冥途 of the DEAD
・第一話 : Ticket
「あーもう、なんで今日もこんなに来るんですかっ!!」
時計の長針と短針が真上を少し過ぎて重なる頃、屋敷のサーバ群を守るセキュリティ担当ネコミミUNIXメイドの「ティナ=バークレイ」は怒りを露わにしていた。この国の首相が辞める直前にした一連の行為により、大陸の一部のクラッカー達は激興し列島の主要サーバへDos攻撃からはじまるクラッキングを仕掛けてきたのだ。此処のサーバはセキュリティやバックボーンがしっかりしているため、少々のことで落ちないが、それ故クラッカー達に逆に狙われると言う状態となっていた。誘因効果を考えるならこれはこれで良いのかも知れないが、そのターゲットとなったティナにしてみればたまった物ではない。結果、その怒りとストレスの矛先はクラッカー達か屋敷の我々へと向くのだった。
「これはそろそろ何か考えないと行けないですね〜」
春先の日だまりを思わせる、柔らかい口調でティナを心配しているのは此処のサーバを統括しているネコミミUNIXメイドの「レイナ=トーバルズ」だ。セキュリティはティナの管轄ではあるがサーバ稼働の実質的な統括はレイナが行っている。同時に各OSペルソナの維持管理や屋敷運用も行っている。我々にとってティナ以上に怒らせてはならない存在である。
「とはいっても、一体どうするの?」
身長20cm程の体にコウモリの羽をはやした小悪魔フィギュアのような姿をしたこの精霊は「メイル=デーモン」屋敷の中でもメール運用を担当している。いろんな意味でのトラブルメーカーだが、サイズが小さく小回りが利くので我々が気が付かない見えにくい点のトラブルなどを教えてくれるのは非常に助かる
「まぁ、こういう場合は休養が一番であろうな」
どこから持ってきたのかサーバ室に座布団とお茶の一式を持ち込み一人でくつろいでいるのは「美宇=i=TRON」純粋な人工OSインタフェースというわけではなく、本人に言わせると逆にOSが精霊となったという。違いはよく分からないが座敷童子に近いらしい以上のメンバーがこの屋敷の主な住人達だ。
お盆も過ぎ、アタックが一段落した頃……屋敷へ来た新聞の契約員が遊園地のチケットをプレゼントしてくれた。定期購読の御礼だという。その数は……2枚
「誰が行くかくじ引きかな?」
「ええ、枠は1枚。争奪戦ですね」
「あれ?2枚じゃないのか??」
「こう言うときにでもご主人様を外に出さないと只でさえ日陰のモヤシなのに益々やせ細りますから」
「同感ですわ〜、本音はご主人様とデートしたいと言うところでしょうかぁ」
「本当のこと言わないでくださいっ!」
「……ティナ、本人目の前にして思いっきり口に出して発言しているぞ」
「え〜!?」
すったもんだの挙げ句、熾烈な戦闘と激烈な口論と厳正なる抽選の結果、私とティナが遊園地のチケットを手にした。その経緯は敢えて記すことはしないが屋敷の1/3とサーバ2基が大破したことを此処に付け加えておこう。
「ティナ、そろそろ行くぞ〜」
「もうちょっとだけ待ってください!」
いつもの単色系長袖ボタンダウンのシャツにジーパンという格好の管理人、きつい日差しを考えて白い帽子をレイナに被らされた。ティナは出発直前まで外出用スキンをとっかえひっかえしていたようだが……ま、スキン交換に掛かる時間はごく僅か。まだましな方だろう。外出ということでティナの格好は普段のメイド服ではなく白のワンピース、襟の辺りのデザインを見ると水兵風、所謂セーラー服に近いデザインだ。
「ご主人様、この外出用スキン如何ですか?」
「涼しげで良いんじゃない?」
「……まぁ、もうちょっと気の利いた言葉が欲しいところでしたが……」
「何か言った?」
「いえいえ、何でもありません。さぁ出発しましょう!」
「ティナさ〜ん、天気予報で夕立があるかもと発表していますわ〜、くれぐれもご注意下さいな〜」
レイナの言葉を後に、我々は屋敷近くのバス停から遊園地へ向かったのだった。