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BSD物語

深夜、キッチンで動く物陰が一つ
それは僅かな羽音を伴って紅茶のリーフ入れに近づくと
なにやら作業をはじめたのだった……
 

CH70:オレンジピール
 
 

「ただいまー」
「まぁ大変! ずぶぬれじゃないですか」
「屋敷に帰る直前で急に強烈な雨が降ってきてみごとにずぶぬれだよ……あ、レイナ。バスタオルありがとう」
「濡れたコートはこちらで手入れしておきますわ」
そこで管理人はくしゃみを一つ。11月の雨は冷たいのだ

「あらあら、かなり冷え切っているようですわね。着替えは用意してありますのですぐ着替えて下さい。からだの暖まる物をご用意しますのでお風呂が沸くまでお待ち下さい」

部屋で下着から着替え、リビングへ入るのとレイナがワゴンにティーポットを乗せて入ってくるのが同時だった。

「ご主人様、ちょうどのタイミングでしたわ。今お入れしますのでお座り下さいな」
そういうとポットからティーカップにお茶を入れる
「本日はミルクティーにしてみました。体力も消耗しているはずですから甘いワッフルも用意してありますわ〜」

目の前のテーブルにメープルシロップと皿に盛りつけられた丸い焼きたてワッフルが二皿。そしてティーカップも二つ。私と一緒にレイナも休憩するつもりのようだ。

「ん? レモン……いや、オレンジの風味?」
「このお茶はレディグレイといってアールグレイにオレンジピールやレモンピールなどを混ぜたフレーバーティです。」
「ミルク入れて良く香りが負けないね」
「一杯だけストレートご用意したのですが飲んでみます?」

彼女がそういって用意するからには何かあるのだろう。
一口飲んでみる……なんだこりゃ?

「わざとそういう風に出してみたのですがマ○レモン風味でしょう?」
「言われてみればそのとーり。でも、内に前からこのお茶有ったの?」

好みというわけではないが。基本的に私は紅茶をストレートか砂糖たっぷりのミルクティーかのどちらかで飲む、その為ストレート用のダージリンとミルクティー用のアッサムぐらいで後はブレンド用に各種の葉を若干用意してはいるがフレーバー系はそれほどおいていなかったはずだ。(たまに気分を変えてアールグレイも飲むことは飲む)こういう特徴有る葉なら有ったとしても覚えているはず何だが……

「ええ、これでお出ししたのはたまたまなんです。誰かが間違って内容を取り違えたのかしら……」

「お茶の葉管理しているのは普段レイナだろ? レイナに限ってそういう取り違えなんて……」
「ええ、そうなんです。それもあともう一つ入れ替わっていたお茶の葉が有るんです」
「なに?」

「正山小種です」
「・・・・・・げ」

正山小種、はっきり言おう、制露丸風味の紅茶だ(実際に紅茶と制露丸でネット検索すると大量にでてくるほど有名である)

「なんだってそんな物おいてあるの」
「ミルクティーにすると案外おいしいんですよ。アールグレイに少量混ぜてお出しすることもありますし。後は……悪戯対策です」
「悪戯対策?」
「ほら、先月も悪戯好きの誰かがお菓子を要求してデモ行進して居たじゃないですか。きっとその誰かさんですよ。」

まぁ、確かにティナがわざわざ入れ替える理由も見あたらないし、レイナがことのほか紅茶のブレンドに熱心なのを知って余り手を出さないようにしているのも知っている。もっぱらティナはレイナが作ったブレンド済みの紅茶を入れるだけにしているのだ。やはり悪戯……となるとメイルか。

「で、どーするの?」
「ご心配なく。本日メイルに入れたお茶は件の正山小種ですわ」
「…………」
 
 

後でメイルに聞いたところによるとレイナはにっこり笑いながら平然と正山小種をメイルに入れてなおかつ感想をレポートに書かせたのだそうな。
 
 

  ( 続く )

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あとがき代わりの駄文その70

レディグレイと正山小種どちらも実在の紅茶です
レディグレイはトワイニングからティーパッグで出ています
正山小種は……正直手を出すほどの勇気がありません(^^ゞ