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冥途 of the DEAD

・第二話 : Attraction
 
 

屋敷最寄りの駅から電車を乗り継ぐこと90分、数年前に出来たという大型複合遊興施設「ファンタジーランド」、所謂テーマパークへは道を迷うことなく到着した。駅に間近に施設があるのではなく、駅その物を施設の中に内包しているという表現の方が適切か?ホームに降り立つと其処はもう異世界、現実から切り離されたワンダーランドという感さえ有った。自動改札口も御室社製の画一的なデザインではなく、此処専用の雰囲気に合わせた外装を持つ物となっていた。

「ご主人様、はやくはやく〜」

白を基調とした水兵風のワンピースに麦わら帽子を被ったティナははしゃいだように飛び出し、私を呼ぶ。まぁ、ここ暫く遊びにも行っていなかったしある程度は仕方がないか。こっち向いたまま後ろ向きで歩くと転倒するぞ……って、案の定こけた。まぁ、それくらいでめげるような子ではないけど全方位センサーと姿勢制御バランサー稼働させて何とかしよう思わないのか?

「思っていても出来ないこともあるんですっ!」

どうやら、思いっきり声に出していたらしい(^^ゞ

さて、入場ゲートでチケットを渡し、場内マップを広げつつメインストリートを歩く。正面前方に見えるのは此処の象徴とも言うべきファンタジーランドのお城が見える。独逸ノイシュヴァンシュタイン城をモデルとしたどこかお菓子の家のような華麗で壮麗な建物が建っていた。尖塔は場内イベントで使うため立入禁止だが内部ホールでは各種イベントをおこなっているらしく、その日もお城ジャックとかで行き着け電気街出身のアイドル「P-Can」が電撃コンサートをするようだった。

「む、彼女たち来ているのか」
「はいはい、開城は夜18時からですよ」
「……よく私がチェックしているって気が付いたな」
「私が屋敷のセキュリティ管理しているんですよ? ご主人様が何処のサイトチェックしているかぐらいSSL掛けていても簡単に分かります。で、私のとのデート優先で諦めていたんでしょう?きちんとコンサートの指定席も買ってありますから後で行きましょうね」
「ありがとうございますお代官様ぁ!!」

……当分、私はティナに頭上がりそうにない(笑)

そんなコントもどきを繰り広げつつ、ファンタジーランド内を見て回る。此処が優れているのはアトラクションや遊興施設だけでなく、中世欧州の歴史的資料を見やすい形で展示してあるのが特徴だ。レプリカとはいえ、ルネッサンス以前の武器コレクションが展示されているのには暫く二人で足を止めていた。

「えーと、次は?」

「いよいよアレです!!」

ティナが指さす先にはメビウスリングをいくつも接続したような「名状しがたい」「おぞましい」「怪奇なる」曲線の群が顎を開けて客を待ちかまえていた。

「ティナ、実はあちらは方角が悪い、此処は『方違え』が必要だと思う。日を改めて……」
「四の五の言っても『メビウス・クライン』は逃げません! 諦めてお付き合い下さい!!」

『メビウス・クライン』、それはファンタジーランドでも1・2を争う人気施設だ。物自体は位置エネルギーを速度エネルギーに換算する所謂「ジェットコースター」なのだが、他と一線画す特徴はコースの一部が可動式でメビウスの名が示すとおり文字通りコースの表と裏を超高速で疾走する点にある。はっきり言おう、私はこの手の物が大の苦手だ。完全に腰が引けている私の手を取りティナは人の流れに沿って車体にに入る。すぐに体を固定するハーネスが降りてきて私の体は固定された。もう逃げられない。ガタンガタンと車体は電気モーターの力でレールにそって上がっていく。その位置エネルギーは今まさに開放されようとしていた。
 

「3!」
「……目をつぶっても良いかな?」
「だめです」
 

「2!!」
「逃げ出しても良いかな?」
「だめです」
 

「1!!!」
「今から制御システムに介入して強制停止するってのは……」
「諦めて下さい」
 

「0!!!!」
「アーメン」
 

十字を切ったのは一体誰だったのか
その後数分間、この世ならざる恐怖が私に襲いかかったのだった。
 
 

(続く)