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冥途 of the DEAD

・第五話 : VHT-Virus
 
 

「VHT-Virus」、それは一年前に登場した、インターネットを震撼させた全く新しいタイプのコンピュータウィルスだ。電脳仮想世界で我々ユーザをサポートするべく創り出された仮想電脳人格VH、VHT-VirusはそのVHを感染対象とする。感染後、ウィルスは接触領域からVHのデータを書き換えながらコアプログラムへ到達、コアを破壊されたプログラムは人格・記憶・能力を失い、以後VHT-Virusを生産すると共に周囲へまき散らす人型プラットフォームと成り下がる。こうなるとVHとしては死亡したのと同然となる。外部制御は一切効かなくなり、処理を強制停止させるコマンドを投入しても受け付けない。killコマンドさえ通らないこの感染状態のVHを称してこう呼ばれるようになった。「ゾンビVH」と。

対処法は只一つ、感染したVHを破棄してバックアップデータから再構築する他無い。
発生と同時に世界中で爆発感染を起こしたVHT-Virus騒動は、各セキュリティソフト会社、Μ$社・αpple社ほか世界中の企業が協力した為、一ヶ月ほどで収束を見た。以後対VHT-Virus抗体ソフトが全VHに搭載されると共に、VH管理者は抗体プログラムを常に最新情報に更新ことが義務づけられた。そのはずだったのだが……

「なんだって今頃VHT-Virusが!?」
「配布されているVHT抗体では効果がありませんでした。私が抗体を自己生成できるファイアーウォールメイドVHだったからこうして抵抗もできましたが……彼らでは抵抗もできなかったでしょうね」
「彼ら?」
「そこで崩れ落ちた自動演劇VH達です。このMirror-house、全部を本当に鏡面処理すると処理が膨大になりすぎるので、処理の半分ぐらいは自動演劇HVにゲストそっくりのスキンをかぶせて動きをトレースさせていたようですね。」
「じゃあ、中のVH達は……」
「おそらく全員感染しているかと」

「おっおいっ! 勝手なことされちゃあ困ります!! 」

仕立ての良い上品なスーツを着た男がこちらに怒鳴って来た。さっきもあったMirror-houseの責任者を従えているところを見るとおそらくもっと上の役職者なのだろう。

「皆様大変お騒がせしています。ただいま施設内のトラブルでお客様には大変ご迷惑をおかけしています。まもなく専門スタッフにより対応させていただきますので今暫くお待ち下さい」

手にしたハンドメガホンでそう繰り返すと部下に客の対応を任せどこかへ走り去った。おそらく対策本部でもあるのだろう。

「ティナ、施設内の状況はどの程度判明した?」
「閉じこめられたゲスト達の位置は館内最深部、2階中央の大ホール「鏡の間」に全員います。内部ゾンビVHの数及び発生部位、施設構造から推測して……ゲストアカウントを20分以内にサルベージする必要があります。もし、サルベージ出来ない場合、ゲストアカウント12人分のパーソナルデータは修復不可能なレベルまで破損ないし汚染されます。」
「ちょっと待って、ティナ。VHT-Virusって人間は感染しないんじゃあなかったのか!?」
「通常世界に存在する人間は、です。今回のように仮想電脳世界に一時的にゲストアカウントでログインしている場合は話が異なります。まぁ、データ密度ですとかコアプログラムの構成がVHとは全く異なりますから『ゾンビVH』……いえ、『ゾンビアカウント』となるわけではありませんが、それでも修復不可能なレベルで汚染損傷は免れません」
「……それってひょっとして」
「はい、その汚染損傷状態で現実世界にサルベージをした場合、それは所謂「死亡」と呼ばれる状態です」
 
 
 
 
 

「ティナ」
「はい?」
私はティナの瞳を見つめると同時に彼女の胸のブローチに人差し指を当て、一気に言い放った。

$su
passphase?
********************************
#

「声紋・指紋・眼底毛細血管・第2指先端毛細血管・オーラパターンオールクリア、管理者権限を有する管理者を認証しました。ご命令を、『マスター』」

私が管理者権限を発動させると同時にティナの持つ雰囲気が急変した。それまでどこか愛嬌のあった表情も狩猟者のそれになり殺気めいたものさえ感じられる様になった。

「最優先権限を持つマスターとして命ずる。施設「Mirror-house」からログアウト不能となったゲストアカウント12人をログアウトさせろ。なお、パーソナルデータに1bitたりとも汚染損傷を発生させるな」

「委細承知、お任せ下さいませ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

(続く)