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冥途 of the DEAD

・第十話 : Cat Ear and Cat Tail
 
 

ようやく、救助者の所へ私は到着しました。しかし、目の前のアカウントと目の前の人数が一致しません。相違のあったアカウントは……え?

「マスターッ!!! 一体これはどう言うことですかっ!!!」

そう、目の前にいるセミロング黒髪の女性、この施設に閉じこめられたアイドルグループ「P-can」のリーダー「なおなお」、彼女のアカウントは人間の物ではなかったのです。このアカウント種別は……私達と同じ電脳仮想人格「VH」が使用する物と同じです。そして何より私の目が止まった所……それは
 

「彼女の頭に着いている黒い3角形をした2対の突起」
 


 

「臀部から伸びくねくねと動く、黒い短毛に覆われた長い突起」
 

そう、所謂ネコミミとネコシッポです。しかも動いています。捜査スキャンの結果は飾りではありません。私の物と同じく体から「生えて」います

「あ〜、言っていなかった? P-canのメンバーって全員電脳……」

「そんなことはどうでも良いんです! 彼女って擬人化VHなんですかっ!! 私と同じでっ!!!」

「え〜とですね、ちょっと違うんですよ」

「え?」

私の質問に対する答えはマスターからではなく横の女性……なおなおから返ってきました

「私の家系はは元々ネコの血が入っていましてですね。時々こんな風にネコミミネコシッポ持った人が出て来るんですよ」

彼女が指し示したミミとシッポを見てそんな訳が……と言いかけ、美宇の事を思い出しました。あの子は座敷童子とTRONが融合して出来ています。座敷童子がいるのなら天然ネコミミネコシッポ持った少女がいても不思議ではないのかも知れません。

「マスター、この件については後ほどゆっくりお聞かせ願うとして……彼女のアカウントが人間ではないのはそういう物なんですね?」

「詳細は知らないけど仮想電脳でもアイドルとして活動しやすいように普通の安全だけど制限多い人間用アカウントじゃなくてHV仕様に近い全身のデータコンバート可能なアカウント使っているんだそうだ」

「なるほど、それで『1bitたりとも汚損させるな』ってことなんですね。」

事情は分かりましたが問題解決の方法も組立直しです。ということはおそらく他の11人は彼女のFANか関係者ということですか。こういう場合は問題を切り分けて単純化するのがコツです。人間用アカウントはセーフティーマージンが厳重に取られていますので強制ログアウトさせても少しふらつく程度で済むはずです。ならば……

「ミレイ、ちょっとこっちへ来れますか?」

「ああ、何とかなるが……おかしい、ゾンビVH共が引きはじめた」

「どのみち好都合です」

ほどなく、両手にイングラムかまえて彼女が上がってきました。滅多なことでは息を切らさない彼女の呼吸が乱れているところを見ると下では相当な激戦が続いていたのでしょう。私が心配すると何でもないと応じました

「で、何を手伝えばいい?」

「しばらくの間だけ周囲の監視をお願いします」

ミレイにそう頼むと、私は此処のシステムへ強制介入をはじめました。周囲へ瞬時に展開するウィンドボールに周りの人間が驚きの声を上げます。まぁ、これが出来るVHは早々いる物ではありませんから……っと、自慢している場合ではありません。

監視システムと攻勢防壁を多重展開し、ハウンドプログラムをダミーで放ち、認証システムにダミーデータを掴ませて、でっち上げた作業用ゲストアカウントに管理者権限を設定するのが0.01秒……処理落ちはほぼ解消されていますがVHT-Virusは何処へ行ったのでしょう?私の抗体プログラムに反応はありません。まぁいいです。ログイン管理テーブルを調べ、まだ残っている11人分のアカウントを探します。それは館内入るためのゲストアカウントテーブルエリアにありました。強制ログアウト処理を行います。正常にログアウト処理が作動したのを確認して、撤収、他のプログラムは撤収後自動抹消する仕掛けです。

ウィンドボールが点滅しながら収納されると、其処にはなおなお一人だけが残されていました。

「えーと、私一人だけ残っているんですが……」

「貴女はアカウントが特殊なので強制ログアウト出来ません。私達がログインゲートまでエスコートしますのでついてきて下さい。」

「よろしくおねがいします」

ぺこりと頭を下げる姿はなるほど、確かに私でも可愛いと思える物でした。あの朴念仁のマスターをファンにしただけのことはあります

こういう状況なのにすくんだり混乱状態になったりしていないのはさすがというか肝が据わっているというか。そう思っているとレイナが何か取り出しました。1mばかりのそれは銃身の下にスライド機構がついていました。所謂散弾銃(ショットガン)という奴です

「これを使え、いけるな?」

「はい、以前の映画ロケで使ったこと有ります」

「ちょっとミレイ、何持たせているんですか!?」

「ティナ、よく考えろ。何故急にゾンビVHがいなくなったと思う?」

「それはゾンビVHを倒したから……」

「お前が仕掛けるなら、そんな単純な仕掛けをするか?」

「!」

ゾンビVHの圧力に逆らうのと救出が最優先だったため、其処まで頭が回りませんでした。これがサイバーテロならこんな簡単な手で引き下がるはずがありません。このゾンビVHは見せ札……本命は別!!

「そういうことだ、最後にもう一回でかいのが来るぞ。おそらくな」

私達は互いに頷くと1回へ向かって走り出しました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(続く)