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冥途 of the DEAD

・第八話 : Maid meets Maid
 
 

「はぁっはぁっ。少し食べ過ぎていたかしら……」

Mirror-House右翼最深部、業務用出入り口付近に存在していたセキュリティホールから進入して暫く、私は屋敷内の通路を玄関ホールへ向かって急いでいました。私の進入に反応して周囲のゾンビVHが襲いかかってきます。その横を全速で走り抜きながら妖刀アクセスリストで切り捨てていきます。ゾンビVHの出現が散発的なのはまだ私の進入が周囲へ広がっていないからでしょうか?ゾンビVHを手早く「処分」しながら先へ進みます。

平生ならこの程度で息が上がる訳はなかったのですが、最近どうやらレイナの作る料理を少々食べ過ぎていたようです。道理で腰の辺りが少しきついわけです。気のせいかと思っていたのですが……帰ったら減量と体力維持スケジュール組んで早速実行しないといけなさそうですね。

そう考えながら左手、食堂の前に差し掛かったとき、内部から扉を蹴破って新たにゾンビVHが3体現れました。首の辺りに蝶ネクタイの残骸が残っているところを見るとアクターVHではなく元々この屋敷にいるVHでしょうか?妖刀アクセスリストを一閃、右側一体目の首を跳ね飛ばし、返す刀で左側を袈裟切りに切り捨てます。

「えっ!?」

斬りつけ方が悪かったのか、妖刀アクセスリストが2体目のゾンビVHの体内で引っかかってしまいました。ボーンシェルにでも当たってしまったのでしょうか?そこへ中央の3体目が襲いかかってきますが刀を2体目に残したまま瞬時に壁際まで下がります。ウィルスに浸食された表皮テクスチャを周囲に振りまきならが両手をつきだし、意外なスピードでゾンビVHは向かってきます。既にVHとしての思考能力は失われているはずですが……私が武器を失った事を理解しているのでしょうか?

その両の腕が私に触れるか触れないかの、その時、私は静かに、しかしはっきりとした声で関数を呼び出しました。引数は2体目に刺さったままの妖刀アクセスリストのアドレス!

「F_SummonAccessList(&SordAddress)」

はたして、その意味をゾンビVHは理解できたのかどうか……3体目のゾンビVHはその場で黒こげとなり動きを止めました。その喉には後ろから私の妖刀アクセスリストが突き刺さっていました。

『妖刀アクセスリスト』とは言いますが長年使ってきたこの愛刀、既に私の一部となっています。関数制御により私の手から放れていてもある程度の操作は可能です。流石に外部コマンドでジャガイモの皮を剥けとか言われると少し困りますが……この様に目標に突き刺して内部エネルギーを瞬時に放出させることぐらいは分けないことです。

その場で倒れ伏したゾンビVHの処分を手短に行います。人間で言うところの心臓に当たる左胸にある動作基準コアと延髄に存在する活動管理ベースコア、この部位はゾンビVHとなっても急所となる部位です。その部位へ妖刀アクセスリストを突き刺し、破壊プログラムを流し込んで処分を完了させます。あともう一つ、原形をとどめない程全身をずたずたに破壊してやれば流石にゾンビVHといえど再起不能ですが其処まで破壊するのは手間がかかりすぎます。

ようやく玄関大広間へと続く扉へたどり着きました。

呼吸を整えつつ、電波で内部を探りますが……ゾンビVH反応皆無、そんなはずは無いのですが……扉にネコミミを押しつけ、音を探ります。それにしても物音が殆どしないのはおかしいのですが……

ばたん!!

「きゃぁ!?」
「何を張り付いている、コントじゃ有るまいし」
「だからといって急に扉を開けるネコミミメイドがいますかっ!?」
「じゃあ、鉞(マサカリ)構えたゾンビVHが扉を急に開け、よろめき出たお前の首を跳ね落としたらどうするんだ?」
「それこそコントじゃ有るまいし、居たらすぐに分かりますっ!!」

急に扉を開けて私と言い争っているのは……見間違えようもない「ミレイ=ゲートキーパー」です、どうして彼女がこんな所にいるのでしょうか?疑問を抱きつつ玄関ホールを見渡し、その惨状から何が起こったのか理解しました

「お前がちんたらしているからシビレを切らしたマスターが私に手伝えと言ってきたんだ。有り難く思え切り裂きジャック」
「……腑に落ちました、ご主人様に呼び出されて後先考えずに機銃掃射でゾンビVHを一掃した。そんなところですね?ハッピートリガー」
「誰がハッピートリガーだと!?」
「人を切り裂き魔呼ばわりしておいて何ですかその言いぐさは!?」

ミレイが私に重機関銃の砲口をむけ、私は妖刀アクセスリストの切っ先をレイナに向けます
互いに突撃をかけた一瞬!!

私の妖刀アクセスリストはレイナの後ろに忍び寄っていたゾンビVHを切り捨て、ミレイの重機関銃は私の背後に現れたゾンビVHを瞬時にボロぞうきんにしていました。

「腕は落ちていないようですね」
「お前もな、ウエストは少々太くなったようだが」
「……余計なお世話です(#- -)」
「ともかく、私は此処までだ。」
「えっ!?」
「ティナ、おまえ突入するのは良いがどうやってゲストアカウントを脱出させるか考えていたか」
「……あ」
「つまり、ゲストアカウントが脱出するための待避路を誰かが確保する必要があると言うことだ。私は此処に残る。ティナ、お前が2階へ突入しろ」
「単純火力ならミレイ、貴女の方が上でしょう」
「私じゃ火力過多でゲストアカウントまで破壊しかねない。それに、アレを見ろ」
「えっ!」

見れば、私がやってきた右翼そして左翼両方の1階入り口他2階からの階段からもゾンビVH達があふれ出てきます
「脱出路確保には相当の出力が必要になる。此処は任せろ、維持確保する。先へ行けっ!!」
「お任せしますっ!!」

重機関銃が放つ轟音を背に、私は後ろを振り向かずゾンビ達を切り捨てながら2階へと駆け上がっていきました。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(続く)