冥途 of the DEAD
・第三話 : Mirror-house
「せかいがまわるぅ〜」
「しっかりして下さい、ほら、此処で休んでいきましょう」
ファンタジーランドが誇る可変軌道高速遊興筐体「メビウス・クライン」の威力はすさまじく、私は数分間、出口ゲートの近くで座り込んでいた。そういう客を考慮してか入り口とは別個に設けられた出口ゲート付近には休めるよう天幕を張った下にいくつかのベンチが設置され休憩できるようになっていた。ティナが買ってきたオレンジジュースをのみつつ、テーマパークのキャラクターが周囲に巻いていたビラを受け取る。
「ミラーハウス?」
「こう言うところには良くある通路が全面鏡張りの建物ですね」
「流行のテーマパークにしては捻りが無いような気が……」
「ご主人様、こちらの但し書きには面白いことが書いてあります」
「どれどれ?」
世間一般のミラーハウスは壁面に光を反射する普通の鏡を設置し、客を幻惑させて楽しませる物だ。しかし、ファンタジーランドのミラーハウスは仮想電脳空間上にミラーテクスチャを通路状に設置、光学処理でもってあたかもミラーハウスに居るかのような錯覚を起こさせるのだそうだ。光学処理を挟むことにより実際には存在しないキャラクターも写し込める。最近公開されたばかりのアトラクションだが人気はなかなかの物らしい。
「なるほどね、光学処理によるミラーハウスか」
「どれほどの処理能力か興味有りません?」
「ミラー処理って結構パワー喰うからなぁ。試しに行ってみますか」
ミラーハウス前は予想以上の人混みだった、何でも2時間待ちらしい!
この手の人気アトラクションでは珍しくないらしいのだが……
ふと、横を見ると電気街出身のアイドルチーム「P-Can」が係員の先導の元ミラーハウスに向かっていた。
「あれ?あの子達、優先で入れるのかしら?」
「優先チケットってのを持っているのかな……?あ、どうやら宣伝キャンペーンか何かかな?」
どうやらP-Canのメンバーによる宣伝を行うことでファンタジーランドへの集客効果を見込むようだ。年少メンバーがはしゃいでアトラクションに向かう中、黒いネコミミを付け眼鏡を掛けたリーダー「なおなお」が我々に気が付いたらしくこちらに対し頭を下げた、後から来たのに先に入ってご免なさい、と。それで気づいたのだが、ここへ来た居る客の何割かはP-Canのファンのようだ。手にした携帯やデジカメで写真を撮っている者もちらほら見えた。
初秋とはいえ、まだまだ暑い。待っている客を飽きさせないように入れ替わり立ち替わりやってくるアクター達で楽しみながら待っていて、ようやく順番が来た。と思ったらとんでもない事が待ちかまえていた。ティナが入場拒否されたのだ。
「一体どう言うことなのですか!」
「管理者の貴方なら分かるでしょう、擬人型OSの対外インタフェースがこの様なシステムに入ると誤動作の危険性があるのです。誠に申し訳ありません」
行列から少し離れた所でアトラクションの責任者に頭を下げられるとこちらとしても諦めざるを得なかった。まだ稼働したばかりのアトラクションで只でさえ、今日は予想を遙かに超える客が押し寄せているらしい。そういうときにティナのような特殊な存在が入り込んだ場合どう言うことになるか保証できないということを説明を受けた。お詫びとして園内アトラクション共通で使えるフリーチケットと園内で使える無料食事券を差し出された。
「まぁ、仕方がないか」
「今度屋敷で再現してみますか?」
少し遅い昼食をレストランで食べながらティナと話していると全体放送がかかった。ミラーハウスで何かトラブルがあったらしく、臨時メンテナンスに入るとのことでお詫びのメッセージだった。
「……妙な胸騒ぎがします」
ティナは園内で自由に閲覧できるペーパーネットディスプレイから園内サーバに潜り込んで詳細情報を引き出してきた。彼女はその内容に眉をしかめた。
「ご主人様、確か此処は外部への無線LAN接続が使えましたよね、屋敷との通信開始します」
中空にディスプレイを出すと周りを驚かせると判断したのか、テーブルの上に画面を作り、メッセージオンリーで屋敷のレイナとメイルを呼び出す。
「あらあら、デート中のティナさんではありませんかぁ?」
「ティナおねーちゃん、どうしたの?」
「メイル、今すぐファンタジーランドを中心とした通信のトレースをして。レイナ、2番装備をここへ転送するのと戦時バックアップの準備を、サーバは3番4番で」
「あらあら、ただごとではありませんね〜」
「いったいどーしたの?」
「ミラーハウスでトラブルが発生、電脳仮想空間にP-Canのリーダー「なおなお」と共に客が閉じこめられています」
「「「えーっ! ! ! ?」」」