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BSD物語
 

余りに強烈でクセのあるお茶
その従来のイメージがひっくり返された事件だった
 

CH84:正山小種
 

日曜日の昼下がり、つらつらとネットを検索していた。近日中にマシンリプレースを行う予定なのだがどの様な機材にするのか選定中だ。そこへレイナがカートに乗せてお茶を持ってきた

「ご主人様、根を詰めると能率落ちますわ、ちょっと一息つかれては如何でしょう〜?」
「そんなに詰めていた?」
「朝からずっとディスプレイに張り付きっぱなしじゃあないですか、昼もサンドイッチでしたし……ティナも心配していますわ」
「言われてみればそうかも」

イスの上で背を伸ばし、眼鏡を外して目尻をぐりぐりと押さえる。其処へレイナがほかほかのおしぼりを渡してくれる。心得た物だ。

「良ければ珍しい茶葉が手に入りましたのでお茶にしません?」
「ん〜。どんなお茶?」
「それは味わった後のお楽しみにさせて下さい〜」

とぽとぽとぽ・・・・・・
水色はかなりはっきりした赤、なるほど「紅茶」と呼ぶにふさわしい赤だ。
香りは……針葉樹というか、スモーキーな香り。ただそれほど悪くはない。
「レイナ、コレは一体……こんなおいしいお茶があったなんて」
「中国の古い紅茶なのですが、なんていう名前だと思います?」
「中国の紅茶?祁門紅茶……じゃあない、か。何だろう?」

「実はこれなんです」

そういってレイナが見せてくれた缶には「正山小種」と書かれていた
「嘘だろう!?」

正山小種……世間的には「ラプサンスーチョン」という通り名の方が有名だろう。松の葉で薫製にされて作られる紅茶でアールグレイの原型となったとも言われる紅茶だ。ただ、余りに強烈すぎるその香りは好みがはっきり分かれる。クレゾールに似たその香りは普通の紅茶缶では漏れ出てしまうほどなのだ。以前もレイナが少量買ってきてブレンド用として置いていたがその時も正山小種だけは特別な密閉瓶に分けていたぐらいだ。

だが、私の目の前にある正山小種はどうだ。さわやかな木の香り、口の中に漂う甘い味わい。効いていた正山小種とはまるで違う。

「驚いた、これが正山小種の本当の味だって言うのか」
「これは従来の正山小種ではなく、元々存在する伝統的な製法で作られた正山小種ですわ」
「うーむむむむ」
「ネットの情報は色々便利ですけど実物を確かめるのも宜しいかと思います〜」
「って、レイナにそれを言われるとは思わなかったよ」

ネットの評価だけでなく、実物も当たれ。よもやそれをネコミミメイドUNIXOSに教えられるとは思わなかった春の日だった・
 
 
 
 
 

   ( 続く )

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あとがき代わりの駄文その84

最近、正山小種に付いて色々調べていたのですが、古い製法の正山小種は香が全く違うとしり非常に驚きました。でも、余りで回っていないので味わうのはかなり難しいみたいです。なお、「祁門紅茶」はキーマンのことです。