冥途 of the DEAD
・第七話 : BackUp
「急に呼び立てて申し訳ない」
私は目の前に立つ女性に頭を下げた。身長はネコミミを含めて160cm弱、私より背が低いはずなのにどうも彼女の前では自分の方が背が低いように感じられる。彼女が放つ威圧感の為だろうか。身に纏っているメイド服さえ威圧感を感じさせる制服のように思える。
「挨拶は良い、私を呼びだしたからには相応の事態なのだろう? ミッションの説明を」
「目の前にあるMirror-HouseがゾンビVHに占拠された。施設内部に未LogOutアカウントが12残っている。それらを救出するためにティナが先行進入したが単身では任務遂行は困難だ。敵の誘引と陽動を頼みたい」
「火器制限は?」
「施設そのものを破壊する様な物でなければ何を使ってもかまわない」
「内部構造は?」
「典型的な貴族の屋敷スタイルだ、ティナは右翼後方から進入、現在位置は大広間の手前、ホール内に存在するゾンビVHが膨大すぎて突入に手間取っている。圧が高くて迂闊に入れないらしい」
「なるほど、私にティナの火力サポートをしろと言うわけだな」
「後の突入路確保なりはティナと現場で打ち合わせてくれ。余り時間もない」
「委細承知、これよりミッションに入る!」
彼女は普段かけている眼鏡をHUD対応モードにすると虚空から2つの銃を取り出した。「INGRAM MAC11」それを腰の両側にあるホルスターに納めると愛用のP-90ではなく「無骨で長銃身の火器」を取り出した。それには長々とベルトで繋がれた弾丸が給弾されているが……?さらに異様なのはその銃口下部にオプションで付けたらしい「もう一つの銃身」が付いていた。
「一体これは……」
「一つ再確認する、対象アカウントは全て2階だな?」
「ああ、間違いない」
「ならば……正面ゲートは吹き飛ばしてかまわないわけだ。ファイアーウォールを3m上げてくれ」
「まて。ひょっとして……」
「全員下がって伏せていろ!!」
彼女の指示と威圧に負けたのか周囲の人間は一斉に下がり、地面に伏せる。職員が伏せたまま懐から出したリモートキーでファイアーウォールを少しだけ開ける。我々の正面に見えるのは重厚な木製の扉だ。ファイアーウォールを開けだだけで既に扉は内部圧に負け始めたのか外側へたわみ始めた。その蝶番へ向けオプションで付けたらしい「もう一つの銃身」……ショットガン「KAC MASTERKEY SYSTEM」を向ける。名前の由来は「どんな鍵でもショットガンで吹き飛ばせば開く=どんな鍵でも開くマスターキー」という事らしい。トリガーを引くこと3回、映画でおなじみの轟音と共に一瞬で蝶番は周囲ごとはじけ飛んだ、SWATも屋内進入時にこの様にして扉を開けるそうだが……内部からすごい勢いでゾンビVHが吹き出てきた!
「一度これを使ってみたかったのだ。有り難く的になれ!!」
至極物騒なセリフと共に彼女は「無骨で長銃身の火器」の引き金を引いた。周囲へ給弾ベルトが踊る。薬莢が銃下部からすごい勢いで周囲へまき散らされていく。その発射音はありがちな「ダッダッダッダッダ」ではなくまるで……布でも引き裂いたかの様な甲高い連続音だ。そんな特徴を持つ高速発射が出来る機関銃は私の乏しい火器知識でも一つしかない。第二次世界大戦時のドイツ製「MG42」、1,200発/分という驚異的な連射速度を誇る機関銃だ。彼女は機関銃の銃口から台座へベルトを取り付け、それを肩に掛けた上で機関銃を両手でホールドし、腰ダメで打ち放っている。普通の人間ならば発射の反動で銃口が暴れるらしい。あの格好で扱えるのは彼女の驚異的な身体能力のおかげだろう。
正面ゲートからは噴水の様にすごい勢いでゾンビVHがわき出てくる。そのことごとくを銃弾の嵐が打ち砕いていく。並の火器では吹き出る圧に負けて周囲へゾンビVHが徘徊していただろう。MG42だからこそなせる荒技だ。斉射を続けること数十秒、雲霞の如く湧いてきたゾンビVHも周囲へ残滓をへばりつかせるだけになった。あとはぽつりぽつりとわき出るだけになった。
「これでおおよその所は片づいただろう。じゃあ、内部へ突入する。通信はこのチャンネルを確保してくれ」
私にヘッッドアップレシーバーと中空ウィンドを投げ渡すとMG42を空中へ収納、左手にイングラムを構え走り出した。
「ティナのサポート頼む、ミレイ」
走り去る彼女の後ろ姿に、私はそう声をかけるのみだった。