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BSD物語
 

往々にして、最悪の事態は最悪の状況を伴ってやってくる物である
 

CH88:対戦車戦
 

「ティナ〜お茶にしないか?」
「もうふこひまってふはさい」
 15時のお茶の時間になってもリビングへやってこないティナを心配して様子を見に行ったら自室で妖刀アクセスリストの手入れをしていた。呼気が刀身に掛からないよう口に半紙をくわえていた。もっとも、人間でない彼女、呼気に水蒸気が含まれてない以上別に呼気が刀身に掛かったからと言って錆びるわけではないのだが……

彼女は一旦手にした刀身をおろし、柄に納めると自己領域へ収納した。

「もう終わり?」
「いえ、微調整がまだ終わっていません。後2時間ぐらいはかかりますね」
「以外と細かい調整居るの?」
「調整と言うより万全の体勢にしておかないと。微細な作業に使うことも多いので狂いは致命傷になりかねません」

そう、話しながらリビングへと向かうと……メイルと美宇が血相変えて大騒ぎしていた。
「マスターっ!アレっ!!アレが出たっ!!」
「落ち着け、メイル。『アレじゃわからん』」
「だからアレだって!黒い『G』」

「なんだってー!?(AA略)」

そう、密林からの侵略者、3億年帝国の主力装甲機動兵器、『G』、目撃情報によると5センチ級の大型戦車がリビングからキッチンへ高速移動しているのが美宇により目撃されたらしい。目撃情報を受け直ちに美宇によって封鎖線がキッチンへ張られたが追加の目撃情報は無しだ。

「……1匹見たら30匹居るとは聞くが……」
「私の警備センサーに動態反応は有りません。しかし、センサーをくぐり抜けて進入されたのは事実です。」
「センサーの見直しは後でやるとして、美宇、キッチンの封鎖線を突破したG型戦車は?」
「現状では1体。恐らく営巣しているのではなく、迷走した物と思われるが、繁殖される前に殲滅するべきだろうな」
「よし、化学兵器で……」
「だめですっ!食器や食材まで汚染されますっ!!ましてやキッチン管理責任者レイナの居ない状態でそんな大規模化学兵器を使用するなんて……」
「ムゥ……ならば白兵戦か?」
「あらあら、どうしましたぁ〜」
「「「レイナ!?」」」

折良く、というか。悪くと言うか。近くのスーパーへ買い出しに言っていたキッチン及びDB担当猫耳UNIXメイドレイナが帰ってきた。キッチンへ買ってきた白ネギやタマネギ、ジャガイモが入った買い物袋を置きつつ美宇から戦況報告を受ける。私達の質問より正確で的を射る補足質問の後、やはり化学兵器の使用は認められないとのこと。

「以前よりこのキッチンにはバタートラップや粘着トラップ、硼酸ダンゴを仕掛けてありますが掛かった形跡は見られませんわ。ですので迷走G戦車と断定して宜しいと思いますわ。」
「よし、総員警戒を厳に。発見次第新聞軍刀などで白兵戦を……」
「きゃあ!!」

まさにそのタイミングと言うべきか食器棚の裏から姿を現した『G』最早退路はないと判断したのかバンザイアタックを掛けてきた!

「望む所、妖刀アクセスリストの錆びに……って無いんでした!」

迎撃せんと一歩踏み出したティナの左手は空を掴んだ。まさに調整中だった妖刀アクセスリスト。使用不能として召還できないよう自身でマウント解除していたのを忘れていたのだ。

「ええい!これで!!」

手近にあった「それ」を掴むや、一閃。はじけるようなクラップ音は振り抜いた先端が音速を超えた証だ。そこから発生した超音速衝撃波はみごと『G』を捉えその体を粉砕することに成功した。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

したのだが……

「てぃ〜な〜さ〜ん!?」
「はははははいっ!!」
「この後、どうすればいいのか分かってますよね?」
「ティナ、直ちにキッチン内の清掃に移りますっ!!!」

ニコニコと恐ろしいオーラを纏いながら微笑むレイナの剣幕に推され雑巾と洗剤を取りにティナはすっ飛んでいった。

無理もない。なにせティナは「咄嗟に」其処にあった「白ネギ」をつかみ超音速で振り抜いたのだ。もちろん白ネギの強度がその挙動に耐えられるはずもなく、刀身は粉砕。その破片は衝撃波で砕かれた『G』の体の欠片諸共に周囲に散らばってしまったのだ。レイナが掃除をティナに命じたのも無理はなかった。

以後、レイナからティナに「キッチン内での超音速戦闘禁止令」なる命令が下されたことを最後に書き添えておこう。
 

   ( 続く )

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あとがき代わりの駄文その88

『G』ってのはアレです。台所に出る真っ黒い「アレ」です。
なお、モデルガンなどで撃つと作中のように破片が飛び散ります。やはり新聞軍刀やスリッパ軍刀による白兵戦や硼酸ダンゴや燻煙材、殺虫剤の直接噴霧による化学兵器戦、ゴミなどを徹底処分する持久戦等に尽きるようです。