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BSD物語

クラッカー達が騒ぐのは決まって何かイベントがある日だ
それはクリスマスだったりエイプリルフールだったり
ご多分に漏れず、バレンタインもそんな日の内の一つだ。
 
 
 
 

CH81:100%
 

トルルルルルルル
「はい、こちら『……』家サーバ管制室ティナです。」
「ああ管理人だ。ティナ、今弾丸特急は名新屋を通過、其方へはあと3時間くらいはまだ掛かりそうだ。状態はどう?」
「今のところデータトラフィックは予想域内に収まっています。クラッカー達の攻撃もありますが全て想定範囲内に収まっています。」
「……順調すぎないか?」
「若干予想を多い目に見積もって置いたのでそれが効いている物と思います」
「ならいいんだけど。」
「寄り道せずに本日中にお帰り下さいね?チョコレート用意してありますから」
「あはは、了解。まっすぐ帰るよ。じゃあ切るね」
「お帰りお待ちしております」

電話を切ると、受話器に向かって一礼。一礼したからと言ってご主人様に見えているわけではありませんがどうしてもそうしてしまいます。

「ティナさん、あのことはお伝えしなくても宜しいのですか?」
「もちろん忘れたわけではありません。それを加味してのスペシャルチョコレートです」

昼間のことです
東京出張中のご主人が屋敷へお帰りになるのは日付が変わる少し前。今頃向こうでクライアントと丁々発止のやり取りをしているのでしょう……そう思いつつ首都電脳街のライブカメラを見るとも無しに見ていると見覚えのある後ろ姿がありました。そのカメラと周辺のライブカメラ群の制御を丸ごと乗っ取るとそのポイントの割り出しと解析をはじめました。場所はメインストリートに面した著名なメイドカフェの出入り口。ご主人様がクライアントらしき人とメイドカフェから出てくる所でした。カメラだけでは音声が拾えないため周辺の防犯カメラの画像を会わせ読唇術で会話の内容を再現します。

「またこちらへお越しの際は是非お帰り下さい」
「じゃ、また『お帰り』させて貰うね」
「こちらはメイドからの愛情がたっぷり詰まったバレンタインチョコレートですっ!」

びきっ!!!

いけません、つい激情にかられてフローティングディスプレイを叩き割ってしまいました。
この様なことで感情に身を任せるようではメイド失格です。
私は私、ご主人様の信任を一身に受け屋敷の全権限を預かる身、その私がご主人様を信頼しなくて一体どうしますか。例えメイドからチョコレート貰ったご主人様の鼻が伸びきっていたとしてもそれを強引にこちらに振り向かせてこそメイドという物です。ふふふふふ・・・・・・

「レイナおねぇちゃん、ティナおねぇちゃんまた暴走しているよ。止めなくて良いの?」
「メイル、今回も『また』ご主人様の自業自得です。気にすることはありませんわ〜」

そうしてご主人様が帰ってくるまでの時間で思案を練り、ご主人様にお渡しする私からの愛情がたっぷり詰まったチョコレートが完成しました。中南米産のぁゃιぃ白い粉も入っていない純度100%の美味しいチョコレートです。きっと喜んでいただけるでしょう。
 
 
 
 
 
 

ちりんちりん

屋敷通用門の扉が開閉されたことをセンサーが拾いました。警備カメラで確認、ご主人様です。さぁ、身だしなみを今一度確認し、チョコレートを収納用サイドポケットへしまい込み出迎えに上がりましょう。この自慢の一品、ご主人様が如何に甘い甘いチョコレートを余所のメイドから貰ったとしても気に入っていただけることは自信があります。なにしろ……

「砂糖抜き100%のビターチョコレート」

ですから
 
 
 
 
 
 

その夜、管理人の部屋からこの世の物とは思えない叫び声が聞こえてきたが屋敷の警備録にはただ「バレンタインデー」としか記載されていなかった。
 
 
 

   ( 続く )

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あとがき代わりの駄文その81

管理人「微妙に甘いのか苦いのか分かりにくいバレンタインSSです。チョコレートってあの甘さは殆ど砂糖で実際には非常に苦い代物です。試したみたい方はそういうチョコレートが市販されていますので事故責任でおためし下さい。」