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BSD物語

黄金週間もおわり早2ヶ月
列島は初夏の熱気に包まれていた
 

CH65:空調
 

「ま〜す〜たぁ〜、あついよぉ〜」
メイルがふらふらと漂いながら私の所へやってくる。飛び方に精彩はなく、手で叩くだけで墜落しそうだ。
「そういうな、私だって熱いんだから……レイナ、電気屋の連絡はまだか〜」
「はい、あと3時間はかかるそうです」

一体屋敷に何が起こったのか? 相次ぐ屋敷内でのサーバ増設と冷却のために電気系統が破損、すぐさまティナがサブシステムに切り替えた物の、無事だった屋敷内の電力供給がその余波で停止、管理人たる私や彼女たちネコミミUNIXメイド達は猛暑と高湿度の中に放り出された。

真っ先にダウンしたのはメイル、見るからにへばっている。しかし彼女はまだいい、ボウルに冷水を入れて中で涼むという某妖怪の父親と同じ手が使えるからだ。もっとも、あまりの熱気ですぐ冷水もゆだってしまうのだが……

我々はそういうプールにはいるという手も使えずひたすら熱気の中で電気屋が配電盤をなおしにくるのを待つしかなかった。

「レイナ、君は以外と大丈夫そうだね」
「そうでもありませんわ〜」
そういってブラウスの袖口から取り出したのはビニール皮膜に覆われた小さいパックだ
「内部に入っているジェルを凍らせてずすんでいるんです〜」
「あ、いいなぁ。ボクの分は?」
「残念ですけどこれが最後なんです」
「そういう場合主人に譲る物だろ!?」
「主人より我が身が大事ですわ〜」

長年の信頼関係が揺らぎそうになったとき、こういうときにつっこみを入れてきそうな存在を思いだした。ティナはどうした?

「おーい、ティナ〜?」
「あらあら、あんな所にいますわ」

ティナは何を思ったのかキッチンの床に寝そべっていた。キッチンの裏口は開放され外から見ようと思えばのぞき込める。流石に入り口に頭を向けていたが……一体何を?

「あー、ティナ?」
「ダメです、この場所はお譲りできません」
「ん?」

ティナに近寄って見てはじめて分かった。そこから微弱な風が台所へと流れ込んでおり、その空気の流れの影響とキッチン床下収納の空間のおかげか床が結構冷えているのだ。その範囲は1メートル四方地上50cmまでというところか。ティナはいち早くその領域を見つけだしまさしくネコのように涼んでいたのだ。

「あー、ティナ。ボクにもそこで涼ませて欲しいなぁ……」
「却下です。というか皆さんで来ないで下さい。暖まってしまいます」

ああ、長年の信頼関係も此処までか……

半ば絶望仕掛けた私に声を掛けてきた者がいた。美宇だ

「主、お茶で良ければ出すがどうだ?」
「もちろん冷えているだろうね?」
「冷えたお茶は体に悪い。もちろん入れ立てのお茶だ」
「ひぇぇぇぇ」

確かに熱いお茶を飲めば熱いお茶に反抗すべく体温は下がり相対的に体は冷える。しかしこの熱気では焼け石に水だろう。(そういう美宇は猛烈な熱気の中で全く着崩していなかった)

「ええい、ギブアップ!ネットカフェいくぞネットカフェ!!」
「あ、ぼくもいく〜」

かくして、管理人とメイルはその日の夕方まで家の外で涼んでいたのだった。
 
 
 
 

   ( 続く )

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あとがき代わりの駄文その65

幸いまだ自宅のクーラーは故障してはいませんが構造上の問題から私の部屋は日中冷えにくいことからこの話を思いつきました。

というか、書いていて熱い……(^^ゞ