冥途 of the DEAD
・第四話 : OutBreak
仮想電脳鏡面幻惑施設「Mirror-house」、そこへ客として訪れていた電脳街のアイドル「P-Can」のリーダー「なおなお」が他の客十数名と共に施設のトラブルにより閉じこめられていた。
建物の周囲は騒然としており、集まって来た野次馬達を施設に近づけないよう警備員達が警備線を展開していた。我々は出入り口を俯瞰できる施設に隣接したレストラン屋外テラスに陣取り、状態を探った。
「状況を説明しろ」
「この施設は擬似的に実在の人物を取り込んでゲストアカウントでログインし仮想電脳世界で楽しんで貰うという物ですが……突然コンソールが処理落ち、ゲストアカウントのログアウトが正常に出来なくなり現在、システムは制御をほぼ受け付けない状態ですね」
「内部モニターはまだ生きているのか?」
「かろうじて、と言う状態です。」
「強制ログアウトも無理か?」
「コンソールが死んでいる状態では……」
「データサルベージ専門業者の手配は?」
「データがデータだけに2時間準備が欲しいとのことです
「遅い、影響が大きすぎる。1時間でやらせろ」
メイルに傍受させた社内通信からの情報は芳しくない、ファンタジーランド側で仮想電脳空間の制御が不能になり暴走状態に近いらしい。そのログを読んだティナは額に手を当て少し考え込んでいた。
「しかし……少し妙ですね」
「妙?」
「プログラムが暴走しているというより、何か処理落ちしているような感じです。これ以上は直接アクセスしないとちょっと判断しかねますが……」
「きゃぁぁぁぁ!!!」
「何事ですっ!?」
時ならぬ人々の悲鳴
施設の出入り口から人型の「ナニカ」が周囲に「ぼたぼた」とまき散らしながら1体、また1体とよろよろと出てきた。かろうじて人形とわかるものの衣服や肌、毛髪にいたるまで劣化が酷く判別は出来そうにない。腐臭こそないがまるでゾンビだ。そして「ソレ」は人々に襲いかかってきた!!
「ティナ!!」
「データスキャン……PID取得成功、人間では有りません!おまかせください!!」
2階ベランダから手すりを飛び越え警備線の内部へ飛び降りるティナ、その手には愛刀「アクセスリスト」が既に顕れていた。ゾンビへ間合いをダッシュで詰めるやいなや瞬時に刀を抜き放つ。居合い切りだ
「なっ・・・・・・!?」
袈裟切りに切り捨てたはずの「ソレ」は僅かに上半身をよろめかせたモノのすぐさま体勢を立て直しティナにつかみかかってきた。捕まれた左手袖口からティナの衣服が真っ黒に変色していく!!
「消滅しなさい!!」
アクセスリストの切っ先を突き刺し、ティナは体内電流を「ソレ」に直接叩き込んだ。流石にこれは効いたのか微細な結晶と化してその場に崩れ落ちた。ティナは肩口の黒色部分が広がるのもかまわず別の「ソレ」へと向き合った。電流を流し込むというかなり乱暴な方法で周囲の「ソレ」は一掃された。
それよりもティナは大丈夫なのかっ!?
「ティナ!袖のソレは一体!?」
「ご心配なく、大したことはありません!」
慌てた様子もなく、アクセスリストの刃先を左手に当てるや、すっと切っ先を引いた。どす黒く変色した肘から先の部分が地面にぼとりと落ちた。
「なっ!?」
周囲の人混みから悲鳴と驚きの声が挙がる。
「せっかくのスキン、台無しになってしまいましたね……」
切り落とした部分からワイヤーフレームが高速で伸張し、瞬時にティナの左腕が再生していく。先だってレイナにお願いしていた戦時バックアップ処理のおかげだ。右手のアクセスリストを地面に落ちたどす黒い腕に突き刺し他と同じように滅却する。暫くじたばたと暴れていたティナの左腕はやがて他の「ソレ」と同じように崩壊した
「一体これは……」
「残滓と私の体内に出来た抗体から考えると『VHT-Virus』です」
「『VHT-Virus』!?」