方位センサーと姿勢制御バランサー、それらを統合する管理システムは残し、当座いますぐ不要なゴミファイル……今度マスターとお出かけするなら何処へ行くか優先リストなど……を片端から圧縮して領域を確保、高速処理用にメモリ空間を整理し連続領域として並べ替えます。モジュールも必要な物を連続アクセスできるように最適化し、アドレスを整理。これで息が上がることもないでしょう。

3階から目の前の階段を下り、ゲートを突破し2階へ、向かいますが行きに片づけて来たゾンビVH達が何処にも見あたりません。あれだけ倒してきたのですから廊下は遺体?で埋め尽くされていなければならないのですが……
 

2階から1階へは MirrorHouse 中央の玄関ホールに面した階段を使って移動するしか有りません。玄関ホールへあと少しというところで「ソレ」は聞こえました

るごぉぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!! 

低く、しかし屋敷中を響き渡らせる巨大な重低音は玄関ホールに居座った巨大なソレ……2足歩行型恐竜を模したゾンビVH……が発した物でした。身長およそ3m、1階床から2階の天井までゆうに5mはあります。玄関ホールのサイズも考え合わせるなら十分動き回れる最大サイズと言うところでしょうか。その様相はティラノサウルスというより機動力で有名なDeinonychus……推定で時速50kmは出せたという非常に敏捷で凶悪な肉食竜……にそっくりです。体がソンビVHで構成されていなければ。ですが

玄関ホールの状態を廊下の曲がり角から伺って確認すると見つからないように一旦下がりました

「これが隠し球か……」
「まんまとはめられましたね、屋敷中のゾンビVH達はアレが全部囮というわけですか」
「今出ていくと気付かれるな」
「私とミレイが先に出て囮になります。なおなおさん、貴女はその隙に先に脱出して下さい」
「そんなっ!!」
「私達は少々のダメージではゾンビ化したりはしません。あれだけのサイズと機動力を持たせたからにはおそらく屋敷中にいたゾンビVH達全てを使って体を構成し、処理能力を上げているはずです、逆に言うならアレが最後のゾンビVH、貴女さえ脱出すればあとはどうとでもなります。」
「分かりました、でも必ず脱出して下さいね」

「では、先に行きますっ! ミレイ、スタングレネードをっ!!」

シュコンというガス圧でグレネードが投射され、廊下先から轟音と閃光が漏れてきます。即座に走り出しゾンビ恐竜の足に斬りつけます。

ガキィ!

「なっ・・・・・・!?」

今まで振るってきた妖刀アクセスリストがゾンビVHの体表で止まります。ゾンビVHはこちらに向かって素早く噛みついてきました。視力が回復していないせいか狙いが若干甘いです。スゥエーでかわし、攻撃圏内から緊急離脱します。

ガガガガガガガガガッ

ミレイが機銃で援護射撃をしてきますがあまり効いていないようです。

[参りましたね……]
[おそらく、データ密度を上げて機動性を上げた副産物だろうな]
[ならば内部ならっ!!]

妖刀アクセスリストに右手をそえ、腰を落とし切っ先をゾンビ恐竜に向け、刀身を地面に平行にして顔の横に構えます。今から見せるのは「雷撃突」狙うはゾンビVHの目です。

「足止めをっ!」

ミレイからの返事を待たず、一気に飛び出します。私の後を追うように恐竜の左右へ機銃がばらまかれ動きを封じます。こちらの意図に気が付いたのか口を大きく開け目をガードすると共に私に噛みついてこようとします。ならば……!!

がきぃっ!!

「ティナさんっ!!」
「今ですっ!走って!!」

泣きそうな顔をしながらなおなおが玄関ホールを走り抜け、1階奥のバックドアゲートへと走り出します。
私の妖刀アクセスリストがゾンビVHを口から後頭部へ突き破るのと、私の左腕が食い破られたのは、幸い彼女が見えなくなった後のことでした。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(続く)